西穂高岳と焼岳   2003年8月15日〜17日

西穂高口〜西穂山荘〜西穂高岳〜山荘
西穂山荘〜焼岳〜中ノ湯


 新宿発の夜行バスで新穂高ロープウェイへ向かう。30分ほど前に行ったらもう最後の方で、バスは最後尾の座席となる。
5人掛けに4人で、足元も広い。しかし、発車すると座席の下が熱くなってきた。リクライニングも余り効かないので、結局、毎度のことながら朝まで 熟睡とは程遠かった。

 幸い、到着してみると外は青空、ロープウェイ駅はどこ,と思うと1つ上の駅「しらかば平」にいたのだった。
久しぶりにお会いしたYさんが、「ほら、あそこに槍の穂先がちょっとだけ見えるよ。」と教えてくれた。
ロープウェイ駅には他にもバスで来た団体が何十人も並んでいる。その格好を見れば、せいぜい山荘までか、独標がいいところだと知れる。

 定時より少し早めに改札を始めてくれたので、早速2階建てのロープウェイに乗り込む。ぐんぐんスピードを上げていくとまずは後に笠ガ岳、左に奥穂・槍方面が見えてくる。
それにしても一気に高度を上げるので視界がどんどん開けていく。・・・私が大人になって初めて来た山がここだった。あの時は、高度にやられ、キツイ登りでバテてしまい、山荘がなんと遠かったことか。
さらにその先の独標は、90分というコースタイムからは想像できないほど厳しいルートで、小雨まで降り、絶壁?を歩いてのようやくの独標では、疲労困憊、茫然自失だった。
やはり「穂高」は違う、と思い知らされた6年前。丸7年の経験は私をどう変えたのか、いやでもそれが分かる山行になるだろう。

 そんな思いを胸に、西穂高口で降りると見慣れた景色が目の前に広がる。逆光に浮かぶ穂高の峰々。その連なりの最初のピークが、思い出の独標。それからピラミッド・ピーク、さらにいくつものギザギザの先に、西穂の山頂がある。

今日はこの中の何人が山頂まで行けるのだろうか、と漠然と思う。リーダーの判断で、独標までか山頂までかに決まることになっている。
ちょっと見たところでは、多くて2/3だろうか・・・。

 地図では山荘まで90分。最初はまあまあの道がいきなり急登になる。ああ、これであの時はバテたんだな。・・・夜行明けだし、ゆっくり歩いてくれるといいなあと思うが、どんどん登っていく。30分で「体温調節」休憩は?と思うが、これもなし。あれれ。
そろそろ水も飲みたいなあ・・・でもまだ休む様子がない。時計はもう60分歩いたと言っているのに。
と、そのとき急に足元が平らになりルートが大きく右に曲がると、あれあれ、もう山荘?
なんと無休憩で歩くこと65分、西穂山荘に到着。・・・う〜ん、これは凄い。

山荘前は既に大勢の登山者で溢れている。リーダーはザックから少し荷物を減らして外の棚に残したら、すぐに出発する、という。
小屋の前はトリカブトやハクサンフウロのお花畑になっている。あの時はこの花々にとても感激し、慰められたが、今回は見慣れた風景の一部でしかない。
少しだけ荷物は軽くなって、丸山へ。大きな石組みを登ってまずは独標を目指す。

這松の中を歩いていると、あれ、図鑑で見覚えのある花が!リンネ草?・・・小さなピンクの花が二股に分かれてかわいらしくうつむいている。
そのうちに、列の前からお花に詳しいY子さんからも「リンネソウ見た?」と声がかかる。
独標へはガレ場の急坂を登らされるようになる。振り返ると焼岳や乗鞍が見える・・・はずが今日はガスっていて今ひとつ展望がない。でも西穂山荘の赤い屋根が向こうに小さく見える。

 苦しいなあ、休みたいなあと思っていると、ようやく休憩になる。天気がやや心配なのでリーダーは早く行きたいようだ。
10分休んで最後の登り。岩場を注意して歩き,最後には鎖もかかっている(が全く不要。)「斜面」を登り切って、独標到着。山荘を出て80分。まあまあ、かな。

 しかし、感慨に浸る間もなく、リーダーは「独標までで残る人は?」・・・なんと1人だけ。
え?大丈夫なの・・・と思ったが、今回はリーダー二人+元リーダー1人という強力なバックアップ態勢が整っているので、敢えて選別しないようだ。
(余談ながら、もし私なら"私の山行に今回初参加の方はご遠慮下さい"だろう。 後で聞いた話では、頂上まで行く人は半分位と読んでいたそうだ。)
さて、独標からの下りは「短いが危険。初心者は独標までで引き返すこと。」とガイドブックに書いてある箇所だ。初めて私がきたときも、「この先へ行ってはいけません。」だった。
今回もツアーの登山者はみんなここまでのようだ。ちょっと緊張する。下を覗くと,確かにいやな岩場だ。みんなが慎重に降り始める。


