Short circuit (Ready, Go!)


 とうとうその日がやってきた.

(*)
 日本各地からライダーが集まり,峠で,ストリートで,そしてサーキットで磨いてきた技を競い合う.ここトミン・サーキットは日本でも有数の歴史と伝統を誇るサーキットであり,タコメーターに仕事をさせないグランド・ストレートもさることながら,抜きどころの右第1カーブ,右左と連なる2連ヘアピンなど,乗り手の腕が試されるテクニカルコースとして知られる.この美しい東関東の自然の中で,色とりどり,2スト・4スト,サイズも大小の様々なバイク達が,広大なコースを所狭しと疾走する様は,まさに見る者を魅了する.またこのイベントにはおでん屋などの屋台が居並び,ドラッグ・レーサーのデモンストレーションが華を添えるなど,大勢集まるギャラリーには楽しみが尽きない.トミン・サーキットは全てのライダーの憧れの聖地なのだ.
 そして11月9日,僕は愛機「ハヤブサ」と共にこのトミン・サーキットに降り立った….

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 待望のその日は,しかし寝ぼうから始まった.8時半に常磐道守谷S.A.に集合,という予定だったのだが,目が覚めると既に7時半.これは間に合わない.9時の現地集合目指してすっとんで行った.
 日曜の早朝(?)のこと,道は空いている.高井戸インターから首都高にのり,一路東へ.…と,代々木の大曲がりをすぎたところでハプニング.なにやら前方で真っ黒い煙がもうもうと立ち上がっているではないか.まさか火事じゃないよな〜と,一応用心して減速していくと,…燃えてました車が. 青山トンネルのすぐ手前,対向車線中央分離帯寄りで白い(?)トラックが炎に包まれて燃え上がっている.ドライバーらしき男がすぐそばにいたから(呆然とつっ立って見ていた)人死にはない模様.うわぁ,すげぇ.しかし驚くべきは,対向車線にいても火照るような熱量なのに,向こうの車線,交通が止まっていない.燃えさかる車のすぐ側を,次々と抜けていく.…まぁ,止まってしまえば消防車なども駆けつけにくくなるから,いいと云えばいいのだろうが,やるか,普通?

 広くて,空いてて,気持ちがいい常磐道をかっとばして土浦北インターで降りる.ここから先約10kmの下道なのだが,これが地図が怪しくて難渋した.「4つ目の信号で左折」とか書いてあっても,田舎のこと,延々1つめの信号すら見えて来なかったりして,何しろ不安なのだ.途中,青空集団を追い越して(それとは知らずに),なんとか9時5分前に現地到着することができた.

(*)繰り返し

 本当のところは,トミン・サーキットは非公認の自動車学校のコースに併設された小さな小さなサーキットだ.全長550m,最長ストレート122m,小さなコーナーまで入れても6つしかコーナーがないオモチャみたいなコースだが,道幅はしっかりしてるし,縁石もあるし,ナリはサーキットの体裁をしている.今日はここを,青空を含むいくつかのグループの約70人で1日借り切って走り込む,というイベントだ.
 トミンに着いたのはいいが,まだ青空の人は誰も来ていない様子.しかも周りの人はみ〜んな皮ツナギだし,明らかに公道用ではないレースバイクもいっぱいあるし(トランスポータと呼ばれるバンなどで運んでくるのだ),相当気合いが入っている.小さなコースだと思って甘く見ていたけど,おいら,えらい場違いなところに来てしまったのかも…! やばい,だんだん不安になってきた.
 と,先日のツーリングで一緒だったMarくん発見!(青空集団と別働隊だったようだ) 教えて貰って,僕も準備にとりかかる.まずミラーを取り外す.ミラーなんて外した事なかったけど,これは簡単.次に灯火類をテープで覆う.これらは転倒した時に,破片をコースに撒き散らさないようにするための処置だとのこと.僕としては後方視界なしで走る方が怖いのだが….テープは,家からミッフィーちゃんの幅広テープを持ってきていたのだが(いや,ほら,かわいいし),場の雰囲気に押されてそんなものは出せなかった.忘れたことにして,Keiさんからブルーのガムテープを拝借,全ての灯火をカバー.ヘッドライトはHIDで光量が強いせいもあって,透けて不思議な印象になった.
 サスペンションは,麦草峠のツーリングの時に前後ともやや弱く設定したのだが,悪くなかったのでそのまんま.あとMarくんのアドバイスで,タイヤの空気圧を規定値の9割くらいに落とした.


こんな感じ.耳(ミラー)がないせいで,本当に鳥みたい.


トミン・サーキットの図.クリックで周辺図.

 集まったところでミーティング.こないだのツーリングの時も思ったけど,こういうミーティングが実にしっかりしている.大人が集まって,ある程度リスクのあることをやる,それに慣れている感じ.全員でコースを歩いて一周して(下見&小石等の除去),それからいよいよ走行だ.
 人数が多いので初級・中級・中上級・上級の4グループに分かれて走る.おいらはもちろん初級グループ(なんせバイク歴8ヶ月,峠歴4回,サーキットは初めてだもんね).今日は全部で各々のグループ15分×5回の走行が予定されていたが,初級グループは第1ヒートは上級者の先導が入ってくれた.
 1列に並んで,いよいよ出走.おいらは6番目くらい.まだタイヤが不安なこともあって慎重にスタート.ツーリングみたいに千鳥ってわけには行かない.追突に注意しつつ,ラインを作っていく.5周くらいすると,集団がばらけて誰が先頭だか分からないようになった.別に誰も抜かなかったはずだが気が付くと先導が僕の前にいて(あれ,周回遅れ?),以後,先導のリズムを真似ることに集中した.気が付くと15分立っていて,終了の合図のチェッカーフラッグが振られている.最後に1周流してピットイン,中級グループと交代した.
 
