【Herring Roe】

 コンコン。

律「プロデューサー、生きてますか〜?」
P「………………あー?……寝てる。」

 律子が訪ねてきたのか。俺はここのところの体調不良で自宅にて寝込んでいた。

律「起きてるんじゃないですか。開けて下さいよ。」
P「鍵はかかってないぞ。」
律「じゃあ失礼します。」

 ガチャッ。

律「うわっ……」

 律子は洗い場に積まれた食器の山を見て驚きの声を上げた。

律「ちょっと、風邪でダウンしてるって小鳥さんから聞いてたけどこれは
  ないんじゃない?」
P「そう言われてもな……だるくてだるくて洗う気も起きないんだ。」
律「ほんとダメダメですね。そんなじゃ治るものも治りませんよ?」
P「そうは言うけどな……」
律「病は気からですよ!ぐだぐだ言う前に行動を起こす!!」
P「はぁ……わかったよ。」

 俺は律子に促されるまま布団を出て洗い物をしようと……

律「……プロデューサー……」
P「ん?なんだ?」
律「いいから早く着替えて下さい!!まったく……女の子が部屋にいるの
  にも関らずシャツとトランクスのみなんてだらしないんだから……」

 ぶつぶつと文句を言う律子を見て……

P「ほうら律子、ゾウさんだよ〜。」

 俺は思わず某子供向けのマンガのように腰を左右に振ってみた。

律「………蹴りますよ?」
P「ハッハッハ、軽い冗談じゃないですか律子さん。」

 俺は身の危険を感じて素直に行動を止め……寒いので毛布にくるまった。

律「風邪ひいてるのにそんな馬鹿な事するからですよ!まったくもう……」
P「いやはや面目ない……」

 結局俺は律子に洗い物を託して……冷蔵庫に入れてあった缶ビールとつまみ
 を出して昼飯代りに腹に詰め込もうと……。

律「ちょっとちょっと何してるんですか!」
P「ん?ちょっと腹ごしらえを……」

 カシュッ!!

P「おっとっとっと。」

 こぼれそうになる泡を大事そうに口をつけ飲み込む。

律「なんでお酒なんですか!!そんなだから治るのも治らないんじゃないですか!
  それに……うわっ、塩辛ですか……」
P「律子、塩辛駄目なのか?」
律「ちょっとね〜。あの生臭さが駄目なんですよね。」
P「じゃあちょっと試してみないか?この塩辛、普通のとちょっと違うんだ。」
律「え〜?塩辛は塩辛じゃないですか。そんな違いなんて……」

 その発言を聞いて俺はついカチン!と来てしまい……

P「ほぉ……律子は自分で試したことのないものを勝手に見た目とかで評価する
  人だったんだな。ふ〜ん。」
律「うっ……」
P「それに塩辛と言ってもイカ、ナマコ、タコ、エビ、カツオ、カニ、アユ、タイ、
  ホヤ、タラコ、イワシと多数あるんだがな。」
律「まあそれくらいは知ってますけど……」
P「じゃあいっちょ食べてみよ〜!」
律「はい、律子食べまーす!……なんてやるわけないでしょ!!」

 チッ!ひっかからないか。

律「まったく……お酒はストップです!家からお粥を持ってきましたからこっちを
  食べて下さいよ。」
P「お粥かぁ……」
律「嫌なんですか?」
P「そんな事はないが……つい味噌漬けとか佃煮が欲しくなるなと思ってな。」
律「うんうん、昆布の佃煮とかいいですよね!」
P「おっ、律子も話がわかるじゃないか!」
律「そりゃあね。今温めてますからもうちょっと待って下さいね。」
P「ああ、すまんな。」

 俺は素直に礼を述べた。

律「うわっ!プロデューサーが素直に私にお礼を言うなんて!これは大地震が来る
  予兆かしら?」
P「おいおい、何を大げさな。」
律「ふふっ。すぐ出来ますから待ってて下さいね。」

 俺は久々に家庭の温かさを感じたような気がした。

P「律子がいてくれれば俺も安心だな。」
律「こらっ!何言ってるんですか!まるで私に嫁に来てくれって…………」

 そこで押し黙ってしまう律子。

P「お、おい…律子……そこで黙るなよ……」

 俺もつい意識してしまう。

律「あっ!あ〜、吹きこぼれちゃう!」

 律子はドタドタとガスコンロをいじりに行った。

P「やれやれだ。」

 内心ドキドキだったがうまく気がまぎれそうだ。

律「はい、あなたお粥出来ましたよ。」
P「えっ!?」

 俺はつい律子の発言にドキッ!っと……

律「ふふっ、お返しですよ。」
P「おいおい律子〜。」

 二人で顔を見合せ軽く笑い合った後、お粥に手を……

律「ああ、ちょっと待って下さい。おかず1つ持ってきてますから。」

 そう言って律子が出したものは……

P「松前漬けか。この数の子がなんとも言えないんだよな。」

 そういいつつ手元にあるイカの塩辛に手を伸ばす。

律「で、結局それ食べるんですね。」
P「まあだまされたと思って食べてみろって。全然生臭くないから。」
律「本当ですか〜?」
P「ああ。」

 律子は恐る恐る箸を……

律「ちょっと待って下さい。」
P「ん?なんだ?」
律「なんかこの蓋にありえない文字が書かれてるんですけど……」
P「ああ、激辛だからな。」
律「激辛ってこれ塩辛ですよね?そんなにしょっぱいんですか?」
P「いや、塩辛いと言うより本当に辛い。ハバネロ使ってるからな。」
律「え〜?ますます食べる気が………」
P「ええい!四の五のぬかさずにさっさと食べんかい!!」

