五色ヶ原〜薬師岳   2010年7月末(夜行3泊4日)

初日:室堂7:00〜9:00一ノ越9:05〜9:50竜王岳10:00〜(昼食20分)〜12:18獅子岳〜13:20ザラ峠13:30〜14:30五色ヶ原山荘
2日目:山荘6:50〜7:55鳶山8:05〜10:25越中沢岳10:40〜12:15スゴの頭〜(昼食25分)〜13:15スゴ乗越〜14:15スゴ乗越小屋
3日目:小屋5:55〜7:25間山7:40〜8:40[2832m峰]9:00〜9:45北薬師岳10:00〜11:05薬師岳12:10〜13:00薬師山荘〜(休憩25分)〜14:25薬師峠〜15:00太郎平小屋
4日目:小屋5:00〜7:50折立


「梅雨明け10日」の安定した晴天を期待しこ北アルプス縦走。しかし夜行バスを降りると無情にも雨。
ずっしいり重いザックを担ぎ、室堂ターミナルに入る。開店前のスナックコーナーに陣取って朝食。諦めて合羽を上下着こんで出発。

外に出てみると、山にも残雪。この時期は初めて。整備された歩道をゆっくりと一ノ越に向かう。途中で3か所の雪田を通過。凍結箇所には要注意。
室堂の標高は2420m、富士山五合目に匹敵。夜行明けの重荷にはキツイ。稜線に出ると風もある。止まない雨に、先を急ぐ。何とか一ノ越山荘に到着。雷情報などを確認し、すぐに出発。 足元にはイワギキョウがかわいい。

イワギキョウ

次のピークは富山大の研究施設が建つ竜王岳。強風を避けて一休み。この風は大きな不安材料だ。朝から絶不調のSさんに合わせてゆっくり進む。一旦下ると次は最大の懸念、 鬼岳の下りの雪渓通過だ。情報収集は万全、県警のサイトからも「問題なし」とはいえ、不安が完全に払拭された訳ではなく、従って、久々に Wストック+4本アイゼンを用意してきた。

さて、最初は難なくクリア、2つ目の雪渓が一番「大変」のようだが降り口が大きく階段状にカットされ、アイゼンも不要。 ただし、降りようとすると学校登山の長蛇の列と遭遇し、全員通過を10分以上待つことになる。ちょっと待ちくたびれてようやく雪面に降りる。アイゼンも不要でサクサク歩いて行く。

長蛇の列

ガスは晴れず、涼しいには涼しいのだが、何も展望がないのは残念だ。黙々と歩くのも疲れる。ちょうどいい場所がないので、 岩がごろごろした登山道脇に座り込んでお昼にする。熱いコーヒーでパンを流し込む。また雨が落ちてきて、傘を開いての短い休憩となる。
飲み食いしたことで荷物が少し軽くなったが、更にSさんの荷物を少しLilyさんに任せ、予想通り(予想以上)の夜行明けの初日の試練に耐え、ようやく 獅子岳へ。
ここまで来ると今度はザラ峠まで一気の下りである。覗きこむと、大きく落ち込んでいる最低鞍部に米粒ほどの人影が。対岸には五色ヶ原が一瞬姿を表すが、風雨が強まり、レンズに雨粒がついてしまう。

最後の難所の前で十分休憩し、合羽のフードもしっかり締めて、いざ、ザラ峠へ。
ザラ峠と五色ヶ原

いきなり風雨にさらされ、遮るもののないザラザラの急降下。吹き飛ばされんばかりの風に、何度も立ち止まる。九十九折りで風上に向かうと一歩も進めない。追い風になると足元が危うい。小雨なのが唯一の幸いだ。
しかし、進まなければ宿に辿りつけない。風の弱まるタイミングを見計らい、少しずつ進む。
フードが煽られ、一瞬で脱げてしまう。慌ててかぶり直し、紐をしっかり締める。吹き付ける雨が鼻に当たる。痛い。

