そこにあなたがいるところ



屋根裏部屋にある彼女のベッドの脇に、俺はやるせなく立っていた。
左手に握った鎌の鉄柄が熱かった。
右手に握った彼女の手は冷たかった。
横たわった彼女は、静かに俺を見つめていた。
生気がどんどん逃げ出している青白く病んだ顔。。
3日前に出会ったばかりの病気の娘。
俺は彼女が好きだった。

だが、ああ、畜生。
俺は彼女の首を切らねばならない。


「ねえ。」
彼女が小さな声で尋ねた。
細い指が、俺の手に微かに力を加えた。
「あとどのくらいこうしていられる?」

「そうさな…」
俺は砂時計を眺めた。
彼女の残り時間がガラス管の中を、サラサラと落ち、
天窓のむこうの空は次第にうす青くなっていく。
「太陽が顔を見せるまでってところかな」
「もうすぐね。その時、私の時間が終わるのね」
彼女は穏やかに言った。

俺と彼女は、砂時計を見つめ、ついで、鈍く光る鎌の大きな刃に目をやった。

ああ、畜生。
俺は彼女の魂を、彼女の体から切り離さねはならない。
俺の手で、この鎌で。
それが仕事とはいえ、そうするのが嫌だった。
俺が魂収穫人でなく、癒し手だったら良かったのに。

「そんなに困った顔をしないで。
あなたは言ったわ。そうすることで、私は自由になれるんだと。
私、喜んでいるのよ。
それに…痛みは一瞬なのよね?」

そうだ。痛みは瞬間だ。
俺自身、昔、経験したので知っている。
彼女は一刻も速く病んだ体から自由になるべきだ。
俺が渋っているのは、切り離す行為が嫌だからではない。

「…切り離されて自由になった瞬間、君は新しい君になる。
今の自分のことは忘れちまう。」
俺は未練たらしく、呟いた。
「俺のことも」
そう、俺が恐れていたのは、それだった。
俺のように失った人生に未練たらたらの上、罪を背負いまくっている者は
魂を刈り取られても、生前の記憶は消えることはなく
それらの欲望と罪と記憶に苦しめられつつ、贖罪の時をすごさねばならない。
今、こうして魂収穫人をしているのも、そのためだ。

だが、彼女は違う。
彼女は、まっさらになれる。本当に自由になれる。

彼女は全てを忘れてしまうことを、全く気にしていないようだった。
俺はそれが腹ただしく、どうしようもなく寂しかった。
俺は白状した。
「忘れられるのが辛いんだ」

彼女はひっそり微笑んだ。
「ええ、そうね。今までのことは、全部、忘れてしまうのよね。
でも、たった3日の記憶を失うことを、どうして悲しむ必要があるの?
新しい私は、すぐに、また貴方に会えるっていうのに。」

俺はちょっと考えてから、彼女の言っていることを理解し、
もう寂しくなくなった。





魂収穫人。生前は農夫だったが、一揆に巻き込まれ若死に。
死んだことに納得できず、うろうろしていると、妙な爺に遭遇。
魂収穫人のスカウトマンである。
魂収穫人は嫌な仕事なので人手不足なのだ…
農夫は、鎌使いが達者だったので、地区担当の魂収穫人に無理やり徴用される。
10000000人の魂収穫を終えたその時に、成仏させてくれるという条件つき。

仮の体を与えられたものの、死期迫った人物にしか、己の姿は見てもらえない孤独な魂収穫人。

仕方なく、成仏めざして、せっせと仕事に勤しんでいたが、妻がアッサリ再婚するのを目のあたりにし、自分が忘れ去られていくことにショックを受ける。
しょんぼりフラフラしながら、このままいっそ、地縛霊か悪霊になっちまおうかとグレかけてた矢先、病気の娘に出会ったのだった。うんぬん。


Photoshop5.0使用2002.April

塗り上がった頃に構図が間抜けだと気づいて、描き直す。
で、しばらく放置してて見直したら、構図どころか顔も体も何もかも変だと気づいて、またまた書き直す。
…という行為を3ヶ月近く繰り返してました。描き始めとは全然、違う絵になってしまってます。
羽根もガーゴイルも当初は無かった…(苦笑)
イチから描きなおした方が良かったなあ…

柔らかい感じの曖昧塗りを追求中。最近、やっとターナーの凄さが判ってきました。

なんだかキリがないので、現段階でトリミングして、ひとまずアップ。でも、これも、また書き直したくなるんだろうなあ。