【夏祭り】

律「わ〜、おかあさんみてみて!すっごいはなびだよぉ!!あれ?おかあさん?
  おかあさん!」

 少女は振り返ったがそこには人ごみがあるだけで探している人物は見当たらなかった。

律「おかあさ〜ん!おかあさ〜〜ん!!」

 提灯でライトアップされた神社の道を走る。だが人の波が少女の行く手を阻む。

律「ううっ……どうしよう……」

 今にも泣きそうになる少女。

少「ねえキミ、どうしたの?」

 そこには背の高い少年が立っていた。

律「……まいご。」
少「え?」
律「あたし、まいごになっちゃったみたいなの……おかあさんといっしょにきたのに……ぐすっ。」
少「じゃあボクが探してあげるよ。」

 しかし少女は少年の服の端を掴んで離さない。

少「これじゃボク探しに行けないよ?」
律「……おいてかないで……」
少「う〜ん……」

 少年はしばし考えた後、少女をおんぶする。

少「ほら、これならキミのお母さんを一緒に探せるでしょ。」
律「うんっ!」

 ひゅ〜〜〜〜………ドーーーン!!

律「わ〜。」

 打ち上がった花火に目を奪われる少女。

少「じゃあ探しに行こうか。」

 少年は顔も知らぬ少女の母親を探す為に歩き始めた。

少「お母さんってどんな恰好してるの?」
律「う〜〜んとねぇ……と〜〜ってもきれい。あのはなびみたい。」
少「それじゃわかんないよ。あ、そうだ。キミの名前は?」
律「りつこ!」
少「りつこ……じゃありっちゃんだね。どっちから来たの?」
律「ん〜〜〜と……こっち〜。」

 少女は出入口の鳥居の方を指す。

少「じゃあこっちに行ってみようか。」
律「うんっ!」

 少年は少女をおんぶしながら文句も言わずに鳥居に向って人ごみを避けつつ歩いた。

少「お母さんってどんな人?」
律「とってもやさしいの。でもおしごといそがしくてぜんぜんりつことあそんでくれないの。」
少「そうなんだ。りっちゃんって今いくつ?」
律「5さい〜。」
少「じゃあ急いでお母さん探さないとね。
」 律「おかあさん、りつこのこときらいになったのかな……」
少「なんで?」
律「だって、あたしいつもあそびにつれてって!っておねだりしてたから………
  すてられちゃったのかなぁ……やだよぉ……おかあさん…おかあさーん!」

 少年の背中で泣き始める少女。

少「大丈夫さ。きっとはぐれただけだしお母さんも必死に探してるんだよ。だから諦めないで
  一緒に探そ。ね?」
律「……ひっく………ひっく……うん……」

 人波に押されつつも少年は出口の鳥居までたどり着いた。

少「りっちゃん、お母さんこの辺りにいる?」

 だが返事はなくその代わりに静かな寝息で返答していた。

少「泣き疲れちゃったのかな?」

 少年は鳥居の周りをとにかく歩いた。その時、

女「律子!!」

 綺麗なお姉さんがボクのとこ目がけて走ってくる。

少「もしかして……りっちゃんのお母さん?」
女「あ、ありがとうボク!」
少「ううんいいよ。りっちゃんが迷子で困ってたみたいだったから。」
女「本当にありがとう。ねぇ、お名前教えて下さる?」

 少女は背中でぐっすりと眠りについたままだった。

…………………………
……………………
………………
…………
……

 律子は珍しく浴衣姿で俺と歩いていた。

律「プロデューサー、なんでこんな人ごみの中行くんですか〜。」
P「何言ってるんだ。花火だぞ?花火。
」 律「別にそこまで焦っていかなくても……いくらでもTVとかで見れるのに………」
P「わかってないな〜。花火の迫力は生で見てこそだろう。」
律「そんなものなんですかね?」
P「日本のわびさびだよ。」
律「ん〜。」

 まだなんか納得いかない感じの律子だった。

律「そうだ!じゃあとりあえずあの屋台でなんか買ってくれたら乗り気になっても
  いいかな?」
P「ははは、現金な奴め。」

 俺は心の中で泣きつつも焼きそばを1つ購入した。

律「お!やっぱり祭りと言えば焼きそばですよ。プロデューサーわかってるじゃないですか。」
P(……俺の金なんだがな……)
律「……何か言いたそうですね。」
P「気のせいだ。」
律「本当ですか〜?」
P「じゃあウソをついている証明をしてもらおうか。」
律「む!悪魔の証明ですか。これはプロデューサーに一本取られましたね。」

 人ごみの中、俺達は境内へと向かっていた。

P「律子、はぐれるなよ。また迷子になっても知らないぞ。」
律「また迷子ってなんですか!私はあずささんとは違うんですからね!」
P「本当か?」
律「じゃあ私がウソをついて…っとっとっと……」

 律子は倒れそうになって俺にもたれかかって来た。

P「ん?どうしたんだ?」
律「鼻緒が切れちゃったみたいなんですよ。」
P「仕方ないな。」

 俺は律子を連れて道の端によけてからしゃがみ込む。

P「ほら。」
律「へ?」
P「おんぶするよ。」
律「そんな悪いですよ。」
P「いいから早くしろって。」
律「……じゃあお言葉に甘えて。」

 律子は恐る恐る俺におぶさり下駄を手に持ちつつ俺の首に手をまわす。

律「重くないですか?」
P「大丈夫大丈夫。」

 俺は律子をおぶって境内を目指す。

律「私……小さい頃迷子になったことあるんですよ。そしたら見知らぬ男の子が私を
  こんな風におんぶしてお母さんを探してくれたことがあって……あの男の子、
  どうしてるのかなぁ。」
P「ふーん。その子の名前は聞いたのか?」
律「ううん。私途中で寝ちゃってたみたいで気付いたら家で寝てたの。」
P「そうか。まあきっとその子も今の律子を応援してるさ。」
律「そうだといいですけどね。」
P「ああ……(小声で)すぐ側でな……」
律「プロデューサー、何か言いました?」
P「なんでもない……なんでもないさ。」





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