・油 断 大 敵
ひさびさに怖い思いをした。
そのときは、夜勤に向かうため、夕暮れ時の中央高速を普段よりややゆっくりめの速度で巡航していた。やがて、前方に緩やかな左カーブが迫ってきたので、追い越し車線に出て、軽くアクセルを捻り、トラクションをかけた。
そのとたん!
リアが踊りはじめた。小刻みに、右に左に後輪がぶれる。あわててアクセルを戻したら、ずぃ〜〜〜〜〜〜〜っと持ってかれそうになり、あわててパーシャルまで開ける。
パンクかな? こないだ交換したばっかなのに、なんてついてないんだ…
とりあえず左に寄せようとミラーを見たところ、信じられない光景が。白煙、というか、煙幕かこれは!?
エンジンブロー
…という言葉が頭をよぎる。心拍数がいきなり倍に跳ね上がる。
焼き付きを心配してクラッチを握ると、車体は更に不安定になったが、なんとかバイクを路肩に持って行けた。
リアがずるずるだったから100mくらい使って徐々にブレーキ、…停止。
ふぅぅぅぅぅぅ、怖かったぁ…
さぁ、いったい何事なんだ?
バイクを降り、車体下をのぞき込むと、エンジンブロックの下から、オイルが盛大に噴き出していた。
あわててエンジン停止。
タイヤは? 後ろに回って、血の気が引いた。
タイヤは油を塗りつけたように、オイルまみれになっていて、ブサに続く路面に軌跡を描いていた。
事ここに至って、僕は自分のミスを認めざるを得なかった。
さっきオイル交換したとき、ドレンボルト締め忘れてたんだ!
この、どシロートがっ!! ○| ̄|_
この日はね、本当にいろいろあったんだ。
身内のトラブルが、それこそ夜明け前からあって。
昼過ぎに、空いた時間で急いでオイル交換とチェーンメンテやったんだよね。オイル全部出した後、いつも通り余ったオイルでフラッシングしようと、オイルフィルタを取り付けて、とりあえずドレンボルトは手で締めて。ここでフラッシング分だけオイルジョッキに注ぐところを、間違ってどぼ〜っといっちゃったんだよね。それで、ま、じゃぁ今日はフラッシングなしでいいや、時間もないし〜って、オイル注いで、カウル装着してしまったんだよぅぅぅぅぅぅぅ… 増し締めどころか、手で締め付けただけだもんな、落ちるのが道理だよな…
■ ■ ■
・事後処理
悔やんでいても始まらない。まずはオフィスに電話して、勤務のピンチヒッターを依頼。たまたま電話に出たY先輩が、僕がたどり着くまでの間、夜勤先に行ってくれることになった。良かった、仕事先に迷惑をかけるのが一番心配だったのだが、これでまずは一安心。
次にロードサービスに連絡。僕が入っているのはJAFではなく(バイクを買った当時はJAFは二輪を扱っていなかったのだ)、スーパーカーレスキュー70ってとこで、年会費が2100円と安く、牽引10kmまではタダというのがウリの新興ロードサービスだ。でも利用するのは初めて。
さてコール1回でオペレーターが出る。僕は中央高速の真ん中で立ち往生してる事を告げ、助けを求めた。約5分後、センターから電話が鳴り、救援がこちらに向かったとの連絡が入った。約30分で到着するからできるだけ安全な場所で待機しろという。また道路公団への連絡(国立府中インター付近に故障車あり注意、とかいうアレだ)も入れてくれたらしい。
高速道路で立ち往生しているときにクルマに跳ねられる、というのは良く聞く話だ。でも安全な場所といっても、上の画像のように、路側帯の横はすぐカベで逃げ場などない。そこで、ブサよりもできるだけ下流の、カベ際に立っていることにした。カベに登ることも考えたけど、さすがにそれはちょっと…。
しばらくして思いついて、ブサのキーをパーキング・ポジションに入れ、テールランプを点灯させた。僕のブサにはハザードランプは無いけど、これで多少視認性は上がるだろう。(パーキング・ライトが、バッテリーを上げる以外の役に立つなんて考えもしなかったな…)
壁際で、待つ、待つ、待つ…。
すぐ横を自動車が時速100キロのスピードで駆け抜けていく。こんなところで身ひとつで立っているのだ、心細いったらない。ときどきブサを見ているのか、こちらに大きく膨らんで来る奴がいて、すごく怖い。あっち走ってくれ〜(泣
怯えながら車列を見ていたら、ふいに背後からポン、と肩を叩かれて飛び上がりそうになった。振り向くとなんとY先輩である。向こうにはベンツの四駆(ゲレンデワーゲンってやつだ)が止まっている。あ、そうか、同じところに向かうんだから、通り道だよな…
急で無茶なお願いだったのに、Y先輩はイヤな顔ひとつせずピンチヒッターを引き受けてくれて、おまけに「ゆっくりでいいよ」と言ってくれた。本当にありがたかった。
