いきなりタチゴケ

 納車の日の午後.無事家までハヤブサを連れ帰った僕は,昼メシを食べるのももどかしく,早速試し乗りに出た(せっかく仕事サボってるんだから,ね)
 慣熟訓練としてなら街乗りの方が経験値は上がるんだろうけど,この時は高速で少し長距離を走ることにした.一定回転での機械の馴らしという意味もあったが,何より,雨上がりのピーカン(快晴)だし,ハヤブサのシェイクダウンにはやはり高速のほうが相応しいように思えたのだ.

 さて,ではどちらに行こうか….
 巣は調布だから最寄りの高速は中央高速だけど,これからも乗るチャンスがありそうなのでパス.初日から首都高に乗る度胸はないから,すると残るは北の関越,南の三浦(第3京浜〜横新〜横横),あるいは西の東名か….そのとき,ふと思い出した.私の育った実家では「新車を買ったら日帰りで箱根に行き,温泉に入る」という(不思議な)習慣があったのだ.温泉か….それもいいな,じゃぁ箱根に行こう!
 着替えとタオルを用意したところで気づく.え〜と,この荷物はどうやって運んでくれよう? タンクバッグも,よくバイクの人が使ってる荷物をくくる網もない.これまでは馬鹿でかいトランクがついてる原付に乗ってたから,こんなこと考えたことも無かった.
 とりあえずバックパックに荷物を詰め込んで,荷造りヒモでタンデムシートに固定しようと奮闘していると,ニョーボがつぶやいた.「そのまま背負っていけば?」
 …その通りですね.

 出発前に準備したもう1つの事が料金所対策.初心者ライダーとしては高速の料金所ですらもトライアルなのだ.初めてのハヤブサ,初めての高速,初めての料金所.全てが「初めての」である.HOCのETC関連の話題などで「ライダーたるもの,料金所でグズグズするべからず」ということは分かっていたので(耳年増),どうしようかと悩む.いろいろ考えたが,結局ジャケットのポッケにハイウェイカードだけ入れておくことにした.ハイカしかなかったら,グローブしたまんまでもばっちり出すことができるという寸法.

 これで準備完了.では,行くか!
 バックで駐車場から出すだけでも緊張.3回も切り返して道に平行にしたところでエンジンスタート.お? かからないぞ? セルが,回らない!
 なんたること.スタンドもちゃんと上がってる.キーもONになっている.クラッチも握っている.そう,先ほどバイク屋の店員さんが教えてくれた注意点はみんな守っている.なのに何故…?  とりあえず発進中止.メットを脱ぎ,バックパックからマニュアルを取り出す(ちゃんと荷物に入れていた(笑)).ほどなくして原因は判明した.緊急エンジン停止スイッチが,「停止」になってたのである…(-_-;;; 考えもしなかった.さっきチビがいじってたなぁ,そういえば.

 13:30,エンジンスタート.今度はちゃんとかかった.では気を取り直して,出発!

 通り慣れた裏道を抜け,ほぼ直線的に東名用賀インターへ…向かっていたのだが,そこでガソリンマーク点灯.そういえばガスはほとんど入ってないって言われてたっけ.ルートを変更して世田谷通りへ出たが,混んでいたので裏道に逃げ込む.ところが環八直前,スタンドまでもう少し,というところでまたイベント発生.なんと油温計がH(高温)を指してる.オーバーヒート寸前じゃないか! 店員さんは確かに真夏の渋滞などではオーバーヒートの恐れがあると言っていた.でも,ここまでちょっとは渋滞していたとは言え,3月だぞ! いっくらなんでも弱すぎるだろ,これは.
 ラジエータに風を当てればいいのは分かっていたが,車の量も多いしそう簡単にはいかない.油温計を横目で見ながら走って,取りあえずスタンドに駆け込む.「初めてのガソリンスタンド」だが,さすがにこれは車と大差ないだろう.(給油口のフタの開け方くらいは分かってたから気持ち的には余裕があった).ハイオク・満タン,と告げ,カギを差して給油口を開ける.僕はスタンドも下ろさずバイクに跨ったまま,両のつま先でバイクを支えて給油を受けたのでありました.…これでいいんだろうか?
 給油が終わるとエンジンも少し冷めていた.スタンドを出たらすぐ高速入り口だったから,これで一安心.東京インターへ向け,80km/hくらいで巡航開始.もうオーバーヒートのほうは心配いらなそうだ.
(ちなみにこの後もっとひどい渋滞中でも油温の上昇はない.想像だけど,馴らしの一番初めでパーツの「合い」がまだ悪く,大きな摩擦熱が発生した結果,過熱をきたしたのではないか? 誰か理由が思い当たる方いらしたら教えて下さい)