独標からの下り

 私も慎重に足を下ろす。確かに両側が切れており、3点確保で確実に足を運ぶ必要がある。
この先は「山頂まで大小あわせて13のピークがあり、岩稜歩き」だという。気をつけよう。
最初の顕著なピークは「ピラミッド・ピーク」だ。以前は鎖がつけられていた箇所でも、今は全部外してしまったという。確かに常に緊張を強いられるところが続く。
夜行明けでなければ、体調が万全なら、もう少し楽に歩けると思うが、いつも7割のコンディションで登っている気がする。つまり、その余裕がないとこのルートは危険だ。

片側が切れた箇所も続々登場。そのうちに慣れてくるが、気が抜けない。


振り返っての景色

 ピークが13あるといっても、全部を登下降する訳ではない。大半は巻いていく。しかし、狭いルートの交錯で時間待ちが非常に多い。すれ違いにも非常に気を使う。
そんな時、音がして、見上げると落石!
落ちた石がもう少し大きな岩に当たって、それが私のほうへ飛んできた。慌てて大声で「ラク!」と叫んだが、その声で私の後ろの男性が顔をあげ、その瞬間に私とその人の間を岩が抜けていった。
全くもう。落としても声をだしてくれないので、危うい所だった。ガレた岩場の急登では、本人に余裕がないと、自分が落とさないように注意する余裕も、落ちてきた岩を避ける余裕もない。

ようやく西穂のピークが向こうに見えてくる。岩,岩,岩,である。


西穂山頂を臨む

ようやく登りきると、流石に嬉しくなる。リーダーも気疲れしたことだろう。みんな、お疲れさま。とうとう来たぞ、西穂山頂!

休憩はほとんど取らなかったが、すれ違いで随分時間をロスしたはずだが、20数名の大所帯の割にペースは速かったようで、山頂到着は11:00、独標から100分だった。
余り広くない山頂ながら、記念写真を撮って、ほっとして腰を降ろす。
ルートは更に続いている。
そう、ここからはエキスパートにのみ許される西穂〜奥穂の難路だ。滑落での死者も多数出ている。この先へ行くには、岩のゲレンデでの練習、妙義などでの訓練を経て、 ハーネスをつけ、お互いに確保しながらのルートとなる(のが普通?)。
もっとも1人で行ったという猛者もいるが(今回の仲間にも1人。私たちの会の会員にも数名(10数名?)いる。)
そんなルートを垣間見る唯一の機会だ。身を乗り出して見るものの、今日はガスがかかって、奥穂もジャンダルムも姿を現してくれない。残念だ。

 さて、山頂で昼食を取って、30分後に下山開始。下山の方が勿論要注意である。

一箇所だけ、壁を降りるような箇所で鎖が欲しいと思った。実際、鎖がついていた証拠に丸い環がそこここに残っている。
手がかり、足がかりは豊富なものの、クライミングシューズでなく登山靴のつま先で体重を支えるのは難しく、安全に降りるには下から誰かが見ていてくれないと難しい。
本来はグループで来ているのだから、順に申し送りをして、自分が降りたら次の人に指示をだすのだが、今回は(珍しく?)比較的若いお姉ちゃん軍団が初参加していて、中ほどでワ〜キャ〜騒いで「Yさぁ〜ん、足はどこへおけばいいの〜?」と姦しい。
おんぶに抱っこで自分たちが降りたら、とっとと行ってしまう。
仕方ないので、後の方にいる私は一人で降りるが、絶対に怪我をしたくないので、一層慎重に(つまり遅く)なる。まあ、落ちても死ぬような所ではないが、 慌てる必要もない。時間をかけて横にへつったりしながらやっと降りる。・・・もう私も初心者じゃないから、リーダーも"1人で降りられるよネ"ということか。

 鎖場大好き、岩場も結構好きという流石の私も、ここだけは時間がかかった。(後ろのMさん、ごめんなさい。Mさんは優しいから、あとで小屋でビールを飲みながら「Reikoさんのこの白魚のような手を踏んではいけないと思って、気を使いましたよ。」と笑いながら話してくれた。)
あとは疲れと気の緩みに注意して、ナイフエッジと絶壁では常に3点確保。


霧の彼方に独標が見えてくる

 何とか難所を越えて、あとはもう独標への上り返しだけ、というところでちょっと広い場所をみつけて全員でティータイムとなる。
リーダーがお湯を沸かして、全員に紅茶を振舞ってくれる。さすが女性らしい細やかな気配り。
みんなの顔にもようやく笑顔が戻り、話声が聞こえるようになる。
どれ位休んだかよく覚えていないが(30分位?)独標を越え、ガレ場を降り、なだらかになった尾根道を歩きながら(結構長い。)その先にようやく山荘の赤い屋根が見えてきた。
やれやれ、やっと着いた・・・。14:20になっていた。

