White Eve

律「今年ももうあと少しですね。」
P「どうしたんだ急に。」
律「去年のこの時期にも話したじゃないですか。そうそう、今年も
  暇ですか?クリスマス。」
P「残念だが今年は先約が入ってるんだ。」
律「誰です?そんな酔狂な事をする人は。まさか私が知ってる人じゃ
  ないでしょうね?」
P「実はそのまさかなんだな。何やら彼氏の真似をしてくれって小鳥さん
  に頼まれてな……」
律「断って下さい。即座に断って下さい。それは罠です。間違いないです。」
P「そ、そうなのか?」
律「当り前じゃないですか!小鳥さんですよ?小鳥さん。これに乗じて
  こっそりと隠し撮りなんかしちゃって脅すに決まってるじゃないですか。」
P「そこまで酷くは……」
律「甘い!甘いですよ!相手は小鳥さん、気をつけないと取って食われますよ?」
P「なんか妙に拘ってるな。もしかして律子、クリスマス予定ないのか?」
律「何言ってるんですか。予定ならしっかりありますよ。プロデューサーと
  ラブラブするって予定が。」
P「そうか、なら仕方ないな。はっはっは。」

 俺は取り上げられたノートの代わりに買った新しいノートに俺と律子の
 歴史の1ページを刻んでいた。

P「むぅ……律子の性格だとここまで押せ押せの性格にはならないか。」

 俺は再び考え直してみる。

律「今年ももうあと少しですね。」
P「どうしたんだ急に。」
律「去年のこの時期にも話したじゃないですか。そうそう、今年も
  暇ですか?クリスマス。」
P「残念だが今年は先約が入ってるんだ。」
律「えっ!?そうなんですか……」
P「うん?何か用事でもあったのか?」
律「いえ……別に……」
P「おいおい、律子の方から聞いてきてそれはないだろう?さ、話してごらん?」
律「嫌です。」
P「嫌ですって……」
律「嫌なものは嫌なんです!プロデューサーが他の女と付き合ってるなんて
  考えるのも見るのも!」
P「おいおいどうしたんだいレディ。お前のハートは既に俺のものさ。」
律「ああっ!プロデューサー!!」

 一旦ペンを置く。

P「なんじゃこりゃ?いくらなんでも豹変し過ぎだろ。しかも俺、何者!?」

 自分で妄想を書いていてなんだが、あまりもの酷さに吐き気がした。

律「今年ももうあと少しですね。」
P「どうしたんだ急に。」
律「去年のこの時期にも話したじゃないですか。そうそう、今年も
  暇ですか?クリスマス。」
P「残念ながら……暇だ。」
律「あっはっはっはっは。やっぱり暇なんじゃないですか〜。」
P「笑うことないだろう。」
律「そんな事言われても〜あっはっはっは。」
P「そういう律子はどうなんだ?」
律「そうね〜なんだかんだ言いながらも私も暇かな?」
P「そうか、じゃあ去年みたいに765プロのみんなでパーティでもやらないか?」
律「いいですね。みんなで盛り上がりましょうか。ふふ、楽しみ〜。」

 いい感じでペンが進んでいる。

P「やっぱりこうじゃないとな。こんな感じなら現実っぽいしな。」
律「プロデューサー、何してるんです?」

 急に背後から律子の声が……

P「い、いや、なんでもないぞ!!」
律「どうしたんです?焦ったような声出して。」

 そりゃあ折角新しいノートを取り上げられたらかなわないからな。

P「いや、今後の予定を考えてたんだ。」
律「そうだったんですか。そういえば今年ももう少しですね〜。」

 ん?この展開はもしや……

P「どうしたんだ?急に。」
律「去年のこの時期にも話したじゃないですか。そうそう、今年も
  暇ですか?クリスマス。」

 ここで回答を間違えられないな。慎重に慎重に……

P「残念ながらな……とっても暇だ。」
律「あっはっはっはっは。今年も〜?」
P「別に笑うことないじゃないか。」
律「そんな事言われても〜あっはっはっは。」

 うむ、いい感じだ。で、次は……

P「そういう律子はどうなんだ?」
律「そうね〜なんだかんだ言いながらも私も暇かな?」

 よし、ここだ!!

