日向山   2003年8月31日

コース:錦滝〜雁ヶ原〜山頂〜矢立石〜登山口


 今年の夏は冷たい夏で、しかも雨にたたられて、夏山を満喫できなかった方が多かったと思う。私たちは8月最後の日曜日に日向山へ行くことになったが、 やっぱり雨から逃れることはできなかった。

 今回は数ヶ月ぶりにお目にかかる方々が殆どで、とても懐かしく、嬉しかった。
高速に入ると空は明るくなって、時々青空も顔を覗かせるが、いざ山に近くなってくると、雲行きはやっぱり怪しくなった。
とにかく、登山口への入り口に丁度よく「道の駅 白州(はくしゅう)」がある。ここは本当に便利で、賑わっている。
一番のポイントは、名水(南アルプスの天然水!)が無料で汲み放題なこと。大きな容器をたくさん抱えた人が列をなしている。ここでトイレ休憩を兼ね、水筒の水を名水に入れかえて、 準備を整える。朝寄ると、今日から取れたての野菜の販売があるというので、帰りでは売り切れだろうと、先にいろいろ買い込むことになった。そこはそれ、個人山行のよいところだ。 私はプチトマトにニガウリ、みんなはネギやらジャガイモやらリンゴにホオズキまで、思い思いの買い物を楽しんだ。

さて、また車に乗り込んで、日向山へ向かうとだんだん怪しいガスの中にはいっていく。山の上はやっぱりガスの中、矢立石で下りてみると上だけ合羽を着ようかどうしようか、という天気。
準備をしていると少し降ってくる。傘でしばらく様子を見る。
今回はまず林道を進んで、ゲートから先に入り、錦滝から上るコース。初めてだ。短くても結構厳しいルートと聞いている。でも、今回はごく少人数だし、ベテラン揃い、リーダーもいるので私は何も考えずついて行きさえすればよい。
あ〜楽チン。
とはいえ、折角の再会なので、何かしましょう、ということでトン汁をすることになっている。水も多め、ガスやコッヘルも持ち、さらには私には滅多にないことながら果物なんかも冷やして持ってきたので、ザックはそれなりの重さになっている。
しばらくはなだらかな幅広い林道歩き。何か花は?とキョロキョロしながら歩いて行くと、あった!
季節はずれのサクラソウ?と思う濃いピンクの花こそ、お目当てのオオビランジだった。
岩肌から身を乗り出すようにあちこちに咲いている。花も最初の1つは随分小さかったので間違えそうになったが、ほかはみんな大きくて、間違えることはない。 こんなところに咲いているんだね、と感激。雨でデジカメはうまく写らないのがシャクだけど・・・。


道端のオオビランジ

今回は急に都合が悪くなって欠席のK子さんに見せたいね、とみんなで話す。
他にはオレンジの目立つフシグロセンノウ、可憐なソバナ、かわいいホタルブクロなどが咲いている。
道が曲がりくねり始めると、そのうちに錦滝に出た。そのころには大降りになっていて、今日はダメかなあ、と恨めしげに空を仰ぐ。
時間ももう11時だし、ちょうどよく東屋があって雨をしのげるので、ここでお昼ということになる。荷物も減るし、一石二鳥。

みんなのザックから、鍋・材料・ガス・コッヘル・食器が次々に取り出される。慣れた手つきでどんどんトン汁は出来上がり、おいしそうな湯気が立ち上る。
雨は更に激しく降ってきたが、「食べているうちに小止みになるかも。」
味見も終わって、「頂きます。」・・・みんなで食べると美味しいなあ。

食べていると10人ぐらいのグループが合羽を着て到着。その後から更に10人。同じ団体らしい。本降りになった雨に、屋根の下で合羽を着たりザックカバーをつけたり、中には 雨合羽を持っていない人もいて、大きなゴミ袋や薄いウインドブレーカーのようなものを着せている。あらあら・・・。
私たちが片付け始める頃、登山道を登っていった。

有難いことに、片付けていると日が射してきて、雨が上がったようだ。みんな食べ物や水で重かったザックが随分小さく、軽くなったよう。この先は本格的な山道で、 いきなりの急登、それも半端ではない。ザックを背負っていざしゅっぱつ、というその瞬間、何事か!?という大きな物音と共に東屋の軒先からドサっと何か落ちてきた。折れた幹と枝の一塊が、 風に揺れてかひっかかっていたところが外れてか、一気に落ちてきたのだ。間一髪、何の前触れもなかったので、誰かがその下敷きになるところだった。クワバラ、クワバラ。

