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         「本なんか読む奴は、ロクな人間にならない」by田舎のオバアちゃん
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この本は読むな! ロクデナシの本棚
             
 なにげなく開いたページの、なにげない一説が、
                 人生をとんでもない角度にネジマゲルことも、ままあるわけで… 
魂に効く悪の書100選

           
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  悪の書100選

     第5回配本 「東京漂流 藤原新也 (情報センター出版局) 危険度 ★★

    このコーナーで配本する最初の10冊の中に、少なくとも一つは藤原新也の著作を入れようと、
    当初から考えていたが、何にするかはずっと決めかねていた。

    社会批評の著作としては、決して新しいとは言えないこの『東京漂流』を最終的に選んだのは、
    発表から20年近くがたった今こそ、むしろあの二匹の犬は、「より必要とされる、あるいはより
    嫌悪される」存在なのではないかと、ふと考えたからだ。

    二匹の犬とは、この本のp364、5に見開きで登場し、悠然とヒトの屍を食らってみせるガンジス
    の野犬のことだ。藤原は自身が撮影したこの壮絶な写真に、「ヒト食えば、鐘が鳴るなり法隆寺」
    とコピーをつけ、さらにこう喝破している。

    
ニンゲンは犬に食われるほど自由だ

    ──と。
    背景は青白いガンガーの流れである。その中州の上に、耳のとがった二匹の痩せた野犬が立っ
    ている。そしてその画面手前、黒くつぶれた砂の上に、白いズボンを履いたいたヒトの屍が打ち
    上げられている。まだ十分に肉がつき、つい今しがたまで、その辺を歩き回っていたかのように
    さえ見えるその足に、右手の黒犬が齧りついている。左手の白犬は、肉を目の前にしても、特に
    興奮した様子もなく、喜ぶでも悲しむでもない、淡々とした目でこちらを見つめている。

    この壮絶な写真を見たのは、まだ二十歳になるかならないかの、学生の頃だったと記憶してい
    る。一瞬アッと息を呑み、私はその犬と、その屍を凝視した。しかしその写真が、決して残酷で
    も悪趣味でもないことを、私は幸いにも、直感として理解することができた。

    そして次の瞬間、身体のずっと奥からジワリと湧き上がってきた、あのなんとも言えない解放感
    のことを、私はよく覚えている。そうか、ニンゲンはこんなに自由なのか、犬に食われたっていい、
    それほど自由なんだ──。それは感動と言って良かった。

    この二匹の犬を、清潔で安全で、殺菌され消毒され、ニンゲンの命は地球より重いと教え込まれ
    ている現代ニッポンに突きつけた、当の本人である藤原は、次のように述べている。


             ──しかしインドを旅していた私には不思議だとは思えなかった。人間の値段はそんなに
             高価ではないということを、その旅でよく思い知らされていたからだ。ニンゲン、やっぱり
             ただの生き物、にすぎないのであった。
             だから、生きとし生けるものが墓を持たぬように、この地ではニンゲンも墓を持たない。死
             ねば焼いて灰や河や海に捨てたり、鳥に食わせたり、屍をまるごと河に捨てたりする。自然
             に返してやるのだ。
             それをたとえ野犬の群れが食らったとしても、ごく自然なことなのである。
             つまり、ヒトとは犬に食われるくらい自由な生き物なのである。
             私はこれを、実に感動的なことだと思った。美しい光景だと思った。インドという国はやはり
             凄い国だと思った。私は野に咲く花を撮るようなつもりで、それに向かってシャッターを押し
             たのである。
                                                      (p368)

     
しかしもちろん、この写真を受け入れられない人間もいる。
    むしろそうした人間こそが、現代ニッポンにおいては、まともだと見なされるのかも知れない。
    実際、当時藤原が連載を持っていた大手新聞社系のグラフ誌はその掲載を拒否しているし、
    その後も大手マスコミの上で、この二匹の犬が陽の目をみることは無かった。

    だが確かに、危険と言えば、危険な写真ではある。なぜなら、「ニンゲンは犬に食われるほど
    自由だ」と、たとえ直感的にでも理解してしまった人間は、その後ほとんどあらゆることに、歯
    止めをかける必要を認めなくなるからだ。

    例えば二十歳でそれを受け入れてしまった私は、「こんなことをしたら、世間様に白い目で見ら
    れるかも」「罵られるかも」「バカにされるかも」と、迷いを感じるたびに、自分にこう言い聞かせ
    てきた。「いやいや、やりたいんならヤレよ。だってニンゲンは自由なんだから。それこそ、犬に
    食われるくらい」と。

