果無山脈縦走と玉置山   2006年5月2日夜〜5日

コース:
*果無山脈概略図*
登山口---和田森---安堵山---黒尾山---冷水山---カヤノダン---ブナノ平---石地力山---果無峠
<果無峠以降は小辺路を南下>-八木尾<熊野本宮大社へ>

3日:果無橋10:20--10:34稜線--10:55黒尾山(1235m)11:08--11:40展望台--11:58安堵山12:20--13:26和田森13:36--14:30果無越登山口--14:45ヤマセミの里キャンプ場
4日:果無橋5:28--5:55冷水山6:03--6:56カヤノダン7:04--7:28公門の崩7:32--8:10公門谷ノ頭8:13--1117mピーク(9:10通過)--1158mピーク(9:41~:50)--10:28ブナノ平10:50--11:28石地力(いしじりき)山11:38--12:08果無峠12:16--13:40七色分岐--14:20登山口(八木尾)--14:30バス停
5日:玉置神社駐車場5:18〜玉置神社〜5:58玉置山〜周回コース〜6:10駐車場


果無(はてなし)山脈とは、奈良県と和歌山県の境を東西30kmに渡って横切る標高1200m程度の山脈を言う。最高峰が冷水(ひやみず)山(1261.9m)で、私たちは果無峠から熊野神社側へ降りることになっている。アップダウンは少ないものの、かなり長丁場になりそうだ。

南北朝時代、鎌倉幕府に敗れた護良親王が十津川方面へ落ち延びるとき、「行けども行けども果てがない…」と嘆いたことから「果無山」と呼ばれるようになり、また安堵山という名も、ここまで逃げれば追っ手が来ないと安堵したからと聞く。何とも由緒正しき山脈のようだ。

この山脈が熊野古道の小辺路(こへち)とぶつかるところが果無峠(1070m)。これは高野山から熊野本宮へ向かう南北方向の参詣道で、私たちはこれを南下して熊野本宮に参拝する。これも大きな楽しみの1つだ。
今回はこの長い山脈を、冷水山を基点に東西2日に分けて縦走することになっている。

◆初日◆
3連休の前夜とあって、新宿駅前は旅行者で大賑わい。普段より一層早く到着したものの、2時間以上前なのに既に10名ほどの先客あり。今回はバス2台。大変な人気だ。
普段より早く全員揃って、21時前に出発するが、東名から早速渋滞。先が思いやられる。
幸いよい座席をゲットして、久しぶりの夜行も快適に過ごせそうだ。・・・日も高く上る頃、紀伊半島の西側を進み、阪和道を吉備ICで降りて龍神村まで走る。

まずは今夜のお宿ヤマセミの里方面へ進み、「加財」で橋を渡って林道に入る。「森」、「串」、「峯」と点在する集落名をバス停で確認しながら進めば分かり易い。

(左端隅に果無橋のガードレール)
林道に入ると未舗装で狭いが、坂泰隧道(出口を直進)を抜けたとたんにびっくりするほど綺麗な舗装道路に変わる。
前方には果無山脈が見えてきて、安堵山の先の最低鞍部(展望台あり、稜線の接点)を確認しつつ先へ進む。
またその先には、「果無橋」に冷水山手前の稜線への登山口があるという。

地図とにらめっこしながら橋を探すと、ようやくガードレールにその名を確認できた。
さて、登山口はどこ?

目の前の斜面に赤いテープが揺れているが、ここから登るらしい。


「はてなしばし」
夜9時前に出発して、到着が10時過ぎ。飛行機ならヨーロッパに着いているね、とみんなで笑う。随分遠くまで来たものだ!

◆果無橋10:20---10:34稜線---10:55黒尾山(1235m)11:08---11:40展望台---11:58安堵山12:20---13:26和田森13:36---14:30果無越登山口---14:45ヤマセミの里キャンプ場◆

さて、登り始めたのは10:20、ジグザグの急登を喘ぎながら登り詰めて稜線に出たのは10:34だ。滑りやすいしペースも速いが、よく眠れたせいか、体調はよい。
しかし、寝不足と長距離の移動で体調不良を訴える人もいる様子。無理もない。

稜線に出ると、ミツバツツジの柔らかい紫色が迎えてくれる。今日は大まかに言えば、どんどん下って行くのみ、行程もそれほど長くはないはず。そう思うと、楽しいハイキングに思えてくる。
道はしっかりついているし、テープ印もある。小さなピークを順に踏んで行く。足元には小さなスミレが沢山咲いている。しかし、ツツジとスミレのほかには目立つ花はなく、ちょっと寂しい。