あとは夕飯まで随分時間がある。ザックの整理をして、何でも売っている山荘でみんなは生ビールで"乾杯。"私は缶ジュースで"お疲れさま!"
そのあとはソフトクリームを食べて、Aさんがまたお湯を沸かしてくれたのでコーヒーを飲んで、みんなでおしゃべり。
ああ、登ったんだ、西穂に。

 この頃私が山に求めるものの第一は花である。今回はトウヤクリンドウが途切れなく蕾をつけていたが、岩場の方に気を取られて余り感慨はなかった。もう見慣れてしまったこともあるかもしれない。リンネソウが見られたことは収穫だが。
8月も半ばを過ぎ,山はもう秋の花になっている。今回は展望がなかったのが残念だが、怪我もなく登頂できたことは何よりだ。

西穂山荘は高い(笑)。1泊2食で8800円!(団体なので一割引になったが。)・・・南アの小屋は相場が7500円だから、かなりの差だ。勿論小屋は綺麗だし、トイレも食堂も山小屋の標準からすれば素晴らしいが、食事はいまいちだ。
種類は多いが、余り・・・。その点はちょっと残念だ。

 さて、翌日は尾根伝いに焼岳に登り、そのまま温泉目指して中ノ湯へ、と決まった。・・・朝方はかなりの雨が降っていたが、歩き出す頃には小止みになっていて、迷ったが暑いから、と上は雨具下はスパッツだけとした。みんなも(本末転倒ながら本音としては)雨具が汚れるから穿きたくない、ということで大半が同じ格好となる。
途中で多少雨がふっても下着まで山用だから速乾性だし、雨具で汗をかいても雨で濡れても同じだよね、ということだ。
山荘から少し下って、上高地への分岐を経ると同行者は激減する。運動靴にビニールのポンチョという異様な格好で同じ方面へ歩いている親子連れを追い越す。一体どういうつもりなのか、他人事ながらみんなで心配する。

山荘から焼岳までは尾根伝いで大きな登下降はないが、昨夜の雨と時々降る小雨で下はドロドロ。う〜ん、田植え状態。スパッツの上まであっというまに汚れてしまう。
 小雨もあり展望がないのでちょっとつまらないルートに思える。しかも、ぶんぶんと虫の五月蝿いこと!もうそこら中に小さな虫が雲霞のごとく待ち受けていて、もう顔にまとわりついてくる。あ〜、虫除けスプレーをもってくるんだった!
Mさんに北海道のハッカ油を貰ってスプレーするが、虫はやっぱり寄ってくる。休憩中は悲惨だ。雨の日の車のワイパーのように手で振り払うが、お構いなしに襲ってくる。

樹林帯なので蒸し暑いし、花もあまりなく(コイチヨウランが時々見られた。)印象悪し。

 そのうちに雨が本降りになってきた。大半の人は既に濡れてかなり汚れた山ズボンの上から、諦めて雨具を穿くが、私とリーダーとあと数名のみが「どうせ降りたら温泉だからもういいや!」と濡れるに任せることにする。(勿論、夏であること、数時間後には下界にいること、などを総合しての判断で、本当は上下雨具を着るのが正解。)

割谷山への登りにあえぎ、段差での衝撃を避けるために足を運ぶと、結果的に踵の泥がお尻についてしまう。スパッツは既に泥だらけ、膝から上は雨でぐっしょり、ズボンが太ももにまとわりつく。うう、これは訓練と思うしかない。
いい加減に小屋に着いて欲しいなあ、と思っているともう一度登りを経てようやく焼岳小屋になる。
本降りの雨が憎らしい。ここで更に数名が雨具を穿く。ええい、もういいや。水もしたたる・・・で行こう。

 ここから焼岳へののぼりとなる。雨も降りガスもかかって、いかにも活火山という岩場にかかっても前が余り見えない。
見えない中でザレた急坂を延々のぼるのはちょっと辛い。気がつくと、靴の中まで水が入ってしまっていて、靴の中で足が滑る。ああ気持ち悪い。こんなことなら早くズボンを穿くんだった。

両手を使うような急登を経て、「頂上はまだ〜?!」と文句を言いながら歩きつづける。硫黄の臭いが風に乗って鼻をつく。
そしてようやく鞍部に出て、ここから北峰に空身で登る。もう一投足の距離。
岩に手をかけると暖かい箇所がある。岩の隙間からガスが出ている箇所もある。短い岩登りをして頂上へ。雨で何も見えない。写真を撮れば、長居は無用。あとは温泉めざしてまっしぐら!?

