番外編★静岡滞在記   2004/01

 思いがけない理由でまた静岡行きを決心。去年の同窓会から1年も経たずに再訪となる。
決して近い距離ではないが、時間の余裕さえあれば、青春18切符よりも安く行けることも事実だ。
ちょうど仕事も一段落したので去年のように京都にでもと思いつつ、父のこともあり遠出はできないなと思案していたところだったので、思い切って出かける決心をする。
まずはROCKYさんと「ちいまさのパパ」さん(以降『まさパパ』と略。)に早速メール。急だったのに二人とも「遊んであげるからおいで。」・・・ 持つべきものは心優しき同級生かな。感謝。

 家を7時過ぎに出て、小田原までは小田急で行く。 小田急は安いし途中から丹沢の山々が見えるのが嬉しい。座れれば一眠りで小田原だし。

 東海道線に乗り換えると少し旅の気分がしてくる。日頃の介護ストレスからだんだん解放されていくのが分かる。ただ行くだけなら(お金はかかるが)速い新幹線という手もあるが、私にとってはこの3時間余が実は貴重な時間なのだ。
ぼーっとただ列車に揺られていることが、今の私には心の安らぎでもある。
それに、沼津を過ぎると駿河湾と富士山が迎えてくれる。『ああ、静岡に帰るのだ。』という気持ちになる。箱根の山を越えてはじめて日常の些事から一時退避できるのかもしれない。

 列車に乗り合わせる人の数がぐっと少ないのが東京との一番の違いかもしれない。ゆっくり4人掛けに1人で陣取って、高速道路のロードマップを開き、車窓から山座同定(のつもり)。
沼津あたりからは富士周辺の山や真っ白い頭を覗かせる南アなど、よく見えることに驚く。すると突然携帯が鳴る。まさパパさんからだ。車中なの着いたら改めて電話しよう。

 列車は清水に着く。そろそろお目当ての竜爪(りゅうそう)山も見えるはず、と地図を見る。双耳峰だというからどれだろう・・・あれかな?


中央の双耳峰が竜爪山(と思う。)

 母校の応援歌にも出てくる山なのに、静岡在住の間には登ったこともその姿を確認することもなかった。その竜爪山に登りに東京から来るとは。・・・そんなことを考えているうちに、11時前に静岡着。 早速まさパパさんに電話。

 実は静岡行きは、先輩N氏のお母様の告別式が主たる目的。同じく参列する先輩T氏と待ち合わせ。 昼食は『接待します』とのこと。
T氏と会うのも一体何年ぶりか。お昼をご馳走になりながら、1時間ほど話ができたのは幸いだった。

少し早いので地図を見ながら会場まで歩いて行く。N氏と少し話ができたらとの思いもあったが、それは結局叶わなかった。
式場の入口でN氏に会釈だけする。とても掛ける言葉が無い。・・・T氏と並んで腰掛けながら、話は自然とお互いの親のことになる。みんな親を介護したり看取ったりする年代になったのだと痛感する。
読経を聞いて遺影を眺めていると、明日はわが身としか思えない。様々な光景が浮かんでは消える。今度あの場所に立って挨拶するのは私かもしれない、と思う。

 少し重たい気持ちのまま、講演会を聞きに行くというT氏と別れ、ホテルにチェックインする。喪服は寒かった。
脱いだ喪服と供に気持ちを切り変えようと思う。街に出て少し『逍遥』するも寒さには勝てず。書店に入って時間を過ごす。

 ラーメンには一家言持つ『まさパパ』さんと夕方待ち合わせ。自転車を漕いで来てくれる。折角の週末に、しかも寒い中を有難う。

いろいろな話の花が咲き、ホテルに戻ったのは9時近い。それからROCKYさんに電話。 明日は竜爪山のガイドをお願いしてある。最初は軽いハイキングで満観峰、のつもりがやっぱり竜爪山に行きたくなってしまった私。
ただ、標高1051mの山なので、季節柄一番心配なのは凍結と雪だ。
とはいえ静岡の暖かさは定評のあるところ。一応事前に尋ねてみた。
「竜爪には雪あるの?」
「無いよ〜。」

