第35回定期演奏会曲目解説
本文へジャンプ 2011年6月12日 

喜歌劇「こうもり」序曲 [J.Strauss II, 1825-1899]

ヨハン・シュトラウス2世といえば「ワルツ王」と評されるほどの膨大なワルツを残していますが、ワルツ以外の代表作と言える喜歌劇「こうもり」は1873年から翌年にかけて作曲され、序曲そのものは1874年に作曲されました。全3幕からなる劇中に登場する数々のメロディーをつなぎ合わせた楽しい曲となっています。

歌劇の内容は、舞踏会を舞台に、昔の恋人から浮気を迫られてその気がないでもない妻と、仮面をつけたその妻を自分の妻と気づかずに口説き落とそうとする夫とが繰り広げるドタバタ劇です。終盤で互いの浮気がばれてしまうものの、騒動は実は夫の友人の企みによるものだったと分かり、一件落着というストーリーです。

曲は冒頭からヴァイオリンで演奏される大変有名な「俺がその裏切られた男さ」の主題から始まり、目まぐるしく変化する曲やテンポで華やかさが次第に増していきます。中間部の木管とチェロで演奏される「独りぼっちでいなければ」の主題で別離を嘆くふりをした直後に、弦楽器で「ふふふ、胸がわくわくする」の主題で心の内の喜びを表現する遊び心などは、まさにシュトラウスの手腕が存分に発揮されていると言えるでしょう。
(Vc H.H.)

交響曲第2番ニ長調 作品36 [L.van Beethoven,1770-1827]

ベートーヴェン31才、1802年の作曲です。その2年前に最初の交響曲(ハ長調、Op21)を発表し成功をおさめましたが、その前後から耳に難聴の兆しを感じ始めました。音楽家にとって何よりも大事な耳を失い始めているという絶望感に襲われ、いわゆる「ハイリゲンシュタットの遺書」を書きました。しかし結局はベートーヴェンは再起し、芸術のために立ち上がりました。作曲に精を出す不屈の精神から完成したのがこの第2交響曲です。ニ長調という明るい調性で、危機を乗り越えた希望の気持ちが表れています。

後の第3番[エロイカ]が余りに有名となったために、この第2番が演奏される機会は少ないのですが、ハイドン、モーツアルトから脱却し彼独自の作風の進展も見られます。例えば第3楽章はメヌエットではなくスケルツオになっていることも特徴です。交響曲にスケルツオを取入れたのはベートーヴェンです。また楽器用法でも弦楽器でチェロとコントラバスを分離する(第2楽章)とか、木管特にクラリネットの活躍も目立つところです。

この交響曲全体に流れる温かい血と希望の気持ちが表れているのを感じ取って頂ければ幸いです。
(Vc.T.H.)

交響曲第2番ロ短調 [A. P. Borodin, 1833-1887]

ロシア五人組の一人であるボロディンは、1833年ペテルブルグに軍人の子として生まれた。フルートやピアノを習い、チェロを独習。その後薬学系の大学に進み、化学者として活躍することになる。

多忙な生活の中でも音楽への熱意は冷めず、数々の名曲を後世に残した。中でも「だったん人の踊り(歌劇“イーゴリ公”)」は有名だが、交響曲も3曲残した(3曲目は未完成)。この第2番の構想を練っているときも、妻の看護や自身が医科大学の教授に就任したことなどにより、作曲の時間を捻出するのもままならない状況であったが、1876年末に完成。実に前回区民響が取り上げたチャイ4が完成した前年のことであった。

ボロディン自身は、作曲家としてアマチュアであることを自認していた。確かにオーケストレーションが貧弱な部分も見受けられ、そのことを意識して演奏する必要はある。しかしロシア民謡などの歌謡的性格が強いテーマを、天性のセンスとも云える大らかな転調や中央アジア的な情緒を付加すると共に、時にはジャズやブルースのような趣を感じさせる部分があり、19世紀後半にこの様な音楽が存在していたことに、正直驚きを感じる。

第1楽章:冒頭の弦のユニゾンが威圧的。古いロシアの王侯の集会を描いたとも伝えられる。

第2楽章:スケルツォ。通常は3拍子を1拍とするが、この曲は4拍子を1拍とする。中間部の「けだるさ」がブルース調。

第3楽章:ハープの和音にのって奏でられるクラリネットに続き、ホルンがスラブの吟遊詩人の歌を緩やかに吟じる。

第4楽章:前楽章から切れ目なく突入するダンス。ロシアの勇者たちの饗宴と群集の熱狂を描いたとも伝えられる。
(Tp.:T.K)