黒尾山を過ぎて最低鞍部に下りていくと、先ほどの林道と合流し、展望台となっている。


展望台から林道(車道)へ

展望台からの眺め
幾重にも連なった山並みが、ここが深い山の中だと教えてくれる。そういえば、今日はまだ誰にも登山者に会っていない。
コース自体は難しいところも無く歩きやすいけれど、如何せんアプローチが長いということだろうか。

展望台から階段を下りきると、稜線の向こう側にも林道が見える。
車が十分走れる幅だが、○○林業の私有地ということで、車が入れぬよう鎖を渡してある。

ここをひょいと跨いで、安堵山を目指す。


林道から林道へ
展望台から20分弱で安堵山に到着。12:20まで昼食となる。やっとゆっくり腰掛けての大休止。まさに私たちも安堵、安堵。
さて、今日最後のピーク、和田森を目指して歩き出す。

地形図にも載っている林道だが、できるだけ稜線(山道)を忠実に辿ろうとすると、笹薮がどんどん深くなっていく。
あっという間に背丈ほどになり、更にはすっぽり覆われてしまう。もう、気分はジャングルの探検隊!

力づくで掻き分けて進むが、跳ねる笹に女性陣は本当に苦労している。
それもそろそろ限界か、というころ、急に右側の林道(砂利道)に逃げる。

先頭で藪漕ぎに興じていたGさんを除けば、こんなに深い藪漕ぎよりは、一跨ぎで並行している林道を歩きたくなるのが人情というもの。
だからこそ、ますます藪が深くなり、誰も歩かなくなる。といっても、この林道歩きも何だか余りに物足らない・・・。とかく人は文句の多いもの。

それでも私たちは笹薮が低くなったあたりでまた稜線に戻り、和田森(わだのもり)に至る。


林道に退避!
でもすぐ脇には笹薮の稜線が続く
思いがけず藪漕ぎを強いられたが、今日はまだ誰にも出会わない。本当に静かな静かな山歩きだ。

和田森
結構アップダウンはあるものの、落ち葉を踏みしめ、時折ミツバツツジに慰められ、足元のスミレに誘われるうちに、あとはひたすら降りるのみとなる。
穏やかな気分で頭の中をからっぽにして歩いていく。自然の中で心身共に浄化されていくようだ。

991m地点を過ぎて分岐を左に見送る(14:00)。ここからは植林の暗い杉林をジグザグに降りて行く。余り楽しいものではない。
ここで今日、唯一出会ったのが、大きなザックを背負った単独行の男性。果無山脈を縦走するにはテント泊しかない。ご苦労様。


下山路
結構厳しい急降下に足を気遣いながら、ようやく下山(14:30)。
果無越(はてなしごえ)の案内板があるが、何故か冷水山までしか載っていない。
これによれば、今日は8キロほど歩いたようだ。

暗い杉林とは対照的に、そこにはシャクナゲが咲き、キンランが咲き、さらには白花が混ざったレンゲまで。急に極彩色の春の里と対面して、何だかびっくり。

あとは味気ないコンクリートの道をどんどん下って、本日のお宿、ヤマセミの里キャンプ場に降りつくが、ゆっくりする間もなくすぐにお風呂へ。
実はこの龍神村の『龍神温泉』は日本三美人の湯とのことで、時間的な余裕を考えて、可能なら立ち寄ることになっている。そこで、下山中も時計を気にしながら必死に降りてきたというわけだ。

急いでマイクロに乗り、龍神温泉元湯へ向かう。

意外と狭くて(というより、私たちが大人数で押しかけたので・・・)洗い場には三重の人垣ができている。お湯はやや褐色でぬるぬるしているが、「源泉掛け流し」という触れ込みだが、少なくとも女湯は循環式のようで、このぬるぬるの正体は・・・余り詮索しないことにする。

さっぱりして、酒屋に寄って、キャンプ場に戻る。教室を改造した三部屋に分かれ、綺麗な布団の並ぶ二段ベッドに落ち着く。

食事をして自己紹介タイム。が、何だかお腹が痛くなって、早く寝ることにする。
デジカメの充電をしたかったが、コンセントが部屋に無く、探しに行って差し込んでも、翌朝忘れそうだし、と諦める。

*今日出会った花々*

ミツバツツジ

シハイ(紫背)スミレ

センボンヤリ

何リンドウ?

