隼の飛ばせ方

1 make Riding Art School on Hayabusa


■序
 柏秀樹氏といえば、現代のライディング・テクニックの師の1人である。ビッグマシン誌・オートバイ誌その他数多くの連載を持ち、また自身でもRiding Art School (RAS)を主催し、安全かつ楽しくバイク・ライフを伝授すべく活動されている。
 柏氏と交流の深いHayabusa Owners Club(HOC)主催Nakaji氏の協力により、ハヤブサ乗り限定のライディングスクール、「1 make Riding Art School on Hayabusa」(1RASoH:ワンラッソォ…とは云わない)がこれまでに何回か開催されている。「限定」という言葉に弱い僕はいつか参加してやろうと思っていたのだけれど、2006年4月に開催がアナウンスされた時、幸運なことにちょうど予定が空いている日だったので、一番乗りで名乗りを挙げた。

 さて、参加するとなったら大勢の方が面白いに決まってる。掲示板などの書き込みで呼びかけたところ、Takaさん、ポン太さん、ゆずさん、霧湖さんほか、今回初めてお目にかかるスミノフさんが参加を表明し、遠くから来る人たちが前日からお泊まりしていくことになった。よっしゃぁ、宴だぁっ!(^^)(アンコウの解体ショーに始まり、深夜まで飲んで喰って騒いで…したことは捨て置く)

■集
 翌朝。
 このところお約束となってきた用賀マック集合。ポン太さんとスミノフさんがやってきて、これで勢揃い…じゃないぞ。Takaさんが来ない。なんだ、二日酔いで寝坊したか?(彼も前日の壮絶なる宴に参加してたのだ)
 ま、そのうちやってくるさ〜とのんびりしていると、Takaさんから電話が鳴った。なんとカギを無くして友人宅で立ち往生しているという(ぬに〜?) しばらく待ってみたがカギは見つからず、結局Takaさんはこのままリタイアとなった(哀


 会場である柏(地名)の自動車教習所まで編隊飛行。首都高は不慣れの人も多いのでのんびりペース。柏インターで清算をすませ、編隊再編成。
 …と? あれ、ブサが1台多いぞ? フツーの顔して混ざっていたのは、なんとRAS事務局の峯岸さんその人であった!(この人もブサ乗りなのだ)
 これ幸いと会場まで先導をお願いした。(らっきー(^^))

■習
 目指す教習所には既に十数台のブサが集まっていて、ちらほら見覚えのある人もいるようだった。装備を下ろしてほっとする間もなく、ぞくぞくと隼が集まってくる。ブサ・ブサ・ブサ…。本当にハヤブサばっかりだ!
 講習は校長・柏秀樹さんのお話で始まったのだけど、これはあとで記そう。小一時間の講義が終わると外に出て実技講習となった。あいにくのお天気で小雨が降っており、みんなカッパを着ていた。基本を重視する柏さんだけあって、まずはスタンドをかけたまま、隼に跨るところから始まった。

・運転姿勢
 まず基本の運転姿勢。街でよく見る猫背の姿勢は、加速Gを背筋力で支えねばならないため疲れるし、常に強い力でニーグリップをせねばならず、良くないという。仙骨(骨盤)を立て、背骨(脊椎)のS字カーブを崩さないようにすると、疲れず、また状態の重心ラインが後輪を貫くため、バイクの挙動が掴みやすくなる。加減速のGに対応し脊椎のS字カーブは崩さずに、状態を伏せ/起こす練習をした。

 腕はつっぱらず、腕と胸で大きな円を描くように。ハンドルは45度の角度から握りにいく。街乗りではブレーキレバーに第3指〜5指を添えるようにすると、45度握りと相性もいいし、とっさのブレーキでもロックさせにくい。
(そ〜れ、みんなで加速ごっこ〜)

・リアブレーキ
 さて、次はブレーキ練習。
 前述のとおり天気は雨。びしょーりと塗れた路面でのリアロック・トレーニングだ。はっきり云って怯えていた。
 まずは時速10キロくらいから、リアブレーキをガツンと踏むレッスン。瞬時にリアブレーキがロックするが、停止するまでそのままコントロールする。練習ではバッテリーに負担がかかるため、エンストしないようクラッチは握って行った。
 時速10キロだと、リア・ロック状態でもたいして滑らず、やってみれば全然怖くない。慣れてきたので、時速20キロ、30キロと初期速度を上げていく。速度が上がってくると腕や上体がどうしても固くなってしまうけど、力が入らないように意識し、また余裕があればやってみろと云われたので、途中から右手放しにも挑戦。
 最終的には時速50キロからでも右手を離したまま停車できるようになった。ロック中に左右にスライドさせるくらいの余裕を、とのことであったが、これは今後の課題だな。(XLXなら日常茶飯事なんだけどナ)

