【STEEL DREAM】
P「お呼びですか社長。」
社「待っていたよ。実はキミに大がかりな仕事を頼みたいんだよ。」
P「大がかりな仕事……ですか?」

 俺が務める芸能プロダクション 765プロは主にアイドルを世に送り出す
 ……と言えば体裁がいいが実情は多数ある芸能プロダクションの中では弱小
 と言っても過言ではない規模だった。

社「そういえばキミにはまだ説明していなかったな。我社が芸能プロダクションだと
  言うのは実は表向きなのだよ。」
P「表向き……ですか?」
社「ああ。一見色々と問題のあるように見える音無くんは実は有能な科学者でね。」
P「はぁ!?あの小鳥さんがですか!?」
社「まあ驚くのも無理ないだろう。それでキミにお願いするという仕事だが……」

 社長は立ち上がり本棚のある本を引き出すとその奥に手を突っ込み……
 ゴゴゴゴゴ!

P「え?ええっ!?」

 本棚が移動し新たなドアが壁に現れる。

社「ついてきたまえ。」

 コツコツコツ……暗い通路を無言で進む。

社「音無くん、失礼するよ。」
小「あ、社長…えっ!?プロデューサーさんがこの娘の担当ですか!?」
社「ああキミ紹介しよう。彼女がこの娘、秋月リツコの開発を担当した音無小鳥くん
  ……っともう存じてるとは思うがね。」
小「音無小鳥ですプロデューサーさん。この姿を見せるなんて思いませんでしたよ。
  ってなに目を背けてるんですか?」

 白衣のコスプレをする小鳥さんが痛々しい。
 それよりも目の前で横たわっている少女に目が行ってしまう。

P「ところで社長。この娘は………」
社「ああ、彼女がこの音無くんが開発したCODE:AKIZUKI、通称:秋月リツコくんだ。」
P「ええっ!?どう見ても生身の人間にしか見えないですよ!?」
小「でしょう?私の全知識を注ぎ込みましたから♪」
P「……小鳥さんが言うととても不安になるんですが……」
小「な、なんでですかっ!!」
社「キミに頼みたいというのはプロトタイプの彼女、リツコくんをキミにプロデュース
  してもらいたいのだよ。」
P「お、俺がですか!?」
社「うむ。彼女は人型汎用ロボット、まあアンドロイドと言えばわかりやすいかね?」
P「は、はぁ。」
社「彼女は今まで我が社が試作したアンドロイドの集大成なのだよ。だが資金の方が
  色々とな……」
P「って何さりげなく言ってるんですか!!そんな事をやってるからこんなk」
社「まあ待て待て。それで彼女をアイドルとしてキミに育てて貰いたいんだよ。」
P「でも資金がないって今おっしゃられたじゃないですか!」
社「キミは私を馬鹿にしておるのかね?あと1年くらいはなんとかなるぞ。」
P「って期限は1年しかないんですか!?」
社「キミには期待しているぞ。じゃあ後は音無くん、頼んだぞ。」
小「わかりました社長。」

 つかつかと去っていく社長。

P「って社長!社長っ!!」
小「あ〜プロデューサーさん、リツコさんを起動しますね。」
P「って小鳥さんも何やってるんですか!!」
小「何って……リツコさんの起動ですけど?」

 ヴィィィィィィィィ
 地の底より響くような重い音が部屋に鳴り響く。

P「ちょ、ちょっと!小鳥さん、本当に大丈夫なんですか?爆発なんてしませんよね?」
小「大丈夫ですって。私の腕を信用して下さいって。」
P「非常に不安なんですが……」

 ウィィィィ………
 重い音が収まってくると小鳥さんはテキパキと細かい操作を開始していた。

P「小鳥さんって本当に科学者なんですか?」
小「そりゃあ……プロデューサーさんの想像にお任せします♪」
P「そ、そうですか……」

 こりゃあ小鳥さんから何も情報は引き出せそうにないと踏んだ俺はこの横たわっている
 秋月リツコ……『さん』と呼べばいいのか『ちゃん』と呼べばいいのか悩むところ……
 って悩むとこはそこじゃねえよ!!その彼女をじっくりとみた。
 三つ網みがクルリンと綺麗な放物線を描いて上を向いており、メガネをかけている……
 結構自分好みと言えば好みだがどんな目をしているのかわからないのでなんとも言えない。

小「ところでプロデューサーさん、大事な事を伝えてなかったですね。彼女は人間の感情
  と言う物が殆どないんですよ。一応ある程度生活に必要な知能は与えてます。」
P「感情がない?」
小「ええ。なのでプロデューサーさんには彼女をアイドルとして育てるとともに感情を
  色々と教えて行って欲しいんです。あと社長は資金がないとか言ってましたけど
  それだけじゃなくて、技術的に1年くらいしか彼女は活動出来ないんです。」
P「1年…ですか?」
小「その1年で色々と彼女、リツコさんをバックアップして上げて下さい。
  私からは以上です。あ!そろそろ目を覚ましますよ。」

