練習が終わった日曜の午後、黒子とふたりで買物に出かけた。
つい先日、時計も携帯も持たないコイツがオレの携帯で時間を確認しようとした時、たまたま入った広告メール。それを見た黒子が派手に誤解しやがったからだ。
小金井センパイがほとんど使わないからって、腕時計を譲ってくれようとしたけど、それを遮ってオレが買ってやるなんて言っちまった。
コイツが、それが例え使わない物だからって理由でも、他のヤツに貰った物を使うのが嫌だなんて、どんだけイカレてんだか、オレも。
そもそも、自分で買えっての。
「火神くん、火神くん。これがいいです。」
「あー? どれ。」
けどまあ、嬉しそうに瞳をキラキラさせてんのを見たら、まあいいかって気になって、ショウケースに貼り付いている黒子のとこへ足を向ける。
そうして。
「何でペアウォッチだよ!」
低い位置にある黒子の頭をスパンッと叩いた。黒子が「これです」と示したのは、黒子らしいと思えるシンプルなデザインの腕時計。ただし、ペア。頭を擦る黒子に「真面目に選べ」と眦を吊り上げる。
「真面目に選んでます。」
「真面目に選んで、何でペアウォッチになるんだよ!」
大体、ペアウォッチってのは、男物と女物だ。女物を身に着けることになるってのに、それでいいのか。
言えば、ぷうっと頬を膨らませていた黒子は、拗ねた顔で再びショウケースに貼り付く。
「…だって、火神くんと同じのが良かったんです。」
思い切り溜息を吐いたけれど、どこか哀しそうな態でそんなことを言われたら、ダメだとは言えなくなって。
ガリガリと頭を掻いて、オレは近くにいた店員に声をかけた。
「ありがとうございます、火神くん。」
「おー。」
好物であるバニラシェイクもほったらかしで、黒子は早速身に着けた腕時計をニコニコと撫でている。
オレの腕にも同じデザインの腕時計。バーガーを口へ運ぶオレの腕を見て、増々嬉しそうにニコーッと笑うのだから、もう。
明日これを見た先輩たちにはまた大いに揶揄われるのだろうけれど。
——可愛すぎんだろ、ちくしょう!
それでもこの笑顔には勝てないと、赤くなっているだろう顔を隠すようにテーブルに突っ伏した。