七ヶ岳   2006年11月2日夜〜3日

コース:
羽塩登山口6:30〜7:10平滑沢出合〜[休憩8分]〜8:10尾根道出合〜[休憩7分]〜9:02賽ノ河原〜9:04七ヶ岳(1635.8m)9:30〜10:28独標(1558m)10:35〜11:18下岳11:45〜12:25分岐〜12:50下岳登山口(林道出合)


今回の山は会津百名山、七ヶ岳(ななつがたけ)。
羽塩(はねしお)登山口から平滑沢(ひらなめさわ)を登り、七ヶ岳の名の由来である7つ(実際には11とも13とも。)の連なるピークを縦走する魅力のコースである。

久しぶりの夜行にちょっと緊張。仕度に手間取り、家を出るのが30分も遅れ、集合場所に着いたのは20分前。嬉しいことにMリーダーもサブとして参加とのこと。満員のマイクロは定時前に出発する。


道の駅「たじま」に2時前に着き、朝まで時間調整。
6時に出るというので、その前に自販機の暖かいお茶を買い、朝食を食べる。さすがに外は寒く、霧がかかっている。
バスが走り出すと周囲の紅葉の見事さに感嘆するばかり。冷え込みも厳しいためか、今季初めての素晴らしい紅葉が車窓に展開する。

幹線を離れ、林道に分け入ると、霧の深い幻想的な景色の中、七ヶ岳羽塩登山口に到着。11月というのに暖かい東京の寝ぼけた感覚から、晩秋に入ろうとする自然の時間に引き戻される。

歩き出しは見事な白樺の樹林帯。絵に描いたような美しさ。落ち葉を踏みしめ、広い道を歩く。

今日のHリーダーの山行に参加するのは久しぶり。半分ほどは初めて見る顔。妙義で一緒の方もちらほら。
例によって後ろを歩く。お馴染みのYさん、サブのMリーダーと共におしゃべりも弾む。ただし、熊の出没が各地で話題になる折りしも、鈴を鳴らしながら歩くことにする。

車が走れそうな道が狭まると沢音が聞こえ、今日の平滑沢歩きへの緊張が高まる。
姿を現した沢は、水量も少なめ、しばらくは右岸左岸と時折サイドを変えながら、落ち葉の散り敷く道を行く。

どこから滑沢を歩くのかなと思うが、歩ける間は沢歩きを避けて道を探していく。
落ち葉の下、沢の岸も実は同質の岩になっており、傾斜も増すのでようやく沢歩きになる。傾斜が緩やかで苔の無いところは登山靴の摩擦も効くが、ヌルッとする箇所もかなりあって、悲鳴もろとも滑る人が現れる。

実はネットで検索すると、平滑沢は、相当滑って危険とあちこちに書いてあるではないか。しまった、と思うがそれに気付いたのが前々日。
大慌てで山道具屋に出かけたものの、沢シューズなどは季節はずれで在庫切れ。
恵比寿まで出かけて地獄に仏、沢歩きを楽しむ店員に教えられ、この『秘密兵器』を購入したのだった。

とうとう出番、と取り出したのは『軍手』ならぬ『軍足』。安売り店の綿100%の厚手の靴下(Lサイズ)だ。
これを伸ばして靴の上に被せれば、フェルト底並の効果があるという。
すっぽり被せるのが最も効果的だが、登山靴の前半分だけでもよいというので、それを試すことにする。
興味深々のY氏とMさんの前で、沢の中を歩いてみるが、特別な感覚はない。よくわからないが、しばらく歩いてみることにする。すると後ろで突然Mリーダーの声が。「きゃ〜、滑る!」
え?


平滑沢
どうやら登山靴では滑る所を、私は意識せずに歩いていたようだ。この靴下にこれだけの威力があろうとは・・・。
私の足元への視線が、「奇異」から「感心」に変わるのを感じつつ、一人だけ沢の中を歩いて行く。
軍足さん、ありがとう!

