【禁じられた契約】

 バタバタバタバタ!

社「律子君!彼の容体はどうかね?」
律「あ、社長………」

 私は今病院にいる。私の目の前でプロデューサーは車に跳ねられ…

律「医師に聞きましたがまだ意識は戻らないみたいで……」
社「そうか。彼は馬鹿だがとことんまっすぐな男だからな。何か行おうと
  してたんだろう。」
律「ほんとですよ……大馬鹿ですよ………」
社「律子君、君は今日はもう帰りたまえ。」
律「でも……」
社「これは社長命令だ。君も疲れてるだろ?そんな疲れた顔で彼を
  出迎えるのか?」
律「……はい、わかりました。」

 私は渋々社長の指示に従い家路へと着いた。

…………………………

 だが家にいても目の前で車に跳ねられるプロデューサーの姿だけが
 何度もフラッシュバックして何をするにもおぼつかない。

律「私、何やってるんだろう……」

 プロデューサーは仕事上での仲間。そう割り切ってきたつもりだった。
 でもこの喪失感は一体何?胸を締め付けられるような感情は……

律「そういえば……」

 机の上にプロデューサーから取り上げたとあるノートが置かれていた。
 事務所では少し目を通したが家に持ち帰ってからはまったく目を通して
 いなかった。

律「あの人…一体何を考えて書いてたのかしら?」

 ノートの頭から目を通す。ある時はあずささんが、ある時は真だったが
 途中から私主体になっていた。

 雪山で遭難してたり、三日月の形をした島でわらべ唄になぞらえた殺人事件
 に巻き込まれたり、とある洋館で秘伝の薬の秘密を漏らした弟を兄が切り殺し、
 その返り血が葉の模様になったという花にまつわる不思議な体験等々色々な
 話が書き込まれていたがどれもが必ず私とプロデューサーがハッピーエンド
 になる話になっていた。

 読めば読むほどプロデューサーがどれだけ私に対しての好意を持っていたが
 わかる。だがそれは1つ間違えばただの変質者でもあるが……

律「それでも私はプロデューサーの事を好きにはなれない。好きになっちゃ
  いけない。アイドルとプロデューサー、そういう関係なんだから。」

 私はある時から抱いていた淡い恋心のようなものを抑えていた。
 それを誤魔化す為にいつも辛く当たったり、ハッタリで切り抜けて来たのだ。
 そしてある時からその手腕を見習い、いつか自分もと言う夢が出てきたのである。

律「あの人は馬鹿だからそんな事、気付く訳ないわね……」

 あまりにも純粋で一直線(でも大分歪み気味かしら?)な彼の態度に少しずつ、
 少しずつ私は惹かれ始めていた。

律「もしこのままプロデューサーが目を覚まさなかったら……」

 私はなんて事を考えてるんだろうか?そんな最悪な事態は起こる筈がない。
 起きてはならない。

律「私、疲れてるんだわ。少し仮眠を取った方がいいわね……」

 そして私の意識は闇に溶けて行った。

…………………………

 Prrrr Prrrr
 何か音がする……はっ!

律「はい、律子です。」
や「うぅっ、律子さん、プロデューサーが、プロデューサーが!!」

 その悲痛なやよいの声を聞いた時、私の何かが砕け散った。

…………………………

 タッタッタッタ!

律「社長!プロデューサーは?」
社「律子君か!彼は……」

 そう社長は顎で部屋を指し……中からは765プロのみんなの泣き声が
 聞こえてくる。

律「う、嘘……嘘ですよね?社長…」
社「残念だが……」

 社長は全てを語らなかった。
 私は茫然としながらも病室へ歩を進めた。

や「律子さん、律子さん、うわぁぁぁ!!」

 やよいが泣きながら私に抱きついてくる。他のみんなも部屋の端で
 力なくうなだれている。

律「ふふ……ふふふふ……なに寝てるんですか……もう仕事の時間ですよ?
  早く目を覚まして下さいよ……」

 私はベッドで横たわり、顔に白い布をかけられているプロデューサーに
 声をかけた。

あ「律子さん、もういいから…………ね?」

 そう言ってあずささんは背後から私をそっと抱き締めてくれた。

律「ううん、プロデューサーは寝てるだけよ。そうですよね?プロデューサー。」

 言葉ではわかっている。だが頭の中が麻痺していて現実を受け入れられない。

律「プロデューサー、早く起きて下さい。ミーティングの時間ですよ!」

 私の目から涙が止めどなく流れ始めた。私は震える手で白い布を取った。

律「プロデューサー、クリスマス暇だって言ってじゃないですか!私を誘って
  下さいよ!なんとか言って下さいよ!!プロデューサー!プロデューサー!
  あぁぁぁぁぁ………」

 その場で崩れるようにへたり込み、私は現実を理解してしまった。

…………………………

−−−通夜−−−

 私達、765プロの一同は彼を見送っていた。各々涙を流していたり、堪えて
 いたりとそれぞれ対応は違っていたが考えは同じだった。

 社葬と言うこともあり、私は式の最中も受付に立っていた。
 彼のばつが悪そうに微笑む姿の写真が凄く痛々しい。

 もう私の目からは涙はこぼれなかった。いや、こぼれるのを抑えていた。
 ここで泣く訳にはいかなかった。

…………………………

 そして式も終り通夜振る舞いで会場より来客者が去られて行く中、私は
 プロデューサーの元にいた。
 棺に収まったプロデューサーの顔は白くこじんまりとしてとても奇麗だった。

律「プロデューサー、私ねぇあなたに憧れていたの。」

 周りから人の姿が消えていく中、私はプロデューサーに話しかけていた。

律「私これからの道、決めたわ。765プロのみんなを引っ張るプロデューサー
  になってみせる。だから……お願い、最後に力を貸してね。」

 私はそう呟いてプロデューサーと最後の契りを交わした。
 彼の唇はとても冷たく、さっきまで我慢していたが私の目から流れる物を
 止めることはやはり叶わなかった。







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