通勤ラッシュも大分落ち着いてきた午前十時。黒子はひとり、電車に乗り込む。
今日はご近所の園児、大我の誕生日。その誕生日プレゼントを買うべく、二つ隣の駅まで行くのだ。タタンタタンと音を立てて走る電車に揺られながら、今年のプレゼントは何にしようかと考える。
三歳の誕生日には、通園バッグに下げられるマスコット人形をプレゼントした。四歳の誕生日には、お風呂やプールで遊べる玩具を。今年は何が良いだろうか。
恐らく、最近酷く食欲旺盛なあの子供には、お菓子などの食べられる物を贈るのが一番喜ばれるのだろうけれど。
何か良い物が見つかると良いなと思いつつ、黒子は明るい空へと視線を移した。
大きなおもちゃ屋の高い棚の間をひとつひとつ順に回る。が、目に付いた物をいくつか手に取っては見たものの、何だかどれもしっくりしない。今日の為に母の手伝いや父の肩叩きなどをしたとは言え、小学生の小遣いではあまり高価な物は買えないし。手にしたおもちゃを再び棚に戻しながら、黒子は小さく息を吐く。
と。
「あ…」
次の棚へと足を向けて、目に留まったそれに静かに駆け寄る。
壁に据え付けるミニサイズのリングと、同じく小さなバスケットボールのセット。四年生になって、黒子は友人である青峰に誘われミニバスケのチームに入ったのだが、自分も入ると、大我は随分と駄々を捏ねたのだ。何でも黒子と一緒が良いらしい様子は可愛いのだが、あれを宥めるのは大変だった。最終的には疲れて眠ってしまった大我を思い出して、ふふっと笑う。
これなら、一緒に遊ぶこともできるだろう。大我もきっと喜ぶはずだ。
プレゼント用にリボンをかけてもらったそれを大事に抱えて、黒子は足取り軽く店を後にした。
「テツ兄!」
「こんにちわ、大我くん。お誕生日おめでとうございます。」
午後には大我の家へお邪魔しての誕生日パーティ。飛びついて来る大我の勢いに少々よろめきつつ、微笑して頭を撫でる。
早く早くと腕を引かれて足を踏み入れたリビングには、テーブルいっぱいの料理。大我の母は沢山食べてねとにっこり笑うが、黒子はあまり沢山食べれる方ではない。いくら最近の大我が良く食べるとは言え、さすがに多過ぎるんじゃないかと、少しだけ顔が引き攣る。
が、
「…本当に良く食べますね…」
大我は幼児とは思えぬ食欲で次々と皿を空けて行き、どこにそれだけの量が入るのだろうと呆然とする。
「テツ兄、食べないの?」
「大我くんのお祝いなんですから、大我くんが沢山食べてください。」
しかし、ほっぺたをまぁるく膨らませて料理を頬張る姿には、自然と笑みが溢れて。学校で飼っているハムスターみたいだ、などと思いつつ、黒子は大我の口の周りに付いたソースを優しく拭い取った。
「お誕生日おめでとうございます。」
ぽっこり膨らんだお腹を、たぬきのお腹みたいですよと笑い、そうして改めて、祝いの言葉と共にプレゼントを差し出す。
包みを開いた大我の瞳はキラキラと輝いて。喜んでくれている様子にこちらも嬉しくなりながら、リングを壁に据え付ける。
「大我くんもバスケをしたいと言っていたでしょう? でも、チームには四年生にならないと入れないので、それまではこれで一緒に練習しましょう?」
すれば大我は、シュートを放っては喜んだり悔しがったりと、早速夢中で遊び始めて。楽しそうなその様子が可愛くて、黒子は柔らかく瞳を眇めるのだった。
うたたね部屋のXさまへ、お誕生日のプレゼントとして、
Xさまのぱられる設定を拝借して書かせて頂きました。