第35回定期演奏会曲目解説
本文へジャンプ 2005年3月21日 

「白鳥の湖」(Peter tchaikovsky: 1840-1893)

チャイコフスキー最初のバレエ音楽《白鳥の湖》は彼35歳の作品です。このジャンルにおいて最も美しく、最も頻繁に上演される作品の一つであり、同時に、古典バレエの模範、多分二度と到達されることのない頂点と言ってよいほどのものです。後年の《眠りの森の美女》《くるみ割り人形》も第1作を凌ぐことはできませんでした。しかしこのような傑作が、作曲者の生存中には一度も成功することなく、むしろ当時は「お荷物」として扱われたというのですから、今日の我々には信じられないことです。

この《白鳥の湖》の物語には、悲劇で終わる版(オリジナル版)と、後年作られたハッピーエンド版があるようです。

邪悪な魔法使いによって姿を変えられてしまい、王子の真実の愛によってのみ救われる不幸な王女オデットが、水底の王国で妖精たちによって、自らの命を絶った王子ジークフリートと共に永遠の幸せと喜びの聖堂へ運ばれていくというハッピーエンド。これがオリジナル版では、愛する王子との別れの後でオデットが湖に身を投げて終わる、というのですから随分話が違ってしまうのです。

本日演奏する組曲はバレエ全30曲より8曲を抜粋したものです。

  • 第1曲:序奏
    後に魔法にかけられた白鳥たちを特徴付けることとなるメランコリックな主題が印象的です。そして幕が開きます。
  • 第2曲:第一幕 第1曲 情景
    王子ジークフリートの成人を祝う宴の場面。祝典的で快活な曲です。
  • 第3曲:第一幕 第2曲 ワルツ
    宴での村娘たちによる群舞。有名な旋律が次々と流れます。
  • 第4曲:第二幕 第10曲 情景
    たいていの方はこの主題をお聴きになって《白鳥の湖》と思われるのでは。第二幕は湖畔の場面。オデットや白鳥たちと王子が踊ります。
  • 第5、6曲:第二幕 第13曲 白鳥たちの踊り より
    「四羽の白鳥たちの踊り」そして、「パ・ダクシオン」ではハープの長い序奏に続いて、バイオリンとチェロのソロによる愛の二重唱!
  • 第7曲:第三幕 第20曲 ハンガリーの踊り
    舞踏会の場面。各国の踊りが披露されるなかのチャールダッシュ
  • 第8、9曲:第四幕 第28曲 情景 第29曲 フィナーレの情景
    湖畔の場面。波が次々と王子とオデットに打ち寄せられる。二人の愛が悪魔に打ち勝ったことを示す白鳥の主題が力強く鳴り響きます。
(Vc.T.T)

「ペレアスとメリザンド」(Gabriel Faure: 1845-1924)

フォーレはドビュッシー、ラベルとともに近代フランス音楽の黄金時代を築き上げた人物です。今回の演奏会プログラムで、この「ペレアスとメリザンド」はロシア人作曲家による他の二つの組曲とは異なる叙情性、はかなさがあり、いかにもフランス風といった印象を受けることでしょう。

メーテルリンクの戯曲「ぺレアスとメリザンド」は「王子ゴローは森の中で神秘的なメリザンドに出会い結婚するが、父親の違う弟ペレアスがメリザンドと愛し合うようになり、二人の仲を知ったゴローはメリザンドと会っていたペレアスを殺してしまう。メリザンドはその後、ゴローを許して死んでいく。」という宿命的な愛と悲劇の物語です。

フォーレは劇音楽として作曲したものから以下の4曲を組曲として再構成しました。

  • 1.前奏曲
    メリザンドの主題と呼ばれる旋律を含む憂いをおびた音楽。最後のホルンのこだまはゴローの登場を表します。
  • 2.糸を紡ぐ女
    城の暗い部屋で糸車をまわすメリザンド。弦楽器の細かな音符は紡ぎ車の回るさまを表現し、オーボエが美しい主題を奏でます。
  • 3.シシリエンヌ
    フォーレの曲の中で最も有名といえるでしょう。ハープの伴奏にのせてフルートが歌う優雅なメロディ。
  • 4.メリザンドの死
    冒頭の重々しい木管のコラール、弔いのラッパの音、そして消え入るように終わっていく・・・メリザンドの悲劇を哀れむ切ない曲です。
(Fg:Y.M)

「火の鳥」(1919年版)(Igor Stravinsky: 1882-1971)

ストラヴィンスキーは、帝政ロシアのペテルスブルグに生まれ、アメリカで亡くなった20世紀最大の作曲家の一人です。彼は20世紀前半、パリで大成功をおさめたディアギレフのロシア・バレエ団のために書いた3つのバレエ曲「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」で、一躍ヨーロッパ音楽界の寵児になります。

「火の鳥」は1909年から10年にかけ作曲され、パリのオペラ座で初演されました。当時のロシア・バレエ団はオリジナル曲がありませんでした。そこで団長ディアギレフは、初めリャードフという作曲家に委嘱しますが、なかなか作品が出来上がりません。業を煮やした彼は、それまでパリではまったく無名だった28歳の青年ストラヴィンスキーに白羽の矢をたてます。ロシア人による異国風の音楽がパリの聴衆を魅了しました。

バレエ全曲は45分ほどかかりますが、現在では作曲者自身が1919年に演奏会用に再構成した、今回の組曲がよく演奏されます。

お話はロシアの古い民話です。魔王カスチェイの囚われの身である王女に恋した王子イワンは、彼女を助け出そうとします。でも、それも魔王に阻まれ、なかなかままなりません。そこに伝説の火の鳥が現われて、魔王を打ち倒す、というもの。

曲は「イントロダクション」に始まり、「火の鳥とその踊り」「火の鳥のバリエーション」と引き継がれます。その後、「王女たちのロンド」で静かになったあと、突然「カスチェイ王の魔の踊り」が荒々しく始まります。そして「子守唄」で落ち着いた中、美しく荘厳な「フィナーレ」で幕を閉じるのです。

物語の風景を思い浮かべながら聴いてみて下さい。伝説の火の鳥がみなさんの心の中に大きく羽ばたいてくれるかもしれませんね。
(Tp:T.K)