大迷惑

P「これが俺達だけの事務所だな。」
律「ええ。まだ他のみんなのプロデュースを見る事もあるけどね。」

  律子のラストライブから半年。765プロとは分社的関係で提携している為、
  俺は社長となってもまだ765プロの千早や真達の面倒を見ている。
  ただ・・・大分都心からは離れているのが問題だ。

P「まあ夢にまで見た事務所だしな。地理的問題は多少目をつぶるか。」
律「そうですよ。あ!社長、見て下さいよ。」

  律子に言われて窓辺に近付く。なんとも素晴らしい青空が広がっている。

P「よし、これからも気合を入れて頑張るぞ!!」
律「そうね。あ、今からコーヒー入れるわね。」

  そう言って律子はエプロン姿でコーヒーを入れに行く。
  ああ、こんな日々がいつまでも続けばいいのにな。
  新たな事務所といってもすぐ仕事が来るわけでもなく、
  まだ片付かない荷物を片付けつつ今はこの至福の時間を過ごしている。

律「ねぇ。」
P「ん?なんだ?」
律「こうポカポカした陽気だとついお昼寝しちゃいたくなるわね。」
P「ふむ、いい考えだな。今日はいっその事お昼寝しちまうか。」
律「駄目駄目。まだ全然片付いていないじゃない。」

  いつものようにかたい事を言う律子。だがこの窓から挿す太陽の誘惑には
  耐えられなかった俺は……

P「問答無用!さあ、お昼寝だ。」

  そう言って律子を抱きかかえて窓辺に寝っころがる。

律「キャッ!……もう、強引なんだから。」
P「まあそういうなよ。仕事がバンバン取れるようになるとそうそう顔を
  合わせてとかするのも厳しくなるんだ。少しでも律子といる時間を
  楽しまさせてくれよ。」
律「もう……バカ。」

  そんな幸せの時間を1本の電話が引き裂くのだった。

律「はい、766プロです。あ、高木社長!お久しぶりです。え?はいはい
  今代わります。」

  電話を保留する律子。

律「高木社長からよ。『元気にしているかね?』だって。変わらないわね〜。」
P「ははは。はい、御電話変わりました。はい、はい……ええっ!!
  はい、はい……はい……わかりました。」

  ガチャ。

律「どうしたの?」
P「実はな……千早の海外デビューでどうしても手が足りなくて俺に一緒に
  ついて行って欲しいんだと。」
律「とうとう千早も海外デビューか〜。それでどのくらい?」
P「それが……3年2ヶ月もなんだ。」
律「ええっ!!」
P「まだ他に仕事もないし、これからの事を考えるとまず資金確保は必要だな
  と仕事を引き請けたよ。」
律「えっ………そ、そうなんだ。」
P「ああ。」
律「じゃ、じゃあ……私も一緒に」
P「それは駄目だ。」
律「なんでよっ!」
P「律子には俺がいない間、この事務所を守っていて欲しいんだ。必ず、
  必ず戻ってくるから。」
律「ふぅ……あなたがそう言い出したら聞かないって事はもうわかってるわ。
  絶対に帰ってきてね。」
P「ああ、約束だ。」
律「逢いたいのに逢えなくなる、なんだかロミオとジュリエットみたいね。」
P「ああ……」
律「ねぇ…」
P「なんだ?」
律「そんなに悲しい顔しないでよ……」
P「お、俺がか?」
律「ええ。なんかもうこの世の終わりみたいな顔してるわよ。」
P「まあ、そうかもな。律子と離れ離れになるんだからな。」
律「んもう…でもそうね……仕事とは言えこの電話は正に大迷惑って感じよね。」
P「ああ…」

  当面俺は律子をこの手で抱きしめたり寝顔をみつめたりもできなくなるのか。

律「えっ!?ちょ、ちょっと、何泣いてるのよ!」
P「へ?」

  気付かないうちに俺は涙を流していたらしい。そこまで俺にとって律子の
  存在が大事だったのか。

律「大丈夫よ。私はちゃんとあなたを信じて待ってるから。ね?」

  そう言って律子は俺をギュッと抱きしめてくれた。





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