早池峰 2002年7月21日

 河原坊〜山頂〜小田越


 夜行で五葉山に登った翌日、登山口近くの宿舎からシャトルバスに乗って河原坊(かわらのぼう)登山口へ。土日は自家用車では登山口に入れず、岳駐車場においてシャトルバスに乗り換える。バスは低公害車、車内放送で自然保護のレクチャーあり。自然保護に大変力を入れていることがうかがえる。

 我々は河原坊登山口で降りて、ここから登る。ここにも綺麗なトイレがある。
5:40出発。山頂方向はガスの中。ちょっと気になる。

 早池峰は憧れの山。インターネットで早池峰の花を調べ、特産種だけは必ず確認しようとプリントして花図鑑を作って持ってきた。ゆっくり探せたらいいなあ、と思いつつ歩き出す。

 まずはすぐにセンジュガンピ(白いナデシコ)やクガイソウ(紫のトラノオ)が沢山咲いていて、びっくり。湿度も高いが、とにかく登山道を歩いていると"きっと何かがある!"と強く感じさせる山だ。もう、目を凝らして、道の左右を一生懸命探しながら歩く。

 始めは沢に絡んで上っていく。沢筋に初めて見る紫の花。(後で調べるとミソガワソウだった。)葉も丈も大きく茂っている。数回の渡渉を経て高度を上げていく。

<渡渉>

 空はだんだん重たくなってきたが、足元は心配したほど滑らない。普段も良く見かける花々が途切れなく迎えてくれるのが嬉しい。頭垢離(こうべごうり)に7:00着。
時々ぱらぱらと雨が落ちてくる。沢を離れて岩場に入ると、大粒の雨が降ってきたので、諦めて合羽を上下着込む。蒸し暑い・・・。

 見上げると急角度で岩場が上昇している様子がはっきり分かる。ああ、あそこを登るんだな。岩場には短い間隔で番号を振った標識と登山者マークの標識が岩に張り付いている。

<岩場に入る>

 あれ、もうハヤチネウスユキソウ?!・・・こんなに沢山あるよ、大安売りだねえ、と思ったら、(後から分かったのだが)それは他の山にもあるミネウスユキソウだった。

<ミネウスユキソウ>

 登山道のあちこちに、事前に調べた特産種という「ミヤマ・ヤマブキショウマ」らしき葉の植物が群生しているのだけれど・・・誰も足を止めず、気もつかない。一応自分で作った"花図鑑"を開いてみると、やっぱりこれだ。葉に特徴があるので分かりやすい。花は終わってしまったのだろうか。

 この頃から、カメラで撮ったり、花を近くで見たりしているうちに最後尾になってしまう。岩場もだんだん傾斜が強くなってくる。その分花も増えてきたような・・・。
サブを務めるKさんと話しながら登るようになる。彼は花に惹かれて相当詳しくなったそうで、勿論花目当ての登山である。二人で、これは○○草、これは△△だろうか、と確認しながらマイペースで登る。

 すると小さなラン発見。でも種類がよく分からない。

<何ランなのでしょう?>

 もう道の両側は花、花、花!ここまで途切れなく素晴らしいお花畑が続くとは驚きだ。/p>

白馬からの縦走路以来の素晴らしさだ。では、ご披露しましょう。

<ミヤマオダマキ>

<ミヤマハンショウヅル>

<ミヤマウサギギク>

 残念なことに、白馬の縦走の時には花を探しながら歩いたM子リーダーだが、天候の悪化とメンバーの安全管理に手一杯で、ゆっくりお花を観察する余裕がないようだ。
「あ、○○が咲いている!」と以前のように気軽に声を掛けにくい雰囲気になってしまっている。先頭に、それほど花の名には固執しない人が固まってしまったのだろうか・・・。

 我々最後尾は、花を確認しながら、道を左へ右へ。
他にはヨツバシオガマ、ハクサンチドリ、ナンブイヌナズナ(これも珍しい花だそうだ。小さい黄色い花)、イブキジャコウソウ、・・・。

 K氏曰く、「いいんだよ。どうせ急登なんだから、すぐに渋滞して追いつくよ。せっかく花が目的で早池峰に来たんだ、ゆっくり行こう。」
 確かに、ちょっと間隔が空いたかな、と思うが写真を撮り終えればすぐに追いつく。M子リーダーもゆっくり登ってくれるし、休憩も取ってくれるので楽に登れるて有り難い。でも、ちょっと遅れるだけでも勝手な行動をしているようで、凄く気が引ける・・・。
一緒に「あ、ウスユキソウだ!」「そうね!綺麗ね。」と話しながら登れたらいいのになあ・・・。

 急傾斜ではあるが、手がかり足がかりは沢山あって、実はこういう岩場は大好きだ。そして、そこには大きな凛としたウスユキソウが!
「これが、あの、ハヤチネウスユキソウ?!」

<ハヤチネウスユキソウ>

 ミネウスユキソウとは全然違う。大輪で、茎も長く、葉もとがって細い。ああ、本当にエーデルワイスそっくりだ。
しかし、岩場の上部になっても、ミネウスユキソウと混在している。ひょっとして気付かない人もいるかも。しゃがみこんでミネウスユキソウの群落に一眼レフを向けている人がいるし・・・。

 早池峰特産種のうち、どうやらナンブトウチソウらしき葉と蕾が沢山あるようだが、まだ咲いているものが見つからない。白馬へ行ったときに、シロウマトウチソウを一生懸命探したことを思い出す。蕾の形から、これに間違いない、とは思うが、まだ時季が早いのだろうか。
 同じく特産種のナンブトラノオは、ようやくポツリ、ポツリと咲いているのを見つけることができた。

 「ナンブトラノオ」ですよ!とみんなに声をかけるが、「あら、そうね。」で終わり。う〜ん、ここにしかない花なんですけど・・・。

<岩陰に咲くナンブトラノオ>

 しかし、今までの私もそうだった。お花があれば人に名前を聞くが、行く前にお目当ての花を調べてから行くのは初めてだ。そして、そういう登山の楽しみを知ってしまっては、もう後戻りできないだろうな。

 特産種のヒメコザクラは陰も形もない。雪も無いのでもう終わったのか、ここには無いのか。残念。・・・とおもったら、発見!ナンブトウチソウ。
やっぱり、今までに沢山あったがそれらは全て固い蕾だったのだ。

<ナンブトウチソウ>

 一気に満足度アップ。
さらには、ここにあるはず、とK氏と一緒に探しているアケボノソウの蕾も発見。先がとがった暗い色のつぼみだ。やったね!

