【心の折れたエンジェル】
『高槻やよい「秋月律子に首ったけ現場」−噂の手繋ぎカップル問題写真』
『秋月律子−情熱に身を委ねた2人だけの秘密。人目の多い商店街で』
『「お姉様♪」年齢と性別を超えた特別な関係−秋月律子&高槻やよい』

 会議室の机の前に並べられた雑誌の表紙には上記のような見出しが並んでいた。

P「困ったもんだな。」
や「うぅ〜、ごめんなさい〜……」
律「すみませんでした……」
P「お前たちが謝る事じゃないさ。ただ少々困ったことにはなったな。」
律「私たちはどうすればいいですか?」
P「まあ当分は自宅待機かな?必要があれば俺が車で迎えに行くよ。」
律「はい……すみません……」
P「だから謝んなくたっていいって。別に変にやましい事もないだろ?」
や「私が律子さんの事を『おねえちゃん』なんて呼んだから……」
P「やよいも落ち着け!別に律子の事をどう呼んだっていいだろ?」
や「で、でもっ!」
律「そうよやよい。許可を出した私だって悪いんだから。」
P「だーかーらー、お前らは何にも悪くないって言ってるだろ!」
律「すみません……」
や「うぅー……」
P「とりあえず俺に任せておいて2人は…って俺が送らなきゃいけないのか。
  車出すから待っててくれよ。」

 事務所前にはちらほら記者の姿が見える。あの記事は間違いなくあの悪徳記者の
 しわざに違いないな。とりあえず対策を打っておくか。
 俺はそう考えつつ車を取りに行った。

…………………………

や「律子さん、ごめんなさいっ!」
律「ううん、謝るのは私の方よ。」

 いつも元気一杯なやよいがしなだれている。

律「ほらやよい、元気出しなさい!プロデューサーと私、おねえちゃんがなんとかして
  あげるから!」
や「…………」
律「ほら、やよい。」
や「……律子さん……ひっく……ごめんなさい……ひっく…」
律「やよい……」

 私が事務所に来てから初めて見るやよいの姿だった。

…………………………
……………………
………………
…………
……

P「じゃあ俺はこれからやよいを送ってくる。」
律「すみません、自宅まで送ってもらっちゃって……」
P「まあこの件は気にするな。じゃあ律子も落ち込むなよ。」
律「あ……プロデューサー、ちょっといいですか?」
P「ん?なんだ?」
律「その…やよいの事なんです。プロデューサーが車を取りに行ってからやよい、
  泣き出しちゃって……」
P「それで目が赤かったのか。」
律「私どう声をかけていいかわからなくてその……やよいの事をお願いします。」
P「ああ、わかった。じゃあ律子も気をしっかり持てよ。」
律「はい。じゃあお疲れ様です。」
P「お疲れ様。」

 そう言ってプロデューサーは去って行った。

律「やよい、大丈夫かしら……」

 やよいは中学生。ただ純粋に私を慕っていただけだと思う。
 それをあんな記事で踏みにじるなんて許せない!

−−−翌日−−−
P「律子〜、迎えに来たぞ〜。」
律「プロデューサー、あれから進展は?やよいは?」
P「まあ待てって。やよいはもう事務所に連れていったよ。」
律「そうですか、よかった。」
P「そうよくもないんだがな……」
律「なにかあったんです?」
P「やよいがアイドルを辞めたいって言い出してな。」
律「やよいが!?」

…………………………
……………………
………………
…………
……

伊「ちょっとアンタたち!やよいになに変な事くっちゃべったのよ!」
P「はいはいそんな事言ってないから。伊織はちょっと向こう行ってろって。」
伊「ちょっとぉ!変なとこ触んないでよ!この変態っ!変態っ!ド変態っ!!」

 罵声を浴びるだけ浴びて俺は伊織を外に追い出した。
 今部屋にいるのは俺と律子、やよいの3人だけ。

や「私気付いたんです。やっぱりアイドルには向いてないかなーって。」
律「やよい……」
P「やよいはそれで後悔しないのか?」
や「はいっ。明日からまた765プロの玄関のお掃除でもやりますからプロデューサー、
  私の事見捨てないで下さい〜。」
律「そんなの駄目よ。」
や「律子…さん?」
律「やよいが納得出来たとしても私が納得出来ないわ。なんでやよいが辞めなきゃいけないのよ!」
P「……そうだな。」
や「で、でもー……」

 次第に目を伏せがちになるやよい。

P「やよいは何か悪いことしたのか?」
や「えとその……プロデューサーや律子さんに迷惑をかけて……」
P「そうじゃない。やよい自身が悪い事したのか?」
や「……してないかも。」
P「だろ?だったら別にやよいがアイドルを辞める必要なんかないだろ。」
や「で、でもっ!」
P「いいか、やよいが責任を取る必要はどこにもないんだぞ。やよいの事だから律子や俺の事を
  考えたんだろうけどそれは間違いだ。」
律「そうよ、もっと私を頼っていいのよ。」
や「で、でも……」
P「大丈夫だって、俺がなんとかしてやるから。昨日一晩中考えてたんだろ?辛かったな。」

 そう言ってポンポンとやよいの頭を軽くたたく。

や「……本当はもっともっとアイドル続けたいですっ!でも…律子さんやプロデューサーに
  またもっと迷惑かけちゃうから……」
律「いいのよ迷惑かけても。それを助けあってくのが私たちでしょ?」
や「律子さん……ひっく……」
P「本当にやよいはいい子だな、よしよし。」
や「プロデューサー!うわーん!」

 とうとう泣き出したやよいを俺は抱き締める。気のせいか律子の目元が少し赤い。

…………………………
……………………
………………
…………
……

P「落ち着いたか?」
や「すみません、プロデューサー。」
P「じゃあもう大丈夫だな?」
や「はいっ!」
律「ところでプロデューサー、あの記事の件はどうするんですか?」
P「あんな記事気にするだけ無駄さ。」
律「じゃああのまま放っておくんですか?」
P「まあいいからいいから。」

−−−後日−−−
『秋月律子さん、高槻やよいさんCMで姉妹演じる』
 先日記事で話題になった765プロの秋月さんと高槻さんですが、どうやらCM撮影の
 為の役作りだったらしく、本人たちの話によると「本当の姉妹のようにやる為に撮影前から
 役作りに励んだ」との事で……

 律子と雑誌記事を一通り目を通し、

P「ま、こんなとこだな。」
律「悪評を一転、宣伝に変えたってわけですか。プロデューサーにしてはやりましたね。」
P「まあな。アイドルを守るのは俺の仕事だしな。」

 スタタタタタタ、ガチャッ!

や「おはようございまーっす☆」
P「やよい、今日も元気だな。」
律「おはよう、やよい。」
や「あっ、おねえちゃん!プロデューサーと一緒だったんですねっ♪うっうー☆」




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