SNOW AFTERNOON

P「なあ律子、雪歩みなかったか?」
律「雪歩…ですか?そういえば今日はまだ見てないわね。またどこかで
  穴掘ってるんじゃないですか?」
P「『穴掘ります〜埋まっておきます〜』と言う感じか。」
律「そうそう。あれ?掲示板見て下さいよ。」
P「なになに?萩原、萩原っと…休み、雪歩は今日休みか。じゃあ仕方
  ないな。すまんな、律子。」
律「いえいえ。」

 この時、誰もがこの事態を予測する事は出来なかった。

−−−翌日−−−
P「あれ?今日も雪歩休みか。おはようございます、小鳥さん。雪歩から
  何か聞いてます?」
小「おはようございますプロデューサーさん。雪歩ちゃんは……ちょっと
  困った事があって…」
P「え?なんですか?」

社長「かいつまんで説明しよう。どうも萩原君は自信が無いと自宅に完全に
   引篭もってしまったようだな。ううむ、困った物だ。」

P「はぁ、なるほど。そういう訳だったんですか。」
小「そうなのよ。このままじゃ雪歩ちゃん、765プロ辞めちゃうかもしれ
  ないわね。」
P「それは困りましたね。」
律「今の話本当ですか?」
P「律子…」

 実は律子と雪歩はデュオを組んでいたのであった。

−−−萩原家−−−
TV「悲愴感〜悲愴感〜このチャンスだけは
   死んでも放さない〜すがりたい〜♪」
雪「うぅぅ……私には無理ですぅ……すがれるものもないんですぅ…」
母「雪歩。プロデューサーさんから御電話入ってるけどどうする?」
雪「プ、プロデューサーから?わ、私体調崩してるって言って。」
母「んもう。あ、すみません。雪歩なんですがちょっと体調崩してまして…」
雪「うぅ…私駄目駄目な子ですぅ…」

−−−再び765プロ−−−
P「駄目だな。雪歩はまったく出ない様だ。」
律「じゃあこのままじゃあ私のデビューはまたお預けですか?」
P「ああ、そういうことになるな…」
律「そういうことって…ちょっと、プロデューサー!もっとしっかりして
  くださいよ!雪歩の家ってどこです?直接乗り込んでやるんだから!」
P「まあ待て。もうちょっと様子を見てだな」
律「待ってられませんよ!私の芸能界初デビューなんですよ?そりゃあ容姿とか
  ダンスとか歌唱力とかまったく魅力になるものが何一つないですけど、何も
  始めずに終わるなんて納得できません!」
P「(いや、魅力は色々あるじゃないか…)しかしだな…」
律「ああ、もうっ!小鳥さんっ、雪歩の住所教えてくださいっ!」
小「えっとぉ…」

 ちらちらと俺の方を見る小鳥さん。

P「ふぅ。わかったよ、律子。ただ圧倒されるなよ?」
律「当然!雪歩に圧倒されるどころか論破してやるんだからっ!」

 そう意気込む律子だったが俺はまったく違う事を考えていた。
 間違いなく驚くだろうな……

−−−萩原邸−−−
律「こ、ここが…雪歩の家…ですか?」
P「ああ。驚いただろ。」

 律子がびっくりするのも無理は無い。雪歩の家は純和風の家で蔵も庭もある
 大豪邸だからだ。庭には池もあって鯉が泳いでるくらいだからな。

P「どうした?怖じ気付いたか?」
律「そ、そんなことないですよ。じゃあ行きましょ。」

 2人で門をくぐって玄関まで向かう。玄関の開き戸がまたなんとも言えない
 雰囲気をかもし出している。

P「ごめんください」
母「は〜い。あらあら、雪歩のプロデューサーさんですね?すみませんねぇ。
  あの子ったらまったく……あら?そちらのお嬢様は?」
律「は、初めまして。私、秋月律子と申します。雪歩、いえ、萩原さんの一応
  パートナーと申しますかその……」
P「実は雪歩とこの律子でデュオを組んでおりまして。」
母「あらあら、そうだったんですか。あらいやだ、玄関で立ち話と言うのも
  なんですのでお上がり下さいな。」
P「はい、失礼致します。」
律「お邪魔致します。」
母「狭い家ですがこちらの居間でお待ち下さい。今雪歩を呼んで参りますので。」
P「恐縮です。」
律「すみません。」

 通された居間は本当に純和風な畳張りの部屋だった。部屋の区切りは障子と襖
 で区切られており、雪歩のお母さんは更に廊下を奥に歩いていった。

律「ちょっと、プロデューサー。」
P「ん?どうしたんだ?」
律「雪歩の家ってこんなに大きかったの?」
P「なんだ、やっぱり怖じ気付いたのか。」
律「そういうわけじゃあ……あるけどぉ…」

?「いやですぅ!私、もう駄目なんですぅ!」
 大きな叫び声が聞こえてくる。これは間違いなく…

律「今の、雪歩よねぇ。」
P「ああ。俺達が来た事に思いっきり拒否反応示してるようだな。」
律「どうします?」
P「どうって…律子が『直接乗り込んでやるんだから!』って意気込んだんだろう?」
律「それは……そうですけどぉ…」

