【ゴーイング マイ ウェイ!】

 事務所内で俺と律子の怒号が響き渡っていた。

律「なんでこんなお仕事受けてきちゃったんですか!!」
P「仕方ないだろ。TV局からもっと違うアプローチを求められてるんだからな。」
律「こんなお芝居なんてやる気起きないですよ。仮にもアイドルですよ?」
P「だからじゃないのか?歌だけのアイドルだと消え去り易いのはこの間律子が
  まとめてくれてた今までの統計でも出てるじゃないか。だろ?」
律「それはそうですけど……嫌な物は嫌なんです!」
P「そう言わずにさぁ。台本は貰って来たからとりあえず目を通すだけ通してくれ。」

 そう言って俺は預かった台本を律子に渡した。

P「とりあえず目を通すだけ通しておけよ。じゃあ今日はこれでおしまいだ。お疲れさん。」
律「……お疲れ様でした。」

−−−秋月邸−−−
律「まったく……なんで私がお芝居なんかやらなくちゃならないのよ……」

 私は帰宅後すぐお風呂に入ってバスタオルを巻いたままベッドに腰かけた。

律「大体TVでやってるようなドラマにストーリー性なんてある訳ないじゃない。」

 そうごねりつつ台本に目を通し始めた。

…………………………
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………………
…………
……

律「……ま、まあ結構いいんじゃない?」

 正直驚いた。キャラ設定、ストーリー、どれをとっても私の琴線に触れる物だった。

律「でもこれでまだ最初の1話なのよね?」

 面白い、この続きが読んでみたい。私はあっと言う間にこのシナリオの虜になっていた。

母「律子〜、ちょっと話があるんだけど……」
律「ごめんお母さん、後にして。」
母「ちょ、ちょっと、律子〜。」

 私は役作りに集中すべくお母さんを部屋から追い出して色々と研究を開始し始めた。

母「まったく……従姉妹の涼ちゃんがデビューするって話聞いたのに……」

−−−翌日、事務所にて−−−
P「おはよう律子。」
律「あ、おはようございます。」
P「昨日の台本目を通して見てどうだった?」
律「うん……悪くないかも……」
P「じゃあこの仕事引き受けてくれるか?」
律「いいけど……1つ条件があるの。」
P「条件ってなんだ?」
律「この主人公と妹のやりとりがどうもしっくりこないのよね。ここをちょっと
  いじりたいの。それOKならやってもいいわ。」
P「そうか。じゃあちょっと掛け合ってみるよ。」

 俺は電話をかけてみるとすんなりとその要求は通った。

P「喜べ、律子。OKだってさ。」
律「本当ですか?じゃあプロデューサーがこの主人公の田名熊の役をやって。
  私が妹を演じますから。」
P「は?お、俺がやるのか?」
律「他に誰がいるんですか!急いでやりましょ。」

…………………………
……………………
………………
…………
……

P「いいか、ボクをその声で萌えさせてみろ!」
律「わかった頑張ってみるよお兄ちゃん。」
P「どうだった?」
律「……う〜ん、『お兄ちゃん』じゃ弱いわね。」
P「律子〜、まだ続けるのか?」
律「当たり前でしょ?ここが第1話の一番の見どころなんですから。じゃ次行くわよ。」

 完全にのめりこんでるな、律子。

P「いいか、ボクをその声で萌えさせてみろ!」
律「まかせてよアニキ。」
P「どうだった?」
律「もっと色んなパターンで行ってみましょ。次々行くわよっ!!」

P「いいか、ボクをその声で萌えさせてみろ!」
律「うん、わかった頑張るっ!お兄タン。」

P「いいか、ボクをその声で萌えさせてみろ!」
律「ええっ!お兄ちゃん壊れちゃった!?」

P「いいか、ボクをその声で萌えさせてみろ!」
律「かしこまりました、お兄様。」

P「いいか、ボクをその声で萌えさせてみろ!」
律「お兄ちゃん……私をそんなにいじめないで……」

P「いいか、ボクをその声で萌えさせてみろ!」
律「はぁ?なんでアンタなんかをアタシが萌えさせなきゃなんないのよ!!」

 ………なんで俺、律子の兄になったんだろ?だんだんそんなイメージが刷り込まれて
 来た感じがする。

律「大体絞り込めてきたわね。」
P「今までのでいいものがあったのか?」
律「ええ、これでバッチリですよ。プロデューサー、ありがとうございます。」

 なんか今の一言が一番俺の心を揺さぶるぞ。

律「よーし、ドラマでもバッチリ稼ぐぞ〜!」

 ……前言撤回。やっぱり律子は律子だな。





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