●ミステック・リバー  デニス・ルヘイン 加賀山拓朗訳 早川書房
1日半で読み終えたミステリ、完膚無きまでにノックアウトされた気分です。C・イーストウットですでに映画化されるらし
い。ショーン・ディヴァイン、ジミー・マーカス、ディヴ・ボイルの3人が主人公。11歳の時、ディヴがニセ警官に連れ去
られ性的虐待を受けたことが暗示される。
その少年たちの25年後から物語は始まる。三様の生活と営みが紹介されるが、ジミーの長女が行方不明になるところから展
開が面白くなる。この本のいいところは、それぞれの人生の過去現在が随所にちりばめられ、これが、彼らの出会い触れ合
い、悲しみや怒り絶望が語り尽くされていることです。この構成が巧みで、人生の節目を鮮やかに描き出してくれる。
少年の日のトラウマが、心の底に流れている。人それぞれに心の傷を一つぐらい持っていると思うが、それを克服し、進ま
なければならない。しかし、人によってはそれが正しいとは限らない。そんな世界を描いている。家族とは何か? 妻とは
? 子供とは? を、考えさせてくれる物語。超お薦め本。

●1977 リッパー  ディヴィッド・ピース 酒井武志訳 ハヤカワミステリ文庫「1974 ジョーカー」に続く<ヨーク
シャー四部作>の第2弾です。J・エルロイに影響されたイギリスのノワールで、連続殺人鬼ヨークシャー・リッパーが犯行
を重ねる段階に入った。が、エルロイと比べると若干?が付く。また、2人の主役が、それぞれに「わたし」という一人称
で語るので、混乱が甚だしい。何度も繰り返し、確認せざるを得ないのです。それらをのぞけば口語体なので読みやすいと
思います。しかし最終章は、何をいいたかったのか。次作のための余韻であり、1977年代の世相を表現したかったのか?

●アトランティスを発見せよ[上・下] クライブ・カッスラー 中山義之訳 新潮文庫
前著の後書きに、次作はアトランティスのことが書いてあり期待していた本である。「アトランティス」なんと響きのいい
言葉だろう。古代ギリシアの哲学書プラトンが書いた叙情詩のなかに、2万年以上前に高度文明の国があり、神様の怒りに
ふれ、一晩で海底に沈んだとされる伝説の大陸。
6500万年前、ユカタン半島沖の小惑星の衝突は恐竜たちを絶滅させたが、そのさらに9000年前や紀元前7000年頃、二つ
の彗星が地球に近づき、そのうちの一つが地球の引力の影響をもろに受け、全長200万キロの塵の尾の炎となって衝突し爆
発、蒸発した。19日のしし座星雲とは比較にならないのです。その結果、地球全体がマグニチュード12で揺さぶられ、何
億トンの堆積物諸々が成層圏に噴き上げられ、また隕石となって地上に降り注いだ。海水は30〜40度に上がり、氷河など
の急激な溶解により動植物は一夜にして絶滅。また、高さ16キロにも達する波があらゆる大陸に押し寄せ、恐ろしい破壊
力で平野を舐め尽くしたのである。
さらに南極大陸などの地殻変動も起こり、地震、火山の爆発と誘発され大惨事となっていった。高度な進歩を遂げた人間社
会も、すべて破壊され文明の痕跡はきれいに払拭されてしまったが、山岳地帯に生活していた石器時代の遊牧民(文明とは
かけ離れていた人々)のわずかばかりが生き残り、2000年をかけてメソポタミアやエジプトに文明らしきものが現れてい
った。想像するだけでもワクワクするではないだろうか?
このアトランティスを第四帝国の野望に燃えるカール・ヴォルフとダーク・ピットの戦い。Uボートや南極大陸を横断する巨
大なスノークルーザー。これでもかと見せる冒険活劇は楽しい。また、カッスラーの作品が映画化されるらしいのでこちら
もうれしいのです。失敗作の「タイタニックを引き揚げろ」は面白くなかったし、カッスラー自身も不満足でそれ以来映画
化は止めている。

●黒い囚人馬車 マーク・グレアム 山本俊子訳 早川ポケミス
今年のアメリカ探偵作家クラブ賞、最優秀ペーパーバック賞他4部門受賞作品。舞台は1876年のフィラデルフィア万国博で、
ここで初めて出品されたタイプライターが小道具として使われている。主人公はフィラデルフィア署の警察官ウィルトン・
マクリアリーの活躍を描く、二転三転の上、さらなる結末は面白かった。お薦め本です。

●槍ヶ岳開山 新田次郎 文春文庫
上高地、槍ヶ岳というとウェストンと応える人が多いが、初登攀は播隆上人で文政11年(1828年)に行われている。富山
の越中八尾に生まれ、百姓一揆で、女房おはまを殺してしまったことから僧になる。
ご来迎とブロッケンシュペンストの法話。リアリティある山の描写と人間の強、欲など素晴らしいものがある。私の女房が、
今年の夏槍ヶ岳で自分の影でもある自然現象ブロッケンシュペンストの写真を撮影してきています。