さてブサをどこに運んで貰おうか悩んだのだが、R1000の師匠のいきつけのショップ「ビーフリー」が近いと思いついた。師匠に電話したら、ショップに連絡を入れておいてくれて、受け入れを了解して貰えた。
あとは、自分の移動手段だ。東府中のショップから、八王子の夜勤先への移動、および翌朝清瀬の日勤先への移動、これがやっかいだ。ヨメに連絡を取り、電車での経路選択と、所要時間・接続のプランを立てて貰う。ほどなくして検索の結果が携帯メールに届いたが、ちと時間的に厳しいことが判明。しかたがない、あの男に頼むしかないか…。
トラブル発生から約40分後。レスキューが到着した。青赤のホアンホアンを光らせながら来たから、かなり遠くからでも分かる。なんたる安心感。 来てくれたのはスーパーカーレスキューと契約しているトランスワールド社のレッカー車で、かなり大きいトラックだった。まず、運転手さんに救援の礼を云う。発煙筒を2つ、後方に置いてから我々はサルベージ作業を開始した。レッカー車は荷台がずるりと後方に下がるようになっていて、ラダーなどを使わずにバイクを乗せることができる。荷台が接地すると、僕がハンドルを、彼が後方を押し、ハヤブサを荷台に押し上げた。これは、荷台がけっこう勾配があるのと、ぶちまけたオイルが滑るのとで、それなりに大変だった。(クルマだとウィンチでひっぱり上げることができるそうだ)
僕はトラックの助手席に乗せて貰うと(ちょっとドキドキした)、運転手さんに店の場所を伝え、移動開始。国立府中インターまでは1キロもない。あまりない経験だったので、なんだか面白くって運転手さんにいろいろ質問をした…けど、あまり覚えていない。興奮してたんだろうな、やっぱ。
時々うしろを振り返ってブサの固定状態を見てみたが、ぜんぜん揺れてない。さすがプロの仕事だ。ショップまでは合計9キロちょいだったので、追加料金はかからなかった。(JAFだと5キロ以上は追加料金が発生するので3000円くらいかかる計算)運転手さんに丁重にお礼を言い、ハヤブサを下ろした。
ビーフリーのスタッフさんに、正直に事情を説明。あぁ、そりゃアホですなぁ…とは言われず、ただ、「生きてて良かったですね」と云われた。まったくだ。
4日後の日曜日に講習会(Riding art school)の予定があったので、もしできたら土曜日までに走れるようにしてくれ〜とワガママを言う。(そして土曜昼までに上げてくれたんだよね。大感謝でビール券包んでったさ)
バイク屋まで持ち込んでから撮影したリアタイヤ。
油べったり。 おっそろしい…
さらばハヤブサ、しばらくのお別れだがいい子でいろよ。
店を出ると、1分も待たないうちにわが弟がVツイン・マグナに跨って現れた。
この日はわが一族にとってアサから十分にハードだったのだが、ようやく彼が帰宅して一杯やろうとした矢先、僕が「にっちもさっちもいかん、バイク貸してくれ〜!」という無茶な連絡を入れたので、わざわざ府中くんだりまでバイクを持ってきてくれたのだ。(すまねぇなぁ…)
僕はマグナを借り受けると、弟を府中駅で降ろし、それから押っ取り刀で夜勤先に向かった。
夜勤先到着は20時半。1時間半の遅刻で済んだのは奇跡だ。
代行勤務してくれていたY先輩にお礼し、交代。先輩、ありがとうございましたm(_ _)m
…というわけで、自業自得とはいえ、ひどいトラブルに見舞われたのですが、幸運なことに転倒せず、怪我一つ無くすますことができました。公道にせよ、クローズドにせよ、軽メンテにしてもその方法を間違えれば、命取りになりうるということを、あらためて思い知らされた事件でした。たかがオイル交換と、短時間に済まそうとしたその油断こそが、今回のトラブルの原因です。
僕は自分のバイクはなるべく自分でメンテナンスしたいと希望していますし、洗車はしなくてもメンテには時間とお金をかけているつもりですが、結果については自分で責任をとるしかないわけですから、これからは気を引き締めてメンテに当たるとともに、作業終了時の再チェック、あとは乗車前のチェックもかな、改めて実行していくようにしようと思います。
最後に、今回の件では、多くの人に心配と迷惑をかけ、そしてお世話になりました。
この場を借りて、改めてお礼させていただきます。
Y先輩、ピンチヒッター引き受けてくれて、ありがとう!
師匠、バイク屋紹介してくれて、ありがとう!
ビーフリーさん、イチゲンなのに丁寧にみてくれて感謝しています。
おまけに急ぎのワガママまで聞いてくれてありがとう!
スーパーカーレスキューさん、親切な対応ありがとう!
多少ですけど宣伝しておきましたよっ(笑
レッカー屋の兄さん、すぐ来てくれて、引き上げてくれてありがとう!
弟よ、バイク貸してくれてありがとう! いつもすまん、恩に着る!
ヨメよ、駅すぱあと情報ありがとう! …心配かけてすまなかった。