表大雪縦走   2005年8月15日

コース:層雲峡〜黒岳七合目6:35〜8:10黒岳山頂8:26〜9:48御鉢平展望台〜10:25北鎮岳分岐〜11:35間宮岳12:00〜12:56旭岳13:12〜14:20姿見ノ池〜14:40ロープウェイ駅


いよいよ最終日。今日は大雪山の大縦走である。登りも下りもロープウェイではあるが、コースタイムは8時間以上と結構長い。途中のエスケープもできず、引き返すかどうかは黒岳までで決めないといけないな、と思う。

ロープウェイの始発に乗るべく駅に歩いて行く。いきなり雨がザーッと降ってきて慌てるが、天気予報ではそれほど悪くない。山の上がガスっているが、何とかなるだろう・・・。

ロープウェイ、次いでペアリフトと乗り継ぐと登山口の黒岳7合目である。
(ペアリフトは結構長かった。ガスの中、滑るように進んでいく。足元には植えられた花が続いており、幻想的だ。"添乗"業務担当としてリフトの切符を配り終える頃には残っている男性は3人、そこで一番"穏当な"方を選択し・・・。)

さて、まだ濃いガスの中、ちょっと空を見上げてから歩き出す。このあたりは観光客も沢山歩くようで、なんとコンクリートでがっちり固めた石段が延々と続いている。
これがまた結構急で、累積疲労+朝一番には何とも厳しい。喘ぎながら登っていく。

ただ、有難いことに階段の両脇はお花畑。背の高い花が多い。おなじみとなったチシマノキンバイソウ、オトギリソウなどのほかに大雪トリカブト、ナガバ・キタ・アザミはご当地ものの花であり、ハクサンイチゲも本当はエゾノハクサンイチゲのようだ。
息が上がるのは私だけではなく、勿論みんなも相当疲れが残っているので、ペースはゆっくりだが、最初の休憩までがとても長く感じられる。

展望がない分だけ雨に濡れた花が鮮やかだ。北海道の花とも今日でお別れと思うと、やっぱりレンズを向けることとなる。


ダイセツトリカブト

黒岳からの縦走路
7合目から歩き始めたにも拘らず、山頂は遠い。緩むことのない石段はきつい。

それでも90分ほどでついに頂上に出た。ザラザラした白っぽい砂地になっている。
ここでようやく日がさしてくる。

少しずつガスが流れていくと目の前になだらかでまっすぐ伸びた道が見えてきた。
ああ、北海道だなあと改めて実感。

表大雪と呼ばれるが、ちょうど8の字のように巨大な火口をルートが取り囲み、黒岳がまずその始点とすれば、真ん中のジャンクションは間宮岳、最後が姿見の池となる。

今日は黒岳からまずは北鎮岳方面への右側ルート、後半は旭岳を通る左側ルートの予定。
目の前の広大な景色と平らなルートにほっと胸を撫で下ろす。

さっきまであれほどガスがかかっていたのに、日が高くなるにつれあっという間に消えていった。が、今度はジリジリと照りつける日差しで暑い。
主だった稜線はほぼ2000〜2300mくらいの標高だが、夏の日差しは容赦ない。
まず目に飛び込んできたのは雪田の周りをびっしりと取り囲むエゾノツガザクラ。濃い赤紫の小さな花がカーペットのよう。
さらにその色は赤紫からピンク、薄いピンクまで濃淡が美しい。
アオノツガザクラ(クリーム色)との自然交配によって様々な色が現れるらしい。

暫くはのんびり展望と花を楽しみながら表大雪を満喫しながら歩いていると、自然と他の登山者に追い抜かれることになる。


中でも若いアベックが大きな荷物を背にスタスタと追い越していくと、Gさんがすかさず二人の関係を、「あの2人の微妙な距離感はね、・・・」と解説してくれる。そのアベックの姿もあっという間に小さくなっていく。

少し登って御鉢平に至ると大きな火口が姿を現す。大きな火口だ。真ん中あたりは温泉が湧いているらしいが勿論立ち入り禁止である。
北海道はスケールが大きくて、何だかこちらも気が大きくなってくる。黒岳のきつい登りと比べればお散歩、お散歩・・・。

目の前の北鎮岳には斜度のある登りに雪が残っている。見れば、さっきのアベックがまるでスローモーションのように歩いているではないか。
あそこは難所になっているのかな、と思って歩いていると、キタキツネに接近遭遇!


