【begin】

社「と言う訳だ。」
律「つまりとうとう私のデビューが決まるって事なんですね。私事務でこの事務所
  に来たんですけど……」
社「まあそう言わないでくれたまえ。それと彼を紹介しておこう。おいキミ!」
P「はい。」
社「彼が律子君の担当プロデューサーだ。」
P「よろしく。」
律「よろしくお願いします。」
社「じゃあキミ、あとはよろしく頼むよ。」
P「わかりました。」

 社長室から俺達はミーティングルームで軽い自己紹介等を行った。

P「えーと……」
律「あなた、歳は?経歴は?これからの目標は?」
P「おいおい、質問攻めだな。」
律「あっ、ごめんなさい。アイドルをやるとなったからには少しでも情報を集めようかと。」
P「それもそうか。だが実は俺も今回が初めてでな……」
律「えっ!?そうなんですか?大丈夫なのかなぁ。」
P「まあ出来る限りは頑張ってみるさ。ところでアイドルをやるとなったからにはライブを
  やったり収録があったりで帰りが遅くなったりすることもあるだろ?
  なのでまず秋月さん……」
律「律子。」
P「はい?」
律「堅苦しいから律子でいいわよ。」
P「ああ了解。で、律子の御両親にまず話をさせて欲しいんだ。」
律「私の……ですか?」
P「ああ。律子だってお年頃だろ?アイドル活動をやるに当たって御両親の御理解を貰うのは
  最低限の礼儀さ。」
律「ふむふむ、それなりに考えはあるんですね。」
P「当たり前だよ。この業界、人との繋がりが全てだ。けじめはきっちりしないとな。」
律「じゃあ私は顔合わせの日時を調整すればいいのかしら?」
P「お願い出来るか?」
律「OK。プロデューサーも私の担当となったからにはしっかり頼みますよ?」
P「出来る限り努めよう。」
律「で、あなたの歳は?経歴は?目標は?」
P「またそこに戻るのか……」

 俺は律子の質問攻めに苦笑する。

律「だってまだ聞いてないですから。私のは履歴書を読んでもう知ってるんでしょ?」
P「まあな。秋月律子18歳の高校3年生。趣味は……」
律「資格取得。」
P「おいおい、先に言うなよ。」
律「ちゃんと履歴書には目を通して頂けているようですね。」
P「勿論さ。まずは自分の担当の子くらい把握するのは普通だろ?」
律「安心しました。一応ちゃんと見てくれる人のようですね。これからお願いしますよ?」
P「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。」

−−−後日−−−
P「いや、緊張するな。」
律「何がですか。」
P「そのな、結婚の承諾を貰う彼氏の気分みたいなもんだよ。」
律「……ハリセンで目、覚まします?」
P「おいおい、たんなる例えじゃないか。」
律「紛らわしいですっ!!」

 律子は何を怒ってるんだ?まぁいいか。

律「お母さーん。」

−−−細い方がいいですパターン−−−

 トットットット。

母「はい。なぁに?律子。」
律「あ、お母さん。この人昨日説明したプロデューサー。」
母「そうですか。では奥へお上がり下さい。」

 随分とスリムなお母さんだな……三つ網みにしたらまんま律子じゃないか?

P「では失礼します。」
律「プロデューサー、こっちの部屋よ。」

 俺は促されるまま奥の部屋へと通された。

母「ではそちらへどうぞ。」

 フローリングの部屋に置かれた4つの椅子とテーブル。ここがいつも律子が
 食事している場所なんだな……俺は促されるまま椅子に座る。

父「君が律子のプロデューサーと言う話だったな。」
P「はい。今度秋月さんのデビューの担当を致します。」
父「まあそうかたくなりなさんな。ぶっちゃけ律子はアイドルとしてどうだい?」

 急にくだける律子父。

P「まあやるからにはトップアイドルを目指させて頂きます。」
母「大丈夫なのかしら?帰りがあんまり遅くなるのも困りますし、ちゃんと連絡は
  取れるようにしてくれるのかしら?」