紅白のレンゲ

シャクナゲ

◆2日目◆
果無橋5:28--5:55冷水山6:03--6:56カヤノダン7:04--7:28公門の崩7:32--8:10公門谷ノ頭8:13--1117mピーク(9:10通過)--1158mピーク(9:41~:50)--10:28ブナノ平10:50--11:28石地力(いしじりき)山11:38--12:08果無峠12:16--13:40七色分岐--14:20登山口(八木尾)--14:30バス停

キャンプ場で夜遅くまで騒いでいた若者や、いびきをものともせず(毎度の耳栓使用。)体を伸ばして眠れる幸せに浸って、それなりに疲れは取れる。
今日は長丁場とあって、またまた4時起床のはずが3:50には支度を始めている。調理場の大なべをかりて大量にお湯を沸かし、朝食のカップめんや汁物に使い、さらに各自のポットに詰めて、今日も予定より15分も早く4:45に出発。もう外は明るい。
今日も果無橋からだが、冷水山を基点に、果無山脈の東半分と、小辺路(こへち)を熊野本宮まで南下する。一体全長何キロあるだろう・・・。
登山口5:28、稜線に出てひと登りで最高峰の冷水山(1261.9m)へ。ちょっとガスっていて肌寒い。

今日は昨日とうって変わって、ブナ林の稜線漫歩のようだ。1234mピークを過ぎて、カヤノダンを目指す。今日も時折ヤマツツジが迎えてくれる。足元は相変わらずのシハイスミレ。

写真を撮ろうとすると、バッテリーのサインが点滅している。充電せずに2日間は使えないようだ。やれやれ。何とか熊野本宮まで持たせなければ・・・。

だんだんガスが深くなり、なおさら静かな山歩きを演出している。
このあたりはブナとヒメシャラが目立ち、雰囲気がとてもよい。笹と格闘した昨日とは大違いだ。
さらにブナの大木が目立つようになり、一層撮影意欲をかき立てる。そんな時に限って、バッテリー残量が気になるとは。

大木を見つけるたびに、歓声が上がる。幹に抱きついて、その太さを実感している人も。

1132m地点を過ぎて公門の崩(クモンのツエ)という崩落箇所を覗き込む。縦走路上にあるわけではないが、危険箇所である。足元注意!

次のポイントは公門谷ノ頭(1155.4m)。
意外と喉が渇いて、お茶をしたいな〜と思うが、今日はまだまだ先が長いため、休憩時間は(特に列の後方の者には)とても短い。でも、稜線歩きの気楽さで、いざとなれば『自主休憩』してまた最後尾を歩けばいいだけのこと。


ブナの大木があちこちに。
筑前タワを過ぎ、1117mのポイントを過ぎるとミョウガタワ。1158mのピークでやっと休憩。ザックを降ろして一服する。大分距離は歩いたはずだ。
地形図を連結してきた人のは、まるで絵巻物のように横に長い。

まだ9:40だが、既に4時間歩いていることになる。疲れは無いが、下山の長さもあり、気を引き締める。
朝食が早かったことも考慮し、次のブナノ平で昼食とし、もうひと頑張りすることになる。

地形図でもブナノ平は平坦な開けた場所だろうと大いに期待するが、それらしき地点を通り過ぎてどんどん登り始める。どうやら、登り詰めた1121m地点をブナノ平と呼ぶようだ。
意外と狭い頂上で、待望のお昼。思い思いに場所を確保し、朝詰めた熱いお湯でコーヒーを楽しむ。 さて、腹ごしらえも済み、荷物も更に軽くなって、果無山脈最後のピーク、石地力(いしじりき)山(1139.5m)を目指す。

右奥の霞んだ頂上が冷水山。
稜線は少し北東に折れて行き、40分ほどで到着。振り返ると果無山脈の全貌が見渡せる絶好のview pointとなっている。

キツイ所はなかったけれど、静かな山歩きを堪能させてくれた歴史の道が、目の前に延々と伸びている。

最高地点の冷水山が何と彼方に見えることか。みんな充実感一杯で眺めている。
よく歩いたなあと言いたいところだが、まだまだ長い下山路が控えている。

果無山脈の姿を目に焼き付けて、果無峠まで下る。
(地図上のルートは1114mのピークから北東方面に曲がっているが、実際にはそのまままっすぐに降りた鞍部が果無峠(1070m)と思われる。)

何とここで外国人男性2人を含む4人連れに出会い、ここからは熊野古道なのだと改めて実感する。ちょうどお昼時とあって、皆でおにぎりを食べている。日本語も上手だ。


果無峠
ここには17番の石塔がある。これが熊野本宮大社方面に進むと16番、15番、と減っていくらしい。崩れた宝篋印塔もある。(これらの石仏(西国三十三ヶ所観音霊場のもので、大正時代に置かれたとか。)
さあ、目指すは熊野本宮大社、下りも辛いが頑張ろう。

流石に巡礼の道とあって、しっかりした道だ。どんどん下っていき、どんどん足も早くなる。時折急なところもあり、石畳の名残のような道もある。
石仏の番号を確認しながら行く。緩むことの無い長い下りは、急登よりずっと足に来る。無事に歩き終えることが出来るだろうか・・・。