律「…………おはようございます。」
小「おはようリツコさん。」

 おお!本当に動いてる!しゃべってる!!でも確かに言葉に抑揚がないな。

律「小鳥さん、彼は誰ですか?」
小「彼は今日からあなたのプロデューサーよ。」
律「プロデューサー?」
P「俺が君を担当するプロデューサーだ。今日から君をアイドルとして育てていく。」
律「そうですか。」
P「今日から君の事を……そうだなリツコだから『律子』と呼ぶことにする。
  芸名は『秋月律子』だ!」
律「秋月律子……それが私の名前?」
P「そうだ。律子、立って歩けるかい?」

 俺は小鳥さんに目くばせすると小鳥さんはOKのサインを出す。

律「はい、大丈夫です。」

 律子はケーブルがまだ背中で繋がりながらも普通の人と変わらずに立ち上がる事が
 出来た。

P(思ったよりグラマーだな。彼女に色々教えながらアイドルとして育てる事なんて
  俺に出来るのか?)
小「プロデューサーさん、今はまだ電源の確保の為にケーブル接続してますが実際に
  レッスンやオーディションの時にはバックパック……簡単にいえば電池を体内に
  組み込んで自律歩行が可能ですよ。」
P「じゃあ本当に見た目通りの普通の女の子に?」
小「ええ、これが我が社の最後の賭けですから。」
律「プロデューサー、私はこれから何をすれば?」
P「そうだな………小鳥さん、食事は可能なんですか?」
小「大丈夫ですよ。あとHぃな事は駄目ですよ。あとでデータを見ればわかっちゃいま
  すからね。私は別にかまわないんですけどね〜♪」
P「バッ、バカな事を言わないで下さい!小鳥さんじゃあるまいし……」
律「Hぃな事をすればいいんですか?」
P「えっ!?」
律「プロデューサー、右手を上げて下さい。」
小「ドキドキ♪」
P「こ、こうか?」
律「Hぃ、タッチ。」

 パーン。
 ……は?これハイタッチだよな?

P「………小鳥さん?」
小「な、なんですか?」
P「こんな展開になるのわかってましたよね?」
小「私何の事だかサッパリ……じゃ、じゃああとよろしくお願いしますね♪」
P「あ、小鳥さん!小鳥さーん!!」

 あっさりと逃げられてしまった。

P「律子、1つだけ教えておく。」
律「はい。」
P「『Hi』は『えっちぃ』と読むのじゃなく『はい』でいいんだからな。」
律「わかりましたプロデューサー。他には何をすればいいのですか?」
P「あ、ああ……まずは『笑う』から覚えて貰うか。」

…………………………
……………………
………………
…………
……

−−−−1週間経過−−−−
小「律子さんだいぶ表情豊かになりましたね。」
P「凄い苦労しましたよ。これで本格的にアイドルのレッスンが出来ますよ。」
小「そうそう、私はその間に開発を進めて新たなパーツを設計しますね。」
P「新たなパーツ?」
小「今は活動に最低限必要なLVの物なんです。たとえば歌唱力に特化した声帯パーツ
  とかダンスに特化した脚パーツとかですね。」
P「じゃあそのパーツに今すぐ作って下さい!!」
小「まだ駄目なんです……今の律子さんのデータを取ってそのデータを元に開発の
  必要があるので今すぐって言うのは……」
P「そうですか……」
小「ですのでプロデューサーさん。律子さんへのレッスンガンガン頼みますよ。
  それと今のバックパックは3時間程度しか持ちませんのでスケジューリングも
  気をつけて下さいね。バックパックの開発もしっかり進めておきますから。」
P「頼みます。おーい律子〜。」
律「なんです?プロデューサー。」
P「今日からアイドルとしての本格的レッスンを始めさせてもらうよ。」
律「え〜?レッスンですか〜?ま、ちょちょいとやってみますか。」
小「……プロデューサーさん、なんか律子さん一言多い感じの性格になってません?」
P「そ、そうですかね?」
小「まあデータが貰えるんでしたら細かい事は言いませんけど……」
P「よし、じゃあまず今の律子の歌唱力を確認させてもらうぞ!」
律「はいっ!」
小(そしてなんでスポ魂風なのかしら……)

