【ポルターガイスト】

あ「律子ちゃん、ちょっと待って下さい〜。」
律「あずささん、早くして下さいよ。」
あ「律子ちゃん、やっぱりやめませんか?」
律「何言ってるんですか!あずささんが今日にこにこしながらあんな事を
  言うからこんな事になったんじゃないですか!!」

−−−数時間前−−−
律「なんかあずささん最近疲れてる感じですね。」
あ「そうでしょうか?私はいつもとあんまり変わらない感じですけど……」
律「頬が少し痩せこけ始めてる感じがしますよ?」
あ「そうかしら?」
律「そうですよ。呼びかけても上の空だったりしますし。」
あ「私急ぐ事がどうも苦手で……」
律「そう言うことじゃないですよ。最近ちゃんとご飯とか食べてます?また変な
  ストーカーにつけられたりしてません?」
あ「はい、それはもう。でも最近うちにおばあちゃんがいてくれるので安心なん
  ですよね〜。うふふ。」
律「おばあちゃん?あずささんの御実家から来られてるんですか?」
あ「いいえ、知らないおばあちゃんです〜。」
律「は?」
あ「いつの頃か私の寝室の隅に座られるようになったんですよね〜。」
律「そ、それって……」
あ「どうかしたんですか?」

…………………………

 そして今に至ると。

律「まったく……なんでそんなあからさまに怪しいのを放置するんですか。」
あ「でも御蔭様でおうちの雰囲気も明るく……」
律「なるわけないでしょ!むしろあずささんの命すら危ないですよ!!」
あ「はぁ。」
律「どうしてこう危機感を持たないというかのほほ〜んとしてるというか……ぶつぶつ」
あ「でも優しいいいおばあさんですよ。」
律「いえ、それはないです。今のあずささんを見てそう思う人はいません。」
あ「そうでしょうか?」
律「とにかく!今晩は私もあずささんのうちに泊まりますからいいですね?」
あ「まあまあ。じゃあ今晩はおいしいご飯を用意しなきゃいけませんね。」
律「……本当に今の状況わかってるのかしら?」

−−−あずさ宅−−−
あ「ただいまです〜。」
律「お邪魔します。」
あ「おばあちゃん、ただいまです。」
律「って早速……そこ、誰もいませんよ?」
あ「あら?でもそこに座ってらっしゃいますよ?」

 あずささんの指差す先にはどうみても何もない。

律「ちょっと待って下さい。この方向ですよね?」
あ「ええ、ちょうどこの角に正座されてますよ。」

 私はインスタントカメラを取り出して早速写真撮影。
 パシャリ!

律「じゃあとりあえずご飯にしましょうか。そのうち写真も見えてきますし。」

 私は写真をパタパタと振りつつ提案する。

あ「まだ夜は肌寒いですしお鍋にしましょうか。」
律「じゃあ私、材料切りますよ。」
あ「うふふ。カセットコンロと土鍋用意しますね。」

 そしてトントントンと野菜を切ってからふと写真の事を思い出し見てみると……

律「ま、そうよね。変な物が写るはずないものね。」

 写真は普通にあずささんの部屋を写していた。

律「あずささん、準備できましたよ。」

 と振り返ってみるとあずささんの姿がなく、部屋の片隅でなにか話をしているようだ。

あ「そうなんですか〜。それは大変ですね〜。」
律「あずささん!あずささんってば!!」
あ「あ、律子ちゃん。準備出来たんですか?」
律「その……そんなところで何してるんです?」
あ「あらあらあら。ちょっとおばあちゃんと話し込んでしまいました〜。」

 どう見てもあずささんの顔に生気を感じられない。

律「そこですね?」

 パシャリ!
 私は迷わずそこをインスタントカメラで撮影した。

律「とにかく、あずささんはそのおばあさんと話ししちゃ駄目です!」
あ「でも〜、おばあちゃんが寂しそうに……」
律「いいですね!!」
あ「律子ちゃんがそう言うのでしたら……」
律「じゃあとにかくご飯にしましょ。」
あ「ええ。」

 と、あずささんがご飯をよそっている最中に私は先程撮った写真を……

律「キャア!!」

 私は思わず写真を手落としてしまった。
 そこにはしっかりと正座をしたおばあさんの姿が写っていたからだ。

律「なに?なんなの?これ……」

 私はお化けなんて信じない。信じないが現実に写っている写真がある。
 しかも撮ったのは私本人。これは一体……

あ「律子ちゃん、ご飯用意できましたよ。なんか叫び声みたいなのが聞こえて
  きましたけど……」
律「な、なんでもないですっ!!」

 私はこの写真をあずささんに見せるべきではないと判断して鞄に隠した。

あ「じゃあいただきます〜。」
律「い、いただきます。」

 豪華な鍋料理のはずだったのに私はまったくおいしく感じられなかった。
 あのおばあさんは一体……

…………………………

律「じゃああずささん、お風呂入ってきますね。」
あ「律子ちゃん待って下さい。」
律「なんですか?」
あ「折角うちに来たんだし……一緒にお風呂入りましょ?」
律「ええっ!?そ、そんな恥ずかしいですよ!!」
あ「たまには親睦を深めませんと、ね?」
律「で、でもぉ……」

