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  CONTENTS ポンポコ浦澤・特別寄稿

       
「カ、カツ丼、もう一杯」

快楽日記はただいま気合を入れて整理中です。
色々と考えるところがあって、時間がかかっています。すみません。
と言って、さすがにそろそろ何も書かないというわけにもいかず、
そこで今回は食べ物についての肩のこらないエッセイを書いてみたいと思います。

自分の留守中のホームページを見て驚きました。ムンクのさしがね
で俺がとんでもない食いしん坊にされてるじゃありませんか。
確かに日記には食べ物の記述が多かった。それは認めます。
が、しかし、山好きの方なら御理解いただけるかと思いますが、食べ物の
バリエーションが極端に限られる山では、地上の食べ物に想いを馳せるのは、ごく当然のことなのです。
しかも私は、ダイエット登山と言うことで、さらに悲惨な食生活を送っていたのです。

そんな私がせめて日記の上でだけでも、食べ物のことに想いを馳せて、
なんであそこまで誹謗中傷される理由がありましょうや。ムンク、貴様と言う奴は……

例えば私が山の上で、一番憧れていたのはカツ丼です。ごく普通の
大衆食堂にふらりと入り、ごく普通のカツ丼を二杯食べる。
そんなささやかな希望にしか過ぎません。
あるいは二杯という数字が、ムンクの批判を招いたのでしょうか。付け入るスキを与えたのか?

が、しかし、二杯じゃなくてはダメなのです。それも天丼二杯でも
親子丼二杯でもなく。はたまたカツ丼とラーメンなどという、あわせ技でもなく。
それだけは譲れない夢でした。

それは何故か? そこには一言ではとても言い尽くせない、男の美学が隠されているのです。

というわけで、その理由は次回大発表。
すみません、気を持たせるようなことをして。でも本当に簡単には説明できないんです。
みなさんには次回の説明を読んだ上で、ムンクが正しいか、ポンポコが
もっともか、御判断いただければと…。

そんなわけで、また。
実は性懲りもなく今度はサーフィンに出かけているポンポコ浦澤でした。

「カ、カツ丼、もう一杯」その二

さて、では何故「カツ丼二杯」なのか、その続きです。
前回は小名浜で波に乗り、さらには酒にも乗った勢いで、ついつい「男の美学」などという恥ずかしい
言葉を口ばしってしまいました。
しかし日本にはただ一人だけ、男と美学を威風堂々口に出して、許されるヒトがいます。
そう、男・健さんです。

もう随分まえの映画ですが、主演高倉健に、武田鉄矢、桃井かおりが絡んだロードムービー
「幸福の黄色いハンカチ」というのがありました。覚えている人も多いでしょう。
健さんの役どころは例によって、優しく誠実なのに、なぜか世間に誤解されやすく不器用にしか生きられない
九州出身の炭坑夫。その健さんが心機一転、北海道に渡り、そこで心優しい女性(倍賞千恵子)と知り合い
一旦は小さな幸せを手にするが…、という筋立てなのですが、その中にこんな名シーンがあります。

傷害致死の刑期を終え(子供が流産し、悲しみのあまりの酒、喧嘩が原因。運命はあくまでも、健さんに
平凡な幸せを許さないわけです)出所してくる健さん、看守に丁寧にお辞儀をし、歩き出す。
(さすが健さん、この辺のお辞儀の仕方も板についています)

そして街に出て、一軒の食堂に入る健さん
何でもない、ただの大衆食堂です。やる気のないオバちゃんが、ゴムひもの緩いパンツをはきながら
だらだら注文をとっているような店。
しかし健さんにとっては、数年振りのシャバ。見るもの全てが輝いている。壁に張られたシミだらけのメニューを、
眩しげに見上げる健さん。
「…カツ丼と、そ、それから…ビール」
心の動揺を押し隠すように、ぶっきらぼうに、しかし万感の想いは押しとどめようもなく、やや上ずった声で
健さんが言う。(この辺の抑制とほとばしり、情念のさじ加減、さすが、男・である)

テーブルに置かれたカツ丼とビールを、しばし見つめる健さん。
(そうでしょう、そうでしょう、そうでしょうとも健さん、と俺)
恐る恐るグラスに伸ばした右手に、ついつい左手が従う。両手にグラスをささげ持ち、健さんがビールに口をつける
(ああ、と俺)
ゆっくりと、震えるように一口目をすする。あとはもう止まらない。一気にビールのグラスをあおり、
カツ丼をかき込む、かき込む、かき込む。中国の文人なら、さながら野に放たれた虎のように、とでも
表現しそうな勢いで肉と飯を食らう。(この辺の一転した野性味、さすが、男・健さんである)

そして瞬く間に、カツ丼は空になる。しかしここで、健さんはまた、新たなる苦悩にぶち当たる
まだ食べたい、もっと食いたい、しかし…、と
健さんの脳裏に浮かんだのは、おそらく自分の過去の姿でしょう。自分を抑えるすべを知らず、
若い血の疼きに弄ばれるまま暴れ回った九州時代。今度こそ生まれ変わろうと渡ったはずの北海道でさえ、
一人の女すら幸せにできず再び罪を犯した半端者、駄目な自分…
そんな自分が、いくら刑期を終えたからとは言え、カツ丼の上にさらに天丼を頼むような晴れがましいことを
やって良いはずがない。
カツ丼にラーメンなんて浮かれた真似も、カツ丼にカレーなんてふざけた真似もできない。
でもまだ胃は疼いている。なにか求めている。いや疼いているのは体ではない、心が、長く孤独だった魂が疼いて…
(わかる、わかるよ健さん。だが自分をそんなに責めちゃいけねえ、いけねいよ健さん)

そして健さんが、かすれた声で言う。
「男の美学」と「魂の咆哮」がぶつかり合い導き出した、ギリギリ言葉を口にする。

「カ、カツ丼、もう一杯」 ───と。

そうです、これなんです。私が山の上で、ずっと憧れ、夢に描いていたのも。
ムンクよ、オマエにはわからないのか、このデリケートな男心が!

いつか山を降りたら、寿司でも焼肉でも中華バイキングでもなく、何でもない大衆食堂に入り
ごく控えめに、そして恥ずかしげに、だが抑えきれない激しさを持って、二杯食べる───
そしてそれは、
いつまでたっても会社勤めができず
「激痩ダイエット登山」などとふざけたことを言って、全国に恥を撒き散らしている自分に対する憤りと、
それでも抑えきれない俺の中の「一頭の暴れ馬」が
恥をしのんで折り合った───魂のカツ丼二杯なのだ!

ムンクよ、これでもまだ俺のことを、胃袋だけが暴走する単なる食いしん坊だというのか!
全国の皆様からムンクへの、お叱り、お説教、お待ちしております。

以上、小名浜の漁師さんの家で魚三昧をしてきたポンポコ浦澤


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