キタキツネ発見!
登山道を悠々と横断し、我々をまるで無視するかのようにどこかを見つめている。ナキウサギでも狙っているのだろうか。

キツネ、の声に全員がカメラ片手に駆け寄るが、キツネはどこ吹く風。
座ってポーズをとってくれているかのようだ。
みんなのカメラに収まって、悠然と歩き去っていった。

北鎮岳への分岐直前の、あのアベックが難儀していた斜面にさいかかるが、実は大したはない。一部凍っているものの、あっさり通過。

ここからピストンすれば、道内で旭岳に次いで高い北鎮岳も登頂できるのだが、メンバーの体調とペースから断念し、分岐で一休みしたあとはループの要である間宮岳に向かう。

見晴らしの良い稜線歩きが続く。もう熊ヶ岳の後ろに旭岳が見えている。な〜んだ、あんなに近いのか、とリーダーはがっかりしている。海外旅行帰りに機上から九十九里浜が見えた時の心境だろうか。

でもコースタイムではまだまだ3時間はかかる。足も大分酷使しているのでストックは欠かせない。

殆ど平らな台地のような道を行くのはちょっと物足りないが、足元に珍しい花が咲いているのは、千島クモマグサのようだ。
間宮岳に着いて、時間も時間なのでここでランチタイム。
昨日コンビニで仕入れた冷やし中華を食べている人がいる。私は山ではグルメの対極にいるので、かさばるが軽いパンを齧る。

強い日差しを避けながら地図をじっくり眺める。確かにもうゴールは見えてきた。歩き通せそうだという安堵感。でもまだ旭岳への登り返しもあるから、と緩んだ気持ちを引き締める。


チシマ・クモマグサ

来し方を振り返る
振り向けば、黒岳が随分遠くなっている。目の前にはもう旭岳がどっしりと構えている。人工の建造物は何もない。この雄大さが歩く疲れを忘れさせてくれるのだ。

昼食を終えるといよいよ旭岳を目指す。大きな雪渓が見えるが、その上を歩く人の姿は見えない。ルートは雪渓を巻いているのだろうか?

どれがルートかなと思いながら歩いて行くと、何とあの雪渓の上を登らなければならないことが明白になる。斜度もきついが大丈夫だろうか。

雪渓の基部まで来ると、驚いたことに朝追い抜いていったアベックが腰を降ろして休んでいる。いや、我々の到着を待っていたという感じだ。

まず男性2人組が雪の斜面を先行しているが、それを追う気配もない。

近くに寄れば雪はザラメ状で、難なく登れることを確認し、リーダーとGさんが先行してステップを作って下さる。
そのお陰で快調に急傾斜を登っていく。それを見てか、ようやく我々の尻尾を例のアベックが登りはじめた様だ。

元からスプーンカットになっていることもあり、みんな慣れた足取りでどんどん登っていくが、振り返ると何とアベックは亀の歩みでどんどん離されていく。

どうやら雪に不慣れで、特に女性が怖がっているようだ。確かに、コースの割りに大きすぎるザックと新しい用具を見れば山を始めたばかりか、年に数回しか登らないのかもしれない。


旭岳山頂
ペース良く旭岳の中腹まで来ると、ここで雪も終わり、ザレ場に変る。
今度は滑り台の上に砂を撒いたようで、立ち止まることとズルズルと滑ってしまい、登っているのか落ちているのか分からないほど。脚力がない私には、落ちるより先に足を前に出すしかない。

列を乱して申し訳ないと思いつつ、声を掛けてから、先頭に出る。上の方からリーダーやGさんが足場の指示を出す。転んだら一気に下まで落ちるかと思うと怖いが、止まることも出来ず、苦しくてもとにかく足を止めずに一刻も早く上りきるしかない。

やっと少し足場がしっかりしたところで振り返ると、何とみんなを大きく引き離してしまった。先頭だった皆さんは斜度とザレ場に苦渋し、必死で登っている。
そしてそのはるか後方に例のアベック。旭岳を登るのは雪があるほうが遥かに楽だと思い知らされる。
ようやく登り詰めた山頂でみんなを待つ。
広い山頂からロープウェイ方面を見渡すと、地獄谷と呼ばれる谷間から盛んに噴気が上がっている。生きている山なのだ。

全員揃ったところで記念撮影。これが北海道大遠征最後のピークなのだ。みんな満面の笑み。そう、全員揃って全山無事登頂したのだから。
(ところで例のアベックは、大分経ってからやっと到着し、疲労困憊といった様子でそのまま座り込んでいた。特に、女性がとても怖がっていた様子。)

大展望を惜しみながらも、何とか下山後の温泉タイムを捻出したいのと、フェリー便の出る室蘭までの数時間の移動も控えているため、気ぜわしくなってくる。

ここからの下りもザレていていやな感じだ。尾根を一気に下るコースで、足に来ることは間違いない。


地獄谷とロープウェイ駅方面
下りも急斜面で、岩が点在し、転んだら怪我をすることは必至である。しかもザレ場は下りの方がブレーキが効かず、ストックの助けも焼け石に水。重力の法則にしたがって、どんどん足が滑っていく。
そこで、今度もごめんなさいと言って、先に行くことにする。それに、リーダーはロープウェイの発車時刻を気にしているし、団体切符も買わなければならない。