●鴉よ闇へ翔べ ケン・フォレット 小学館
「針の眼」でデビューから14作目。久しぶりのフォレット節。Dデイの成否を決する破壊工作物語。ロンメル軍はフランス
の海岸線全域の防衛に当たらざるをえない状況で、迅速かつ、正確な通信網がロンメル軍の命綱であった。
また、上陸軍は通信網の破壊が成否を決する。そこで、女性だけの寄せ集め部隊6人が、フランスへパラシュートで降下、執
拗なドイツ情報将校の追求を交わし目的の電話交換所へ…。歴史的事実を元にしてフィクションに。登場人物などの細かな
描写が素晴らしい冒険小説です。お薦めです。

●女神の島の死 アンナ・ピジョンシリーズ  ネヴァダ・バー 松井みどり訳 小学館
アンナ・ピジョンシリーズとして4冊刊行されている。今回の作品は、アウトドアといってもニューヨーク、ハドソン川のエ
リス島。自由の女神の島で少女の転落死にアンナが遭遇。ネヴァダ・バーの作品は読みやすく、アウトドア・ミステリとし
て好きである。また映画を見るように読むことができる。

●煙で描いた肖像画 ビル・S・バリンジャー 創元推理文庫
ある日、偶然に見つけた思い出の写真。好奇心から彼女への足跡を探り始める。面白いがやや古い。小学館でも同じものが
訳者を変えて刊行されている。

●覗く<上・下> ディヴィッド・エリス 中津修訳 講談社文庫
スコット・トゥローやジョン・グリシャムなどの法曹界の著者にまた一人、素晴らしい著者が現れた。リーガル・スリラー
(アメリカン・ミステリー)は巧みなプロットで面白い。MWA賞受賞作。読む価値あり。

●石に刻まれた時間 ロバート・ゴダード 越前敏弥訳 創元推理文庫
ゴダードは面白い。歴史的事実や当時の時代背景などがうまく生かされ、登場人物の心の葛藤、秘密があっちへ行ったり、
こっちへ来たりとする浮遊感が楽しい。

●束縛 ロバート・B・パーカー 奥村章子訳 ハヤカワ文庫
女性探偵サニー・ランドルシリーズ。精神科医の元夫のストーカー行為に怯える女性の護衛を頼まれ、捜査を開始。そして、
自らがおとりになる決心をする。サニーは離婚するも、元夫のリッチーに対する未練を断ち切れない女で、自分との心の葛
藤、自分らしい生き方を模索している女性の心情が描かれ、自立を目指している。

●張込み 松本清張 新潮文庫
短編集で、まるで横山秀夫を読んでいるようだ。

●嘘をもうひとつだけ 東野圭吾 講談社文庫
人間の悲哀を描いた短編集。こんなものか。

●ハリウッド・ノクターン ジェイムズ・エルロイ 文春文庫
アメリカ文学の狂犬の初短編集。エルロイ好きには。

●購いの地 ガブリエル・コーエン 北沢和彦訳 新潮文庫
デビュー作でMWAにノミネートされたが受賞は逃している。ブリックリンの北西部、イースト・リヴァーの河口の波止場地
区で生きる殺人課刑事の男と取り巻く人々が織りなす物語。文学作品らしいミステリーである。

●青い虚空 ジェフリー・ディヴァー 土屋晃訳 文春文庫
シリコンヴァレーで起きた奇妙なストーカー殺人を捜査するにあたって、服役囚を一時釈放する。ハッカー対ハッカーのコ
ンピュータを駆使した知力の戦い…。面白くお薦め作品です。映画化も進行中。

●そしてぼくは家を出る テリー・ケイ 笹野洋子訳
「白いワルツの子犬」の著者が人間の愚かさを描いた人種間ルール。

●魔王のささやき ロバート・ウォーカー 瓜生知寿子訳 扶桑社ミステリー
女検死官ジェシカ・コランシリーズの6作目。グランド・キャニオン、イエローストーン国立公園が描かれている。ジェシ
カのラスベガスホテルにかかってきた電話が引き金になって事件はすすめ、次々と死体が増えていく。ネヴァダ・バー的で
もあるがジェシカの方が面白い。お薦め。

●溺れゆく者たち リチャード・メイソン 邦波かおり訳 角川文庫
45年連れ添った妻を殺した75才の老人ジェームス。遠い過去に思いを巡らせる

●破壊天使 ロバート・クレイス 村上和久 講談社文庫
ロサンゼルス市警の爆発物捜査員キャロル・スターキー二級刑事の物語。彼女の設定が面白く、爆弾魔と命がけの知恵比べ
が楽しい。イラク破壊や世界貿易センタービルの崩壊。先日見た、トミー・リーのIRA破壊が記憶に新しい。読み応えがあ
るし、映画化も進行中。