何度も滑りそうになるのを堪えて最低鞍部、ザラ峠に。意外にもそこは風がなく、ほっとして岩陰に座り込む。
だが、ここで終わりではない。小屋は再度登り返したその先にある。あと1ピッチと思って励ましながら立ち上がる。前が見えず、ひたすら足元を見つめながら登っていくと ふっと目の前の坂が消え、台地の端に辿りつく。登り切ったのだ!
木道が現れ、この先に今宵のお宿、五色ヶ原山荘があるはず。

平になった足元に、ようやく笑顔が戻り、周囲に目をやる余裕も生まれる。ここが憧れの五色ヶ原!・・・しかし見渡せど、思ったほど花はない。 ちょっと残念。
でも、咲き始めたコイワカガミやハクサンイチゲ、イワイチョウなどを見ながら歩いていくとやっと立派な小屋が目に入る。
合羽を脱いで小屋に入ろうとすると、小屋の人の指示に従い、玄関先で雨具類を用意された雑巾で拭く。この雨で乾燥室が一杯で、順場待ちだとか。案内放送を聞いて、後から持ち込むようにと指示される。
濡れてずっしり重いザックを抱えて案内されたのは、何と個室。ラッキー!ザックは段ボールを敷いた上で廊下に出しておく。

とにかく畳に座り込み、ゆっくり荷物の整理。ザックの中もしっかり濡れている。防水のはずの内袋の中味もしっかり湿っていて、がっかり。 そういえば、これだけ長時間、雨の中を歩くのも久しぶりかな。
何度目かの放送で、ようやく乾燥室に干しに行く。更に夕食前に男女別に驚異の短時間で「入浴」を済ませるよう放送がある。この人数でどうやって??と思うが、女性が狭い脱衣所に殺到するも、 何とか湯ぶねに入り、お湯に浸かって体を温め、汗を流せたことでよしとする。

部屋に戻れば、あとは夕食までマッタリする。あ〜長い1日だった。布団を敷いて横になったり、今日の花を書き出してみたり。数えれば70を超えている。雨で殆ど撮れなかったのは残念だが、花の最盛期には違いない。

さて夕食を済ませ、再度乾燥室を利用して明日の荷づくりも万端。明日の晴天を祈りながら早めに休む。
明日のコースタイムは短いので、ゆっくりお花を見ながら漫歩したいもの。

*本日のメイン*

クロユリ

今日見た主な花:
白い花:ハクサンイチゲ、チングルマ、トウヤクリンドウ、ゴゼンタチバナ、ミヤマコゴメグサ、コバイケイソウ、ツマトリソウ、イワイチョウ、タカネツメクサ、イブキトラノオ、オオヒョウタンボク、アオノツガザクラ、 アカモノ、ハクサンシャクナゲ、エゾシオガマ、オンタデ、ウラジロタデ、オヤマソバ、ミヤマホツツジ、ミヤマダイモンジソウ、など。
紫〜ピンクの花:イワギキョウ、ミソガワソウ、クガイソウ、ハクサンフウロ、ヨツバシオガマ、タテヤマウツボグサ、ミヤマリンドウ、ショウジョウバカマ、 ハクサンチドリ、タカネシオガマ、イブキジャコウソウ、など。
黄色・オレンジの花:ミヤマダイコンソウ、シナノキンバイ、マルバダケブキ、キバナノコマノツメ、オトギリソウ、クルマユリ、など。
その他の色:ネバリノギラン、クロユリ、ベニバナイチゴ、ミヤマヨモギ、など。


2日目
予報が外れることを期待するも、夜が明ければやはり雨と霧。Mさん持参のガスでお湯を沸かし、朝食後にコーヒーまで楽しんでからゆっくり出発。今日はお花畑を満喫したいものだ。
小屋を出ると濃いガスの中、木道の両側はお花畑。見慣れた花々とはいえ、一面に広がる姿は嬉しいもの。幸いまだ雨が降らないので、今日こそはとレンズを向ける。