ルートはもう頂上直下に近づいている。

<頂上も近い>

 風が強くなってきて、写真を撮ろうとすると花が揺れてしまって難しい。
ハヤチネウスユキソウの決定的写真を撮ろうと思うのだが、ついつい「もっといい花があるはず。」と待つうちに頂上に着いてしまった。時計は9:00、ガスの中、登山者が沢山いて、順番に写真を撮っている。

 山頂には小屋があって、入って休むことになる。小田越から登ってきたという集団のリーダーとM子リーダーが話をしている。どうやら、風も強く、傾斜もきついので河原坊へ下らずに、また小田越に戻った方がいいよ、とアドバイスしているようだ。

 上がってくる人たちが「吹き飛ばされそうな強風だよ。」と口々に言う。確かに"激戦"を忍ばせるような、ちょっと乱れた格好をしている。
それに、小田越ルートには絶壁にかかる長いハシゴが待っている。

 9:30、頂上から下山開始。はじめは平坦な道。ガスの向こうにコバイケイソウが沢山咲いている。しかし、確かに風が強くなってきた。木道を歩いて進むとだんだん遮るものがなくなって強風が暴風になってくる。
 前が渋滞したな、とおもったら、鉄ハシゴに来た。垂直の壁に並行して2本のハシゴがかかっている。順番待ちだ。

 ハシゴはしっかりしているが、降り始めに姿勢を変えるときが怖い。しっかりハシゴに向かい合って、足元を確認すると、後はスルスルと降りられる・・・と思ったら暴風の突風まで吹き荒れて、大変なことになってきた。

 最下段で横にトラバースして鎖場を過ぎるとまた少し道は緩くなるが、この暴雨と足元の蛇紋岩が滑るの滑らないのって・・・。余り滑らないよ、という顔をしていながら、ちょっと足を置くとツル、風に煽られて足元が千鳥足になると、これまた容赦なくツルツルっと滑ってくれる。

 風は吹き荒れ、軽量級かつ筋力無しの私は飛ばされそうだ。足元は滑る滑る、もうゆっくり歩くしかない。ザックカバーが煽られて危険なので外すようにと指示がある。
 私のはザックも大きく、しっかり止めてあるし、後ろの人に見てもらうと全く問題ない、というのでそのまま歩く。(かなり降りてから「雨でなければ強風の時はザックカバーごと吹き飛ばされるので、必ず外すように。」との指示だったことがわかり、冷やっとする。)

 それにしてもこの風は何だ!あっちへよろよろ、こっちへよろよろ、われながら情けない・・・。意地でも転ばないぞ!と思って必死に頑張る。目の前で何人か滑って転ぶ。怖いなあ。

 怖いといえば、下から上がってくる人たちの装備。え??という軽装で登ってくる。
山頂付近を覆うガスと強風からようやく抜け出したかなという地点で休んでいると、100円のビニールの合羽を来た人や、トレパン+運動靴の学校登山集団がどんどん上がってくる。
 え?あの風で小学生なんか吹っ飛んじゃうよ。どうするつもりなんだろう。地元なら、もうちょっと考えて欲しいものだ。

 そんな登山者とすれ違うたびに、仲間と顔を見合わせて思わず苦笑してしまう。
「あの人たち、どこまで行けるかしらね。」

 ・・・小田越ルートは3合目を過ぎるととたんに顔が変る。そう、楽々コースの雰囲気だ。急に傾斜も緩み、ついでに登ってくる人たちの顔ものんきに見える。下は晴れて晴天なのかもしれない。そうそう、気温も上がってきた。
 そうこうするうちにいよいよ道は平坦になって、登山口に降り立った。11:35、全員無事下山完了。M子リーダー、お世話様でした。

 11:52のシャトルバスに楽々間に合って、岳の駐車場に着くと、バスが待っていた。ここにも綺麗なトイレがある。勿論青空が覗き、暑い。振り返ると、早池峰の山頂付近はやっぱりガスの中、見えない。

 下りは荒天のため花を見るとかカメラで撮るとかは全く問題外だったので、K氏と「登りでゆっくり花を見てよかったね!」と話す。
 小田越ルートにもお花畑があるが、それは次回のお楽しみにしよう。
早池峰には是非またゆっくりお花を見に来たい。
その時も、コースは河原坊から上がりたい。急登だが、花を見るには下からのほうがいいし、あの岩場の下りはもっと危ないだろう。標高差はずっとあるが、小田越から登らずに河原坊から、をお奨めしたい。

 最後にバスで大迫町へと降りていくと、路上に何か歩いていて、さっと隠れたのを見る。その顔には白い線が縦に入っていて、思わず「ハクビシンだ!」と叫ぶ。みんなはタヌキだ、というが私は顔を見たので、間違いない。
早池峰は本当に自然の豊かな山だ。

 今度くる時は図鑑なしでいくつの花が分かるだろうか。


戻る 山一覧へ