気を引き締めて、急登にかかる。半端でない傾斜、頂上でのお茶と思ってまだ1.5Lほど水が入っているし、ガスボンベやコッヘルは軽くならないので、足腰にずっしりくる。途中で止まると滑り落ちそうだ。
「気をつけ、前にならえ」をすると、のばした腕先が斜面につくようだ。枝などにも掴まりながら、慎重に登る。たまにロープもあるが、これは信用できない。時々プラスチックの板に「ハイキングコース」とあるので、みんなが見つけるたびに「どこが ハイキングなの〜!」と不平を言う。その都度リーダーが「ハイキングでしょ。」と応えるのがなんだか微笑ましい。
笑いながらも足元は確実に。なんだか足が攣りそうだ。あっという間に汗ばんでくる。
しかし、この傾斜で雨だったらとんでもない。下りに使うのも危険すぎる。途中少しだけ傾斜が緩む場所もあるが、殆どが休むこともままならない急登の連続。

それでも亀の歩みながら確実に進んでいくとさっきの"B班"さんに追いついた。
見れば中年(老年?)男性がバテている。「お先にどうぞ。」と言われて「我々もゆっくりなんですが・・・。」と返すものの、「では、お先に。」
しかし、だんだん登っていくとこのルートも整備されていることが分かる。立派な鉄の階段や、土留めのある階段上のルートなど、有難い。
この、常に目の前に地面があるような傾斜の中で私たちの目を楽しませてくれるのは、オクモミジハグマ(奥紅葉ハグマ)。白い細い花弁の先がねじれてカールする様がかわいらしい。この前どこかで「これがモミジハグマよ。ホントは"オク"がつくんだけどね。」と Y子さんにいわれたことを思い出した。
やっと少し雑談のできるような道になると「←雁ヶ原30分、錦滝20分→」という標識。あれ?でも目の前の樹林の向こうに真っ白い斜面が透けて見えるけど、あれは 雁ヶ原じゃないのかなあ?それに、下りと言っても"20分"で降りられる?あれれ。
・・・案の定、すぐに目の前に真っ白いゲレンデのような花崗岩の砂地が姿をあらわす。思わず、おお、と感嘆を漏らす。
しかし、かなりの斜面。砂地の急斜面を登るのは見た目よりずっと足に負担がかかる。ジグザグに登り始めると左手斜面はお花畑。またもオオビランジ、ハナイカリなどが励ましてくれる。見上げると鞍部には"A班"さんたちが休憩中。後から"B班"の男性が空身で走るように掛けあがってきて、大声で指示している。 「踏み跡以外は歩かないで!!」・・・そう、うっかり足を滑らせると怖いことになるのだ。
ようやく鞍部に着くと、実はまだ雁ヶ原ではなく、右に折れてまだまだ砂丘のようなところを登らなければならない。そのうちにまた激しく雨が打ち付ける。
リーダーがミヤマモジズリを1株見つけて、教えてくれた。確かにモジズリ(ネジバナ)そっくりだが、1つ1つは薄いピンクのランだ。かわいい。
ガスと雨で余り視界は開けていないが、周囲の山は少し見える。松や樹林とコントラストになって、墨絵のよう。・・・でも雁ヶ原はまだ。
2つ目の斜面を登りきると今度はトラバース。ここから見るとちょっと怖そう。
でも歩いてみれば何でもない。・・・とはいえまさに蟻地獄のように崖になっているので吸い込まれそうだ。
強風・ガスが濃いときは一気に危険地帯と化すだろう。


雁ヶ原へのトラバース

右手にはコゴメグサやオンタデなど。そしてやっと雁ヶ原に到着。やっぱり30分かかるようだ。雨脚も時々傘を激しく打ち付けるほどに。
山頂でのお茶会は無理のようだ。折角の水も果物も"歩荷"しただけ。
風も吹いてくるので、ちょっと奥の、去年"発見"したオオビランジやシオガマ、ハナイカリ、コゴメグサなどのお花畑を堪能したら、早々に下山とする。

樹林の合間の何も見えない頂上を再訪したあとは、今度は比較的緩やかなルートなので傘を指して歩く。
しかし、登山道は雨で小川になっているので、木の根もあり、要注意。笹原の中につけられた道なので、余り花もなく、寂しい。雨の中、ひたすら下を見て滑らないように気を使いながら降りる。
この夏は雨が多かったせいか、倒木がルートにたくさんあって、ちょっとびっくりした。危険箇所はないものの、雨のせいで随分長く感じたが、矢立石を右に見て、ようやく林道に下りる。

今回は周回コースをとったので、ルートに変化があって非常に面白かった。コースタイムは短いけれど、もしも錦滝方面から登るなら慎重に。バランス感覚に不安のある人も避けた方がいいと思う。
この夏最後の日曜日、やっぱり山で雨に降られてしまったが、楽しい山行だった。帰りは大渋滞に巻き込まれて、談合坂のSAではパーキングに入るのも出るのも、本線に出るのも牛歩。あれはちょっと大変だった。


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