 あと2時間くらいでようやくこのぐっしょり濡れたズボンを脱げる、それだけを考えて降り始める。靴の中でチャポチャポと音が聞こえそうな気がする。濡れた岩場、しかも下りで要注意なのに私の足は最悪の状態。いやだなあ・・・。
しかも下から強い風が吹き上げてくる。顔も雨でびっしょり。体温も奪われる。早く樹林帯に入らないかなあと思うが延々風にさらされる。
私は足がつることは今までになかったが、こんな状況では濡れた下半身はその意味でも危険だ。顔にかかる雨と、ぐっしょり濡れたズボンと水浸しの靴!これで集中力が途切れないようにするのは大変だ。
でも、怪我をしないためにももう少し頑張らなくては。

そのうちに急に傾斜が緩やかになると分岐がある。少し冗談を言う余裕も生まれる。「靴の中もびしょびしょで、顔も濡れて手袋も水を絞りながら歩いているから、"水も滴るイイ女"を通り越して、融けてなくなっちゃいそうですよ。」 と言うとSさんにケラケラと笑われた。
今日は雨と風のせいで、メモを取り出して書くゆとりもない。時々コピーした地図をポケットから取り出すが、そろそろ濡れて読みにくくなってきた。コースタイムだけは頭に入れてあるが、今日はもう思考停止状態。

 下り始めて2時間もたったころ、途中から私のすぐ後を歩いているYさんと話しながら気を紛らわせる。「ズボン、よく汚れたねえ。」と感心されてしまった。(笑)
しかし、余りに汚れているので中ノ湯で「あなたはダメです。」と言われたらどうしよう、と半分真剣に考える。靴の中も濡れているしなあ・・・。
もう歩き疲れ、お腹も空いたころ、下から車の音がして、舗装道路が見えてきた。その向こうに建物が見える。ジャコウソウやソバナが私たちを迎えてくれる。金網伝いに歩くとようやく中ノ湯着、13:30。

屋根の下でザックの整理をし、中から「温泉セット」(着替えとタオル)を出して、濡れた靴下を脱ぎ、汚れたズボンの裾をまくってやっと中ノ湯の玄関に立つ。

綺麗で豪華なロビー。流石にこの格好では入るにも気が引ける。しかし、従業員の人も慣れたもので、いやな顔1つせず、笑顔で迎えてくれる。これにはちょっと感激。
足が濡れているのでスリッパを借りて、ロビーの宿泊客の痛〜い視線を背中に感じながら女湯へ向かう。
ああ、やっと脱げる!・・・それにしても泥だらけ、絞ったら水が出そうだ。上半身も汗でぐっしょり。ああ、こんな姿、ホントは見せたくない。(笑)

・・・お風呂は洗い場も広くて、お湯もよい。やっとほっとする。
着替えてようやくさっぱり。・・・今度はお腹空いた!
山荘を6時過ぎに出てから、大休止は一度もなし。10分程度の休みも数回、焼岳からの下りでは休みは1回(2回?)で、雨でもありとにかく下りに下って昼食はずっとお預け。お腹も空くわけだ。
風呂上りに冷えたジュース(他の人は勿論ビール!)を飲みながらも、お盆の最終日とあって帰りの渋滞が気になり、3時には出発となる。
濡れた靴を履くのはいやだなあと考えていると、足にビニール袋をかぶせて靴を履けばいいと、と教えられ、履き替えた靴下をぬらさずに登山靴を履く。これはなかなかのアイディア。

 バスに戻って、ザックの中の食料を出して昼食とする。菓子パンが2個。あとはお煎餅。でも、ほっとするひと時。
今回は、濡れたまま行動するとどうなるかを実証したが、でもこれもいい経験。悪条件の時こそいろいろ学べる。(半分やせ我慢だけど。)
しかしこの雨が昨日だったらと思うとぞっとする。(勿論、雨なら独標止まり。)
みんなも言っていたが、確かに西穂は一度は登りたいが、もういいかな。奥穂はもう1度登りたいと思うのだが・・・。この差は何だろう。
 私たちが西穂に登った日、東京は大雨だったという。私たちはやっぱりラッキーだったようだ。
西穂はロープウェイで入れるせいか、やっぱり登山者のレベルにばらつきが大きい気がする。何より6年前のこの私自身がそうだった。勿論あの時はツアーだったからガイドも付いていたから登れたのだが、独標までだって結構な登り、距離もある。
腐っても(?)穂高は穂高、ゆめゆめ侮るなかれ。
同じ日に独標から山頂へ下ってすぐのあたりで事故があったそうだ。中年の女性が転んで怪我をしたという。ナイフエッジではバランス感覚も必要だし、岩場では3点確保ができない人がこの先へ行こうとするのは無謀と思う。
私も自戒しなければ。


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