【THE SAFARI】

律「どこに連れて行く気ですか?」
P「まあいいからいいから。今日はオフだろ?」
律「そうですけど……」

 俺は急に律子を連れ出して、電車の中にいた。

律「で、どこに行くんですか?」
P「まだ内緒だ。」
律「変な所だったら承知しませんよ?」

 今の時間はそれほど電車内も混んでなく、のんびりと座れる状態であった。

律「それにしてもこんなのんびりと出来るのなんて久しぶりですね。」
P「最近はずっと仕事に追われてたからな。」

 律子は随分と売れっ子になっていてTVに出ない日は無かった。

律「折角家でのんびりと出来ると思ったのに……」
P「まあそう言うな。食事くらいおごってやるから。」
律「プロデューサーが!?これは天変地異が起きる何かの前兆に違いないわね。」
P「おいおい…」
律「ふふっ冗談ですよ。」

 電車は定刻通り目的の駅に到着した。そして駅前にある大きな入り口の前に俺達は
 立っていた。

律「連れて行ってくれるところって動物園だったんですか?」
P「ああ。俺も動物園に来たのは小学生の時が最後だから何年ぶりだろ?」
律「プロデューサー、とにかく入りましょうよ!」

 徐々にテンションが上がっていく律子。傍にいる俺も楽しくなってくる。

P「まずどこから周るか?」
律「そうですね……ライオン…ううん、ゾウ!やっぱりキリンかしら?」
P「ははは、そんなに焦らなくても動物達は逃げないからな。律子が見たいものから
  周ろうか。」
律「うーーん……じゃあ……ウサギが見たいです。」
P「ウサギ?動物園なのにそれでいいのか?」
律「ええ。ほら、ウサギには直接触れる事が出来るって園内案内にも書かれてるじゃ
  ないですか。」
P「律子が良ければいいけど。」
律「勿論ですよ。早く行きましょ、プロデューサー!」

 俺は律子に引きずられてウサギのいる『こども動物園』に向かった。

…………………………

律「プロデューサー、見て下さいよ!この子真っ白ですよ、真っ白!
  ほらニンジンですよ〜。」
P「ははは、カリカリ必死になってかじってるな。」
律「この子達も必死に生きてるんですよ。」
P「そうだな。」

 無邪気に喜ぶ律子の姿は童心に帰ったかのように見えた。しかし時折暗い表情を
 とるのは何故だろうか?

P「律子、次は何を見る?」
律「そうですね〜……じゃあ定番なゾウで。」

…………………………

律「うわ〜、凄いご飯の量ですね。」
P「まるでやよいみたいだな。」
律「何言ってるんですか。やよいはあんな量出されたら卒倒しちゃいますよ。」
P「ははは、違いないな。」
律「それにしても長い鼻ですね〜。器用にリンゴを口まで運んでますね。」
P「このオニギリも食べるかな?」
律「駄目ですよ!美希じゃないんですから。」

…………………………

律「あのゴリラ、プロデューサーに似てません?」
P「おいおい、俺あんなに毛深くないぞ?」
律「いえいえ、何と言うか…雰囲気が。」
P「そうか?」
律「ええ。なんとなくだらしそうなところが。」
P「そんなにだらしないか?俺。」
律「冗談ですよ、冗談。」

…………………………

律「前言撤回です。こっちの方がプロデューサーそっくりです。」

 ナマケモノの檻の前で言う律子。

P「別に俺はなまけてたりしないぞ?」
律「本当ですか?」
P「俺だってな、みんなの為に色々となぁ…」
律「はいはい、わかってますって。ふふっ。」

…………………………
P「凄いタテガミだな。」
律「百獣の王の貫録バッチリですね。」

 ガオー!

律「キャッ!」

 ライオンの咆哮に驚いて俺にしがみつく律子。

P「律子、どうしたのかな〜?」
律「あっ!べ、別にライオンに驚いた訳じゃないんですからね!」
P「またまた素直じゃないんだから〜。」
律「だからさっきも言ったように……」

 ガオー!

律「キャッ!」

 ライオンの咆哮に驚いて再び俺にしがみつく律子。

P「それで何か言い残すことはないか?」
律「もっ、もういいです!!」

…………………………

律「やっぱりトラも迫力ありますね。」
P「ん?なんか看板がある……うわっ!!」

 バシャッ!と水らしきものをかけられてしまった。

P「びしょびしょになっちまったな。トラめ………」
律「ち、近寄らないで下さいよ!!」
P「ん?なんでだ?」
律「これですよ、これ!」

 さっき俺が読もうとした看板には『おしっこに注意 しっぽをあげたらおしっこがとんできます』
 とか書かれていた。

P「と言う事は……うわぁ!」
律「私、あそこのベンチで待ってますから。」
P「くそっ!とんだ目にあっちまったな……」

 俺は動物園の管理局に行ってタオルを借り、あちこち拭いてから律子の元へ戻った。

P「ふぅ、まったく酷い目にあったよ。」
律「プロデューサーが気を抜いてるからですよ。ふふっ。」

 律子はそう言って笑っていたがすぐに遠い目をしだした。

律「でもみんな狭い檻の中。まるで子供の頃の私の心みたい……」
P「律子……」
律「あ、すみません。折角連れてきてもらったのにこんな話しちゃって。」

 俺は思わず律子を抱き締めた。

律「ちょ、ちょっと!プロデューサー何するんですかっ!!」
P「今はもう一人じゃないぞ。みんないるんだ。」
律「………………」
P「それに小さい頃行けなかったんなら俺があちこち連れてってやる!」
律「………………」
P「まあ俺じゃあ律子の幼い頃のヒーローにはなれないかもしれないが。」
律「ど、どうしてそこでカッコ悪くなるんですか。まったくもう……」

 そう言いつつも律子は俺の背中に手をまわしてきた。

律「……ありがとうございます、プロデューサー。」

 いつにもまして素直な律子に対してついつい、

P「こんなに素直な律子珍しいな。」

 この一言がマズかった。ドンッ!と律子に突き飛ばされ、

律「あー、もう臭い臭い!おしっこの匂いが私にもうつっちゃったじゃないですか!!
  あっち行って下さいよ!シッシッシッ!!」
P「おいおい、そりゃあないだろ?」
律「おしっこをひっかかけられるプロデューサーがいけないんじゃないですか。」
P「それはそうだけどさぁ……」
律「もっと下調べをしてくるとかなんでしてこなかったんですか。」

 何故か動物園内でのお説教が始まってしまい俺のテンションは一気にガタ落ちだったが
 律子にとってはいい思い出が出来たようだった。また一緒に来ような、律子。





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