そう思って必死に降りていくが、また先頭の女性陣と離れてしまい、転ぶ人も続出。リーダーをどんどん追う私が必要以上に焦らせたせいだ・・。ホントにごめんなさい。

とにもかくにも必死になって降りた姿見の池には観光客がうろうろしている。カメラ片手にヒールで歩いている女性などを目にして、一瞬ここはどこ?と思う。

振り返ると最後尾にいたはずの男性陣が大股で先頭を歩き、その遥か後方に小柄な女性陣が降りてくる。あ〜しまった、と思うが後の祭り。

全員が揃うのを待って、各自旭岳をバックにして最後の記念撮影を済ませると、あとは話の花を咲かせながら「遊歩道」をゆっくり歩き出す。私はロープウェイ乗り場を目指してリーダーと共に先行する。
あたりは草原のようになっている湿地で、花がいろいろ咲いているが、そこにニョキニョキ伸びたホソバノキソチドリが気になって、最後に1枚撮って、また駆け出す。

もう右手に曲がれば駅舎、というところで、前を行くリーダーが急に振り返って「ギンザンマシコ!!」と言う。
え、あの、幻の鳥?

慌てて駆け寄ると、潅木の上で悠然と歌を歌っているではないか。

それは赤黒い、ずんぐりした鳥で、ちょっと目つきが鋭いが、確かに綺麗だ。

Iリーダーは最後の最後に念願の「対面」が叶い、大喜びでカメラを向けているが、マシコは飛び立つ気配もない。
望遠がないので写るかどうか心配しながらも、兎に角何度かシャッターを切る。

それから再度この目で見て、後続のメンバーがいれば・・・と思うが、残念ながらまだ誰も来ていない。

またね!とギンザンマシコに声をかけて駅舎に向かう。


木の上の
ギンザンマシコ
リーダーと合流し、人数分の切符を買うと発車時刻が迫っているという。慌てて駅舎の外のみんなに声をかけると、駆け込んでくる。何とか間に合い、ロープウェイに乗り込む。

そこでリーダーがマシコを見たというとみんなびっくり。私も見たというと羨ましがられる。

これで、目的は全て達成したとIリーダー。見ていないのはヒグマだけだね、と笑う。

満員のロープウェイの中では液晶画面に大雪山の自然が紹介されている。すると、そこにあのギンザンマシコが。・・・ここでみんなも初めて「銀座マシ子」の姿を確認する。

ただ、この感じでは、案外目にする機会は多いかもしれない。

ホテルで入浴できると聞き、支払いのためにドアを開けると、うわ、大きなヒグマが!・・・と思ったが勿論剥製。いきなりの遭遇には本当に驚かされた。でもこれでお目当てを全部目にしたことになる。

「30分1本勝負」で嵐のように入浴を済ませ、またバスに戻れば、あとはひたすら室蘭を目指すのみ。車内では乾杯!の声が響き、あとは揺れに任せて睡魔のなすがまま。

暮れ行く北海道の景色を呆然と眺めながら、ああ、山も夏休みも終わったなあ、と思う。

すっかり暮れてようやく勝手知ったる室蘭港に着く。手続きを済ませ、久しぶりに大きなビルの中の照明がきらめくレストランで食事となる。そう言えば、この前ここで食べたのはもう5年も前なんだなあ・・・。
でもまだ振り返るのはやめておこう。

お盆で込み合うフェリーに乗り込み、短い祝宴の後、明日の6時までのしばしの眠りにつく。
船は八戸に到着し、所用のため先に新幹線で帰るGさんを駅に降ろし、高速道に入る。

これから東京まで、本州の北の端から走り出すのだ。高速道路網が可能にした行程であり、お盆と言ってもまだ朝早いためか、バスは順調に走っていく。
途中のSAでお土産を物色したり、つまみ食いをしたりしてにわかに物見遊山気分である。飛行機もいいけれど、北の果てまで行って来た実感があって、意外と楽しいものだ。
何より、この移動時間の長さが夢のような毎日から私を少しずつ現実の世界にひき戻す。

バスが仙台を少し過ぎたところで、一瞬強い衝撃を感じる。とっさに窓の外へ目をやるが、よく分からない。おかしいなと思っていると、しばらくして掲示板を見たリーダーが「地震により道路閉鎖!」と叫ぶ。
ああ、やっぱり。後ろの座席のYさんも、衝撃を感じたという。

ラジオの情報ではここは何と震度5の地域のようが、実際にはハンドルを取られて運転不能という程ではない。しかし高速道は閉鎖となり、あっという間に車がつかえる。
パトカーが脇を走っていく。一体どうなるのだろう。

結局、路上で1時間半全く動かず、やっとインターから出されると、にわかに係員の動きが慌しい。聞けばもうすぐ再開とのこと。早速Uターンして高速道に戻る。
余震も心配だが、とにかく東京へ向けて帰るしかない。

結局、その後の渋滞はそれほどなく、念のため常磐道に迂回して、後は順調に戻ることが出来た。

大きな荷物と、沢山の思い出とお土産を胸に、家路に向かう。思えば本当に長い長い準備を経て、達成したトムラウシ。少しだけ自信がついた。
でも次は参加できるだろうか・・・。

元気に怪我なく楽しんで山を歩くこと、それが一番だと思う。
山との出会い、人との出会いを大切にして行きたいと改めて思う。

ご一緒した皆様へ


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