栗駒山 2002年7月5日夜〜7日

御沢コース〜栗駒山〜須川分岐〜須川温泉


 栗駒山は初めて。ガイドブックに拠ると沢のコース以外は「楽々」コースばかりとある。今回は歩き甲斐のある御沢コース(表掛コース)を行く。沢を詰めるので雨の日は避けるべし、とある。
 バスが途中でパンク(後輪が走行中にバースト!)というハプニングがあったが、SA直前だったためすぐにタイヤ交換して、翌朝6時過ぎには栗駒山いこいの村手前の登山口へ到着。空は曇っている。降らないといいなあ。コースがコ−スだけに雨天は増水の危険がある。が、他のコースとは全く違うこの道をどうしても歩きたい。
 車中ではM子リーダーからコースの説明と現地情報が伝えられた。地元の観光課に問い合わせたが、小雨程度なら問題はなく、また(御室の雪渓を除けば)登山道に雪は残っていないと言う話だった。変化に富んだ道で、歩く人も少ないだろうからお花も大変楽しみだ。

 6:45に出発。山頂までは標高差約800m余、5時間弱のコースである。下山は須川温泉へ。充実の縦走路となるだろう。
 歩き始めは楽な道だ。岩魚沢出合7:02、デコロ沢出合7:35、ここから少しコースに起伏が現われる。途中で珍しいショウキランを見つける。が、他にはあまり花はない。

<ショウキラン>

時々思い出したように細かい雨が落ちてくる。御沢手前で休憩後、沢に出て一気に景色が開ける。まずは順調な滑り出し。

<御沢出合>

  沢には大きな岩・石がゴロゴロしている。『石飛八里』の名に相応しい眺めだ。時々雨が強くなりそうな気配で、合羽を着たり脱いだり忙しい。みんなが上下しっかり着込む。が、また空が明るくなり、"石飛び"で足が上がらないし蒸し暑いので、また脱ぐ、の繰り返し。思ったより水量は多い。ペンキ印はあるが、忠実に辿れない場所も多い。30cm位はあるので靴が濡れるのを嫌って巻道のヤブを漕いだり。水は濁っおらず、雨天による増水でもなさそうで、安心する。

 雨で滑りやすいのと、水量が多くて思いのままに歩けないので渡渉にもかなり時間がかかるようになる。何度も登ったり渡ったりを繰り返すうちに沢の幅が急に狭くなった。隘路を渡ろうとするが水深も40cm位になり、リーダーがどこを渡ろうか考えていると、後ろから沢登りの格好の男性2人が風のような速さで追いついてきた。

 リーダーに「靴のまま入るしかない。ここを渡りなさい。」と指示する。リーダーはそのまま流れに足を置いて、メンバーが順次渡る手助けをする。沢のおじさん(失礼!)も「女性にだけ手を貸す。」といって助けてくれるので何とか靴の中を濡らさずに渡る。
その先がようやく大日沢出合。着いたのが9:10、ということはこれでもコースタイム通り。(登山口から御沢出合まで70分、そこから大日沢まで90分とある。)

彼らはそのまま大日沢を詰めていくようで、ここでお礼を言って別れる。
左側の沢に入ると傾斜もきつくなる。ほぼ毎回渡渉に苦労するようになり、ペースが落ちる。巻道の藪漕ぎも多くなって、滑ることもあって難儀することこの上ない。

 随分こんなことを繰り返して大分歩いたなあと思ったら向こうの左手斜面から降りている2本のロープと右手の滝が見えてきた。ハシゴ滝らしい。ここで初めて雪渓の名残りに出会う。滑りやすく危険なので、先にリーダーが行って、ロープを張ってから1人ずつ安全に通過させる。17人が通過するには時間もかかるが、安全第一。時計はもう11:25になっている。小休止で1/25,000地図を確認するが、こんなに大変だったのに「え、まだこんなところまでしか来ていないの?!」・・・何かの間違いではないか、と一瞬思う。

 滝は水しぶきを上げているが落差は低い。やっぱりこの2本のロープで滑りやすい赤土の斜面を登るらしい。1人1人足場を確認しながら上る。
上りきるとようやく"せせらぎ"に沿った"遊歩道"となる。ここで小休止兼行動食をとる。今まで大休止もなくゆっくり座る暇もなく歩いてきたが、もうお昼。このあたりからツマトリソウ、マイヅルランなどの優しい白い花が沢山迎えてくれるようになる。

 ああこれで何とか難所は終わったかと思ったら、あれれ・・・。またすぐに雪渓にぶつかってしまった。下が透けて見えるような薄い箇所もあり、ちょうど融けかかっていて渡るのは危ない。大丈夫そうな箇所を見計らって、1人ずつ渡るしかない。なんだか「ロシア式ルーレット」みたいだなあ、と思ったが流石に冗談にも口に出来ない雰囲気。

 しかし、雪解けということでミズバショウ、ショウジョウバカマ、ヒナザクラなどが励ましてくれる。笹を掴んだり藪を漕いだりの連続なので、みんな服が上下泥だらけになってきた。うう,おニューなのに・・・。

<雪解けを待って咲くヒナザクラ>


 次第に雪渓は大きく厚くなって、沢幅一杯を覆うようになる。もう上を歩くしか手段がない。誰も軽アイゼンすら持ち合わせていなかったのは不覚だった。
実は御室の雪渓、と聞いて入れようかなと思ったが、何となくおいてきてしまった。そこはやはり「栗駒山」=易しい山という思い込みだろう。