●死せるものすべてに<上・下> ジョン・コナリー 北澤和彦訳 講談社文庫
2000年度のシェイマス賞最優秀処女長編賞受賞作。トマス・ハリスを意識したハードボイルドで面白い。主人公の名前が
チャーリー・バード・パーカー、元ニューヨーク市警刑事の私立探偵である。トラヴェリング・マンに妻子を殺される冒頭
から、完全に引き込まれる。チャーリーをあざ笑うかのように次々と猟奇殺人が起こる…エンターテイメント性たっぷりの
お薦め本。

●肉体作品 近代の語りにおける欲望の対象
ピーター・ブルックス著 高田茂樹訳/新曜社
文学における肉体の歴史、小説をモチーフに肉体の語りの運命。視覚芸術としての肉体、そして精神分析論でフロイト、メ
ラニー・クライン、ジャック・ラカンなどの解説。しちめんどくさいがおもしろい。ドラクロワ、フロベール、ゴーギャン
やグリム童話などで解説している。
ナナ[Nana]フランスの作家ゾラの長編小説「ルーゴーン・マッカール双書」第九巻(1880年刊)「居酒屋」のヒロイン。
ジェルベーズの娘アンナ(愛称ナナ)が美しい肉体を売り物にして貴族、実業家、少年などを次々に破滅に追いやるが、フ
ランス戦争勃発の当日、天然痘にかかり無惨な最期を遂げる。腐敗した第二帝政下の環境を「堆肥」として成長したナナは、
セックス・シンボルで蟻、上流社会に復讐する下層階級の姿である。

●メジャーリーグ世界制覇の経済学 タック川本/講談社
沸騰する年棒。この巨額の支出の中で、どのように収入を得ているのか? また、日本市場を取り込もうとするメジャーリ
ーグの実体を明らかにする。

●渡部昇一の日本語のこころ ワック出版
和歌などの伝統的なものはすべて大和言葉だけで書かれている。つまり、訓読みの言葉で音読みはない。例えば、「松竹」
はマツタケであり、音読みはショウチクであり漢語(外来語)である。日本人は花の美などで、散りゆく美をめるが、日本
語の中の散りゆく美を見る。つまり、歌を知っていることから、散りゆく風情に感銘を受けているとする日本語の世界観を
説明している。

●久多良木健のプレステ革命 麻倉怜士/ワック出版
未来を目指す、ソニーの救世主の話。

●跳べ!エコフラッグ 環境NPOが世界を変える 岡田達雄/ワック出版
スポーツから環境を見直そうとする著者。考え方としては分かるが、どう見ても金持ちの道楽的奮闘記。

●新・平家物語(全16巻) 吉川英治/講談社
週刊朝日に7年間連載したものである。全約6400ページ。「能」の解説本を作っていることもあって、読み直した。この間
父親の事故死などのアクシデントがあり、土日、正月休みは終日読みふけったため1日1冊のペースで完読。無感量である。
平家の興亡、義仲の滅びる様、義経の逃亡、頼朝の死。後白河天皇にもてあそばれた権力への欲望と愛と憎しみ。悠久の時
の流れの中では、本のつかの間の生であり、ちっぽけな人間の時の流れであった。
祇園精舎の鐘の声  諸行無常の響きあり  沙羅双樹の花の色  人間欲張らず、身分相応の生活に喜びを見いだそう。

●鼠たちの戦争[下]ディヴィッド・L・ロビンズ 村上和久訳
ソ連とドイツ両軍のナンバー1スナイパーが前線を挟んで、生死をかけた史実に基づいて描かれている。独ソ不可侵条約を
破ってソ連領内に侵攻したドイツ軍は、破竹の進撃を続けモスクワに迫るところだったが、冬の到来と食糧補給によって防
戦一方となり、この状況を打破すべくヒトラーはコーカサス攻略を目論むが失敗に終わる。解説の中に、フォーサイスが絶
賛していると書いてあるが超面白本だ!

●びんぼう草 群ようこ
一般社会生活からはみだした人の、贅沢な悩みの毎日をつづっている。これは、地方出身者にはほとんどあり得ない(人に
もよるが)。先祖代々都会に家(土地)を持つ人の、贅沢貧乏の日暮らしを小説に書いているのです。

●玉欄 桐野夏生
群ようこの対局にある女性の、恋愛の変遷を描いている。地方出身者は、全てのことで東京出身者に負けている。と考える
女性は精一杯頑張るが…(これは、私が20歳ぐらいの時、やりたいことがあっても日常の雑務生活に追われ、東京出身者と
対等のことが出来ない。つまりスタートから差が出来てしまっていると、ジレンマを感じたことと同じです。)やはり、地
方出身者は差別され、東京戦争(恋愛戦争)に敗れ、たどり着いた場所は…。時の流れを越え、交錯する二つの恋愛。面白
かったが、最後の部分何をいいたいのか私にはよくわからない。

●悪徳の都[上]スティーヴァン・ハンター 公手成幸訳
スナイパー物の第一人者・スティーヴァン・ハンターが書くアール・スワガー、ボブ・リー・スワガーの物語です。ベビー
フェイス・ネルソン、ディリンジャー、ボニー&クライドなどを配し読者を引きつける。アール・スワガーがなぜ保安官に
なっていくかを描く。ハンターは9作品を発表しているが、どれを読んでも損はない。[下]を読んでまた書きます。

