第35回定期演奏会曲目解説
本文へジャンプ 2005年6月20日 

フンパーディンク/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」序曲

この曲は4本のホルンの美しい旋律で始まり、弦楽器は7小節半後に出る。私が小学校へ上がる前、父は日本語版の「ヘンゼルとグレーテル」のレコードをよくかけてくれた。それから20数余年、「ねむたくなるとー、じゅうよにんのてんしたちー(ドミミソラソソー、ドソソミミシドレー)」と歌いながら聞きほれているうちに、弦楽器の私が入り損なったことは練習中1度や2度ではない。ホルンがうますぎるのがいけないことにしておこう。

さて、ヨーロッパで、クリスマスに上演されるこの歌劇は、耳慣れない作曲家フンパーディンクの名を後世に残すことになった代表作だ。

グリムの原作から残忍な部分が除かれ、非常に宗教色の濃い台本に仕上がっているのは、彼の妹であるヴェッテ夫人が、自分の子どもたちの為に家庭劇を作ろうとして出来た、兄妹合作歌劇だからだ。

序曲は、夕べの祈りの旋律(A)がホルンに出る。その後、突然トランペットが魔法を解く呪文の旋律を吹く。やがて、ヘンゼルが「夢で天使が言うとおり」と神に感謝する美しいフレーズ(B)をバイオリンが奏でると、木管楽器が、呪いが解けた子供たちの喜びを軽やかに歌う(C)。

そしてABC3つの旋律が重なり合い、緊迫感が増すとクライマックスとなる。喜ばしげなテンポがだんだんと緩み、冒頭のホルンの旋律が「最も苦しいときに神は救い給う」と歌い、消える。

目を輝かせながら?聞いていた小さい私は、やがて大学生となりドイツ語版のCDを買って聞いた。結婚をした今、子供が生まれたら、父がそうしてくれたようにヘングレを聞かせてやろうと思っている。
Vc. A.I

オネゲル/交響詩「夏の牧歌」

これまで私たちが演奏した曲目は、モーツァルト、ベートーベン、シューベルト、ブラームス、チャイコフスキー、ドボルザーク等々、古典派、ロマン派、国民楽派の曲が殆どで、大勢の人々に親しまれている代表的な名曲で占められています。このオネゲルの交響詩「夏の牧歌」は今までの路線からは少し外れた異色のプログラムと言えます。

オネゲル(1892〜1955)はスイス人を両親に持つフランスの作曲家。第1次世界大戦後にフランス音楽の新しい方向を目指して集まった「フランス6人組」の一人です

彼らはワーグナー派のロマン主義とドビュッシーらの印象主義に反対し、若々しいモダニズムを確立することを目的に、エリク・サティーを精神的父とあがめ、作品発表会を行なっていたそうで、コクトー、ピカソなどの芸術家とも交流があったそうです。

オネゲルの作品で最も有名なものに交響的運動「パシフィック231」という蒸気機関車の音を模写した曲があります。CDも多く発売されていますので聴かれた方が多いと思います。この曲を作ったことから想像できるように、彼は鉄道マニアであったと言われています。

「夏の牧歌」はスイスの夏の風景を描写した曲で、木陰でウトウトと昼寝をする様子を想像してください。聴いているうちにだんだん眠くなってくれば演奏は成功です。

勿論演奏者の我々はとても眠くなる余裕はありませんが、何人の聴衆が眠って下さるか楽しみです。

Vla. T.S

マーラー/交響曲第1番「巨人」

この曲はマーラーが24才の時から書きはじめて29才の時初演されました。新進気鋭の指揮者として活動の場が与えられはじめていた頃の非常にロマンチックな標題(ジャンパウルの同名の小説から付けられたといわれています)を持った交響曲−初演当時は交響詩でした−の筈が、一筋縄では行かないのです。

後年、マーラーはウィーンでフロイト(!)に診察してもらったおり、父母の喧嘩に耐えかねて町に出るとカーニバルの楽隊が陽気な音楽を演奏していた光景を少年時代に強烈な印象として語っています。勿論、これだけで彼の音楽が説明されるわけでは有りませんが、この曲にも随所にそれらしい部分が出てきます。同じフレーズの再現が実は再現というよりはパロディーになっていたり、ロマンチックなメロディーの傍らに滑稽な田舎の楽隊の響きがあったり、厳粛な葬送行進曲のメロディーが実は陽気な民謡のものであったりと実に複雑なアイロニーに富んでいます。

そんなビューキじみた部分もある「巨人」は(マーラーの他の交響曲も同様ですが)、演奏者から言わせてもらえば、別の意味でやっぱりビョーキです。

「おっさん、マジー?」「こんなもん、できんモンネー」と言いながら20世紀末の極東のアマチュアオケがヘトヘトになって19世紀末のビューキのお兄さんの曲を演奏する、というのもまた世紀末的光景では有りませんか。

いかん。曲目紹介で曲をけなしてはいかん。

皆さん、こう書いて有るからといって、「ビョーキの曲」なんて色眼鏡で見てはいけませんよ。この曲にいじめられすぎているもんで、つい・・・くくくくく・・・

Hr. N.S