至仏山  2001年8月31日夜行〜9月1日

鳩待峠〜至仏山(往復)


 ひょんなことから母と2人で至仏へ登ることとなった。
尾瀬方面行きの夜行バスに遅れそうになって、必死に地下道を歩いていると、前を歩く女性に何だか見覚えが・・・。追い抜きながら振り返るとやっぱり!

 「あれ、Sさん!」「あら。」「どちらへ?」「至仏へ。」「え、同じですね。」「Oさんと一緒に湯の小屋まで行くのよ。」・・・ということで、バス会社は違うものの、行き先はほぼ同じ。誰かに会うかもしれないと思ったが、Sリーダーに会うとは思わなかった。が、何だか嬉しかった。

 出発時間には何とか間に合い、大型バスも満席ではなかったので、2人がけに1人ずつ座って、さっさと寝る支度。この辺は慣れたものだ。・・・いつの間にかよく寝ていたらしい。眠いな〜と思いつつ、バスを降りたのはもう戸倉の駐車場だった。星がきれいだ。

 ここで小型バスに乗り換える。各社の尾瀬行きの大型バスが着いて、順次乗り換えていく。別のバス会社の乗客と相乗りになる、と思ったら目の前にOさんが!
「あら〜、お久しぶり。」・・・去年の岩木山例会で母が大変御世話になった1人でもある。同じ小型バスになった。中にはSさんも。4人揃うとちょっと例会の気分。母も勿論、再会を嬉しがっている。

 さて、4:30に乗り換えて鳩待峠へ向かう。まだ頭も体も眠っているが、いつもの調子で車中でおにぎりでも食べようかな・・・と思うが、誰もそんなことはしていない。一応用意だけして、いつでも食べられるようにしておく。

 そのうち、前を見ていると、遊園地のティーカップのように目の前がグワ〜ンと回転する。あっちへグワ〜ン、こっちへグワ〜ン。
 呑気な私はわーすごいすごい、と思いながらも、いよいよ山だなあ、とうとう尾瀬に来たなあ、とまだ寝ぼけた頭でぼーっと考えていた。
 30分かかるっていうから、時間節約にやっぱり食べようかなあ、なんて考えていると前後でビニール袋を開くバリバリという音がする。

 「やっぱり皆も食べるんだな、じゃ、おにぎりを出すか。」と考えたのだから私も相当に頑丈にできている(のか無神経というか鍛えられているというか)。
その意味がわかったのはすぐだった。

 「うっ!」といって袋を抱えている人たち。そうか、そうだろうな。凄いカーブだもの。そうなると、とたんに気が弱くなる。見ていると私まで酔いそうだ。
 が、あっという間に鳩待峠へ。実際には誰もビニール袋のお世話になった人はいなかった。やれやれ、皆さん、ご苦労様。

 降りたらまだ真っ暗。みんな「鳩待食堂」へ入っていく。Sさんたちも入ったようだ。外のベンチに座っておにぎりを食べようとするが、だんだん寒さが骨身にしみてくる。中を覗きにいくと、机の上に「お弁当などの持込お断り!」と貼ってある。
 気の弱い私は、ま、いいや、お湯のポットもあるし、とウィンドブレーカーを一枚羽織って食べ始める。

 すると手が震えてくる。体もガタガタ震えてしまう。
母はというと、乗り換えの戸倉で既に寒い寒いといって、雨具の上着を着こんでいるので、それ程でもないらしい。
「寒そうだね、大丈夫?」「うん大丈夫だよ。」と見栄を張るが、震える体はごまかせない。
まだまだ9月1日とはいえ、標高1600m弱で朝5時は予想以上に寒い。

 5:30になった。まだ暗いながらも支度をして、先ずは標識と地図でしっかり確認して、確かに「至仏山登山口」から入る。真新しい登山ポストがあるので届を記入しようとするが、手が震えてうまく書けない。
 入るとすぐに人数をカウントするセンサーが設置してある。環境保護のデータ用だろう。

