ポケットの中に

 

 

 

 

 

 

 

「いつも着けてますよね、それ。」

 部活帰りのマジバーガー。遅れて向かいに座った火神の、胸元で揺れるそれをじっと見つめる。

 太めのチェーンに通されたリング。正直、とても似合っていると思う。

 思うのだけれど。

 

『あれってさー、彼女とペアとか?』

『えー? でも火神くんってアメリカにいたんでしょ? 向こうの人って、ああいうのよく着けてるじゃん。』

『ファッションじゃないのー?』

『でもさー…』

 

 教室の隅で興味津々に噂していた女の子たちの会話を思い出せば、気持ちが沈む。

 解っている。胃がぐるぐると回っているような、吐き気すら催しそうなこの感情は嫉妬だ。

 火神が女の子と、と言うのも、あまり想像がつかないのだけれど。

 でも、本当のところは解らない。何せ火神とは、出逢ってまだ数ヶ月にも満たない。向こうでどんな生活をしていたかなんて、まるで知らないのだ。

「手出してみろよ。」

「?」

「ははっ! テメエ、こういうの似合わねぇな!」

 埒もないことばかり考える自分に嫌気が差して、暗い窓に視線を移す。が、かけられた声に首を傾げ、掌を差し出す。

 いつの間に外したのか、その指にはめ込まれるリング、そのまま黒子の手を裏に返した火神は、リングを嵌めた黒子の手を見て可笑しそうに笑っている。

「…大きさが違うんだから、当然でしょう。」

「そうじゃなくて、テメエの指、白くて細ぇから、デザインが合わねぇんだよ。」

 体格が違えば、手の大きさも当然違う。指でくるくる回ってしまうそれに軽く唇を尖らせるも、火神はくつくつと喉を鳴らしている。

「今度、テメエにも合いそうなの探しに行こうぜ。」

「………揃いでですか?」

 多分に拗ねた気持ちでリングを弄っていたら、察したのか笑いながらもそう言われ、ぽつりと呟いてしまった言葉にはっとして顔を上げる。

 声は小さなものだったはずだが、しっかり届いてしまったらしい。火神は瞠目していたものの、すぐにニヤリと笑みを浮かべて。

「いいぜ。テメエにもオレにも合うってのは、かなり難しい注文になりそうだけどな。」

 黒子は赤くなる顔を隠すように、俯くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、見た?! 火神くん!」

「リングでしょ?! 二つに増えてたよね!」

「誰かが訊いたらしいんだけど、彼女とペアなんだってよ?!」

「………『彼女』ではないんですが。」

 週明け、チェーンの先で揺れる、火神にしては華奢なデザインのリングに、女の子たちが大騒ぎしている。

 そんな彼女たちに聞こえてしまわないように小さく小さく、本当に小さく呟いて、黒子はそっとポケットに手を差し入れる。

 指先に触れるリング。細いチェーンに通されたそれを、身に着けるのはさすがに恥ずかしく、ポケットに忍ばせている。

 見つけ出す、と息巻いている彼女たちには悪いが、絶対に見つからない自信がある。

 素知らぬ顔で本に視線を落としつつ、黒子は指先でチャリチャリとリングを玩んでいた。