…………………………
……………………
………………
…………
……

律「あーあー。ドーレーミーレードー♪」
P「ふむ、一応発声はしっかりしてるようだな。曲はもう覚えてるか?」
律「はい。小鳥さんからデータは入力されました。」
P「じゃあ伴奏に合わせて歌ってみろ。」
律「はい。」

 ターンタタタタータータタータータータタタタタタータタター

律「鏡の中〜た〜め〜息〜がひ〜と〜つ〜♪」

 ジャーーン!俺はピアノの鍵盤を両手で叩きつけた。

P「駄目駄目、全然駄目だ!もっとこう楽しそうに!!」
律「楽しくですか?」
P「そうだ。歌にも感情を込めて見ろ。そう言えばそれはまだ教えてなかったな。」
律「わかりました。やってみます。」

…………………………
……………………
………………
…………
……

小「プロデューサーさん、お疲れ様です。」
P「ああ、小鳥さんですか。」
小「律子さんどうです?」
P「凄い勢いで成長してるのは実感出来るのですが、やはり感情の移入が人とは違うと
  言うか……1から教えると言うのはやはり難しいですね。」
小「それはそうですよ。まだ赤子みたいなものですからね。」
P「そういえば以前パーツがどうの言ってましたよね?」
小「もう1つ完成してますよ。」

 そう言って小鳥さんは足を取り出してくる。

P「うわっ!キモッ!!」
小「まあこの辺りに転がしておけばバラバラ死体ですものね。とりあえずこれと換装
  することで今までよりも機動力が108%UPしますよ。」
P「……たった8%ですか?」
小「いきなり200%とかにすると演算が追い付かなくなっちゃうんですよ。徐々に
  能力を高めるしかないんです。」
P「はぁ。」
小「そういえば社長がさっき呼んでましたよ?」
P「社長が?じゃあ行ってみますね。」
小「はい。その間に律子さんのメンテナンスを進めておきますね。」

…………………………
……………………
………………
…………
……

 コンコン。

P「失礼します。」
社「おお!キミかね。待っていたよ。」
P「話とは一体何でしょうか?」
社「実はだね、律子くんのデビューが決まったよ。」
P「えっ!?でもまだ完璧には仕上がって……」
社「それは重々承知している。だが彼女の活動出来る期間はあまり残されていないのは
  キミもわかっているだろう?」
P「……そうですね。」
社「彼女にはトップアイドルの道を駆け上がってもらわなくてはならないのだよ。その
  為にはキミの協力が必要だ。」
P「わかりました。出来うる限りの事はやってみます。」
社「頼んだぞ。」

 そして彼女、秋月律子は芸能界デビューした。
 最初の内は色々と失敗は多かったがトップアイドルになる為に色んな仕事をした。
 デパートの屋上でのライブ、グラビア撮影、営業、サイン会………
 徐々に知名度を上げて行き彼女は有名になっていった。

 ……しかしそれと同時に彼女の身体もボロボロになっていった……

…………………………
……………………
………………
…………
……

律「プロデューサー、それじゃあオーディション行ってきますね。」
P「ああ頼んだぞ!」
律「はいっ!」

 いつものように律子を送り出す。だが彼女にはもう限界が来ていた。
 オーディションの真っ最中………

審「じゃあ1番さんどうぞ。」
律「はいっ!」

 律子が歌い出そうとした時、

審「1番さんどうしました?」

 律子は歌い出そうとしたまま動きが止まっていた。
 ステージの上が徐々に騒然となっていく。

P「おい!律子っ!!」

 俺はたまらず律子の元に駆け寄り頬を数度はたく。

律「………あれ?プロデューサー?」
P「気が付いたか……すみません!申し訳ございませんが今回うちの秋月の体調が
  悪いようなので棄権とさせて下さい。」

…………………………
……………………
………………
…………
……

P「どうです?小鳥さん。」
小「う〜ん……結構マズイ感じですね。あちこちエラーが多発してますね。」
P「でもまだ1年経ってないんですよ!!」
小「やはりこの計画自体が無理があったのかもしれないですね……」
P「今更何を言ってるんですか!律子はここまで頑張って来たんですよ!!」
社「おおキミたち!律子くんの様子はどうかね?」
P「社長……」
小「かなりパーツの劣化が激しいようです。持ってあと1週間かと………」
社「仕方ない、このプロジェクトは諦め…」
P「待って下さいよ!俺達はここまで頑張って来たんです。そんな簡単に終わらせ
  ないで下さいっ!!」
社「だがな……」
P「せめて、せめて律子にラストコンサートをやらさせて下さい!!」
小「プロデューサーさん……」
社「わかった。それでキミの気が済むのならやろうじゃないか。」
P「ありがとうございます!!」