 初めは夜露なのか雨の名残か、時々上から水滴がパラパラと降ってくる。2人並んで歩けるような広い整備された道を行く。
 そのうちには明るくなってきて、後から来る男性単独行氏を「お先にどうぞ。」と通したり、なぜかゆっくりガイド付きで上る数人のグループを追い越したりして、ゆっくり話ながら歩いていく。本当にゆるやかなよい道だ。

 道は時々木道になって、高度を上げていく。初めて尾瀬ガ原方面の視界が開ける。眼下の尾瀬ガ原はガスの中、燧ケ岳も頭は雲の中だ。が、朝もやの光景はいつ見ても美しい。


<尾瀬は全てガスの中。>

 どんどん明るくなって、気温も上がってきた。母の雨具を脱がせ、休憩する。と、さっきの一団が追いついてきたので、お先に、と言うと、「またお会いしましたね。今日は抜きつ抜かれつ、ですな。」と笑いながら返答が。
お連れがあるのは大歓迎、2人だけでは寂しいので、こちらにとっても好都合。

 コースは整備が行き届いている。初めのうちこそ樹林帯の中で余り展望はなかったが、一旦視界が開けると、あとはどんどん景色が広がって、はやくも180度は周囲の山々が姿を表す。こんなとき、20万分の1の地勢図が欲しい!

 順調に湯の小屋方面への分岐も過ぎるとオヤマ沢田代に入る。


<標識はよく整備されている>

 あたりが急に開けて、開放感一杯の道となる。かわいい湿原(オヤマ沢田代)を抜けると目の前に山が聳えている!これが小至仏山だろう。


<小至仏山を臨む>

 分岐から3分くらいでこれまたお誂え向きの休憩所がある。ベンチもたくさん並べてあって、尾瀬沼方向がよく見える。ここで大休止。


<ガスの晴れた尾瀬ガ原と燧ケ岳>

 絵に描きたいくらいの展望、「展望派の"私"は大満足である。」・・・えっ、どこかで聞いたセリフ?!
 夜行明けの母の体調から、30分ごとに休憩している割には、ここまでほぼコースタイムで来たのだから不思議だ。順調すぎるくらい。

 さ、目の前の小至仏へいざ、と歩き出す。真新しい木の階段は歩きやすい。途中で振り返ると、向こうのギザギザは、八海山?


<小至仏山への途中から振り返る>

 青い空がもう秋だ、と教えてくれる。
小至仏山への道はどうやら岩場に変わるらしい。そろそろ要注意かな。
目下母はご機嫌麗しく、この花は何?と言ってはちゃっかり足を止めて休憩している。ま、いいか。ノンビリ行こう。


<大公開!母の勇姿?>

 木道の端にはかわいらしいアザミも咲いている。これはバスに載る時に配られた尾瀬の案内パンフレットにある、オゼヌマアザミだろうか?


<アザミの花>

 階段を上るとさすがに母も息が切れる。休み休み登ると小至仏山頂へ。ようやく目指す至仏山頂が姿を現した。


<向こうが至仏山頂>

 至仏山頂へは一旦少し下ってまた登り返す。岩くずの道を行く。コースタイムでは30分となっているが・・・。


<至仏への道>

 あちこちにシャジンが紫の花を咲かせ、励ましてくれる。ついつい何度も同じ花の写真を写してしまう・・・。


<これは何シャジン?>

 ここらで後にSさん、Oさんの姿が目に入ってきた。出発時間が多分かなり遅かったのだろう。いつ追いつかれるかな〜と思っていたが、案外遅かった。しかし、岩場になってもたもたしているうちにあっという間に追いつかれる。
「あら〜、速かったじゃない?」
「出たのが早いので。」
「お母さんのザック、先に持っていきましょうか?」
「いえいえ、とんでもない。」
「一緒に行きましょうよ。」
「こっちはノロノロですからどうぞお先に。」
多分山頂で会えるだろうと考えて、またマイペースで進む。見る見るうちにお二人は登っていく。

 だんだん岩が多くなり、乾いていても蛇紋岩は噂にたがわず滑る。母の足もとは心許なく、ペースはガックリ落ちる。手足を使って岩場を通過する箇所が増えてくる。
 至仏山の手前に小さなピークがあって、それを越さないと本山が見えないのはよくあるケースではあるが、この足取りではまだまだ至仏山は遠い。お二人は分岐あたりにザックをデポしたらしく、背中も軽いので飛ぶように登っていくのがよく見える。遥か彼方に行ってしまったようだ。

