うまき物くはまほしく、よききぬきまほしく、よき家にすままほしく、たからえまほしく、人にたふとまれまほしく、いのちながからまほしくするは、人の真心也。然るにこれらを皆よからぬ事にし、ねがはざるをいみじきことにして、すべてほしからず、ねがはぬかほするもののよにおほかるは、例のうるさきいつはりなり。

 

又よに先生などあふがるる物しり人、あるいは上人などたふとまるほうしなど、月花を見ては、あはれとめづるかほすれども、よき女を見ては、めにもかからぬかほして通るは、まことに然るや、もし月花をあはれと見る情(こころ)しあらば、ましてよき女には、などかめのうつらざらむ、月花はあはれ也、女の色はめにもとまらずといはんは、人とあらむものの心にあらず、いみしきいつはりにこそ有けれ。