−序文にかえて−

豊かな「死への準備教育」の実りを

ドイツでは、1980年代頃から、医療関係者の間で、シュテルベベグライトゥングという新造語が定着してきました。シュテルベンとは死にゆくことであり、ベグライトゥングには、そばにいるとは、共に歩むという意味と、伴奏するという二つの意味があります。この言葉は、末期患者を孤独に陥らせず、だれかがいつもそばにつき添って、最期まで一緒に歩きましょう、いわば、何かを「する」医療の手段は無くなっても、最期までそばに「いる」という介護の意志を表現する言葉です。

『キュアからケアの時代へ』を読みながら、私はこのシュテルベベグライトゥングという言葉の意味を、改めて深く感じておりました。

この往復書簡は、私が長年提唱し続けている「死への準備教育」を、家庭科の授業の中で、1996年から実践しておられる高橋 誠先生と、その慶應高校での教え子の原  歩医師との感動的な記録です。心温まる師弟の結びつきが、死生学という多面的なボールを投げ合うことで、より鮮明に浮かび上がってきます。

このような師弟関係というのは、長年大学で「死の哲学」などを教えている私にとっても羨望の限りです。師たる者は、いつも教え子が自分を越えて成長してほしいと願っていますが、なかなかこのような成熟した人間関係の友情を育むことは難しいのです。

高橋先生と原医師との関係は、どうやら私の念願するよきパートナーシップに到達しておられるようです。このような真の友人を得られたお二人の間から、さらに豊かな「死への準備教育」の実りが広がりますようにと願ってやみません。

上智大学人間学研究室にて

                    上智大学教授 アルフォンス・デーケン