…………………………
……………………
………………
…………
……

 周りには誰もいない。目の前に律子が眠っているだけだった。

P「律子、よくここまで頑張ったな……トップアイドルまでは連れて行ってあげられ
  なくてごめんな。」

 俺は今まで律子と過ごした事を思い返していた。
 感情表現を教えた事、レッスンの事、そして徐々に人間味を帯びて行く律子との
 楽しかった会話の事を。

…………………………
……………………
………………
…………
……

−−−−ラストコンサート−−−−
律「みんな〜!今まで本当にありがとう。ラストソングは代表曲、魔法をかけて!」

 『わぁぁぁぁぁ!!』『律っちゃ〜〜〜ん!!』
 会場のボルテージはMAXに達しそうな勢いだった。

律「早く迎えに来ますように そっと瞳を閉じるから………」

 『魔法をかけて!』
 ……しかし魔法がかかる事はなかった。その場で崩れ落ちる律子。

 『キャーーー!!』『り、律っちゃ〜〜〜ん!!』『立ち上がって〜〜!!』
 ファンの呼びかけだけが無情にも会場を響き渡る。

P「……律子……」

 彼女の1年にも満たない活動は終わった。
 この出来事をきっかけに俺は765プロを退職し芸能界にかかわる事はなくなった。
 最愛のパートナーを失ったのだから。

P「律子ーーー!!」

END.



























































・ハッピーエンド版

−−−−ラストコンサート−−−−
律「みんな〜!今まで本当にありがとう。ラストソングは代表曲、魔法をかけて!」

 『わぁぁぁぁぁ!!』『律っちゃ〜〜〜ん!!』
 会場のボルテージはMAXに達しそうな勢いだった。

律「早く迎えに来ますように そっと瞳を閉じるから………」

 『魔法をかけて!』
 ……しかし魔法がかかる事はなかった。その場で崩れ落ちる律子。

 『キャーーー!!』『り、律っちゃ〜〜〜ん!!』『立ち上がって〜〜!!』
 ファンの呼びかけだけが無情にも会場を響き渡る。

P「……律子……律子ーーー!!」

 『…っちゃん、…っちゃん、律っちゃん!律っちゃん!!律っちゃん!!』

P「起きろ!起きてくれ!律子っ!!」

 舞台袖を俺は無理と頭ではわかっていたがそう祈っていた。

小「プロデューサーさん、律子さんはもう……」
P「そんな事わかってますっ!!でも律子は律子は………」

 『わぁぁぁぁぁ!!』『律っちゃ〜〜〜ん!!』『頑張って〜〜!!』
 観客からの声が更に大きくなる。ステージを見ると律子が立ち上がろうとしていた。

小「そんな……彼女はもう限界を超えてるのに!?」
P「ファンの声だ、みんなの声が律子を支えてくれてるんだ!!」

 『律っちゃん!律っちゃん!律っちゃん!律っちゃん!!律っちゃん!!』

律「……あいたたた……ちょ〜〜っと頑張り過ぎちゃったみたいね。みんなごめんね。」

 『わぁぁぁぁぁ!!』『律っちゃ〜〜〜ん!!』

律「じゃあもう一度私にみんなの力を頂戴!今度こそ最後まで行くわよ!魔法をかけて!!」

…………………………
……………………
………………
…………
……

律「どうです、プロデューサー!」
P「り、律子……律子っ!!」

 俺はこんなにボロボロになるまで頑張った律子を抱き締める事しか出来なかった。

律「ど、ど、どうしたんですかプロデューサー。」
P「どうしたもこうしたもあるかっ!!」
小「律子さん、ちょっといい?データを確認させて。」
律「あ、はい。」

 律子のデータを吸い出しデータを急いで確認する小鳥さん。

小「そ、そんな!!」
P「どうしたんです?」
小「律子さんの異常部分が全て治ってるんですよ!」
P「えっ!?と、言う事は……」
小「ええ、彼女はまだまだ稼働可能です。」

…………………………
……………………
………………
…………
……

−−−−1年後−−−−
社「音無くん、これは嬉しい誤算だったな。」
小「ええ、まさかあの後再デビューしてトップアイドルになっちゃいましたからね。
  それにしても不思議です。1年くらいしかどのパーツも持たない試算だったんですが……」
社「でも実際律子くんは今も現役で活動している。彼も生き生きとしているよ。」
小「何が原因なんでしょうかねぇ……」
社「決まってるじゃないか、律子くんへの愛だよ。」
小「……社長、言ってて恥ずかしくありませんか?」
社「うぉっほん!」

 コンコン

P「失礼します。」
社「おお、キミかね。ちょうどキミの話をしてたところだよ。おや?律子くんも一緒かね?
  ん?律子くんその指輪はどうしたのかね?」

FIN.

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