 私は初め断ろうかと思ったがお風呂に入ってる最中にまたあずささんがおばあさんと
 話し始めるかもしれないと思い当たり、

律「わかりました。じゃあ……」

…………………………
……………………
………………
…………
……

あ「は〜、さっぱりしましたね〜。」
律「ホント凄い……」

 あずささんの胸を生で見てあそこまで大きくなるものなのか!と人体の神秘を
 感じてしまった。

 ドライヤーで髪を乾かしながらあずささんから切り出される。

あ「今日は歌番組もありませんし早目におやすみしませんか?」
律「でもお布団は1つしかないんじゃ?」
あ「それは見てからのお楽しみです。うふふ♪」

…………………………

 寝室にはでかでかとしたダブルベッドが置かれていた。

律「なんでダブルベッドなんですか……」
あ「実はその……安かったものでつい……」
律「あはははは……はぁ……」
あ「たまに友美が泊まりに来た時もお布団の中で色々とお話ししながらおやすみ
  するんですよ。」
律「へ〜。」

 ここで私は小声であずささんに聞いてみる。

律「ところであずささん、おばあさんって今この部屋にいます?」
あ「ええ。ちょうどあそこの角に。」

 私はあずささんが指差す方を見てみるがやはり私の目には何も映らなかった。

律「そういえばあずささんがこのマンションに引っ越してきたのってどのくらい前
  なんですか?」
あ「ちょうど1ヶ月前くらいかしら?」
律「おばあさんを見るようになったのは?」
あ「引っ越してきた日からかしら?」
律「ふむ……」

 これはもしかして一刻の猶予もないと言う状態ではないだろうか?
 とりあえずは今晩は私もいるし……

律「ま、考えても仕方ないか。じゃああずささんおやすみなさい。」
あ「はい〜……ってええっ!?もっと色々とお話しませんか?」
律「って今……まだ21時なんですね。」
あ「律子ちゃんの色んな話聞き出しますよ〜。うふふ♪」

…………………………
……………………
………………
…………
……

 夜中にパッチリと目が覚めてしまった。
 いつも寝るのは0時過ぎだからなぁ………今一体何時なんだろ?
 と、時計を見る為に身体を動かそうと…動かそうと……

律(なんで!?身体が動かない!?)

 必死に身体を動かそうとするがぴくりともしない。しかし目だけは動かせるようで
 辺りを見ると……暗い部屋の中、視界の端っこに何か動いている物が見える。
 しかも徐々にこちらに近付いているような……

律(あれは……なに?)

 視界の端でゆらゆらとしながら近付くもの。近付くにすれ徐々に視界にしっかりと
 入り込むようになり、それの正体が明らかとなる。

律(写真で見たおばあさん……)

 ゆらゆらと近付いているのは確かに写真に写っていたおばあさんだった。
 そのおばあさんが正座したまま徐々に徐々にこちらに迫ってきている。

律(怖い……い、一体…なんなの?)

 私はそれを見ないように目を瞑ろうとしたが瞼が降りてくれない。
 なのにそのおばあさんはどんどん近付いてくる。

律(いやっ!お願い、こないでっ!!)

 私の願いが届いたのかおばあさんが少し遠ざかって行った。
 ふぅ……と安堵した瞬間!!

律(いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!)

 顔の真ん前、まさに目の前におばあさんの顔があった。
 おばあさんは目の前でニタァと笑い手を伸ばしてくる。

律(いやっ!いやっ!!いやああああああああああ!!!)

 私の意識が保てたのはここまでだった。

…………………………
……………………
………………
…………
……

 ユッサユッサユッサ。

あ「……さ………さん……律子さん!」

 私はどうなったんだろうか?揺さぶられるような感覚で気が付いた。

あ「律子さん、もう朝ですよ?」
律「あ、あずささん……」
あ「律子さん、その痣………」
律「え?」

 私は何の事かわからずあずささんより手鏡を受け取って見てみると私の首に
 しっかりと手形が2つ残されていた。

律「………………………」
あ「律子さん?これは一体………」

 私は恐ろしさに身を震わせることしか出来ない。

あ「と、とりあえず朝ご飯にしましょ。」
律「あ、あずささん………」
あ「はい、なんでしょう?」
律「このマンションから早く引っ越しましょう!!」
あ「そう……ですね………」

 それからあずささんはすぐに今のマンションから引っ越し、その後はあのおばあさん
 を見ることはなくなったようでした。
 あのおばあさんは一体何だったんでしょうか?私に何を伝えたかったのでしょうか?





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