第35回定期演奏会曲目解説
本文へジャンプ 2010年2月6日 

歌劇「どろぼうかささぎ」序曲 [G. A. Rossini, 1792-1868]

『どろぼう』とは、他人の物を盗むこと、また、その人のこと。 『かささぎ』とは、スズメ目カラス科であり体長は45センチ程度、カシャカシャやクシュクシュと早口で大きな声で鳴く鳥である。(今流行りのWikipediaより)

さて、『どろぼうかささぎ』とはロッシーニが25歳の時、1817年にミラノ・スカラ座向けに作曲したオペラです。

ストーリーはというと、ある村のお屋敷に奉公する女中(ヒロイン)が、ご主人の銀食器を盗んだ犯人として、裁判にかけられ死刑を宣告されます。しかし、その犯人は屋敷のまわりに住んでいるかささぎということが分かりました。疑いの晴れたヒロインはめでたくご主人の息子と結ばれてハッピーエンド、という救出劇です。

比較的単純な内容であるせいか、現在オペラで演じられることは少ない作品のようですが、この序曲はとても有名です。中間部分のメロディーは、最近CM等で耳にする機会も多いですね。まるでかささぎの鳴き声のような可愛らしい笛の音色(特にピッコロの音色)にも注目です★☆★☆

区民響が、本日の会場であるみなとみらいホールで初めて行った定期演奏会の幕開けの曲も、この『どろぼうかささぎ』でした。何かの合図のようなスネアのロールで始まるこの曲は、今年一年のスタートにも演奏会の幕開けにもピッタリの一曲ですね。

(Fl S.H.)

交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 作品28 [R. G. Strauss, 1864-1949]

リヒャルト=シュトラウス作曲「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」は1895年ケルンにて初演。この交響詩はティルの誕生から亡くなるまでをいたずら好きの人生を中心に描かれています。

ティルとは実在の人物らしいのですが、頭が良すぎて彼の高度なジョークは全て空回り。牛を追いかけ回したり僧侶や騎士に化けては女の子にちょっかいを出して“籠をもらって”ばかり。(ドイツ語で籠をもらうは振られるという意味があります。女の子に恋をするところはとてもきれいなメロディーで出てきますよ。)

ちっとも反省しない上に報復しようと画策、「もっとすごい意地悪をしてやる!」

警察につかまり裁判にかけられてもまだ知らんぷりできずに騒ぎ通し。ついに絞首刑になってしまう。死んでもまだみんなをからかい続ける男、ティル・オイレンシュピーゲル。

そしてエピローグ、“Es war einmal(エス バー アインマル) 昔々あるところに…”

1901年、作曲家ドビュッシーがパリでベルリン・フィルの演奏を聴いたときにこんなコメントを出しました。

「この曲は気の狂った新しい音楽だ」「クラリネットは落雷に当たったように落下するし、トランペットは鼻づまり。 ホルンはくしゃみをしそうで、ティンパニがクラウンを助長して笑い転げそう。 奏者たちがまだきちんと座って弾いているのに驚かされる。」

それくらい大騒ぎなティルのいたずら。皆さんも芝居を思い描きながらオーケストラの演奏をお楽しみください。
(Vn S.M.)

交響曲第1番ハ短調 作品68 [J. Brahms, 1833-1897]

ブラームスは非常に内省的な人物で、19歳までの作品は全て自ら破棄してしまった程でした。そんな青年ブラームスの才能を最初に認め世に広めたのは作曲家のシューマンです。

シューマンの“マンフレッド序曲”を聴いた22歳のブラームスは、自分も交響曲を書こうと決心します。しかし交響曲を書くなら尊敬していたベートーベンを超えるものにしなければと慎重に推敲を重ね、第一交響曲、通称ブラ1を完成させたのはブラームス43才の時、着手してから21年後のことでした。

この曲はベートーベンの第五交響曲“運命”と同じハ短調で始まりハ長調で終る“暗から明へ”の構成をとっていること、第4楽章の第一主題が同じベートーベンの第九交響曲の“歓びの歌”を想起させることから、“ベートーベンの第10交響曲”とも呼ばれており、楽聖ベートーベンなしでは誕生しなかった曲と言えましょう。

早逝したシューマン亡き後、ブラームスは終生に渡り夫人クララとその家族に深い愛情を注いでいます。ブラームスが慕っていたクララ・シューマンは14歳年上で、作曲の才もある卓越したピアニストでした。第4楽章序奏第2部で朗々と演奏されるホルンとフルートのソロは、ブラームス自身がクララへの手紙の中で「高い山から、深い谷から、君に何千回も挨拶しよう」という歌詞をつけて贈っています。

ブラームスの曲は、色彩に例えれば“渋い、深みのある茶系”の曲が多いですが、青春期からの熱い思いが詰まったこのブラ1は、同じ茶系でも鮮やかな夕日に輝く紅葉色の様に思われます。

第1楽章 ウン・ポコ・ソステヌートーアレグロ ハ短調、序奏付きのソナタ形式、6/8拍子(9/8拍子)
ティンパニと低音楽器のドの強い連打を用いた悲劇的な印象の序奏で始まる。アレグロの主部に入り、闘争的なメロディーと穏やかなメロディーが交互に現れ、最後は憧憬をこめたハ長調で静かに終結する。

第2楽章 アンダンテ・ソステヌート ホ長調、複合三部形式、3/4拍子
緩徐楽章。ヴァイオリンとファゴットの落ち着いた主題で始まり、オーボエが愛らしいが寂しげなメロディーで絡みながら曲は展開し、愛らしいメロディーがバイオリン、ホルンの三重奏で再現され、最後は消え入るように楽章を閉じる。ホ長調は本来明朗で輝かしい調性であるが、いかにもブラームスらしい渋くわびしい、しかし格調高い色調に支配された楽章である。

第3楽章 ウン・ポコ・アレレット・エ・グラチオーソ 変イ長調、複合三部形式、2/4拍子
間奏曲ふうの短い楽章。「グラツィオーソ(優雅に)」という楽想指示のとおり、クラリネットの高雅なメロディーで始まり、途中少し激しくなるがまたすぐに納まり、最初のメロディが再現されて4楽章へ続く。

第4楽章 アダージョーピゥ・アンダンテーアレグロ・間・ノン・トロッポ、マ・コン・ブリオ ハ短調→ハ長調、序奏付きのソナタ形式(ただし展開部を欠く)4/4拍子
冒頭はハ短調で重々しい感じでスタートするが、序奏の第2部に入るとアルペンホルン風のメロディーが現れ、一度管弦楽全体が休止し、弦楽合奏が感動的な第1主題を演奏し始める。この主題が形を変えながら展開の中で現れ、アルペンホルンの旋律に回帰したりしながら最後には金管楽器のコラールが現れる力強いコーダへと進み、ハ長調で華やかに曲を閉じる。
(Ob Y.S.)