◇高齢者に支えられてきた郵便事業


 郵政の職場はこれまでたくさんの高齢者によって支えられてきました。公務員だった時代から郵便局ではたくさんの高齢者が働いていました。70歳を超えている人も少なくなく、採用された時に既に65歳を超えていた人もいます。とりわけ、郵便事業会社は社員の約6割が非正規社員です。65歳を超えている人も1万1000人もいます(2011年9月現在)。
 日本郵政がこれほど多くの高齢者を非正規社員として雇用してきたのは、高齢者でも働ける仕事ということに加えて、低賃金であることが大きな理由です。非正規社員の70%が年収200万円以下で家族を養うのは不可能です。若い人を採用したくとも応募してこないのが実情です。
 高齢者を安価で便利な労働力として利用してきたのに、働く意欲も体力もあるのに「65歳を超えている」というだけで切り捨てるのは許せません! 


 ◇だまし討ちの「65歳雇い止め」

 今回、年齢を理由に雇い止め・解雇された人たちは民営化以前から雇用されてきた人たちです。10年以上も前から働いてきた人もいます。採用された時には「働ける限りできるだけ長く働いてください。」と言われ、65歳で「定年」などという話はされていません。職場では65歳を超えている人が大勢働いていました。勿論、就業規則には「65歳定年」等という規定はありませんでした。
 日本郵政が就業規則にこうした規定を定めたのは2009年10月の民営化時点です。しかし、その後もこうした規定については期間雇用社員に周知も説明もしておらず、募集広告はもちろん雇用契約書にも記載していません。元気ならいつまでも働けると思っていたのも当然です。ところが、会社は、2011年4月になって急に65歳を超えた人については9月以降の雇用の更新は行わないことを通知してきたのです。だまし討ちとしか言いようがありません!


 ◇高齢者の切り捨ては許せない!

 65歳を超えたといっても元気で働いていた人たちです。働き続ける意欲も体力も十分にあります。働かなくては生活できない人も少なくありません。
 郵政非正規センター<ゆい>が行ったアンケート調査によると郵便局の収入で生活を維持している期間雇用社員が半数を超えています。65歳を超えても「働きたい。働く体力もある。」と答えている人は7割を超えています。また、年金が100万円以下という人も2割を超えています。雇い止め・解雇はまさに死活問題です。


 ◇少子・高齢化社会の流れに反する日本郵政

 今回の雇い止め・解雇は、期間雇用社員が65歳を超えた以降の雇用の更新は原則として行わないと就業規則が定めていることを理由としています。しかし、こうした規定は違法で、社会の流れに反します。

  ①非正規社員の「定年制」は公序良俗に反して違法です。

 定年制は終身雇用と年功賃金を前提として初めて合理性が認められる制度です。雇用期間に定めがあり、年功賃金とも縁のない非正規社員に定年制を設けることはその前提を欠いており合理性があるとは言えません。
 少子・高齢化が急速に進む中で、高齢者の仕事と職場を確保していかなくては社会は維持できません。働く体力と意志のある高齢者の雇用を保障することは社会の要請です。年齢を理由に解雇するのは社会の流れに反し、企業の社会的責任を放棄するものです。


  ②雇用対策法や政府の雇用政策基本方針に反します。

 雇用対策法は年齢を理由とした採用拒否を禁止しています。また、政府の雇用政策基本方針では「65歳を超えても働ける社会の実現」と「『70歳まで働ける企業』の普及・促進を図る」としています。
 65歳を超えたことを理由とする雇用の更新の禁止は、65歳を超えている人の採用(雇用の更新)を年齢を理由に一律に禁止するもので雇用対策法に反しています。さらに、国が100%株主である「国営企業」が政府の方針を真っ向から否定するようなことを行うのは許されません。
 日本郵政は、雇用の更新は新規採用ではないから雇用対策法には違反しないとしています。しかし一方で、日本郵政は、非正規社員(期間雇用社員)のは6ヶ月毎の雇用であって、仮に引き続き雇用される場合であってもこれまでの雇用契約の継続ではなく、一端終了して新たに雇用契約を締結するとしています。今まで雇用されていたかどうかの違いだけであって、実質的には新規採用と変わりません。これまで雇用していた人は65歳を超えたら雇用できないが、そうでない人はできるというのは矛盾=詭弁としか言いようがありません。


 ◇「65歳を超えても働きたい」が半数以上

 厚生労働省が2010年11月に60~64歳の約2万6000人に対して行った調査では、「65~69歳になっても仕事をしたい」と答えた人が56.7%(男性59.5%、女性52.3%)と半数を超えています。さらに、「70歳以降も仕事をしたい」と答えた人も28.7%(男性31.2%、女性24.8%)います。
 働く理由で最も多いのが「生活費」(63.8%)で次いで「生活費を補う」(32.2%)となっており、生活していくために働かなくてはならない実態が浮き彫りになっています。
 65歳を超えても働ける社会つくりが求められています。


 ◇半数の企業が65歳以上でも雇用継続

 厚生労働省の平成24年6月の調査によると希望者全員が65歳以上まで働ける企業が48.8%と半数近くになっています。さらに、70歳以上まで働ける企業も18.3%と2割近くあります。


 ◇高齢者だけの問題ではありません
 
 政府が、「65歳を超えても働ける社会の実現」を打ち出してきた背景には、急速に進む少子・高齢化社会の現実があります。年金制度の破綻も危惧されています。このまま少子・高齢化が進めば、将来は、高齢者一人を現役世代1.5人で支えることになります。しかし、そんなことは物理的にも経済的にも負担が大きすぎて不可能です。65歳で引退ではなく、働く意欲と体力のある人とは共に支え合っていくことがどうしても必要です。
 年齢に関係なく、働く意欲と体力のある人が働ける社会をつくることは、高齢者の生き甲斐だけでなく、若い世代の人たちの負担を少なくすることにもつながります。
 非正規社員の「定年制」を廃止する闘いは、高齢者だけではなく若い世代の人たちにとっても重要な闘いです。私たちは、この裁判を通じて高齢化社会での高齢者の働く権利と働き方を問い直して行きたいと考えています。


 ◇「高齢者の雇用が若者の失業を招く」というのは嘘

若者の雇用を増やすために高齢者の定年は必要という意見もあります。しかし、1970年代から80年代にかけてヨーロッパでは若者の失業率を下げようと年金の支給開始年齢を65歳から60歳に引き下げ高齢者の引退を促進しましたが、若者の失業率は下がらず、年金財政の破綻につながりました。最近の統計でも若者の雇用率が高い国は高齢者の雇用率も高く、低い国は共に低いという結果が出ています。社会全体として見れば、高齢者の雇用が若者の失業に必ずしもつながらないことはこうしたことからも明らかです。


非正規社員の「定年制」に対する私たちの主張