・フロントブレーキ
 次はもちろんフロントブレーキ。
 ウェットコンディションでのフロントブレーキ練習ということで、最初は相当緊張したが、初期制動でサスを沈め、それからさらにブレーキを強めることでかなり強い制動をかけてもロックしないと教えられた(やろうと思えば濡れた路面でジャックナイフ〜ブレーキ時に後輪を持ち上げること〜させられるそうだ。うぉう!)
 教えられた通りに2段構えのフロントブレーキを練習。雨でも隼に乗り慣れていたけど、ここまでは…というほど強くブレーキをかけることができた。白状すると、かなりがんばって強くかけてみたけど、ちゃんとサスを沈めてからのブレーキではどうしてもフロントロックさせることができなかった(まだ余裕があるということだ)。


・フロント・ロック
 ではサスを沈めずに強くフロントブレーキを引くとどうなるか? 当然ロックするのである。時速50km/hくらいから、一気にフロントブレーキを「ガッ」と掛けて、一瞬でリリース。瞬時のフロントロックを止まるまでに何回も繰り返す。(晴れている時にやると煙が立つそうだ) このときはリアブレーキはフリーで行ったが、リアロック下でもできるようにならなくてはいけないそうだ。

・フル・ブレーキ
 直線ブレーキの総合練習。リアロック状態から、フロントブレーキを効率的にかけ、最低限の制動距離で止める。ウェット路面でもかなりブレーキが効き、びっくりするほど短距離で止まることができた。
 ブレーキのスキルアップは事故回避に直結する。今回の教訓をもとに、もっともっとトレーニングせねば…。

ここまでで一度休憩。
午後の部は、取り回しから、クラッチトレーニングを中心に行われた。

・取り回し
 右も左も腰で支えられるように。
 ハンドルは左右どちらの時もきっちりロックさせる。中途半端にしない。
 エンジンをかけて半クラで車体を動かす。クラッチは動揺させず、一定の速度でキープするようにコントロール。


腰で支えて手を離せるかな?
バディは、ラブリ〜(^^)なカリメロさん。

・クラッチトレーニング
 エンジンアイドルのまま、クラッチを徐々に繋ぎ発進。クラッチが完全に切れたら一旦止める。これを外周半周!(ぎょへ〜 左手がぁ…)
続く半周はリアブレーキと、半クラのみで可能な限りゆっくりと走行。
…合わせてたった1周なのに、もぅ、むっちゃくちゃクラッチの左手が痛くなりました(^^;;;

・Uターン
 みなの見ている前で、1人ずつやらされた。これは、転んだら恥ずかしいな…
 んじゃ〜、はりきってやるぞ。それっ、くるり〜ん…やった、うまく行ったぞ、と喜んでたら、それじゃコーナーリングです、とダメ出しを頂いた(-_-;; (Uターン時は、道の端ぎりぎりまで寄せて停車、前後の安全を確認してから行いましょう)
 なおカリメロさんのUターン時に、柏さんが気がつかずに進路妨害する形になりカリメロさんが転倒する「事件」があったのですが、カリメロさんもUターン前に1回止まっていればこの転倒は避け得たかもしれなかったですね…。

・上り坂でのUターン
ちょっとメカラウロコ的な、上り坂での安全なUターンの方法を教わった。
 まずなんと対向車線に入れて寄せてしまう(1)。(もちろん安全確認してからね) そしたらギアを1速にいれたままキルスイッチでエンジンを切り、ブレーキを握ったままバイクを降りる。 ハンドルを左に一杯に切って、後方に注意しながらバック(2)、重力を利用する。スピードコントロールはクラッチで。 下がれるだけ下がったら、前方へ。 バイクを端によせたら(3)、バイクに跨りエンジンリスタート 。(キルスイッチを戻すのを忘れないこと)

 実際やってみたけど、全然怖くないです、これ。でも余裕こいてさっさっとやったら、「慎重に、ゆっくりやらないとバイク倒すゾ」って怒られちゃいました(^^;;;