 東京インターに到着.たくさんあるうちの一番左のランプに向かう.さぁ,作戦通りに行くかどうか.ニュートラルに入れ微速進入,停車.グローブのまま右手でポケットを探ると,薄いカードの確かな感触あり! ハイカを取り出し…,とその時,高速券が差し出された.
 「あ,ども…」突然の展開に動揺するも,とりあえず高速券を受け取って,前に出た.左寄せして停車.
 そうか,東京インターでは券貰うだけじゃないか.あぁびっくりした.高速券とハイカをポッケに突っ込み発車.ドンマイドンマイ(いろいろあるなぁ…)

 さてハヤブサの馴らしは800kmまでが5500回転まで,1600kmまでが8000回転までとなっている.でも,どこかで誰かが一番初めは4000回転までにしといた方が良いと言っていたので(耳年増),この日は4000rpmで回して走ることにした(4000rpmだと,3速で約80km/H,4速で100km/H,6速で120km/Hぐらい)
 身の程はわきまえてるから無理はせず,完全に車の流れに乗った走行で行く.左か真ん中の走行車線を100km/Hぐらいで巡航.道行きは晴れていてとても気持ちが良かった.60km/H以上は2輪では未体験ゾーンだったが,思った以上の風圧と風切り音である.またトラックやバスの様に前面投影面積の大きな車両の横を通過するときや,この日は秒速10〜15m(=時速36〜54km)という比較的強い風が吹いていたため,横からの風で煽られるのが非常に怖かった.
 一応トラブルなく海老名S.A.に到着.バイクスペースには誰も停めていないため,こころおきなくノロノロと駐車.バイクから降りると緊張で体がコチコチ(^^; 軽くストレッチして,一服しながらロードマップを見ていて思いついた.御殿場に大きなアウトレットがあったな….実を言えば箱根は山上がるときにワインディングになるし,ちょっと難しいかな,とも思っていたのだ.でも御殿場アウトレットなら高速を降りてすぐだし,いいかもしれない.よし,目的地変更だ.
 海老名から先ものんびり4000回転巡航.車が減ってきたのを見計らい,直線で少し速度を上げてみることにする.6速3500回転からゆっくりとスロットルを開くと,あっさりスピードが上がる.これでまだ最大速度の半分とは….風圧が凄かったが,伏せれば大丈夫なようだ.5000回転まで回してみてトライアル終了.あとはまた大人しく制限速度付近で巡航し,御殿場インターまではだいたい1時間弱だった.なお懸案の料金所は,後続車もなく,落ち着いて作戦通りに精算できました(^^).

 御殿場アウトレットでは2〜3の買い物をしたけど詳細は割愛.ただ,橋を渡った右側の屋台(?)のチーズ・ステーキ・サンドウィッチは美味しかった(パンがもうちょっと良ければ最高なんだけどなぁ).さて日が傾いてきたのでそろそろ帰ることに.駐輪場に向かって歩いていくと,100m先からでもわかる素敵なラインのバイク.僕の,ハヤブサだ.少し実感が沸いてきた(えへへへへ…)
 金網の支柱にチェーンで繋いでおいたハヤブサに異常はないようである.チェーンを「尾部」のふくらみの中に収納.メットを被って,手袋をして,準備完了.よし,帰り道も気を付けていこう!

 左上がりの片斜面の駐輪場だったので,出口方向へは少し上り坂気味だった.ちょっとバックさせてエンジンスタート.発進し,少し倒し気味にして小回りにしたその瞬間,突然エンスト! えっ!?と思う間もなくハヤブサは左へごろんと転倒.あ,や,やっちまった〜!
 しばらく頭真っ白.背後で「あ,タチゴケ」とか「笑っちゃ悪いよ」とかいう声が聞こえた(酷いよね(笑))気もするが,あんまり覚えていない.い,「いきなりタチゴケ」かよぉ….何てホームページのネタになるような事を….ていうか,俺のページは痛い系じゃないのに….
 起こしてやらなくちゃ.坂の下向きに倒れてしまったからちょっと大変だろう.起こそうとするが,あまりの重さに起こしきれない(これでまた傷が増えてしまったんだろうな…).メットを外し,バックパックを下ろして,再挑戦.これで上がらなきゃ,ハヤブサに乗る資格なし!と全力込めて踏ん張る.なんて重さだぁ〜.しかしハヤブサは立ち上がった.ダメージをチェックする.カウルとクランクケースに擦り傷が少々.クラッチレバーやウィンカーなどは大丈夫な様だ.エンジンをかけてみたが,これも大丈夫.少しほっとした.

 ごめんよ,ハヤブサ.本当にごめん.
 心の中で何度もあやまりながら,帰り道を走った.
 だんだん暗くなってきたが特に問題はなかった.HIDは(車も含め)初体験だったが,信じられないくらい明るかった.でも,これは前の車の人は眩しいだろうな.消せる様にしないといけないかな….

 18:30帰宅.
 駐車場の予定していた位置にハヤブサを駐車.前後のアンカーに2つのチェーンを用いて係留する.鎖の長さはどちらも十分なようだ.振動検知装置をオンにし,バイクカバーを掛けた.

 納車初日の走行距離は199km.楽しく,そしてちょっと痛いツーリングだった.

16th.Mar.2003