ごてんのさくら
ごてんの庭の八重ざくら、
花がさかなくなりました。
ごてんのわかいとのさまは、
町へおふれを出しました。
青葉ばかりの木の下で、
剣術つかいがいいました。
「さかなきゃ切ってしまうぞ。」と。
町のおどり子はいいました。
「わたしのおどりみせたなら、
わらってすぐにさきましょう。」
手品つかいはいいました。
「ぼたん、しゃくやく、けしの花、
みんなこのえだへさかせましょ。」
そこでさくらがいいました。
「わたしの春は去にました、
みんなわすれたそのころに、
わたしの春がまた来ます。
そのときこそは、さきましょう、
わたしの花にさきましょう。」
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金子 みすゞ