・遅走り競争
 この日のレッスンの最後に行われたのが、約20mをどれだけゆっくり走れるかという遅走り競争。遅走りならリアブレーキ踏みつつ半クラで…というのがセオリーだろうけど、なんとブレーキ使用禁止! 後ろで見ててテールランプが灯いたら失格となる。クラッチとアクセルだけで勝負。これはけっこう難しい…
   2人ずつ走り、負けたらイチヌケ…というルールで、2回勝ったところで伊作さんに負けちゃいました(^^;





これで講習は終了。
終了後に、柏さんにお願いして記念写真を撮らせて頂いて、そのあと柏さんや事務局のみなさん、他の参加者のみなさんとご飯を食べにいきました(^^)
(隼アイパッチ! …柏さんは有名人だから、顔隠さないでよかろ)


 さて、実技訓練としてとても充実した講習会だったのだけれど、僕が今回のRiding Art Schoolで最も感銘を受けたのは、講習会のはじめに行われた30分ほどの短い講義だった。我々がバイクに跨る上で、いかに楽しく、安全に過ごせるかに関わる大事なお話だったので、お終いにぜひ紹介しておこうと思う。当日のblogから転載する。

・幸せになるために、走るのだ

柏秀樹氏のRiding Art School(RAS)に参加してきた。

その冒頭、30分ほどの短い講義の中で、柏氏が1人の受講生を指し、非常に興味深い質問をした。

曰く、「君は何のために今日ここに来たのか?」
彼は即答した「バイクにうまく乗れるようになるためです」

もっともな答えだったが、
 氏はそうではない、あるいは、そうではいけないと云う。
 更に氏は問うた。「では、君はなぜバイクに乗るのだ?」
 なんでもない質問だったのに、彼は答えられなかった。
 氏はその答えを、「幸せになるため」だと云った。
 幸せになるため…。云い換えれば、バイクに乗って楽しいと感じること、それが幸せであり、バイクに乗る目的だということなのだろう。

 テクニック向上は目的ではない、幸せになるための手段なのだ。
 転んだり、怪我したりしたら、もちろん幸せではない。「実際の事故にリハーサルはない」と氏は云ったが、トラブルに際し、それを予見し、危険が迫った時 に回避できる技能がなくては事故に遭う。そのためにはやっぱりトレーニングしなくちゃいけないし、日々の精進も必要だ。走ることに喜びを感じ、無事に帰っ てくる。そのために必要な手段としての技術なのだ。

 このことを踏まえた上で修練しないと、怖い落とし穴が待っている。
 テクニックが上がり、慣れてくると人間はさらに目標水準を引き上げたり(=より運転速度を上げたり、無理なすり抜けをしたりとか)、あるいは手を抜くよ うになる。上手になったら、より危ない運転をしてしまうのでは意味はない。これでは事故を起こすリスクは小さくならないし、速度が上がっていれば事故が起 きたときのダメージはより大きくなってしまう。
 従って、安全にライディングを楽しみ、無事に帰ってくることを目標としなければ、トレーニングする意味がないのだ、と氏は云った。

 ハッとさせられた。
 僕の、テクニック向上についての意識は、まさに目的そのものだったから。
 毎日、雨でもバイクに乗ってみたり、フルブレーキやフロントアップを練習したり、こないだの警視庁の講習会や、今回のライディングスクールだって、どちらかというと、ただただ「上手に隼に乗れるようになりたいから」だった。


 それじゃ、だめなんだ。
 僕は、僕たちは「幸せになるために走ろう!」

 気持ちよく走り、
 美味しいものを食べ、
 温泉につかり、
 そして、ちゃんと家に帰ってこよう!

 そのための技術を磨き、
 プロテクターを身につける習慣を持とう!

 バイクを磨き、
 メンテして、
 次も楽しく走れるように準備をしよう!

 バイクを通じて多くの人と知り合い、
 交流していこう!

 それでこそ、バイクに乗ってて幸せ、といえるんじゃないかと思う。

 そうしてそうして、
 ずぅっとあとになって、
 僕らがじーちゃん、ばーちゃんになるまでも乗り続けて、いよいよその時が来たら「あぁ、バイクに乗ってて幸せだったなぁ…」って云ってバイクを降りることができたら……素敵じゃない?

Aug.6th.2006
___PoN___