直毘霊(なおびのみたま) 本居宣長著 明和八年(一七七一年)成立
中国と日本の政体の優劣を日本の神と道、中国の天命や聖人の道との比較によって論じた書。題目に「此篇は、道といふことの論(あげつら)ひなり」と付記されている。宣長は漢籍の説く道が聖人の制作した道徳的規制・制度であるとみており、この点では荻生徂徠(おぎゆそらい)の見解に近い。また、革命を繰り返して混乱する中国の政体よりも、神代以来の君臣の秩序を維持している日本の方が優れていると説き、この評価は儒家神道とも共通する。宣長の主張の特色は、政体論の次元から、漢意と「天」そのものへの批判に深められていることにある。宣長は天命が常に善(聖人)を支持するという中国における教義は、聖人の道徳的正統性を保証するためのものであり、現実と整合しない教説であって、それは「さしから」な解釈の産物であると批判した。また、「天」自体が虚偽であると批判する。これに対して、日本では禍津日神の働きを認めて事実をそのままに受け止めており、その時々の状況に対し無理に道徳的正統性を論じない。それでいて結局は穏やかに治まってきた。これは、日本の道が「さかしら」を加えない神代以来の自然な「ものに行く道」であったからだと論じた。