だんだん沢幅が狭まって、尾根道出合に来たようだ。ここで右への踏み跡を辿り、迷う例が多いというのでどちらへ進むか確認すると、さすがにHリーダーは迷うことなく左へ入る。


沢を離れる
どんな感じかなと行ってみると、見た限りでは特に心配はなさそうだ。葉が生い茂るとテープが見にくいのかもしれない。

尾根へのルートを辿っていくと、どんどん急登になる。「どっこしょ!」の掛け声で、木の根や岩につかまって大股で必死に登る。
休む暇なく登っていくが、汗をかくので喉が渇く。しかし、足並みは揃い、なかなかのペースだ。

腕も使って何とか登っていくと、前から「わ〜!!」と歓声があがる。しばらくして辿り着けば、そこには大展望があった。カメラを出して、写しながらも一息つく。気温が高いせいか、ぼ〜っとしているものの、幾重にも山並みが重なってとても綺麗だ。

ルート上にはロープもあるが、木の根や岩に手がかりを求め、しっかり掴まって体を引き上げる。・・・この急登のまま稜線に出るのだろうか。


急登の尾根道を行く
喉がカラカラになったころ、ようやく「休憩!」の声。先頭が休んでいる所まで登り詰めてザックを降ろす。日差しが眩しい。
前を歩く皆さんも、実はいつ休憩かと待ちわびていたそうだが、如何せん、23人が休める場所はここまで見当たらなかったのだ。

さあ、もう標高から見ても、もう少しのはず、とザックを背負い直し、ルートを見上げる。
すると真っ青な空。こんな抜けるような青空、この秋見ただろうか・・・。

急登はまだまだ続くが、振り返れば大展望もあり、風も心地よく、もう少し頑張れそうだ。

とうとう稜線にぶつかる。ここが賽ノ河原だ。
ルートは右に折れるが、左の方に続く尾根の先には鉄塔と建物が見える。あれが高杖スキー場らしい。視線を戻すと、前を行くMリーダーが指さす先には待望のピークが。


賽ノ河原

日光連山方面を臨む
稜線に出てから山頂までは、地形図で見るよりずっと近い気がする。歩きやすい道に変ったからだろうか。

山頂では皆が既に地図を広げ、山座同定を始めている。
山頂はそこそこの広さがあり、一等三角点もある360度の大展望だ。
それに、何と言っても今日は貸し切り。登山口から2時間半。順調なペースで、今日は健脚揃いのようだ。


山頂

縦走路
1635mのピークだが、会津盆地なのか雲海に包まれており、3000mの頂上に立っている錯覚に陥るほど。
心行くまで展望を楽しみ、集合写真も撮って、いよいよ下岳(しもだけ)方面への縦走に入る。

なるほど目の前に駱駝の背のようなコブがいくつも並んでおり、ひときわ目立つのが1558mの独標らしい。

1つ、2つとピークを越え、まだまだ余裕で歩いて行く。見下ろせば、麓は美しい紅葉だ。


下界は紅葉真っ盛り

独標への縦走路
鞍部から振りかえると、なかなか堂々とした山並みが続いている。時折笹を掻き分けて歩くが、概ね道はしっかりついている。
左手は樹林だが、右手の笹の向こうは断崖であることを忘れてはいけない。何でもない道だが、転び方が悪いと滑落の危険がある。
もしこの草木がなかったら、歩くのはかなり怖いのではないだろうか・・・。

そんなことを考えながら歩いていると、目の前に大きなピークが聳え、思いがけない急登にまた喘ぐことになる。キツイねえ、と声が漏れる。
山頂からかなり歩いてきたし、この先にピークが見えなかったから、ひょっとするともう下岳か。


実は崖の上を歩いている縦走路
登りついた山頂には三角点に似た石柱が埋め込んである。が、これは下岳ではなく独標のようだ。
それに、ようやく登り切ったと思っても、隠されていた視界の先にはまだまだピークが連なっている。