写真を撮りながら停滞していると、後ろから話し声。我々より遅く出発した人たちもいるらしい。かなり年配と思われるが、ちょっと危なっかしい足取りだ。
緩やかに登りながらも途切れることのないお花畑に朝から気分もよい。イワヒバリが楽しそうに鳴いている。
キバナシャクナゲやクルマユリ、ハクサンフウロの群落にどこまでも続くチングルマとシナノキンバイ、ハクサンイチゲ。 鳶山を過ぎると今度はリンネソウ。花の饗宴だ。

クルマユリ ハクサンイチゲ キバナシャクナゲ シナノキンバイ

リンネソウ ハクサンシャクナゲ チングルマ

いつしか越中沢岳に向かって緩やかに登り始めるが、ガスが濃く方向を確認しながら歩く。Sさんは一晩寝て元気回復。Mさんは相変わらずザックが重い様子。急ぐこともないのでゆっくり進む。
相変わらずガスが濃く視界が悪い。到着した広い山頂付近は真っ白。
これを過ぎると今度は急降下。ここで聞き覚えのある鳴き声。あ、雷鳥だ!
花に向けたカメラの延長上にとうとう雷鳥登場。子連れの母鳥のようだ。わ〜、待って、待って!と言いながらレンズを向ける。近づいても距離を保つだけで逃げようとはしない。 何度見てもかわいい顔をしている。

気を良くして歩いて行くと難所にさしかかる。ロープのかかる大きな岩場だ。先頭の私もストックを畳み、手袋を外して慎重に足場を探す。
何とか降り切ると、順次足場を指示し、無事全員通過。

雷鳥雷鳥 難所を無事通過

前を見れば、朝見送った4人組が休んでいる。難所通過で手間取ったらしい。声を掛けてから追い抜いていくが、どうやら今日は抜きつ抜かれつになりそうだ。
スゴの頭に向かって登り返し、また下っていく。何でもない岩に足を置いた瞬間、気付いたら手をついて尻もち。打った指が痛い。困ったなと思いつつも折れていないことを確認して少し安心する。
山を越えるごとに岩質が変わるようで、今度は蛇紋岩だったのかと思う。それから全員、足元を見つめ、滑らぬように慎重に足を進める。

さてそろそろ昼時だが、よい場所がない。スゴの頭を過ぎて少し降りたところで大休止。ここでLilyさんに湿布をもらい、手に貼る。
私のお昼はフリーズドライ。お湯を掛けて出来上がり、ちょっと寂しいが、これも軽量化のため。お湯を沸かしてくれたMさんに感謝。

ちょっと明るくなってきて、急に暑くなったので雨具を脱ぐ。この調子で展望も、と期待するがなかなか期待通りにはいかないようだ。でも、そうこう言ううちに 今日の残りも僅かになってきた。標高が下がったせいか、オオバミゾホウズキやオオバキスミレなど、花が変わってくる。

スゴ乗越から小ピークを越えて再度登り切れば今日のお宿、スゴ乗越小屋だ。振り返ると僅かに山並みが見えるのは嬉しい。でも急登で滑る足元に気が抜けない。

ニッコウキスゲ 最後の急登

地形的にはもうそろそろ、と思った頃、樹林帯の中に小さな小屋が現れる。有難い、今日も無事到着だ。受付をすませ、小さなテラスで乾杯!
水が豊富な小屋で、定員は50名。今日は混むのだろうか・・・。カイコ棚の二段ベッドの上に案内されるが布団一人一枚なのは嬉しい。男性の視線を気にしつつも、梁に頭をぶつけないよう注意しながら何とか着替え。濡れたタオルで体を拭き、ほっとする。