・・・ということで、先に送った山道具の中にはアイゼンがない。いや、要アイゼンなら別の山にすればいい。
朝9時にI君の車で迎えに来てくれるそうだ。I君の子どもたちも一緒だという。彼らとは甲子園以来、数ヶ月ぶりの再会だ。
迎えの車を覗くと最後部にはかわいい二人が乗っている。MちゃんとDちゃん姉弟だ。「こんにちは。」
途中でまさパパさんも拾って行く。今日も一日付き合ってくれて、本当に有難う。
坊やがどうしても行きたいというので、総勢7名となる。これは楽しくなりそうだ。寒いだけに抜けるような青空に、展望への期待が大きくなる。南アは見えるだろうか。

途中のコンビニでいろいろ仕入れて、いざ竜爪へ。
 今日はROCKYさん流(?)の『なんちゃって』登山。というのも途中の穂積神社まで車で上がってのピストンだから。片道1時間の行程だ。
地元では遠足コースと言うが、子どもたちも一緒だし、山には慣れてないパパたちもいるので、無理なく楽しむにはこれが一番。

 安全運転が頼もしいI君のワゴン車は、急勾配の曲がりくねった細い道をどんどん上がっていく。
いよいよ竜爪山のピークが見えてくる距離になると、
「あれ、雪残ってるねえ。」・・・1週間前に降ったそうだ。・・・大丈夫かなあ。


穂積神社

途中の旧道・新道、両コースの登山口にはもう何台も車が停めてあったが、この神社の駐車場も結構満杯に近い。その人気には改めて驚かされる。

まずは入念にストレッチをして、ROCKYさん持参の沢山のストックを分配して、神社の裏から登り始める。
木の根が張り出した土の道。杉林の大木の下を歩き始めると、「あ、本当に山に戻ってきたんだ。」・・・急に体中の細胞が動き出すようにさえ感じられる。久しぶりの山が嬉しくて仕方ないのだ。
そうだ、私はこの地面と木々と風と一体になりたいのだ。

まずはROCKYさんが先頭を行く。長身で長足の彼は、普通に歩いても私の『早足』だ。それを子供たちが走って追いかける。元気だなあ。
だが少し先に待っているのは急登のはず。山慣れない子供たちには危険も一杯。バテても困るし、と亀歩きの私が先頭を代わる。
最初のペースが肝心とばかり、一気にゆっくりペースに。「木の根に気をつけてね。」「端っこを歩いてはダメよ。」・・・結構口うるさいかも。(笑)

枯草が生えていても実際には崖。石車も多いので、要所では子供たちと手をつなぐ。
すぐに階段が見えてきた。鉄の階段は、まるで建設現場のよう。整備されすぎの感もあるが、子どもには安全だろう。・・・そう思っていると元気な彼らは走って登り出す。
「危ないよ。手すりは必ず掴んでね。」・・・慌てて私も駆け上がる。

いくつもの階段を上り、土留めの丸太の階段を上がるとやっと素晴らしい富士山の姿を楽しめるようになった。


富士山が見える

私は軽登山靴、子供たちは運動靴だ。ROCKYさんがもって来てくれたストックを借りて登っているものの、そろそろ足元が不安になる。
抜いていく登山者たちも、子供たちを見て言葉を掛けてくれるが、「お、偉いね。頑張っているね。」から「アイゼンは?」に変わり始める。
階段の全面が凍結した雪に覆われた地点に出て、ここを下ることを考えると、答えは決まった。
「残念だけど危ないから引き返そう。」
多少は慣れた私でも、アイゼンなしでは危険だし。もう少し早く決断すべきだったと反省。

滑るので大人がストックをついて、その間に子供たちを挟み、手を繋いで横向きに慎重に降り始める。
声をかけつつストック無しではとても降りられない状況に、改めて判断の遅れを反省する。・・・子供たちも怖そうだ。こんな思いをさせてしまって、本当に悪いことをしてしまった。
階段を駆け上がっただけに、一気に疲れも出て、D君はご機嫌斜めだ。降り始めてみると、結構登っていたことが分かる。
「あと何分?」と聞かれてROCKYさんが「え?・・・あと5分かな。」
暫く経って、また「もう何分歩いた?」
「そうだねえ、3分かな。」
その次の「あと何分?」には「あと2分!」と大声で私。
・・・大人は嘘つきです。

 階段が終わり、ようやく雪のない乾いた山道になると、笑顔が戻る。そこで走り出すのが子どもというもの。慌てて「走っちゃだめよ〜!」
一番小さいまさ君の手を引いてゆっくり降りる。振り返るとパパたちも結構顔がこわばって・・・。(笑)