 トトトトト

母「すみません、うちの子が。あそこまで意固地になる事なんてなかったのに
  本当にごめんなさいね。」
P「いえいえ。お母さんが謝られることじゃないですから。それに雪歩もきっと
  デビューと言う事に戸惑っているんだと思いますよ。」
母「デビュー…ですか?あの子が?まあまあ(ニコニコ)」
P「そういうことですの今日はお暇させて頂きますね。」
律「ちょ、ちょっとプロデューサー!」
P「ん?どうした?」
律「どうしたもこうしたもないですよ!じゃあ何の為にここまで来たんですか!」
P「と言ってもな、雪歩があの調子じゃどうしようもないだろ?」
律「でもぉ…」
母「あのぉ、秋月さん…ですよね?雪歩の部屋に御案内しましょうか?」
P&律「えっ!?」
母「流石に殿方を年頃の娘の部屋に上げるのはちょっと…ですがあなたならばと。」
P「どうする律子?」
律「とーぜん!お願いできますか?」
母「ではこちらへ。プロデューサーさん、すみませんね。」
P「いえいえ。当然の御配慮です。気にしないで下さい。」
母「そういって貰えると助かりますわ。」

−−−雪歩の部屋−−−
母「雪歩。秋月さんがお見えよ。」

 部屋に入った途端もぞもぞと動く不思議な布団があった。
 ……もしかして雪歩?

雪「帰ってくださいぃ。私はもう歌いたくないんですぅ!」
母「雪歩!もう…」
律「すみません、ちょっと萩原さんとゆっくり話をさせて頂いてもよろしいですか?」
母「ええ。じゃあ私は居間に戻りますね。」
律「すみません。」

 トトトトト…

律「雪歩…そんなに私と歌いたくないわけ?」
雪「私なんてちんちくりんだし、胸もぺったんだし、歌もうまくないし、こんなので
  人前でなんで歌えないですぅ…」

 布団から顔をひょこんと出して話す雪歩。ちょっと可愛いかも。

律「はぁ〜。雪歩も私とまったく同じこと考えてたのね。」
雪「え?」
律「私もね、容姿とかダンスとか歌唱力とかまったく魅力になるものが何一つなくて
  自信の欠片なんてまったくないわよ。」
雪「でも律子さんは私よりも胸も大きいししっかりしてるし……」
律「本当にそう思ってる?」
雪「違うんで……あっ!」

 雪歩は『違うんですか?』と言いたかったが気付いてしまった。
 わずかに、本当にわずかにだが小刻みに震えてる律子の身体を。

律「本当はね。私も全然自信なんかないのよ。でもこれから芸能界に出るんだから
  少しでも、少しでもいいからハッタリでごまかそうとしてるのよ。」
雪「ハッタリ…ですかぁ?」
律「そう。だって私達、これからが初デビューじゃない。まだ何も知らないド素人
  となんら変わりないわ。何も出来なくて当たり前じゃない。せめて態度だけでも
  ごまかすくらいしか出来ないじゃない!」

 律子さんはそう叫ぶと顔を背けてしまった。私、私、自分だけが駄目だと思ってた。
 でも違うんだ。律子さんも同じだったんだ…

雪「そ、そのぉ…わ、私にも…ハッタリって出来るでしょうか?」
律「雪歩……」

  ガバッ!

雪「あ、あ、あ、あのぉ、り、律子さん〜」
 急に律子さんに抱きしめられてしまいました〜。律子さんやっぱり震えてる…
 私にも何か出来ること、出来ること……

雪「律子さん、わ、私少しだけですけど頑張ってみますぅ。全然自信ないけど。」
律「……馬鹿。自信ないなんて当たり前でしょ。」

−−−居間にて−−−
母「でも本当にあの子がデビューなんて大丈夫なんでしょうか?」
P「大丈夫ですよ。その為に俺がいるんですから。しっかりと裏から支えますよ。」
母「そうですか。引っ込み思案でちょっとおとなしすぎる子ですがよろしくお願い
  しますね。」
P「任せてください。出来る限りのことはします。」
母「それと……うちの夫はまだこのことを知りませんので気をつけて下さいね。」
P「気を付け……ですか?」
母「ええ。おいおいわかるとは思いますわ。」
P「なんだかよくわかりませんがわかりました。おっ、律子。戻ったか。雪歩…」
 居間に律子と一緒に雪歩も入ってきた。

雪「プ、プロデューサーさん、ご、ごめんなさいですぅ……そ、そのこんな私
  ですが、よ、よろしくお願いしますぅ。」
律「ま、そういうことよ。よろしくね、プロデューサー殿。」
P「あ、ああ!任しておけ。お前達は俺が必ずトップアイドルまで育ててやる!
  自信ないけどな。ハハハ。」
律「んもう。なんでここでそんな事言うかなぁ。ビシッと締めなさい!ビシッと!」
雪「ふふ、うふふふふ」
P「ははははは」
母「ところで…雪歩。さっきまるでプロデューサーさんに嫁入りするかのような
  事言ってたけどお父さんになんて説明するの?」
雪「えっ!?あっ……お母さ〜ん><」

 雪歩は顔を真っ赤にしたと思ったらあっと言う間に真っ青な顔して泣きじゃ
 くってる。

P「まあ俺にかかれば大丈夫です。泥舟に乗ったつもりでドンとこいだ!」
律「プロデューサー、泥舟じゃなく大船でしょ?まったくもう…」





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