 うーむ、お母さんはまんま律子を大人にしたって感じだな。口調もちょっとキツめだ。

P「その辺りは誠心誠意をもって取り組まさせて頂きます。こちら私の会社の連絡先と
  私自身の連絡先です。」

 俺は名刺を手渡した。

父「765プロダクションか。あまり聞かない事務所名だな。」
P「ええ……業界ではまだそれほど大きな事務所ではありませんので……」
母「律子、あなたも商人の娘。一気に状況をひっくり返して見せなさい。」
律「ちょっとお母さん。私まだ本気でアイドルをやるなんて……」
母「なに言ってるんですか。やるからにはガツンっとやっちゃいなさい。」

 ……本当に律子が2人いるみたいだ。

父「さてある程度話も終わったことだし……キミ、今晩どうかね?」

 手をくいっくいっとあおるように動かす律子父。

P「いいですね〜。お付き合い致しますよ。」
律「ちょっと!お父さん!お酒はあれだけ駄目だって……」
母「あーなーたー!」
父「かたい事言うなよ。折角律子の門出だって言うのに。」
母「あなたはもうちょっとねぇ………」

 目の前でお説教が始まってしまった……律子は間違いなくお母さん似だな……

P「ま、とりあえず律子。これからもよろしくな。」
律「ええ。ところで私の担当になる前の伝票処理、結構間違えてましたよね?」
P「お、おい。今ここで……」
律「だまらっしゃい!!プロデューサー、そこに座ってください。」
母「あなたもです!」

父&P「はい……」

 俺達は小一時間お説教をくらい続けた。







−−−太い方がいいですパターン−−−

 パタパタパタ。

母「はーい。」
律「あ、お母さん。この人昨日説明したプロデューサー。」
母「あらあら、まあまあ、どうぞお上がり下さいな。あなたー、プロデューサーさんが
  お見えになられましたよー。」

 随分とふくよかなお母さんだな。

P「では失礼します。」
律「プロデューサー、こっちの部屋よ。」

 俺は促されるまま奥の部屋へと通された。

P「………………………………」
母「どうぞどうぞ、足をお休めになって。」
律「どうしたんです?プロデューサー。ボーっと突っ立って。」
P「あ、ああ……」

 まさか重要な話をするのにこたつ部屋とは俺も予想外だった。

母「あなた、いつまで寝っ転がってるのよ。」
父「ああ……ふわぁ……とこれはこれはどうも。」
P「はぁ。」
父「どうぞお入り下さい。外は寒かったでしょう?」
P「そ、そうですね……」

 俺は恐る恐るこたつに足を入れる。

父「で、早速なんですがうちの娘はどうですかね?」
P「と言いますと?」
父「親馬鹿かもしれませんがうちの娘はしっかりした子ですから、こういう芸能界とか
  うまくやっていけるのかやはり心配でしてな。」
P「そうですね……そのサポートをするのが私の役目ですから全力でやらさせて頂きます。」
母「私なんか律子の母としてTV出たりすることあるのかしら?ホホホホ。」
律「ちょ、ちょっとお母さん!気が早いってば!!」
父「律子。やるからにはとことん上を目指しなさい。」
律「まかせて。私とプロデューサーでトップアイドルまで行って見せるわ。」
P「ところで…そちらに飾られてる写真って……」

 俺は飾られた写真立てに目が止まっていた。律子がチャイナドレスを着て写ってるからだ。

母「あらいやだわ。これ私よ。」
P「えっ!?」
母「昔は律子の様に随分とスリムだったの。この間親戚の子が結婚式だから律子にこの
  ドレスを出してあげたら『こんなの着れないわよ!』なんて言われてね〜。」
律「だ、だってそうじゃない。チャイナドレス着て結婚式に行く人なんかいません。」
父「わしはいいと思うけどな。」
母「プロデューサーさんはどう思います?」
P「えっ!?お、俺ですか?」
母「律子にチャイナドレス、どうですか?」
P「えーと……」

 写真のお母さんを見る限り凄く似合ってるが……律子からの冷たい視線にどう答えた
 ものか……

律「お母さん、プロデューサーが困ってるでしょ?この話はこれでおしまい。」
母「もしかして律子太ったの?」
律「なっ!なんでそうなるのよっ!!」
父「こんな娘ですがよろしく頼みますよ。」

 その後、夕飯を頂いてとても気分の良い日となった。
 必ずトップアイドルまで連れてやってやるからな、律子。





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