P「じゃあ……やらないか?」
律「………………はい?」

 しまった〜〜!!思いっきり前半すっとばしちまった!!
 ど、どうフォローするよ?

P「い、いや、一緒にセッションで『YARA TUM KAHAN?』でもやらないか?
  とか思って………」
律「セッション?『YARA TUM KAHAN?』?なんですかそれ?」

 おおう、どんどん泥沼化していくぜ!

P「いや、そのだな………」
律「ちょっと熱でもあるんじゃないですか?顔も赤いですよ?」

 そう言って律子は俺のおでこに手を当てる。

P「冷たっ!」
律「う〜ん、外から戻ったばかりだから私の手の方が冷たくて
  よくわかりませんね。プロデューサー、ちょっと動かないで下さい。」

 まさか!まさか!律子はおもむろに俺のおでこにおでこをつけてきた。

律「ちょっと熱っぽいですね。」
P「そ、そ、そ、そ、そ、そうかな?」
律「うん、間違いないわ。少しそこのソファで寝てた方がいいんじゃないですか?
  どうせ書類たまってるんでしょ?私がやっておきますから休んでて下さい。」
P「でも……」
律「でもも何もありません!とっとと寝る!」
P「わかったよ。悪いな…律子。」

 そう言って俺は素直に横になる。妄想してただけで別に熱があるとは思えないが。

律「今は季節の変わり目。空気も乾燥してきてますし少しは体調に気を配って
  下さいよ。」
P「ああ、そうだな。」

 カタカタとキーを叩く音がフロアに響き渡る。

…………………………………………

 やっぱり現実は妄想通りにはいかんな。

P「ふぅ……」
律「どうしたんです?急にため息なんかついて。」
P「いやな、どうやったら律子をクリスマスに誘えるか考えててな……」

 俺は妄想と現実がごっちゃごちゃになりながらつぶやいていた。

律「ふ、ふ〜ん……なら素直に誘えばいいんじゃないですか?」
P「素直にってな、それが出来たら苦労はしないさ。」

 ん?俺は誰に話してるんだ?小鳥さんだっけ?

律「…男の人ってみんなそんな感じに考えてるんですかね?」
P「ん〜どうだろう?」
律「で、なにか私に言うことあるんじゃないですか?」
P「ん〜そうだなぁ………ん?」

 ふと気付く。さっきから話している相手って小鳥さんだったっけ??

P「ゲッ!り、律子……」
律「なんか私をクリスマスに誘いたいとか言う単語が聞こえてきたような
  気がしたんですけどね。」

 間違いなく怒ってる気がする。

P「い、いやそのな………」
律「つまりプロデューサー殿はスケジュールを考えるよりも私を口説く事
  に集中してる、と言うことですね。」

 パキッ、パキッ。
 なんか指が鳴ってるような音が上から聞こえて………

P「り、律子さん?」

 うん、傍に立った律子のこめかみには間違いなく怒りマークが見える。
 だがこの下から見上げる光景なんとも言えんな。
 この2つの緩やかな丘陵がまた絶景、絶景。

律「ど こ を じっくりねっぷり眺めてるんですか、こんの変態プロデューサー!!」

 ゴス!!律子の肘が俺の顔面にめり込む。

P「グォォォォ!!」
律「自業自得です!」

 そう言って律子は部屋から出て行ってしまった。

P「あいたたた……しまったな……」

 妄想していた展開どころか完全にBAD ENDじゃないか。

P「待ってくれ、律子!」

 俺はすぐさま律子の後を追って外に出た。

P「おいおい、どうも今日は寒いなと思ったら……」

 外は既に暗くなっており、雪がちらついていた。

P「今夜はきっと誰もに幸せ訪れる空から天使の羽が舞い降りた…か。」

 俺は今度の新曲の歌詞を口にしつつ律子を探した。
 ただやみくもに俺は走った。

P「あれは……」

 通りの向こうに見慣れたコート姿が見えた。

P「律子!」
律「来ないで下さい!」
P「どうしてだ?」
律「私達は仕事上の付き合い。それ以上もそれ以下もあっちゃ駄目なんです!」
P「何故だ!?」
律「なんでわかってくれないんですか!」
P「わかってたまるか!俺には律子が必要なんだ!!」

 俺は周りを確認もせず道を飛び出しそして……
 ププーーーー!……キィィィ……ドンッ!!


つづく





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