甘い期待は見事に裏切られ、まだ縦走路の半分しか進んでいないということだ。ちょっとがっかり。


山頂方面を振りかえる
気を取り直して細かいアップダウンを繰り返す。だんだん道が険しくなり、足元に張り巡らされた木の根や、深い笹薮、濡れた落ち葉などに細心の注意が必要となる。

「足元注意!」、「枝が跳ねます!」「この石滑ります!」と声を掛け合う。

時に背丈ほどの笹を掻き分け、見えない足元に不安を感じながらも、ようやく三角点のある下岳(1509m)に到着。ほっとする。


独標から先の縦走路
やや狭い山頂ながら、ここで昼食。難所は全て歩き終えた満足感に笑顔が溢れる。
登山口から5時間弱。あと1時間で下山できるはずだ。

会津の山は本当に個性的で、1つ1つとても面白い。会津駒、三岩、窓明、田代・帝釈、志津倉など。私も随分楽しませてもらったが、この七ヶ岳もいずれにも負けない面白さがある。

さて大休止を終え、もう少し稜線歩きだ。バスに乗るまで怪我無く歩きたいものだ。
あと2つピークを越え、まだまだ木の根や笹に悩まされながらも確実に高度を下げ、とうとう稜線の末端に至る。
右に行けば早く林道に着きそうだがバスを停めておくスペースがないそうで、左に折れて下岳登山口をめざす。

降り始めはかなりの急降下。枝に掴まりながら降りて行く。時折、落ち葉の下の木の根に滑らされ、ヒヤッとするが、もう岩場も崖もなく、フカフカの足元に安心する。
だんだん歩きやすくなってきて、下からバイクの轟音が聞こえてくるのは、いつものことながら興ざめだ。

紅葉の残る樹林帯を充実感一杯で降りて行く。みんなのおしゃべりも復活する。
この充実感を何と表現したらいいだろう。

登り始めの美しい白樺林、気の抜けない平滑沢、息もつかせぬ急登と、その果ての大展望。そして楽をさせない七つ(以上)のピーク。
変化に冨み、登山者を試すような縦走路。コンパクトに纏まった充実の山だ。

思わず、尻尾までアンコの詰まった鯛焼きのような山ですね、と言うと大うけ。「座布団一枚」!の声も。
そう、七ヶ岳は最初から最後まで『美味しい』なの山だ。

道はとうとう平坦になって、また美しい白樺林に入る。
すぐ脇にもう舗装道路が見えているのは玉に瑕だが、落葉松の黄葉も美しく、こんな秋景色があったのかと声も出ない。

ロマンチックな気分に浸っているうちに、舗装道路のちょっとした広場に出て、これが下山口。あっという間に現実に引き戻される。
広い道路には何台も大型バイクが止まっており、乗っているのは何故かいい大人ばかり。ツーリングを楽しんでいるのだろうか。

バスに乗り込み、塩原温泉で一浴の後、東京を目指す。
ICまでの渋滞を利用して、マイクを回して1人1人意見を述べる。山行への感想のほか、バス例会の功罪についてなど、話題は尽きず大変興味深かった。

高速道に入るとあとはほぼ順調で、周囲が暗くなる頃には疲れとアルコールの作用によってか、大半が睡魔に身を任せ、目覚めた頃には都心といういつものパターン。

珍しく私も『反省会』に同行して盛り上がる。楽しい一時のあと、先に失礼して山の手線に乗り込む。何となく変だなと気付いたのは次の駅でドアが閉まってから。
あ!忘れ物。

次の駅で降りて逆戻り。驚く皆さんに再度別れを告げ、忘れた手提げをしっかり手に持って、ようやく家路についた。

なお、沢で使った『軍足』は、近所のスーパーで購入。綿100%で男物の27センチ、5足組で600円也。
綿と麻などの混紡も可という。
沢を歩く店員さんの話では、履き替えや荷物の軽量化のためによく使うそうで、使い捨てだが数時間なら持つという。

私が使った感じでは、平滑沢の場合、藻や苔の生えたところを避ければ、登山靴の前半分でもかなり効果があったが、使用はあくまで自己責任で・・・。

  ご一緒した皆様へ


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