七色への分岐を見送り、もう一息と思う。下界に下りてきたからか、天気も回復し、次第に暑くなってくる。
時折眼下に十津川の流れが見えるようになり、この長い下りも少しずつ終わりに近づいていることを感じる。

道は木の階段状になり、結構膝に響くが、仕方ない。
石仏も摩滅して番号が読み取れなくなったまま、やっと舗装道路に飛び出す。ここは3番の石仏だ。時計は14:20を指している。行動時間は9時間に及ぶ長丁場も、とうとう終わりの時を迎える。

コンクリートの味気ない道を降り、猛然と吠え掛かるワンちゃんの前を通り過ぎて、マイクロの待つ街道に出る。ここに八木尾のバス停もある。

今夜のお宿はと十津川にあるが、この人数では宿の風呂に入りきれないず、立ち寄り温泉は16時までとあって、先に入浴、後からまた戻って熊野参拝となる。

十津川の立ち寄り温泉「昴の郷」には車が一杯。カラスの行水でも今日はとっても満足。それから来た道を戻って熊野本宮大社へ。大きな鳥居が目に入る。
バスを降りると、日本サッカー協会のシンボルマークで一層有名になった八咫烏(やたがらす)の印が目に入る。結構段数のある石段を登り詰め、更に神門をくぐると3つの社が並んでいる。流石に壮麗かつどっしりとした重みを感じ、いかにも霊験あらたかという気がする。
お話を頼んだ権禰宜さんは、一杯気分で口も滑らか、ちょっと軽い感じがするのはちょっと興ざめ。
途中で話半分に、早くお参りしたいなあと思ってキョロキョロするが、なかなか話が終わらない。

それでは、と本殿を写そうかと思うものの、神門の手前に「神門内は撮影禁止。」云々と書いてあったので・・・。

一応三社ともお賽銭を弾んで、更にお土産代わりに八咫烏のついたお守りを山盛り買い込み、財布が軽くなった。(まあ「喜捨」ということか。)おみくじも納得の「中吉」、『ひきしおの 引くはみちくる あしたあり 心しずかに ときをまつべし』と。

さて、民宿に入って、山菜と川魚の夕食を楽しむ。宿のお風呂が源泉掛け流しと聞いて心惹かれるが、結局時間切れで早く寝ることにする。明日は玉置山に登って、あとは東京までの長い長い帰路が待っているので、やっぱり4時起きだ。

朝食のお弁当を食べていると、更に予定が早まって、4:40に出発する。
5:15に玉置神社の駐車場に着く。支度をして、鳥居をくぐって歩き出す。途中に枕状溶岩がせり出した箇所があり、説明版がある。こんなところに溶岩かと不思議な気がする。天然記念物だそうだ。(海底火山の噴出物だが,昔ここに火山があったわけではなく、はるか遠くの海から地球表面を覆っているプレートに乗って運ばれてきたもの」だそう。)

境内は杉の巨木(神代杉)が林立し、いかにも山深いところという感じがする。
朝早いが、もうお勤めの声がする。

神社の裏手の階段を登って行くと、玉石社がある。白い玉石を敷き詰めたところで、この中にご神体の丸い大きな石があるらしい。しかし、階段はどこまで続くので、必死に登って行く。朝から急登はこたえる。

そのうちに、あっけなく山頂に出る。晴れていれば熊野灘が見えるため沖見岳ともいう。
今日は生憎霞んでいて駄目だが、ここは熊野三山(熊野那智大社・熊野速玉大社・熊野本宮大社)の奥宮で、去年那智の山行に参加した人はこれでこの4箇所全部を詣でたことになるという。
朝早すぎて、残念ながらここではお札などを求めることはできなかったが、車でこられるので、いつかまた、折あらば・・・。

谷瀬の吊橋
山頂からはループ状に駐車場に降りる道があり、あっという間についてしまう。余りに早すぎて、予定の90分の半分で戻ったために、運転手さんが参詣に行ったまま戻っていない。

慌てて呼びに行き、ようやく6:30にバスに乗り込む。何とこの時間から東京目指して帰るのだ。GWの渋滞はどうだろうか。

168号で北上中に、途中にある、十津川村の谷瀬の吊橋(日本一という。)で写真ストップ。
山がすぐ迫り、家は斜面に追いやられている。しかし、あちこちに山藤が見事な紫の花を咲かせて見事というほかはない。

バスはそれから五條市を抜け、コンビニに立ち寄ってから亀山ICで高速に乗る。
あとは何度か通った道である。だんだん気温が上がり、日差しも暑い。

幸い渋滞らしい渋滞にも遭わずに無事に東京に帰りつく。
今年もGWの大遠征は無事終わった。本当に果無山脈は遠かったが、それだけにどっぷり自然に浸かって、少しずつ自分を取り戻せた気がする。


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