●悪徳の都(下) スティーヴン・ハンター 公手成幸訳
スナイパー・ボヴの父、アール・スワガーを描く。伊王島から生還し帰郷したアールは、賭博、売春の町、ホットスプリン
グスの浄化を依頼される。父親の死の真相から裏切りまで全て銃撃アクションで面白い。先週紹介した「鼠たちの戦争」が
「スターリングラード」というタイトルで映画ロードショーされるらしい。

●永久に去りぬ ロバート・ゴダード 伏見威蕃訳
「閉じられた環」はやや物足りなかったが、ゴダード節が戻ってきた。プロットがいくつも重なり合い、入り乱れて織りな
す物語は素晴らしい!620ページを越えるが一気に読める。

●平気でうそをつく人たち M・スコット・ペック
M氏の装幀。これは典型的な装幀でごまかされて売れた本です。人間の悪を科学的に究明した書ということだが、私にはあ
まり面白くない。

●危機にある子を見つける
これは仕事で読むが、虐待された子供たちが描く絵から分析する心理学本。面白い。

●タリバン イスラム原理主義の戦士たち アハメド・ラシッド
このところ頻繁にニュースでにぎわしているタリバンを解き明かす本。「タリブ」はイスラム学生のことで、タリバン(タ
リブの複数形)戦士のこと。アフガニスタンのカンダハルの貧しい農民(ムラー・モハメド・オマル)が作った。長年のジ
ハードから戦争孤児で、仕事や休息もなく貧困だけでイスラム教の教義だけで結ばれている。しかしタリバン流イスラム原
理主義は極端で、アフガン人とイスラム世界を過激主義で震え上がらせている。それは女子学校を閉鎖し、買い物にさえ滅
多にでることが許されずあらゆる文化(娯楽、音楽、テレビ、ほとんどのスポーツ、ゲームを禁止する。それを破ったもの
は、死であり、手足を切り取られ、また,鞭うちの刑などがあります。仏像破壊命令はアメリカとのある確執とされる。
CIAをはじめとする政治活動であり石油、イラン外交、ヘロイン(世界で30%)密輸ビジネスetcと、いろいろな問題があ
るのです。付録として、女性および文化的問題に関するタリバンの布告を読むと驚かせられる。また、コーランも教えを読
みたくなり、岩波文庫コーラン(上・中・下)をぱらっとみているところです。

●ギデオン 神の怒りラッセル・アンドルース 渋谷比佐子訳
730ページ一気読みの面白本です。
NYに住む、うだつの上がらない作家志望のもとにビッグチャンスの話が来た。超有名な編集者から手記小説を依頼されるが、
その編集者は殺されてしまう。主人公も命をねらわれるが、かつての恋人の協力を得て真相究明に乗り出す…MWA受賞のサ
スペンス、映画にも成るのだろう。

●パーソナル心理学 加藤孝義
自分らしい生き方を求めるための心理学、パーソナリティとは?

●小説家を見つけたら ジェームス・W・エリソン 石川順子訳
小説家と少年の二人の友情は「書くこと」へのこだわりから、親子のような慈愛にあふれている。また、母親の愛が素晴ら
しい。素晴らしい感動で、胸が熱くなる本です。
本ではショーン・コネリーが自転車に乗る場面などはない。映画は金曜日に予定していたが、協会の集まりで見に行けなか
ったが20日のテニスの前に見ようかなと思っています。

●内なる殺人者 ジム・トンプスン 村田勝彦訳
エルロイも真っ青な、Sさんにお勧め本です。保安官代理だが異常性格の殺人狂で、理由を付けて手当たり次第に殺してしま
うとんでもない奴だが行間からにじみ出る悪の心理描写が面白い。

幻夜 東野圭吾 集英社
イメージは白夜行と同じ。バブル景気に踊らされて工場を拡張。5年後バブルははじけて仕事は減り、借金苦に父親は自殺す
る。そんななか大震災が襲った。事故に見せかけた殺人、それを見ていた女。男と女は陰と日向のように東京で生きていく。
一方的に苦難を受け入れ操られる男にも現実が解るが、2人だけの世界のために……。

エバーグレイズに消える T・J・マクレガー 古賀弥生訳 ハヤカワ文庫
フロリダの大湿地帯にキャンプに来たタウンゼンド一家が迷い込んだその村は、映画のセットのような変な雰囲気を漂わせ
ていた。そこは大規模な実験場であった。機密漏洩を恐れる機関との追跡劇が始まる。

