第35回定期演奏会曲目解説
本文へジャンプ 2011年2月20日 

古風なメヌエット [J-F. Ravel, 1875-1937]

モーリス・ラヴェル作曲といえば、管弦楽曲の「ボレロ」が有名ですが、実は彼が残した多くの管弦楽曲は、ピアノ独奏曲からの編曲で「古風なメヌエット」もそのうちのひとつです。

「メヌエット」というと、3拍子で明るく優雅な曲のイメージがあるかもしれませんが、実際は冒頭から「Maestoso」(荘厳に)との指示のもと、高音楽器による強烈な不協和音とアクセントをもって始まり、3拍子でありながらも、それを認識できるのは3小節目あたりからだったりします。(そう思うのは私だけ…?)

中間部は雰囲気ががらりと変わり、主に木管楽器による感傷的で美しいメロディーが奏でられます。また、原曲のピアノ版にはない金管楽器によるラッパ信号のような響きが挿入されます。最後は再び冒頭の旋律が現れ、華々しく終わります。

ピアノ版は繊細で優雅ですが、管弦楽版はピッコロ、イングリッシュホルン、バスクラリネット、コントラファゴット、チューバ、ハープなどの楽器も加わり大編成。さまざまな楽器が独創的に現れますので、曲の色彩感もお楽しみ下さい。
(Ob E.M.)

スペイン交響曲 作品21 [V. A. E. Lalo, 1823-1892]

エドゥアール・ラロは19世紀に生まれたフランス人の作曲家です。16世紀にスペインからフランスに渡った家族の血筋が、スペイン風のシンフォニー曲にも大きく影響しています。中でも特にこのスペイン交響曲はスペイン的な特色が満載です。ヴァイオリン協奏曲にもかかわらず、独奏ヴァイオリンとオーケストラが絶妙なテンポで絡み合うシンフォニーとなっています。

当初、この新しいドラマティックなリズムが理解されませんでしたが、名ヴァイオリニスト サラサーテに献呈され、初演は大成功を収めています。

  • 第1楽章はダイナミックで原色。とてもドラマティックなヴァイオリンの一滴から始まります。
  • エキゾティックな中にもテンポを落とした第2楽章。中間部からの独奏がメランコリックです。
  • 続いて劇的なオーケストラの序奏から、濃密なスペイン情緒あふれるヴァイオリンの独奏の第3楽章
  • スローでセンティメンタルです。そしてとても美しい主題を歌う第4楽章
  • 第5楽章はフィナーレにふさわしい絢爛たるヴァイオリンの妙技。木管が導く鐘の音。圧倒的な華麗さで幕が降ります。

眼を閉じて西洋の世界に身を浸し、フラメンコを踊る男女の情景をお楽しみください。
(Vn S.H.M.)

交響曲第4番ヘ短調 作品36 [P. I. Tchaikovsky, 1840-1893]

チャイコフスキー37才、1877年の作曲です。今では世界的に有名なチャイコフスキーですが、今日人気の高い曲で当時に発表されていたのはピアノ協奏曲第1番、バレエ『白鳥の湖』が挙げられる位です。ロシア内でも名声は確立されておらず、モスクワ音楽院での教職や新聞への音楽評論の寄稿で生計を立て、創作に専念できる生活ではありませんでした。

作曲の過程ではわずか2ヶ月程で破局に至る結婚を経験し、創作の危機に陥ることがありました。金銭上の支援者であり芸術上の理解者ともなるフォン・メック夫人との交流が始まったのもこの頃です。一方、時代は露土戦争(1877-78)がロシア社会を重苦しい不安で覆っていました。

こうした背景で作曲者には「運命」が強く意識され、曲に表現されたと言われています。例えば暗い1楽章、明るい4楽章ですが、楽章の最後の音は、両楽章とも奏者全員が実音F(ファ)の音の強奏で終わります。これは明るいと思えば明るく、暗いと思えば暗く感じられる響きです。このようなところにも「人生は幸福のはかない夢や幻想と、重苦しい現実とが果てしなく入れ替わる」と作曲者が手紙で自作を解説した思いが示唆されているようです。

こうして作曲者の内面、人生観、運命観が存分に表現されて聴く人々の共感を呼び、今日名曲として残ることになったのかもしれません。そして、「運命」は第5番、第6番の交響曲でも追求され、これらの曲は国や時代を超えて人々に愛され続けることでしょう。

演奏は、とにかく難しいです。弦楽器と木管は細かい音符とシャープ/フラットが多く、運指を間違わないようにするだけでも一苦労です。金管と打楽器は派手な場面が多く体力勝負です。区民響17年振りの演奏です。円熟した響きを若き河上先生の情熱に応えて表現できるか、ご注目ください。
(Hn R.S.)