第35回定期演奏会曲目解説
本文へジャンプ 2009年6月13日 

歌劇『リエンツィ』序曲  [W. R. Wagner, 1813-1883]

この作品の元来のタイトルは、「リエンツィ、最後の護民官」といいます。主人公のリエンツィとは、14世紀のローマに実在したコーラ・ディ・リエンツォ(リエンツィ)という政治家のことで、愛国者であった彼は常に民衆のために貴族たちと闘いましたが、非業の最期を遂げたといわれています。作曲者自身が台本を手掛けたこのオペラのテーマとなっているのは反権力的な思想で、まだ二十代であった熱血漢のワーグナーらしい作品となっています。

なお、このオペラはワーグナーの出世作でもあります。後に「歌劇王」と称えられる彼は、この「リエンツィ」初演の成功をきっかけに、本格的にオペラ作曲家としての道を歩み始めるのです。

序曲はまずリエンツィが民衆に革命を呼びかけるトランペットのファンファーレから始まります。次にリエンツィの祈りの歌、「全能の天よ、護りたまえ」が弦で雄大に奏され、ついで管に受け渡され、次第に高まっていきます。後半は快活な行進曲風の華やかなものになり、金管楽器の派手な響きで盛り上げ、堂々と結びます。

全5幕、カット無しで上演されると6時間を超える大作(!)ですが、本日はこれから始まる長大なオペラの魅力がぎっしりと凝縮されている序曲をお楽しみ下さい。

(Vn F.N)

「真夏の夜の夢」 作品21 / 作品61  [F. Mendelssohn, 1809-1847]

イギリスの文豪シェイクスピアによる喜劇、「真夏の夜の夢」。物語の筋は、「アテネ郊外の森で4組の結婚愛が成立する話」なのですが、三角関係以上に複雑で、さらにおっちょこちょいの妖精の魔法によって、その愛は誤解と大混乱に・・・。今ドキの役者を配して、脚色を加えれば、もう次の月9ドラマにもなる(???)お話です。そして最後は、夏の一夜が明けるとともに、円満な結末を迎えます。

17歳の時にこの戯曲を読み、幻想的な世界に魅了されたメンデルスゾーンは、早速序曲を作曲しましたが、それから17年もたった後に劇中音楽を作曲するよう国王に命じられ他の12曲が作曲されました。

本日はその中から4曲を抜粋して演奏いたします。

序曲
木管楽器の柔らかな和音がこれから始まる夢の世界へと誘います。妖精の戯れ、宮廷を表す壮麗でダイナミックなメロディ、恋人たちの愛の調べ、結婚式の余興の芝居の稽古をする村人たちの踊りなどが現れ、最後は再び冒頭の和音で静かに消えてゆきます。

スケルツォ
軽やかに飛び交う妖精たち、森の木々のざわめきを思わせる幻想的な音楽です。 終盤の超絶なフルートソロにもご期待ください。

夜想曲
2組の恋人たちが魔法の森の中で別れ別れに眠りにつく場面での愛の歌。ホルンソロによるロマンチックな旋律が聴きどころです。

結婚行進曲
結婚式といえばこの音楽というほど有名です。大抵「サビ」の部分しか耳にすることがないかと思いますが、優美な中間部のメロディもお楽しみ下さい。

ちなみにメンデルスゾーンは1809年ドイツ生まれ。今年は生誕200年です。

(Ob. E.S.)

交響曲第3番「英雄」 作品55  [L. v. Beethoven, 1770-1827]

この交響曲の調性は変ホ長調(♭3つ)で、この交響曲の副題が示す通り「英雄(ヒーロー)」の調性と言えます。古くはバッハの無伴奏チェロ組曲第4番、前回我々が取上げたモーツァルトの交響曲第39番、同じベートーヴェンではピアノ協奏曲第5番「皇帝」、極めつけはR.シュトラウスの「英雄の生涯」…これは?!という変ホ長調の名曲はその曲想やイメージからして「英雄」的なのです。もっともポピュラー音楽の分野では変ホ長調も印象が変わります。ドリフの「いい湯だな」、ユーミンの「ルージュの伝言」なども変ホ長調です(笑)。

ベートーヴェン34歳の時に完成したこの交響曲は、従来までの彼の作風とは一変させた文字通り英雄的・革新的な作品です。耳の病を苦に自殺まで考えた挙句、ベートーヴェン流の「苦悩を通して歓喜に至る」のポリシーが交響曲冒頭の全楽器で奏される2度の強打音で示されています。自由を旗印に当時のヨーロッパ各国を次々に制覇したナポレオンを想定しながら作曲をしたとの逸話もありますが、ナポレオンがその後皇帝に即位するなり総譜の表紙を破り捨てたという話も含めて、最近の研究ではナポレオンに関することそのものが事実かどうか曖昧になっているようです。

第1楽章:アレグロコンブリオ
提示部より展開部のほうが長く、かつコーダの部分が第2の展開部と言えるほどの充実ぶり。彼の従来の作品と比較しても格段に大規模です。

第2楽章:アダージョアッサイ
葬送行進曲 中間のフーガ部分はこの交響曲の奥深さを示しています。

第3楽章:アレグロヴィヴァーチェ
トリオ(中間部)にホルン三重奏が見られます。曲の終結地近くに3/4から4/4に変化する部分が印象的です。

第4楽章:アレグロモルト
雄大な変奏曲です。この主題は彼のピアノのための変奏曲等にも用いられていますが、この交響曲にも取上げられ見事なオーケストレーションにより感動的な楽章に仕上げられています。

尚、この作品の初演は1805年4月、ウィーンのアンデアウィーン劇場で、一方我国の初演は1909年(明治42年)11月、上野の奏楽堂にてA.ユンケル指揮、東京音楽学校管弦楽団によるもので、今からちょうど100年前のことでした。

(Vc. T.T.)