電子式ミュート
は金管奏者の救世主となるか?

 金管楽器というのはとても個人練習がしにくい楽器である。学生時代、サークル活 動のために練習場所が常に確保されていた時ならいざ知らず、社会人になってしまえ ば週一度の所属オーケストラ或いは吹奏楽団での練習が唯一の練習日となる人が殆ど ではないだろうか。

 金管楽器を自宅の部屋で吹くと、その音量と風の音が数10%混じった聞き苦しい音 色とによって、一気に練習意欲が消え失せてしまう。家族や近所からも騒音公害さな がら非難の対象になる。

 プラクティスミュートという奥の手もあるが、意外に音は小さくならず、音程も大 きく変わる。こんな条件の下で本当に練習になるのか疑問に思いながらも他に術がな く、これに頼らざるを得ないのが現状だ。

 住環境と経済力が許せば防音室という手もあるだろうが、常に転勤の危機にさらさ れているサラリーマンにとってはこれがまた儘ならない。地方の田舎町へ行けば思う 存分吹く場所はあるのであろうが残念ながら吹奏楽団やオーケストラといった文化団 体が多く存在するのは、練習環境に恵まれない都市部なのである。

 こういう要求が多いからであろうか最近 "電子式ミュート" なるものまで登場した。 ミュートにマイクを内蔵し、電気的に音を増幅、デジタル処理してヘッドフォンでモ ニターするというものだそうだ。音色も音程もミュートが無い場合の本来のそれに近 く、音量もプラクティスミュート以上に小さいという。世の中にはいろいろうまい事 を考える人がいるものである。余りにも日本の現状を反映した日本的な製品で少し寂 しい気もするが、練習不足で現状維持が精一杯の我々ロートルトランペット吹きには まさに現状打開の解のひとつといえる。ちなみにトロンボーン用までは作ることがで きる様であるが、ホルンはミュート挿入による音程の変化が大きく補正が難しい事、 チューバ用は重くなりすぎてダメとの事で、当面恩恵にあずかれるのは我々トランペ ット族のみのようだ。中低音の金管楽器の皆様、悪しからず!(*)

 とは言え、これも所詮技術的な練習のみをサポートするものであって、金管楽器本 来の魅力である「音色」を培うには、最低音から最高音までの全ての音をppからffま での全ての音量で吹いて、響きを聞きながら吹き方を調整していく練習が必要である 様に思う。その為にはやはりホールやスタジオなどffの練習を許容できる施設に頼る 事になる。文化都市横浜に利用しやすいホールやスタジオがもっと増えることを願う。

Y.Saruwatari


区民響機関紙「ポコ・ア・ポコ」第11号(1995年11月19日発行)より収録

(*)1996年5月作成のYAMAHAのカタログによると、トロンボーン用とホルン用のシステムも販売されているようです。


Last update:Oct.14 1997
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