歴史通 谷沢永一 ワック文庫
教科書にない生きた歴史を学ぶ楽しい本。22年前の処女作本の再編集したもの。

それでも中国は崩壊する 黄文雄 ワック文庫
事実と史実でもって「中華帝国」の自滅を予告する。

千字文 岩波文庫
田舎の友達から、襖の文字の読み方と意味がわからないので調べて欲しい…。鉗子の文字捜しが始まった。筆文字とB5サイ
ズにプリントされた文字は読みづらく(無学のために解らない)、古字を集めた漢和辞典を買い、一字一字探っていく。ま
た国立図書館へ。やっとたどり着いたのが「千字文」。文選読みという(?)音読し、訓読する読み方に驚く。調べていく
ととても楽しいのです。千字を使い4字×250文節、時間をかけて読んでみたい。

漱石の時代 林順治 彩流社
今まで3冊の本すべて装幀しています。今回の内容が一番面白そうです。近藤勇から漱石を含め、悪戦苦闘する明治人の心
を探る。

弁護士は奇策で勝負する ディヴィッド・ローゼンフェルト 白石朗 文春文庫
法廷サスペンスで、父親から死刑囚の冤罪事件の弁護を頼まれる。その矢先父は急死、巨額の預金が発見される。謎が謎を
呼び、複雑に絡み合っている。これを奇策によって解きほぐしていく様が楽しい。

人形の旅立ち 長谷川摂子 金井田英津子画 福音館書店
坪井穣治文学賞と椋鳩十児童文学賞受賞作。不思議な光景を描いたファンタジーです。方言や独特な風景描写で、切なくて
懐かしい思いにさせます。また、挿絵がうまく、イメージを広げています。

シャッター・アイランド デニス・ルヘイン 加賀山卓朗訳/早川書房
「ミスティック・リバー」の著者の最新作。結末は袋とじで隠されている。読んでいくうちに何かおかしいと感じ始める…
…。簡単にいってしまえば、「シックス・センス」なのだ。ルヘインの小説は、男女のやるせない哀しみと孤独感が切々と
流れている。これが共感を呼ぶのだろう。

●囚人分析医 アンナ・ソルター 矢沢聖子訳/ハヤカワ文庫
司法心理学者で大学病院の精神科に勤めるかたわら、独立したセラピスト。妊娠8ヶ月の女性が主人公。面白い。

●戦慄の眠り グレック・アイルズ 雨沢泰訳/講談社文庫
「ブラック・クロス」「神の狩人」などを読んでいる。双子の妹が「眠れる女」シリーズの絵画に描かれていたことから姉
の捜索が始まる。これはどう見ても死人を描いている=殺人画家(連続殺人)サイコ・サスペンス。姉ジョーダン・グラス
とFBI捜査官とのコンビで事件を追いつめていく。

●山の社会学 菊池俊朗/文春文庫
百名山登山の舞台裏を見つめ直す数々の問題。戦後の日本社会の歩み、矛盾、生き方を問う。

●追憶の作家たち 宮田毬栄/文春文庫
有名作家をサポートしてきた編集者が回想する7人の作家の追憶記。なかなか興味深いものがある。

●ゆめはるか吉屋伸子 田辺聖子/朝日新聞社
吉屋伸子のエピソードと引用で繰り広げる。田辺の実感的2300枚の評伝。

●神も仏をありませぬ 佐野洋子/筑摩書房
田舎に土着し、そこで年老いていく女性の飾り気なしの本音。生きる原点を見る。

●「新しい人」の方へ 大江健三郎/朝日新聞社
大江の本音、本などもじっくり読んで理解して欲しい。常日頃から見る、読む力を意識してものを見るように。そして、
「新しい人」全てのものに対して正しい判断をし、導くことができる人。と訴える。

●編集狂時代 松田哲夫 新潮社文庫
筑摩の松田さんの学生時代からの半生を描いていて面白い。3〜4回お酒をご一緒させて頂き、興味があったがこんな人だっ
たのかと納得する。友が友を磨き上げていくことを肝に銘じようと思います。

●砕かれた街 上・下 ローレンス・ブロック 田口俊樹訳 二見文庫
ブロックの本としては異色でとまどいを感じています。2001年9月11日、テロ後のニュー用区を描いた凶器と欲望の世界。
驚きの本である。

●カタコンベ 神山裕右 講談社
江戸川乱歩賞受賞作。映画を見ているように本を読む。洞窟に閉じこめられた調査隊の命は5時間。水没までのリミットを
割り出し単身救助に向かった青年の心は?ケイビングという洞窟探検。私も鍾乳洞や石炭の発掘あとの洞穴でコウモリを捕
ったり、ダイビングでやっと通れる広さを降下して不安な気持ちなど理解しているつもりなので楽しかった。
しかし、殺人の動機など気迫が弱いと思ったら、選考委員も悩んだらしい。

●出口のない海 横山秀夫 講談社
甲子園優勝投手であり、大学入学後ヒジを故障した主人公並木は新しい変化球を完成し、復活を夢見ていた。日米開戦を機
に時代の波に飲み込まれていく。しかし、彼は「魔球」をあきらめず一人ボールを投げ完成させるが、他人に見せることな
く人間魚雷「回天」の搭乗員として出撃していくのであった。その当時の人々に合唱。