    その結果どうなったかと言えば、ご覧の通りである。
    だから決して、「東京漂流」など読んではいけない。ニンゲンの自由になど、目覚めてはいけな
    いのである。

    悪の書100選・バックナンバー

vol.  題名・著者・出版社  この一節・危険度・その他 (危険度は★三つが最高)

「どくろ杯」
金子光晴(中公文庫)

★★★ 地獄の道のようなくらさにむかって私は、
      
「にやんがつおっぴい!」
      と、あらんかぎりの声を張りあげて、二度、三度、叫んだ。
路上−on the road
ジャック・ケルアック(河出文庫)
★    「股のあいだに穴ぽこのある女の子なら、それでいいのさ」
      そして、また、「食えさえすればいいんだ。分かるかい。おれは
      腹ぺこさ。おれは飢え死にしそうだ。すぐ食いに行こう!」
「輝ける闇」
開口 健(新潮文庫)
★★★  ただ見るだけだ。わなわなとふるえ、眼を輝かせ、
      犬のように死ぬ。
「死んでもいい」−マニラ行きの男たち
浜なつ子(大田出版)
★★   マニラにはいつも生ぬるい風が吹いている。身体の芯が溶ろけ
      そうになる生ぬるい風だ。暖かいというのとも違って、女のあそ
      こみたいに生ぬるい。
「東京漂流」
藤原新也(情報センター出版局)
★★   それをたとえ野犬の群れが食らったとしても、ごく自然なこと
      なのである。つまり、ヒトとは犬に食われるくらい自由な生き物
      なのである。
「ぼくんち」
西原理恵子(小学館)
アジアパー伝
鴨志田穣・西原理恵子(講談社)
「火宅の人」
壇一男
「詩人と女たち」
チャールズ・ブコウスキー
(河出文庫)
10 女たちへのいたみうた
金子光晴詩集(集英社文庫)


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 然ですが、アメリカ建国の偉人フランクリンが考案した「13の徳目」というのを
         ご存知だろうか。私は当然知らなかったのだが、先日、「アメリカ文学のレッスン」
         (柴田元幸著・講談社現代新書、実は私は英文科の出身なんです)を読んでいたら、
         面白おかしく
(?)引用されており、少々感じ入る点があったので、ここで皆さんにも、
         勝手に御紹介させていただきます。
         
                    1、節制 腹ふくるほど食うなかれ。酔うほど飲むなかれ。
                   2、沈黙 他人にも己にも益なきことを語るなかれ。駄弁を弄するべからず。
                   3、規律 持ち物はすべて置き場を定めるべし。仕事はそれぞれ時を定めるべし。
                   4、決意 為すべきことを為す決意を持つべし。決意したることは必ず実行すべし。

                   以下、        
                    倹約、勤勉、誠実、正義、中庸、清潔、平静、純潔(性交は健康もしくは子孫の
                   ため以外には滅多に行うべからず)、謙虚(イエスとソクラテスに倣うべし)と続く


         で、何に私が感じ入ったかと言うと、こうしたフランクリン像をふまえつつ、柴田氏(東大
         の教授
、硬軟両方イケてる)が書いた以下のような解説です。

                  …アメリカにあっては自分とは与えられるものではなく作るものである。そして、
                  ベンジャミン・フランクリンの「フランクリン自伝」は、すでに述べたように、アメリカ
                  文学史上もっともよく知られた自己創造マニュアルにほかならない。
                  蝋燭・石鹸製造業者の倅に生まれた男が、勤勉と節制のおかげで、友人や
                  ライバルが酒や女に溺れたり怠惰だったり賭け事に手を出したり詩人になろうと
                  したり等々で次々脱落してバルバドスあたりに都落ちするか若死にするかして
                  いくなか、順調に成功の梯子をのぼっていく。
                                                   (下線:ポンポコ浦澤)

         下線部を読んだ時はさすがにドキッとしました。
         「これはまさに、俺のことじゃないか!」と…。

         以下に配本する悪の書100選は、この「フランクリンの徳目」のまさに正反対を行く、
         「酒と女と詩(文学)」と、そして「都落ち(旅)」に関する強烈な本ばかりです。成功の梯子
         をのぼろうという、有志あるあなたは
、決して近づかないように御注意願いたい。


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