我々木管メンバーの日常会話は「リードの調子どう?」で始まる。この「リード」、
フルートにはついていないが他の種の木管楽器にはたいていついており、その善し悪
しで演奏そのものが天と地の差になる。(ということにしておく。本当は "天" の域
には程遠いのだが。) リードの材質は文字通り「Reed」、葦であり(フランス語ではロゾーと言う) この茎を二つか三つに縦割りにして、それらを平らに削ってヘラ状に仕上げるのだが、 なにせ天然素材(というとカッコ良いがひらたくいえば農産物である)であるのに加 え、その乾燥の度合い、削り加減ひとつで雲泥の差が出てしまう。(上手な人が吹け ばの話。我々にはとても雲の域には・・しつこいか)本当に頼りなくあてにならないも のに希望を託し、祈るような気持ちで毎日なめたりくわえたりしている。そんな哀れ な人種が木管楽器奏者である。 ロゾーは前述の通り葦の一種だが生育条件が限られていて、良質とされるものは南 フランスの限られた地域にしか育たない。この辺からすでにリードのムツカシサが始 まっているのだが、ほぼワイン用ブドウの生育条件に似ていて、「ワインのうまい年 のケーン(ロゾーを割ったリード材)は良い!」といった迷信めいたものまである。 しかもロゾーは多年草ながらリードに適する年齢(樹齢か)は限られていて、(やっ ぱりムツカシイ)若すぎても古すぎても良くない。ゆえに大きな楽器の大きく幅の広 いリードは、ロゾーが大きくなるまで育ててから切るのではなく、限られた年数の中 でたまたま太くなったものだけが使えることになり、当然数も少なく、値も高い。大 変かわいそうである。バリトン・サクソフォーンやらコントラバス・クラリネットじ ゃなくて本当によかった。 いかにも「ムツカシイ」ロゾーだが舞台裏はというと、まずリードメーカーの直営 農場(工場ではない)は通常の農家の畑の一角にあり、その農家(メーカー以外の) の育てたロゾーは家具の材料となるらしい。(本当か?)我々は一歩間違えれば椅子 の背やらついたてやらをくわえていることになる。そしてやれA社のロゾーが良いと かB社のケーンは19XX年のものが最高とかC社はコシがあるとかD社のロゾーを10年 寝かせたものを俺は持っている(ワインじゃないんだから)など木管奏者特有のくだ らない議論になることがあるが、なんのことはないA社もB社もCもDも畑はとなり 合わせだったりするし、同じ時期に同じように切っているのだからハッキリ言ってど このものでも同じだ!という意見もある。(まあしかしその後の乾燥手順、切削工程 により各メーカーのカラーが出てくるのだが、それに至る前の段階では大差ないとい ったところか) なんだかここまで書いてきて自分でやんなってきちゃった。なんしてこげんたより なかもんに一喜一憂せにゃならんとか! でもまあ落ち着いて考えてみるとオーケス トラの楽器はすべて「変なもの」や「面倒を伴う」ものである。 変なもの
面倒
たいていのメンバーは「こんな楽器と知っていたら選ぶんじゃなかった」と思って いる筈である。が! 同時に「自分の楽器が最高である」とも思っている。(と思 う。)飲む打つ・買うにいりびたる暴力夫に愛想をつかし、相談所に「別れたい」と 訴えに来たにもかかわらず、相談員が「そんな奴とはキッパリと別れなさい」と言う と、「でも本当はいい人なんです」と言ってしまうケナゲな妻。といった趣である。 Cl. Shin Sato |