●少年期 野田知佑 文春文庫
また書いているなぐらいの気持ちで読んだ。多田さんの装丁で私が画像をいじった本。

●一夢庵風流記 隆慶一郎 新潮文庫
ジャンプで前田慶次郎の傾奇者があったがこの本が原作。颯爽たる前田の行動は、戦国時代、豊臣から徳川の世を吹きすぎ
る一陣の涼風のごとく描かれる。友や刺客たちとの心の交流と友情が素晴らしい。

●獅子の湖 ハモンド・イネス  ヴィレッジブックス
20年前によく読んでいたハモンド・イネスの本を見つけた。イネスは「キャンベル渓谷の激闘」や「蒼い氷壁」など男っぽ
い冒険小説を書く人であり、勇気と知恵を絞り出し打開していく。古き良き時代のスコッチのように読後感が心地よかった。
マクリーン、バグリーら冒険小説家の中の好きな作家の一人でもある。
今ではインターネットで情報は瞬時に伝達できるが、40年前は短波無線で通信しQSLカードを集めることが一部ではやって
いた。しかし、私は試験には受かったが通信機を買うお金が無く、もっぱらラジオで満足するしかなかっいた。
この本は、カナダの奥地から遠距離通信により、ロンドンで受信された内容から事件の謎を追う。次々と証されていく父母、
祖父母の秘められた物語。今風ではないが、安心して読める人間ドラマです。

●悔恨の日 コリン・デクスター 大庭忠男訳 早川書房
586ページの長篇だが一気に読む。でもこの本が、モース警部の最後とは知らず読み、何これとなった。
「ウッドストック行最終バス」から30年の歳月が流れ、モースの死でもって終わった。ルイスとのコンビも感慨深い物があ
る。思い出せないが、10冊以上は買って読んだ(今回は図書館で借りる)はずである。クロスワード・パズルが好きで他人
の目や噂には気にせず、自分の信念を貫く男の生き様は犬猿の仲のストレンジまでも敬服することに…。モースの遺言で宗
教的、追悼行事も行われない。せめて酒でも飲んで偲んでやろう。しみじみと乾杯! お疲れ様でした。

●死への祈り  ローレンス・ブロック  田口俊樹訳  二見書房
先週読んだ「悔恨の日」 コリン・デクスター のモース警部も約30年。このマット・シカダー・シリーズも約30年。
「八百万の死にざま」が最初に読んだと思うがこの本でほとんど読んだわけである。どうしようもないものもあったが、今
回は納得できるものになっている。映画「八百万の死にざま」は酷いものであった。シリーズ10作目の「獣たちの墓」がハ
リソン・フォードで映画化されているようなので観てみたい。今、スカダーは66歳。フォードが63歳。年齢的には申し分
ない。しかし、人気シリーズの映画化というものは得てして酷いものが多い。来週から、カスラーのダーク・ピット・シリ
ーズ「死のサハラを脱出せよ」が「サハラ」として公開される。これでもかとピットに有利な展開で進む訳で、墜落した飛
行機から作る「ウインドヨット」で砂漠を滑走するところなど、実に嘘ぽいが感動ものであった(読後感の話)。でも観て
みたい気がする。

数年前までは神保町に週4〜5回行っていた。仕事がらみもあり、どこをまがりどこを…とほとんど路地を知り尽くして
いたと思う。しかし、現在の神保町はわからなくなってしまった。地上げ立ち退きでビルができ、様変わりが激しい。また、
行かなくなったことが原因でもある。
古本を探し、歩き疲れた肉体に喫茶店の珈琲は活力を与えてくれるしほんとうにうまい。買ったばかりの本に目を通し、ピ
ーナッツを頬張利ながらの一杯の珈琲は至福の時である(さぼうるをイメージ)。珈琲そのものが旨いのは当然とするが、
至福の時間を共有できる場所として自覚できればさらに美味になるのです。そんな場所6箇所を気分によって変えている。
一度京都の「イノダ」、倉敷の「エル・グレコ」に行ってみたい気もする。
先日の食事もそうだが、ぶち壊す女性が必ずいるのだ。というのは、座るやいなやいきなりたばこを吸い出すのだ。私はタ
バコは苦手で、食事や珈琲がまずくなってしまうのです。飲んでいるときはまだ我慢することにしている。タバコで思い出
すのはジャズ喫茶「響」。もうなくなっているがよく利用させていただいた。
神保町は安くて旨い店がたくさんあった。まだまだ利用させていただこうと思っている。こんな事を懐かしんでいたら、新
宿の「アカシヤ」、湯島の「琥珀」を思い出す。機会があったらぜひ行こう。

●金沢城のヒキガエルを読む
今日3時20分頃、北西方面約10度の角度に月が大きく輝いていた。雲ひとつ無く、星も輝き、空気は一段と寒さを増して
いる。関東は高気圧に覆われ、東北方面上空はマイナス36度からの寒気に飲み込まれ、雪になっている。
今読んでいる「金沢城のヒキガエル」がなかなか面白い。9年間にわたり追跡した調査記録です。この中に、気温の上昇に
よる体内時計で恋や産卵が起こる。
しかし、三寒四温ではないが暖かい日にだまされて産卵してしまうモノがいる。その結果、卵は凍死することになる。寒波
は今日1日で、明日からまた暖かくなるようである。とは言ってもまだ10度を超えるかという気温である。椿峰では、通常
ならば12月中に咲く梅が咲いていない。春はまだ遠い。