 俺は無理やり律子のお粥の上に塩辛を置いてやった。

律「あ〜〜!!なんて事を……あれ?塩辛独特の生臭い匂いがそんなにしませんね。」
P「だから言ったろ?生臭くないって。」
律「それになんか変な粒々が見えるんですけど。」
P「ああ、イカの卵入りだからな。」
律「じゃ、じゃあ…ちょっとだけ……」

 恐る恐る口にする律子。

律「……おいしい!……あっ、ちょっと辛っ!」
P「だろ?」
律「意外ですね。プロデューサーがこんな物を知ってるなんて。」
P「まあな。ちょっと送料とかで値が張るんだが、おいしいものには糸目はつけんさ。」

 そういいつつ俺は松前漬けにも手を出す。

P「うん、昆布とイカがいい味してるなぁ。」
律「ふふっ。それだけ食欲が戻れば安心ですね。明日からはちゃんと出て来て
  レッスンとかお願いしますよ?」
P「ああ任せておけ。それでそのだな………」
律「なんですか?」
P「その……さっき取り上げられた……ビールをだな……」
律「う〜ん、どうしようかな?」
P「頼むよ律子〜。」
律「はいはい。この1缶だけですからね。」
P「サンキュ!」

 ごくごくごくごく……

P「ぷはぁっ!腹一杯になったとこでこの一杯たまらんね!!ゲフゥ。」
律「うわっ!もうお酒臭いんだから〜。」
P「いやあすまんすまん。」

 俺は気分が良くなってつい、

P「ほうら律子、ゾウさんだよ〜。ゾ〜ウさん、ゾ〜ウさん。」

 すると律子がおもむろに立ち上がって……

律「いつまでも調子に乗るんじゃない!!」

 ガスッ!!
 律子の蹴りがとある部分に直撃し、俺の頭に星が飛んだ。
 ちょっ!おまっ!そ、そこは……

P「……ぐっ……ぐぉぉぉぉぉぉ!!……」
律「自業自得です。」

−−−翌日−−−

小「プロデューサーさん、昨晩はお楽しみでしたね。」
P「は?何を言ってるんですか小鳥さん。」
小「いえいえ、誤魔化さなくても大丈夫ですよ。昨晩は律子さんと……キャッ!」
P「あのぉ……律子は昨日夕方前に帰りましたけど?」
小「え?じゃ、じゃあ……」
P「またいつもの病気ですか。」
春「あ、プロデューサーさん!」

 俺はいつもの小鳥さんを冷たく放置して春香に応える。

P「おお春香か。久し振り。」
春「プロデューサーさん、律子さんから聞きましたよ。おいしい塩辛をお持ちだとか。」
P「ああ、あれか。」
春「私も食べてみたいな〜なんて……駄目ですか?」
社「うむ、その塩辛私も食してみたいものだ。」
P「あっ、社長!長い事休んでて済みませんでした。」
社「いやいや、元気になって何よりだ。ところで君、その塩辛の件だがね。」
P「は、はぁ………」
社「もしよかったらどこで購入できるか教えてくれないかね?我が社で購入してみようと
  思うんだが………どうかね?」
春「さっすが社長ですね〜。もちろん私にも食べさせてくれますよね?」
社「おお、もちろんだとも天海くん。」
春「やった〜!楽しみ〜☆」
P「じゃあここのURLなんですが……ただ郵パックしかやってないので高いですよ?」
社「まあうまいものに金の糸目はつけない、基本だろ君。」
P「社長、話がわかりますね。」
社「まあ男のロマンって奴かな?ハッハッハ。」
律「なーにがロマンなんだか。」
P「ん?律子何か言ったか?」
律「ああ〜いえいえ別に〜。」

−−−2週間後−−−

社「うむ、では早速開けるぞ。」
春「わ〜、早く食べてみたいですね〜。」
や「塩辛は1パイからでも安く作れるから大好きですー☆」
小「これがあればお酒が進み……ゴクリ。」

 くいっくいっ。

P「ん?律子なんだ?」
律「あれ……なんか嫌な予感するんですけど……だってあの蓋に書かれてる文字…」
P「ああ、超激辛だな。一度食べたことあるが想像を絶するぞ。」
律「あははは……私はみんなが食べた後、激辛を少し貰おうかな?」

 そんな話をしてる中、765プロは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

社「うぬっ!こ、これは……」
小「キャーー!辛い辛い辛い辛い〜〜〜!!」
春「ひらがいらいれふ〜!!ふひのははひほいらいれふ〜!!」
P「うむ、何を言ってるのかまったくわからんな。はっはっは。」
律「ま、興味本位で何にでも手を出すなって事ですね。」
P「ん?やよい……どうしたんだ?」

 俺はふと横でうずくまってるやよいに気がついて声をかけた。

や「ううっ…プロデューサー……私、私、こんなおいしいもの食べたの初めてですー!!」
P「あ〜。」
律「やよい、ご飯用意する?」
や「こ、こんなのをご飯の上に乗っけちゃうんですかっ!!私、死んじゃうかもー。」


おしまい。





戻る
ホームへ