ようやく全員無事に神社まで戻って、100円也のおみくじを引いてみる。(勿論言い出しっぺは私。)
お、大吉じゃん。ふふふ・・・。

「ねえパパ〜、末吉と小吉と、どっちがいいの〜?」・・・パパは一瞬返答に困ってます。

このあとどうしようかと鳩首会談の結果、車で頂上まで入れるし、満観峰まで戻るより近いだろうと浜石岳へ向かうことに。
車中では、疲れと空腹で、「気持ち悪い。」・・・山道を降りきったところで小休止。
外の空気を吸ったら「おなか空いた。」

 さっき買ったおにぎりを食べたら、やっとみんな落ち着いた様子。まさパパさんが「お菓子もあるよ。」と大きな袋を取り出すと大歓声。
子どもって正直だなあ。そこがまたかわいいんだなあ。

ご機嫌も直ったところで浜石岳目指して走り出す。I君ご苦労様。

改めて由比の山道を上がっていく。ここですかさず私が今までで一番バテたのがこの山道で、と講釈を始める。
「わかるなあ。この急な坂道を歩いて登るんでしょう?車だって大変なんだからねえ。」・・・そうでしょ、そうだよねえ、と思わず笑顔になる私。

すれ違いに苦労しながらも着いたのはそこそこ広い駐車場。目の前に雄大な景色が広がる。でも、もうひとのぼりで浜石岳頂上に立てる。
お弁当を持って「さあ行こう。」
 こんなに楽して頂上に立つのも初めてかも。久しぶりの浜石岳は相変わらずの素晴らしい展望だ。 ほぼ360度の大展望を楽しみながらの遅い昼食。目の前は駿河湾、右手に清水港、後は大きく裾野を引く富士山・・・なのに頭を隠す雲がちょっと残念。
そのまた続きには南アまで見える。


南アに連なる山並み

 芝生の広い頂上に、子供たちは大満足。お菓子を食べたら早速そこらを自在に走り回る。

竜爪山の雪道だけで終わっては、きっと山嫌いにしてしまうと思い、何としても山っていいなと思わせたかった。それには浜石岳ほど絶好の場所は無い。それが正しかったことは子供たちの笑顔が証明してくれた。
よかった。これでまた一緒に山を歩けるかな。

 「パパ〜、トイレ!」のあとはみんなで記念撮影。幼稚園をこの春卒業という、一番小さなまさ君がパパのデジカメを持って『激写』している。なんとも微笑ましい姿だ。
それに幼稚園生というのにもうデジカメを使えることにはびっくり。
後で送ってもらったまさ君撮影のショットは、何とROCKYさんと私の"疑惑の"2ショット ばかり。(笑)・・・かわいい「カメラ小僧」にやられました。

 ROCKYさんは普段も付き合いがあるらしいので、Mちゃん、Dちゃんと「お友だち」だ。タバコを吸うたびにMちゃんから叱られている。「あ、また"雲"出してる!」
携帯用灰皿にキチンと吸殻を入れていても、Mちゃんの視線は厳しい。 とうとう「ロッキーがタバコ吸うから富士山に雲がかかっちゃうんだよ。」とまで言われてしまった。
これには流石のROKCYさんもお手上げかな。(笑)・・・子供たちがすぐになついてしまう優しいROKCYおじさんでした。


ROCKYさんとまさ君

 風が冷たくなってきたので、そろそろ店じまい。みんな満足そうで一安心。車に乗り込む前にもう一度広々とした景色を楽しむ。
ROCKYさん、I君、そしてまさパパさん、私のために折角の休日を丸々付き合ってくれて、本当に有難う。みんな本当に良き家庭人だなあ。


これが私の優しき同級生諸氏

 後部座席ではMちゃんとまさ君がすぐに打ち解けている。下りの山道で気持ちが悪いというDちゃんと助手席をかわって、ROCKYさんが1つ後に来たのでまさパパさんや私と並んで座る。
しばし同窓生だけの『大人の』会話。助手席のDちゃんが少し心配だが、眠ったようだ。日差しを避けるように上着を掛けてやるI君の姿は父親になりきっている。みんな大切な家族だからね。

 まだ3時過ぎなので「どこ行こうか。」・・・結局行きつけの高校時代の溜まり場へ。車は堂々と母校へ駐車。文句あるわけないよね?(笑)

 顔色が悪かったDちゃんも、アイスクリームを食べるころには笑顔が戻ってほっとする。
子供たちも打ち解け、おなかも一杯になって、車に戻る。
名残を惜しみつつ、再会を期して、静岡駅で降ろしてもらう。

 みんな有難う。きっと、また、来ます。


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