 何人もの登山者に道を譲って、慎重に慎重に岩場を通る。といっても初級者でも全く危険のない箇所であるが、経験の浅い母には大変である。

 ようやく山頂に辿り着いたときには小至仏山から1時間が経過していた。(コースタイムは30分。)
ありがたいことに、お二人は私たちを待っていて下さって、山頂の大きな石の柱の前で記念撮影をしてから、名残を惜しんで、また飛ぶように降りていく。
私たちは当然ここで大休止。9:05になっていた。

 だんだんガスが上がってきて、周囲が見えなくなる。
山頂は大賑わい。比較的広いので思い思いに場所を占めて休憩中。
私たちは熱いコーヒーを飲むべく、持ってきたガスコンロに火をつけると、何だか周囲の視線を感じる。そうか、初心者が多いのでこんなことをする余裕がないのだろう。
ゴーというガスの音。何だか、いっぱしの登山者になった気分だ。

 優雅なコーヒータイムを楽しんで、35分の大休止を終え、下山にかかる。鳩待峠のバスの集合時間は13:10なので、余裕があれば山ノ鼻への下山も考えたが、、蛇紋岩で滑り易く、鎖場もある急斜面と聞いているのであっさり諦め、ノンビリ元来た道を行くことにする。時計の針は9:40、さあ下山だ。


<至仏〜小至仏の山稜>

 すっかり満足してルンルン歩こうとするが、振り返ると母が遅れている。
下りに"超"弱いことがはっきりする。見ていると足元がふらふら、ストックもあらぬ所についている。つい、キツイ調子で注意してしまうが、これも老化現象の1つ、脚力の低下は仕方ないものだろう。

 ガスが上がってきて時々視界が利かなくなる。時々登ってくる登山者と行き違いながら歩いていると、向こうから来たグループが「今むこうに小熊がいましたよ。」と事もなげに言う。
え、クマ?!
「こんなちっちゃな熊。」・・・太った猫くらいの大きさを示している。
ガスの中、あと500m高ければ、出るのは雷鳥かもしれないが、ここで熊!?

 急に怖くなる。思わず前後を見渡すが、周囲に人気が無くなっている。
困ったなあ、どうしよう!
確かに前のピークがガスに包まれ、熊が出そうな雰囲気になってきた。
そこでハタと思いつく。
そうだ、ベルはないが笛なら持っているぞ!
北海道でIリーダーが熊避けに笛を吹いて歩いていたっけ。・・・非常時用にと笛を持っているのでザックの中からゴソゴソと探し出す。不安げな母の顔。

ピッと吹き吹きおっかなびっくり歩く。ヤだなあ!出ないでね〜!

時々「特急」さんに抜かれるとちょっとほっとする。が、また2人ぼっちだ。こんな時は、皆でぞろぞろ歩く例会山行が懐かしい。
おそるおそる進む。3分ごとにピッ!と吹く。そんな折に限って前から突然登山者が現れてちょっと恥ずかしい。

 やっと目の前に、明るい小至仏の山頂が見えて本当にほっとする。足場の指示を出しながら母のペースで歩いているうちにやっぱり1時間経過。コースタイムは下りなので20分。何と3倍の時間がかかった計算だ。ふ〜。時計はもう10:40になっている。

 ザックを降ろしてまた水を飲む。どうやら小熊ちゃんはママの元へ帰ったようだ。
 小至仏からはまた木の階段。母もようやく普通に歩けるようになってきた。
行きに大休止した休憩所でまた休む。これから登るグループが休んでいる。

 目の前に広がる尾瀬の光景は本当に素晴らしい。急いでも仕方ないのでザックから食料を出して、おやつだかお昼だか分からないが、おなかにいれる。
 時間調整がてらここで20分休憩。11:25に出発とする。