夕食は何と山菜の天ぷらと、キノコ汁など心尽くし。豪華ではないがこれには大満足。小屋番さんの心意気がうかがえる。

夕方また大雨が降りだす。明日はどうなるだろう。
いよいよ薬師越えを控え、朝は余裕を持って早く出発したい。5時には出るとして、朝食はお弁当にしてもらう。
寝る前にもう一度地形図を広げ、再度コースと危険個所を確認する。一番の心配は、強風だと薬師越えが不可能ということ。でももうそろそろ晴れるはず・・・。

夜になると、常夜灯代わりのランプが灯される。優雅でいいのだが、ランプに近いと眩しい・・・。

少し眠ると、屋根を打つ強い雨音。それに風も吹き荒れている。激しい雨音を聞きながら、何度も目が覚める。困ったな・・・。

3日目
余り眠れないうちに4時。まだ降っている。出発を6時に延期、と声を掛け合い、また布団に入る。
他の人たちが出発しだし、お弁当を中で食べてから出ることにする。小屋番さんがお茶のポットを出してくれて、暖かい食事ができた。お弁当の中身もなかなかで、この小屋は本当に気に入った。

今日も合羽か。風は少し止んだものの、不安でいっぱい。6時前に外へ出る。すぐに池塘のある湿原へ。イワイチョウなどが咲いているが、雰囲気の良い場所が続く。ただし、虫も多い。
その後ガラガラした崩壊地のとんでもない急登を経て、少しゆるやかな湿地を通る。雪田が残り、今日もまたハクサンイチゲやチングルマが一面に咲いている。
そんななか小さな蕾。何かなと思うとすぐに咲いている花があった。ヒメイワショウブだ。

雨が上がってカメラを取り出し、小さな花をルーペで拡大して楽しんでいると、何やら後ろか呼ぶ声がする。 何だろう、と言いながらもゆっくり歩いていくと今日の最初のピーク、間山(まやま)だ。小さな二重山稜になっていて、小さな小さな池もある。
間山

とにかくまた果物を出して豪華に休憩していると、声の主、例の4人組みが追いついてきた。従姉妹や姉妹のグループだという。
先行する2人とゆっくりの2人が声を掛け合って進んでいるらしい。あの声は、○子〜!と呼ぶ妹の声だった。(姉をよぶのに呼び捨てなのは、短い方が楽だからとか。)
彼女たちと入れ替わって私達もまた歩き出す。なだらかな道が続くがガスが濃い。何だか熊でも出てきそうでとても嫌な気分だが、彼女たちの声がきっと追い払ってくれるだろう。
そういうことにして気を取り直し、黙々と歩いて行く。

ガラガラの道を登っていくが展望がないのでピークの印象が薄い。何となく似たような道を延々と歩いている感じだ。
そのうちに大岩がごろごろした地形となり、足場が不安定になってくる。北薬師が近付いてきているのだろうか。

地形から2932m地点と思われる場所で休憩。目指す薬師が少しずつ近づいてくる。絶景の連続の筈の稜線だが、空が明るくなってくるものの、まだ遠望が利かない。 ゆっくり休憩して、いよいよ本日の、いや今回の核心部、薬師越えだ。
足場は一層痩せてきて、岩稜地帯となる。大きい割に不安定な岩場をどんどん歩いて行くが、昨日の二の舞は避けたいので、それなりに慎重に。
しかし気持ちが高まってきて、みんな元気になる。北薬師はもうすぐだ。そして、その先は薬師岳!

45分で北薬師に到着。少し休んで、天候がいいうちにとにもかくにも薬師を目指せ!と歩き始める。更に痩せた岩尾根。振り返るとガスの晴れ間にカッコいい岩場が伸びている。
今だ、とカメラを出すが、3枚目にはもうガスに包まれ、かき消されてしまう。う〜ん、残念。

岩稜を行く

風が強いと越えられないと覚悟してきた稜線も、もう次は薬師本峰だ。あそこに見えるのがピーク?!という期待が何度か裏切られる。しかし、コースタイムからもそろそろ到着する頃だ 。昨夜来の寝不足と不安で今日はヨレヨレの私も、最後の頑張りだ。もう一歩、もう一歩、と登り続けてとうとう到着!薬師岳2926m。

祠には薬師如来様。その陰にザックを降ろし、座り込む。あ〜疲れた。でも、今のうちに、と記念撮影。少しだけ周囲が見える。あれは赤牛か、それとも水晶?

