常念岳・蝶ヶ岳  2001年7月26日夜行〜28日

 常念岳: 一ノ沢〜常念岳
 蝶ヶ岳: 常念小屋〜常念岳〜蝶ヶ岳〜三股


 いよいよ夏山本番、北アルプスである。今回は私には珍しく2度目の山、常念岳2857mと蝶ヶ岳であり、4年ぶりとなる。
 前回は山歴2年目、近ツリのツアー登山で中房温泉に前泊し、合戦尾根から燕岳、燕山荘に泊まって、常念小屋に泊まって、横尾に下りて横尾山荘に泊まって、という行程だった。あれから私なりに随分パワーアップ??したはずなので、それを確認する密かな楽しみもあった。

 さて、例によって夜行マイクロバスで一ノ沢へ。う〜ん、眠い。
舗装の切れたことろから先は乗用車のみ、とのことでバスを降りて暫く歩く。山岳補導所へ来てみれば、Uターン出来るように駐車禁止スペースまであって、何だ、これならバスでもここまでOKだったのに。後から来たアルピコ交通の車に聞いたのに、そうは教えてくれなかった。(意地悪!

 このコースは初めて。沢沿いに歩くので、気持ちがいい。少しガスってきて、涼しいのも有難い。鳥の声もし、水音も聞こえ、みずみずしい緑が迎えてくれる。
・・・が、背中が妙に重い。何だか体も重い。ザックを35Lから45Lに変え、さらにテルモスだけでなく、冷水用のポット(500ml)まで持って、水分だけで合計2L。これだけでいつもより2〜3kgは重いはずだ。しまった!もっとよく考えて極力軽くするのだった。
悔やんでももう遅い。半分諦めて歩きつづける。

しかし、コースは本当に良い。林道歩きから花、花、花。目にも優しいお花畑。

 珍しい花では、センジュガンピ、オニク、さらにはムシトリスミレも咲いていた。

<ムシトリスミレ>

 沢沿いなので水は豊富。最後の水場で水筒を満たして小休止。このコースはなかなかお奨めである。明るく開けていて、登るほどに常念への期待を高まらせてくれる。ここまで歩けば小屋まではあと少し。

 背中が余りに重いので、小屋も近いことだしと、ここで水筒から500mlの水をこっそり捨てることにした。捨ててもまだ1.5Lはある。しかし、背負うと気のせいか、少しだけ軽く感じる。・・・あと少し、頑張らなきゃ。



<最後の水場にて>

 最後の難所?「胸突八丁」は、名前ほどではなく、段差は階段状に整備されており、特別大変とは感じない。ゆっくりゆっくり足を運べば、いつの間にか砂礫の乗越が見え、もうそこは常念小屋なのであった。昼前に到着である。

 常念小屋は赤い屋根の山小屋で、そのバックには槍ケ岳が大キレットを従えて横たわっている。この景色がここまでの標高差1266mの登りの疲れを癒してくれる。

<常念小屋>

 昼前だが小屋に入れてくれたので、中で昼食。あとは空身で天気のよいうちに、常念を往復することに。山の天気は分からない。あす絶対に登れるという保証はない。台風はどうなったのだろう。

 合羽と水を持って、身軽に常念を目指す。小屋から見えるのは頂上ではない。三段構えになっていて、「あそこがピークかな?」と思うとはぐらかされる。
 頂上が近づくとさらに岩が大きくなる。やはり午後になるとガスが出て、展望は期待できない。

<山頂を目指す>

 山頂で写真を撮って、下山する。明日また通るから、と男性陣は数名が小屋に残っている。中学生の団体が運動靴で登り降りしているのと一緒になった。彼らの足元は運動靴。登山靴を履け、というのは無理だろうか。少し心配になる。

 下りでは岩場はバランスが大切である。最年長のK子さんと一緒にお話しながらゆっくり降りていくことにした。面倒見の良さではピカ一のSさんもK子さんをサポートしながら一緒に降りる。月山での母との下山を思い出しながら、ず〜っと年長のK子さんがしっかりと着実に降りる姿を見ていると感動さえする。