●紅葉山文庫を読む
今読んでいる本の中に、江戸城内に紅葉山があり、将軍の図書館「紅葉山文庫」なるものがあった。
故郷の小丘にも「紅葉山」があり、土器や青銅の刀や槍などを出土して公園になっている。事を思い出し、一人楽しんでい
る。たまに、「どうでもいい」事に興味がいき、うれしがることがあり得した気分になる。たとえば、四文銭に合わせて物
価が付けられていた話など雑学的なものが多い。また、小耳に挟んだ様なものがおもしろい。
汚い話で申し訳ありませんが、今日のスーパー銭湯で、子どものオモチャだと思い掴んだら「うんち」だった話。湯気でく
すぶる浴槽にプカプカ浮かぶ様。水全て取り替えてくれたのか? 俺そこに入っているのか? 椎名誠の本だったと思うが
 ダイビング中に便意を催し、水中でスーツを脱いで岩陰で脱糞する。そこを離れて知らんぷりをするつもりが、子どもが
親の跡を追うようにしっかりと付いてきたこと。など色んな事を思い出す。
こんな日は本でも読んで過ごすのがいい。膝が
痛い。

●凍を読む
昨日三頭山に登り、帰ってから沢木耕太郎の「凍(とう)」を読む。有名なクライマーの雪崩による生死の話ぐらいは理解
していたが、偶然にも今日登ってきた三頭山、高水三山などをホームグランドにし、奥多摩に住んでいることを知った。ク
ライマーの名は山野井泰史・妙子夫妻のことである。ヒマラヤの高峰・ギャチュンカン。7500メートル以上の高地で7日間
も生き残る。妙子さんは、11年前マカルーで凍傷に会い足の指8本、手の指を第二関節より10本を切断しているのです。そ
して、高度純化障害を起こしている。最後の頂上は、吹雪の中山野井氏のみがアタックし成功するがカメラは妙子さんが持
っているので撮影は無し。下降中、雪崩に遭い疲労困憊で妙子さんの所に戻る。しかし天候は最悪であり一日待つが回復の
兆しはない。下山を決行するが数度の雪崩に遭遇する。雪崩を防ぐ絶壁に数点確保でロープを張ったブランコに二人は眠る。
しかし、ここでも数回の雪崩に遭い、いつしか二人は目が見えなくなっていた。まぶたに明かりを感じて朝を知り、手探り
状態でベースキャンプへとおりていく。妙子さんは、手のひらを残しすべての指を凍傷で失う。山野井氏は右足の指すべて
と右指3本、左指2本を凍傷で失なった。マイナス40〜50度の極限の世界、私にはいけない。昨日の登りはじめ(写真)の
気温は1度であったが、最終的には5度になっていた。
それにしても、沢木は一流の人たちが持つ世界を切り取るのが上手い。夢枕漠「神々の山嶺」などと一緒に読まれていく山
岳物語となるんだろう。4時半から9時まで(入浴と食事を入れるが)一気に読んだ。興味ある方、オススメです。

●所沢の畑を観察するが、堆肥を入れて耕している場面を見たことがない。化学肥料のみである。これでは土地がやせ細っ
ていくのは、誰にでもわかることであろう。これは、政策により農業が成り立たなくなった事が原因なんだろうか。
私の田舎でも、堆肥を直接畑に撒いてはいけない法律が数年前にできた。完全密閉型の待避小屋を作り、1〜2年完全熟成さ
せ匂いなどでない物を堆肥として畑に撒くよう指導されている。業として成り立たない農家の収入を無視し、これができな
い農家を廃業に追いやっているのです。
山下惣一氏が言っているが、農業が生産するのは「命」である。命はそれだけでは存在せず、他の命との連鎖のなかにある。
田んぼには米だけでなく、稲わら(牛などの餌)、籾殻(肥料や灰など)、米ぬか(ぬか漬け)ができ、草が生え、虫、魚、
両生類、鳥たちが育ち、花が咲くことである。
しかし、農は経済的評価はゼロなのだ。だが、このゼロの部分が国の風土、景観を作り連綿と維持された物が自然となるの
です。自然とはジャングルではない。人の手が入り、虫が育ち鳥たちが歌う。そしてキノコなどが生育する。また、感動す
る風景もそのような所なのです。
新米が出始めてきたが、10キロ5千円ぐらい。この値段で計算するとご飯1膳の原価は35円。180円のドトールコーヒーで
5膳強、350円(場所代300円を引いたとして)の珈琲ならば10膳分である。これでは農業が成り立たないだろうし絶望感
さえ感じられる。市場でこの値段であり、農家から出荷される値段は10キロ1500円ぐらいだろうと思います。自国自給率
を上げない政策はどうかしている。現在の地球では異常気象で食べ物が取れなくなることは想定できる事であり、いつパン
クするかわからない。中国も日本と同じ政策を取り始めたようだが、人口過多の国の取るべき方向ではない。農を放棄する
なんて狂っているとしか思えない。