 ついに目の前に大きな山のような急斜面の雪渓が現われた。あまりの斜度に超ベテランのYさんまでが悲鳴を上げる。スプーンカットになっているので何とか滑らずに登れるが、ガスもかかり視界もなく、滑ったらガスに包まれた底なしの下まで一気に滑落してしまう、という恐怖で誰もが無口で必死の形相になる。ストック1本でも何と役に立つことか。

 歩いても歩いても雪の壁は続く。地図でコースは頭に入れたつもりだったが、実際に視界も利かず、誰もいない雪の上の怖さを思い知る。
1歩1歩確実に斜面に足を置く。1つの壁を登ってはまた先に壁が見える。

 今度は正面に岩壁がそそり立っていて、進めない。右にコースを取って、御室の雪渓をトラバースする地点あたりまできたようだ。後になってよく地図を見れば、ここはT字路状の地点で、右に折れて山頂を目指す地点のようだ。
この雪の壁は防波堤のような絶壁になっていて、降りるに降りられない。仕方なく安全そうな足場を選んで右へ進む。進むとようやく地面が見えて、久方ぶりに「着地」。みんなからようやく話声が聞こえ出す。

 目の前にはずっと左手の岸壁が続いているが、これは見覚えのある景色だ。そうだ、山渓のガイドブックにあった写真の風景だ。・・・確かこの右手上に山頂が見えていたっけ。
 しかし、今あるのはその岩壁と同じ位高い雪の壁。岩壁と雪渓の間に僅かに人が1人通れるだけのV字の"クレバス"があって、私たちを阻んでいる。これを何とかして登る他に道はない。夏道はこの巨大な雪渓の下だろう。
 1人ではどうしても上れない。頑張って上に上がったリーダーが、ロープを張って、それを掴んで、足元の滑る木の根を避けながら何とか引っ張り上げてもらう。本当にM子リーダーがスーパー(ウー)マンに見えてくる。流石です。
待っている間には岩壁にムシトリスミレがいくつも咲いていた。

 先に左手の藪に登った男性陣が「これはとても進めない。雪渓の上を歩くしかないよ。」の声に、今上がったばかりの私が雪渓に上がることに。おっかなびっくり歩いてみるが、大丈夫そうだ。 ということで全員がまた雪渓に上がる。これこそ御室の大雪渓だろう。ガスさえなければもう頂上も望める地点のはずなのに、何も見えない。コンパスを頼りに進む。

 すると後ろから「オーイ」と声がする。あれ?
何とさっきの"沢ノボラー"(沢登りの人)が追いついてきた。
「あれ、やっぱりまだいたの?流石にもういないよね、と話していたんだよ。」
・・・地獄に仏とはこのことか。

 彼らは地元の人で、栗駒を含めてガイドブックも書いているベテランだそうだ。
彼らに少しの間先導してもらって、ようやく雪渓上を安心してついていく。勿論地図読みで、ルートの間違いはなかったが、"プロ"の登場で安心感が違う。みんなも行動時間が長く、危険地帯の通過が多いので疲れている。一瞬の気の緩みが滑落につながるので「気をつけていこうね!」とリーダーから声がかかる。

 で、ようやく稜線に。須川分岐へつながるルートに出た。ようやく雪とお別れ。須川分岐から先はもう丸太を組んで階段になっている。楽々コースに合流したのだ。ほっとするが、疲れも随分たまってきて、足が重い。
オノエランの小さな白い花がこぼれんばかりにあちこちに咲いている。展望も全くない。

<オノエラン>

 なだらかな稜線を歩き疲れた頃、頂上へ。14:45になっていた。行動時間は既に8時間。今まで大休止もなく、殆ど立ったままでよくぞここまで歩いて来たものだ。

先ほどの沢のお二人によくお礼を言って、10分後には頂上を後にする。
時間超過のため、最短距離を取る。分岐に戻ってバスの待つ須川コースを行く。階段状の道を降りていく。ここもオノエラン、イワカガミ、ツマトリソウ、ミツバオウレンなど花が咲いている。雨の後で泥だらけ。

歩いていくと硫黄の匂いがする。ああ、下山口は温泉だったなあ・・・。
クリームソーダのような色の小さな湖に出る。昭和湖だ。

<昭和湖>

 ここからは一層遊歩道的なルートになる。右手の沢はガスのせいか木が枯れている。少し景色が見渡せるようになってきた。柵のある遊歩道がずっと続いている。

<闘い済んで日が暮れて・・・?>

 そのうちに湿地帯になり、ワタスゲやトキソウ、イワイチョウ、ミツガシワなどの植物に変ってきた。名残ガ原というそうだ。木道になり、温泉から足を伸ばしたのか、観光客風の人に出会う。
いよいよ浴衣姿の人がいると思ったら須川温泉に出た。16:45になっていた。

 時間が遅くなったので、露天風呂500円也に入って、ようやく汗を流す。さっき昭和湖で見たのと同じ色の温泉だ。広くて、泊り客も沢山入っている。紅葉の頃もいいだろうな、と思う。
さっぱりしてようやく車中の人となる。

 翌日は予報が雨で、みんなも疲労が激しいし、また栗駒で普段の何倍もの充実感を味わったので「もう満腹」・・・ということで満場一致で翌日は観光に決定!松島めぐりと青葉城跡を見て、バスで帰路につく。

 今回は登山教室でもできないような貴重な沢山の経験ができた。無事に下山して初めて、「変化に富んだ充実したコースだった」と言えるが、今回は危険と隣り合わせ、決して経験豊かなリーダーと万全な装備がなければ、この時期には一般登山者は踏み込まないほうがいいルートと言えよう。
東北の山の厳しさを肌で痛感した山行となった。


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