【ALL MY TURN−このターンに、オレの全てを賭ける−】

P「期待の新人、秋月律子をどうか、どうかよろしくお願い致します!!」

 俺は道端で律子を売り込む為、必死にチラシを配っていた。

P「来月12月12日にデビューの秋月律子です!どうかよろしく………
  あ、ありがとうございます!!」

 街行く人が一人チラシを受け取ってくれた。俺は律子に全てを賭けたんだ。
 意地でも成功させなくてはな。

P「来月デビューする秋月律子のCDが12月12日に発売されます!興味を
  持った方、是非とも秋月律子を……」
律「プロデューサー!何やってるんですかこんなところで!」
P「り、律子………」

 目の前には律子が立っていた。だがまだ売り込みが足りないのか街を行きかう
 人達には律子は目に留まらないようだった。

律「私を売り込むんだったら私にも相談して下さいよ。本人のいない売り込み
  なんて意味ありませんよ。」
P「だがな……」
律「だってもさってもありません!!さ、チラシを半分下さい。」

 そう言って問答無用で俺の手から半分かすめ取る。

律「12月12日にデビューする秋月律子です!どうかよろしくお願い致します!
  あ、ありがとうございます。あ、はい、頑張ります!」

 律子が直接あらわれたお陰か少しずつ人が増えてきたような気がした。

P「我が社期待のホープ、秋月律子をよろしくお願い致します!」
律「よろしくお願いします!」
男「なんか歌ったり出来ねーの?ただCD出すじゃわかんねーよ。」

 迂闊だった。チラシを配る許可は貰っていたが音を出す許可は貰ってなかった
 ので何も流していなかった。

律「ええと私が歌えばいいんですか?」
男「ああ、アンタがデビューするって娘なんか。……野暮ったいやつだな。ははは。」

 そう言って男は去って行った。

P「……くそっ!!」

 俺は何も言い返せない自分に腹が立つと同時に悔しさが込み上げてきた。

律「プロデューサー、やっぱり私なんて見た目こんなのだしやっぱりアイドルなんて
  駄目ですよ。」
P「そんな事はない!!俺が、俺が律子がいいと選んだんだ!!」

…………………………

 結局道端のPRは殆ど失敗に近い形で終わってしまった。

P「はぁ……情けないよな………」

 俺はまだ本当に駆け出しのプロデューサーで実のところどうやって売り込みをしたら
 いいのかまったくわかってなかった。

P「とりあえず社長に相談してみるか……」

 そう思い社長室の前に立つと……

律「やっぱり私にはアイドルなんて向いてません。今まで通り事務員として活動させて
  下さい。」
社「律子君、そう言うがな。君は彼が見出してくれたんだ。彼の感性に狂いはないと
  私は確信してるよ。何せ彼は私が見出したんだからな。」
律「でも今日なんかもまったくPRは失敗でしたよ?」
社「律子君は彼の事、信頼できないのかね?」
律「今の感じじゃ信頼なんてまだまだ程遠いですね。」

 やっぱりそうか……駄目駄目だな。社長と相談する気も無くし俺は社長室を後にし…

小「プロデューサーさん、社長に用があったんじゃないんですか?」
P「いやその……」

 ガチャッ。

律「プロデューサー、もしかして話聞いて………」

 俺は恥ずかしさの為か、自分自身の力の無さを認めたかのようにその場から逃げだした。

…………………………

P「俺、本当にこの業界でやっていけるのか?」

 自問自答を繰り返すうちに俺は仕事をサボっていた。今の心境ではとても仕事をする気
 にはなれない。担当アイドルにすら信頼されてないんだからな。はははは。

P「ん?電話か?どうせ仕事だろう……」

 そう思って携帯を見てみると律子からの電話だった。

P「今更俺に何が出来る?」

 俺は律子の電話には出なかった。出ることができなかった。

…………………………

P「ああ、もういい加減にしろっ!!」

 もう何回目だろう。律子からの電話が止まることなくかかってきていた。
 俺は精も根も尽きて電話に出た。

P「……はい。」
律「はいじゃありませんよ!何やってるんですか!!」
P「俺は駄目なプロデューサーだからな。どうせ信頼もされてないんだろ?」
律「やっぱり聞いてたんですね………」
P「俺には律子のプロデュースなんて」
律「私は待ってます。」
P「律子のプロデュー…え?」

 俺の聞き間違いか?

律「私は今プロデューサーのレッスンを待ってます。早く来て下さい。」
P「だが……」
律「私をプロデュースする人はプロデューサーしかいないんですよ?」
P「しかし……」
律「ああっ、もうっ!いいから早く来るっ!!言いたい事があるならとことんまで
  聞きますからとにかく来て下さいよ!!」

…………………………
……………………
………………
…………
……

律「どうしたんです?急ににやにやして。」
P「いや、な。昔の事をちょっと思い出してたんだ。」
律「昔の事……ですか?」
P「ああ。律子の信頼されてないなんて言われて引き籠ってた頃のな。」
律「あ〜そんな事もあったわね。」

 今や律子は国民的トップアイドルまで上り詰めていた。

P「あの頃は若かったな……」
律「なに言ってるんですか。1年も経ってないじゃないですか〜。」
P「そうだったっけ?」
律「そうですよ。」
P「律子は………俺の事信頼してるのか?」
律「ん〜〜どうでしょ?試してみます?」

 俺は律子の挑発的言葉にカチンと来てつい律子を押し倒してしまった。

律「痛っ!何するんですか!」
P「決まってるだろ。男が女を押し倒したと言うことはやることは1つ。」
律「………本気なんですか?」
P「さあな。」

 しかし律子は嫌がる事もせず、素直に目を閉じた。

P「律子?」
律「大丈夫。私はプロデューサーの事をもうよく知ってるわ。プロデューサーは
  こんな事をしたりはしないし信頼してる。」

 俺は律子に馬乗りになったまま茫然としていた。

律「ところでプロデューサー、そろそろ重いんですけど………」
P「あ、ああ……すまん。」

 俺は素直に倒れた律子を助け起こした。

律「もうあの時のプロデューサーとは違うもの。ね?」
P「そうなのかな?」
律「じゃあプロデューサーに魔法をかけるから目を閉じてみて。」
P「こ、こうか?」

 俺は律子に言われるまま目を閉じた。

律「プロデューサー、絶対目を開けちゃ駄目ですよ。」
P「あ、ああ……」

 ま、まさかキ、キスしてくれるなんて事はないよな……

 ベシッ!!

P「イテッ!!」

 額に軽い痛みが走った。

律「ふふっプロデューサー、修行が足りませんよ。」

 律子はデコピンのポーズで目の前に立っていた。

律「どうです?自信湧いてきません?」
P「う〜ん、どうだろう?」
律「またまた〜。」
P「まあ律子がちょっとほっぺたにキスしてくれたらやる気出るかもな。」

 チュッ。

律「じゃ、じゃあ私行ってきますねっ!」

 俺は律子にプロデュース人生を賭けて本当によかったと思える瞬間が訪れたのだった。





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