●檜原村紀聞を読む
新田次郎、田部重治を読み、瓜生卓造の「檜原村紀聞」を読む。縄文からの検証、平家の落人伝説など様々な文化を展望し、
この土地の位置づけを解説している。檜原、人里(へんぼりと読む)、数馬の山々は新緑がきれいだろう。三頭山に登りた
い。現在は有料道路が出来て人々は行き交うが、その昔は秘境であった。先日、栃木県でイノシシの被害が報告されたが栃
木県のみで1万2千頭からイノシシがいるとのこと。檜原では昔、熊やイノシシが多く30貫(112.5キロ)もある熊が捕れ
たらしい。この地方は石灰岩の産地で、鍾乳洞のような岩洞が冬眠の場となる。しかし、メスは冬眠中子どもを生む関係で
木の洞などに潜んでいる。私は熊と言えば穴熊しか記憶にない。

●ナルニア国物語を読む
3月末観たナルニア国物語の本があったはずと、本棚を探す(自宅に仕事場を移したとき売ってしまったか)。全7刊あり
ました。岩波書店発行、C.Sルイス作、ライオンと魔女からさいごの戦いまで。楽しく読みました。映画はかなり原作に忠
実だったようです。映画はテレビで良いかなとは思う。10日間で12冊。充実したような疲れたような。仕事をしたいよう
な日々。ソメイヨシノがまだ持っている。山桜や枝垂れ桜が満開になっている。八重の桜が目につくようになってきた。こ
こ椿峰に、鬱金桜が咲き始めている。里桜はもう少し先になるだろう。
私の田舎の甘楽町では、織田家の大名行列が土日行われ、織田の大名屋敷跡「楽山園」で薪能「田村」が演じられる。見に
行きたいが、都合でいけない。非常に残念である。

●きみに読む物語を読む
63年間連れ添った祖父母の実話に基づいた作品。「きみに読む物語」ニコラス・スパークス/雨沢泰訳(アーティストハ
ウス)です。読んでいるかもしれませんが。アルツハイマーで記憶が無くなっていく妻を支える夫の無償の愛の物語です。
まだでしたら、是非読んで映画を観て下さい。私はこんな恋を死ぬまでしてみたい。と、思います。作者は「メッセージ・
イン・ア・アボトル」「奇跡を信じて」、そして本書も映画原作になっています。これを見ると分かるように、単なるラブ
ストーリーでなく尊厳愛を描き、夢や自然まで美しくみせてくれます。

●本が売れない、小説が読まれなくなったといわれて久しい。出版界を取り巻く情勢の変化を誰が予想できただろうか。
活字、写植、ワープロ、コンピュータと変わり、
版下を入れた大きな封筒を持つ人を、車中で見かけることはほとんど無
い。この10年という歳月で社会構造そのものが変わり、従来の価値感覚は根底から覆らされ、自分の生き方さえ見失うよ
うだ。本屋を覗くと売れている本か、亜流ばかり。また派手な本か雑誌ばかりで疲れてしまう。ここ椿峰にある本屋さんも
よく頑張ってきたが、6月一杯で24年間の幕を閉める。
本が売れないため、文具やクリーニング、宅配便代行と間口を広げたが、本棚には超売れ本か、いついっても同じ本しか列
んでいなかった。注文しても10日〜2週間かかるし、図書館で借りる方が多くなった現在。寂しいがこれも時代の流れか。
お疲れ様、「カミーリア」さん。としかいえない。

●イチョウは精子で受精する
「イチョウは精子で受精する」、昔どこかで知ったような気がするが確かではなかった。
今回、この本を知り「イチョウ精子発見の検証-平瀬作五郎の生涯」本間建彦、新泉社を読む。高等植物は花粉で受精して
いるが下等植物のシダ、コケは精子(鞭毛を持った細胞)で子孫を残している。植物生殖法の進化から考えると、両者の
間には大きな隔たりがある。このミッシング・リングの謎を解いたのが平瀬作五郎であった。1896(明治29)年に裸子
植物のイチョウから精子を発見する。
しかし、世界に誇れるこの業績は近年まで黙殺され教科書にも取り上げられることはなかった。平瀬は帝国大学植物学教
室の画工(写真が普及していないので、生態を絵で記録する)としての身分で、数年後に助手となったノン・キャリア組
であった。そのためにか、大学や文部省に「素人の研究」として意識的に無視されたのである。牧野富太郎や南方熊楠(大
学中退)など多くの在野研究者達が応援している。南方との「松葉蘭共同研究」は発表直前にオーストラリアの研究者に
先を越され、長年の成果は徒労に帰してしまった。平瀬としては世に出る研究としてはこれが最後であったのである。