 駐機して,バイクをチェック.特にトラブルはない.ここでリアタイヤを見てびっくり.この15分間だけでも,得たものは大きかったと気づいた.なんとタイヤの右側は端まで皮むきが済んでいたのだ(左はあともうあと少し.トミンは左コーナーが1つしかないから,左が減りにくい).これまで端が新品だったことを考えると,すでに今までの最大のバンク角を越えて走れているということだ.同じコーナーを,姿勢とか,進入とか,いろいろ試しながら走るのがこれほど有益とは思わなかった.危険も峠にくらべたら断然,低リスクだ.それに上級者のアドバイスも貰えるし,いやぁ,楽しいぞ,面白いぞ,これは!

 少し体が冷えていたから防寒着を着て,上級者の走行を見学.やっぱり巧いひとは,べら棒に早い.レースじゃなくて走行会なのだが,抜きつ抜かれつでかなり熱い.この後,第2ヒートまでの間に少し雨が降って,こりゃあかんかな〜と思ったけれど,幸いコースをひと濡らししただけで雨雲は行ってしまい,第3ヒート以降は完全にドライコンディションで走る事ができた.

 第2ヒートは最初だけ先導あり.少し慣れてきたので,リア気味に加重して,コーナーの立ち上がりでトラクションをかけていくようにした.これまで何度かしか経験していなかったリアが出て行く感覚,「走り抜ける」と表現できそうな快感だ.ここのストレートは短いからギアチェンジする前にもう1コーナーに着いてしまうのだけれど,最終コーナーの脱出速度が上がってきたせいもあって,120km/hくらいまでは出るようになった.調子にのって,もっともっと,とバンク角を更に深くしていったら,ステップについているバンクセンサーが接地して肝を冷やした.これ以上やると,危ないらしい.
 1つしかない左コーナーも毎周回丁寧に走った.どちらかというと僕はなんでも左に傾ける方が得意で(自転車や,スキーとか),バイクでもやっぱり左コーナーの方が倒しやすい.峠道では左カーブは視界が悪いから走りにくいけれど,トミンでは思いっきり攻めることができて,第2ヒートを終えることには,左側もきれいに皮むきが済んでいた.

 2回走ったところで,休憩.昼休みには,おでんのサービスがあった.これは,にゃんつよさんや奥様が作ってきて下さったもので,おおきな丼にいっぱいの暖かいおでんは,とてもありがたかった.朝は食べてないし,体は冷えてたし,お腹ぺこぺこだったから,いやもう,涙が出るくらいに美味しかった.(実は,慌ててて昼飯は買ってくるのを忘れてしまってた.コンビニまでは5km以上あったし,ハヤブサはすぐ公道を走れる状態じゃないし,正直絶食を覚悟してた).にゃんつよさん,ありがとう.ちなみに奥様は時計職人,というか時計のアーティストで,当日もご自分で製作された素敵な時計をされてました.ウェブサイトはこちら
 
 
デモンストレーションとして行われたドラッグレーサーの試走.何しろすさまじい音がして,かっとんで行きました.でも加速時間は数秒だったかな…(コースが短すぎるのです).


 第4ヒートは逆走で,さっきまで右回りに走っていたサーキットを,今度は左回りに走る.右左が逆になるだけ,と考えていたら,これは完全な間違い.もうまるっきり別のサーキットのようで,危うく1コーナーでオーバーランしそうになった.順周での最終コーナーなんだけど,逆周ではのってるスピードが大きいのと,出口の狭さで,ずっと難しいコーナーになっていた.うーむ奥が深い….逆周では左のバンクセンサーをタッチ.よぉし,これで左右を制覇だ〜(何を喜んでるんだか…(^^;)
 本当はもう少し逆周を楽しみたかったんだけれど,逆周は第4ヒートのみの1回だけだった.残念.

 最後のヒートは暗くなってきたせいで近眼のおいらには条件が悪くなってきていたし,疲れも出てきたので流すくらいで周回.それでも初めのころよりはだいぶ速くなってるんじゃないかなぁ.こんなふうに気軽にサーキット走行できるところが,近くにあればもっと上手になれるのにな〜.やっぱ雪国育ちじゃないとスキーは上手になれないってことだね…(少し意味不明)
 最後にジャンケン大会があって,パーツクリーナーと曇り止めをゲット(ウヒヒ).ビンゴとか,こういうのは強いんだよね.

 今日はたくさんのグループでのイベントだったから,帰りに青空チーム+αでちょっと休憩.まだ2回目の参加だったけど,居づらさとかは全くない.ここの人たちは本当にいい人達だ.本当はもっとお話したりしたかったんだけど,カミさんから催促の電話(7時に帰る約束やろ,早よ帰って来んかぃ!?)が入り,一足先に出発することに.名残りおしいなぁ.
 外に出れば雨.ほどなくしてどしゃ降りに….新しいタイヤで雨中走行だったけど,皮むきは完全に終わっていたし,下みち・高速・高々速ともに特に不安は無かった.うん,このタイヤ悪くない.
 冷たい雨でパンツまで濡れきって,帰宅したのは19:30.カミさんはツノが出かかってたけど,撮影したビデオを見せたら面白がって機嫌が直りました(^^;;

 あ〜,面白かった!

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 この走行会は本当に楽しかった.イベントを企画して下さった鉄騎士倶楽部のホリック部長さん,参加させてくれた青空の皆さん,本当にありがとう.また機会があったら,ぜひぜひ参加したいと思います.どうもありがとうございました.


6th.Jan.2004