 いろいろな話を伺いながらゆっくり降りていると、みんなはもう姿が見えない。そのうちガスが濃くなって、景色も見えなくなった。
 すると、翼に白い部分が一文字に入った鳥が、水平飛行して向こうの岩場へ降りた。あれ?「雷鳥じゃないですか。」「あ、そうかも。」

 ハイマツ帯でもあるし、本当にいるんだなあ、と感動する。「ラッキーねえ。」とK子さんと話しながら降りていくとさらに目の前につがいの雷鳥が!
オスは目の上に赤いアイシャドウをバッチリつけていて、メスはやさしい顔をしているので区別は簡単である。「まあ、また雷鳥だわ。」

 しかし、そんな時に限って、1本目のフィルムが終わったところなのであった。仕方ない。わが目に焼き付ける。「ライちゃん、出てきてくれてありがとう!」

 そのうちにトランシーバーにリーダーの声が入る。Sさんが応答する。リーダーは小屋に入らず下でずっと待っていてくれたのだった。(勿論K子さんのために。)
この山行は彼女のリクエストで実現したものだ。そして、74歳という年齢から、最後のチャンスとして、Iリーダーが夢を叶えてあげたのだ。何て素敵なことだろう。

 私はK子さんのような女性になりたいと思っている。なかなかそうは問屋が卸さないだろうけど・・・。素敵な女性の見本がこんなに身近にいる幸せ。私もK子さんの常念登頂に立ち会えた幸せをおすそ分けしてもらって、何だかとっても嬉しくなった。

 小屋は超満員。何だか頭が痛い。高山病かも・・・。
松本の夜景を見るつもりが、小屋から出る気力が無くなってしまった。早めに布団に横になる。

 2:30ころ目が覚める。目の前のガラス窓の向こうに星が光芒を放っている!
思わず体を起こして、窓を開けて空を仰ぐ。
大きな星、星、星。見ていると、この空は宇宙に通じているのだ、とボーっとした頭でも感じる。テント泊まりで仰向けになって気の済むまで眺めていたい・・・。

 星空が教えてくれた通り、朝から晴天。今日は暑くなりそうだ。5:30出発。
昨日は空身だったが、今日はフル装備で、またもや肩が重い。頭も重い。う〜ん・・。

 岩だらけの道を常念へ。今日は雄大なパノラマが励ましてくれる。もう槍ケ岳がニョキっと背伸びしてこちらを見ている感じだ。登山道もご来光を見て下山する人とぶつかって、早くも渋滞する。
 やはり1時間30分かかって頂上へ。今日は絶景。山頂の新しい祠の前でみんなパチリ。私もパチリ。

<常念岳山頂>

 ピークをちょっとはずすと少し平らな場所がある。そこは奥穂を筆頭とする穂高連峰と、槍ケ岳の大展望台なのであった。写真をとるのに順番待ち!

 しかし、今日は先が長い。超長いのだ。ゆっくりしている暇もなく、蝶をめざして降り出す。岩がゴロゴロして歩きにくい。緊張しつつ急坂を降りると背後には常念が高く聳えている。

<左奥が常念岳山頂>

 しかし、私の後ろの男性が、あっと言う間に転げ落ちた!景色に見とれて踏み外したのだ。山慣れた感じの男性だったが、一瞬の油断の恐ろしさを感じた。
幸い、階段状だったため、1段で止まったが、頭を打っている。本人は「大丈夫。」と言うが、心配だ。まさに肝を冷やした。

 さて、前方に目をやれば、これから行く蝶ヶ岳がはるかに見える。

<蝶ヶ岳(画面中央奥)を臨む>

 ここからいくつかピークを越えて蝶ヶ岳を目指す。道はそのうちに樹林帯に入り、景色は一変する。近づくにつれて「蝶槍」が頭をもたげてきた。ここまで来ると、なるほど「蝶槍」という名前にも納得する。