 休憩所から3分で湯の小屋分岐。SさんOさんはどこまで行ったかなあ。

ここからはまた少しずつ視界が狭まる。登ってくるひとが少ない。また怖くなってくる。赤い笛を握り締める。

 見覚えのある景色の中を下っていく。樹林帯に入る。アキノキリンソウの黄色が鮮やかだ。足元が木道になると「鳩待峠あと2K」の標識。
 日が高くなって暑くなってくる。


<行きはよいよい、帰りは・・・>

 朝の光線と違うので景色も大分違って感じるが、やはり一度通った道はほっとする。タケシマランの赤い実を見つけたり、ツルリンドウを見つけたりしながら降りる。どんどん傾斜が緩くなり、道が広くなりだすと「あと1K」。案外距離がある。

 すっかり樹林帯を行くようになると土の道が殆どになる。もうすぐ、もうすぐ、と思いつつも、まだ熊が怖い。そう言えば、以前尾瀬の木道で熊に遭ったという事故がニュースになったっけ。いるんだなあ、沼にも。

 何となく不安を抱えて2人で降りる。そろそろかな、そろそろかな、と考えて歩いていると、チチチ、ツピツピ、と小鳥の集団が渡ってくる。目の前の枝に数羽が止まってさえずっている。かわいいな〜。シジュウカラより小さいから、コガラかヒガラか。ウグイスもいる。警戒心もないようだ。

 小鳥の声に励まされているうちに時計を見ると高度も大分下がって、もうすぐだろう、と思うと何だか女性の声がしてくる。見ると3人の女性が道に座っておしゃべり中。しかもハイキングというよりはウオ−キングといった格好だ。

 「あの〜、この道は山ノ鼻への道でしょうか。」「至仏山荘へ行きたいのですが」・・・「これは至仏山への登山道ですよ。」
お友達と尾瀬へ行くことになったものの、計画した人が不参加となってよく分からないまま、登山道へ入り込んだようだ。そう言えば、入口に「至仏山経由山ノ鼻」とあったような・・・。

 地図を広げて確認しつつ、「鳩待峠からまっすぐ1時間で山ノ鼻ですよ。一緒に戻りましょう。」と歩き出すと程なく鳩待峠へ。行き先を確認して「こちらですよ。」と教えると感謝しながら至仏山荘目指して歩いていった。先週の三頭山山頂の自分の姿を思い出す。

 降りてきた鳩待峠は朝と別の場所のように感じる。明るく広い。時刻は12:50、「鳩待食堂」でゆっくり昼食としよう。
 食券を買う。味噌汁300円(だったかな)、豚汁、けんちん汁共に500円。朝、みんなはこの味噌汁を頼んで、持参のおにぎりを食べていたようだ。次回はこれにしよう。

 余り空腹でもないので豚汁とけんちん汁を頼む。どちらもレトルト。具の多さからけんちん汁の方をお奨め。オバサンたちは「何だ、また汁だけか。」とのたまう。ちょっとむっとする。いつも登山者がすうすうしく味噌汁だけで居座る、と感じているのだろう。

 トイレによる。食堂の裏手にあるが、これがとても綺麗で清潔。勿論お金を箱に入れましょう!ありがたいですね。
 表でバスを待つ。また戸倉まで小型バス。定時の13:10に乗って、戸倉へ。なんと大型バスなのに乗客は、大清水からの2人と戸倉の私たちだけ。4人で貸切!

 沼田あたりで右手に立派な山が見える。どこかなあ・・・。あれ、あの飛び出した部分は・・・獅子岩?ということは、子持山?
自分が登った山が分かるのは嬉しいものだ。左手のぼこぼこした山塊は・・・赤城かな。

 夜行の疲れもあり、冷房も効いて車内でぐっすり。寝ぼけ眼のうちに新宿へ着いた。

 至仏は天気さえよければ初心者に最高の山だ。また行ってみよう!


<参考コースタイム> 初心者・高齢者はご参考までに。
               なお、コースタイムとは歩行時間の合計です。
               休憩時間は含みません。ご注意ください。

  鳩待峠 オヤマ沢
田代
小至仏山 至仏山 小至仏山 オヤマ沢
田代
鳩待峠 合計
コースタイム   1:20 0:30 0:30 0:20 0:20 1:00   4:00
我々のタイム   1:30 0:35 0:55 1:00 0:20 1:25   5:45

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