<とがったピークが蝶槍>

 だんだんガスが湧いてくる。やはり午後になると景色は期待できない。蝶ヶ岳は穂高連峰の目の前にあり、常念からよりもいっそう大きな穂高が臨める場所なのだが、常念からも見えたのでそこは我慢する。

 今まで岩場で、チシマギキョウが時々目を楽しませてくれた以外は花のない世界だったが、ここからは違う。お花畑が待っているのだ。
 ガスってきたのでもう山が見えなくなったが、その分、道の両側の花々に自然と目が行く。コバイケイソウ、クルマユリ、ハクサンフウロ、タカネシュロソウ、グンナイフウロ、キンポウゲ、キヌガサソウ、それにクロユリ?も。

おなじみの花と、珍しい花が入り乱れている。これはエゾ シオガマ。

<エゾシオガマ>

 蝶ヶ岳まで後一息のところでお昼に。これでまた少し荷物が軽くなるはずだ。
先が長いので今日は休憩の間隔も長く、時間も短い。疲れが溜まって、体が重い。「だるい、眠い、疲れた。」などと勝手なことを言いながら黙々と歩く。花だけが慰め。

 さて、蝶ヶ岳は平らな山頂である。蝶槍に登った人と合流して蝶ヶ岳ヒュッテへ、もう一歩きである。横尾への道を見送ると、ここから先はまた私には初めての道となる。ヒュッテではトイレ休憩のみで、いよいよ下山にかかる。

 もう1時近い。三股へは長い。下山予定の3時には大幅に遅れそうだ。
何よりここから新たに標高差1330mも降りなければならない。ここまで歩いてくるだけでも、普段の山行1回分の距離と標高差がある。みんなも既に疲れ気味。私も何だか不安になる。

 地図を見ると、三股へは急降下が2度ほどありそうだ。覚悟を決めて歩き出す。
・・・歩いても歩いてもなかなか進まない。足元の岩クズに足をとられて転びそうになる。疲れているので、つま先も上がらず、注意力も散漫になりつつある。気をつけないと。

 大した花もなく(御免なさい!)何だか暗い道を降りていく。だんだんみんなも無口になる。後の方で歩いていると、時々先頭のリーダーとK子さんの掛け合い?の声がする。朝5時30分からずっと歩いているので、午後2時を過ぎるともう体がSOSといっているようだ。掛け合いの声の断片がすべて「きゅうけ〜い!」と聞こえてくるから始末が悪い。

 3時を過ぎて4時を過ぎてもまだ着かない。地図を見てもまだまだある。このコースの印象がますます悪くなる。「これを登るなんて、絶対にヤだね!」とみんなも口を揃える。そう、下るだけでもこんなに長くて辛いのだから・・・。

 三股まであと2Kの標識があって、ようやく気を取り直して歩く。道もようやく平坦になってきた。ギンリョウソウや小さな小さな2輪くらいのランが咲いている。「これは何ですか」と尋ねても、お花に詳しいY子さんも「もう見る気力がないのよ。」・・・そうですね。時々Tさんが私の質問に答えるべく、花の根元を調べて葉の形を確認してくれる。

 不思議と脚は大丈夫だが、体が、肩が、頭がやっぱり重い。もう少し、もう少し、と言い聞かせながら歩く。時計はもう5時をまわった。いい加減着くはずだ。

吊り橋を渡るとそのうちに駐車場が見えてきた。乗用車の白いボディが目に入った。やった!もう着いた!思わず「バスが見えたよ!」と叫んでしまった。

 ところが、である。駐車場ではあるが、何とバスの姿がどこにもない!

そう、大きい車はここまで入れません!ということらしい。「あと900m先に駐車場あり」という看板を見て、がっくり。そこからの900mの長かったこと。

 バスに辿り着いたのは5:20だった。行動時間12時間弱。我ながらよくぞ歩いたものだ。多少の自信もついたけど・・・。

 2度と三股へは降りず、登らず、だろうなと思った。このルートはお奨めできません!一ノ沢がいいですね。


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