みんな薬師登頂を喜び、早速お昼の準備。ゆっくりしていこう、ということになる。
見れば目の前の雪田では、雷鳥の親子が何かを追いかけて盛んに動き回っている。ヒナは6羽いるようだ。展望が欲しいね〜と言いながらも、もうこの先は下るだけ、鼻歌交じりに降りられるよ、という経験者たちに励まされ、 肩の荷も心の荷もすっかり降ろし、満足感に浸る。

薬師岳山頂 ミヤマリンドウ

1時間の大休止を終え、太郎平小屋を目指して下山開始。歩きだすと、有名なカールが少しだけ見えるが、全体像は依然ガスの中。しかし、天気は回復傾向で、暑くなって合羽を脱ぐ。稜線は今までとは打って変わって、優しい表情を見せている。 まるで別人28号?!

なだらかな稜線 新装の薬師岳山荘

こんな時間なのに続々と登ってくる登山者たち。軽装の人が多い。太郎平小屋からのピストンだろう。Sさんいわく、「太郎から登ればラクラクなの。な〜んにも難しくないのよ。」なるほど。
8月1日に新装オープンと言う薬師岳山荘が見える。立派な建物だ。小屋の辺りに例の4人が見える。旅は道連れ、親近感が湧いてくる。

下りは任せろ、の我々。あっという間に木の香りのする小屋を通過、薬師平に向かう。黒部五郎がちょっと姿を表す。そして今日の宿、太郎平小屋の赤い屋根も見えてくるが、まだ先のようだ。

お花畑の脇で最後の休憩。この山行ももうすぐ終わりだ。寝不足でちょっと辛いが、もう危険個所もないし、小屋に急いでも仕方ないので最後のお茶を楽しむ。

薬師を目指す登山者がまた登ってくるが、何とお花畑にずかずかと踏みこんで撮影しているではないか。思わず睨んだものの、「どうせ言っても分からない人たちだし、逆切れされるからやめておこう」ということでぐっと堪える。
しかし、いい年をして(60代後半位のおじさん)何も考えないのだろうか。モラルのない人は本当にいるものだと憤慨。

流石に疲れもピーク、薬師峠まで下る沢筋が滑って時間がかかる。標高も下がって蒸し暑い。が、オオレイジンソウが咲いているのは嬉しい。 一部道が荒れているのか、印がバラバラだ。薬師峠まで何とか降りて、あとはわずかの登り返し。
が、このわずかの登り返しも堪える。勝手知ったるSさんとMさんは元気だ。階段状の道を登りきるとようやく小屋が見える。でも結構先だなあ・・・。

トントントンと木道を歩いて行くと、おお、咲いている咲いている。白いリンドウはミヤマリンドウの白花だろうか。イワショウブに私の好きなコバノトンボソウやサギソウの類も沢山。嬉しくなって元気回復。

人で溢れる広場の奥に太郎平小屋。とうとう着いた。それにしてもいきなりこの賑わいには驚く。

ミヤマリンドウ(白花?) 赤い屋根が小屋

薬師岳(南東稜線)

台地は雲の平

薬師岳をバックに記念撮影。ここは黒部五郎や雲の平への分岐でもある。登山者がおおいはずだ。まずはテーブルを確保して、乾杯。私は受付をすませ、明日のタクシーを予約したい、というと、明日朝で大丈夫という。
部屋は今日もカイコ棚だが、畳1枚に2人だという。今日も2階だが、何と真下があの4人組。挨拶を交わし、梯子を登ると畳4枚ごとに仕切りがあってカーテンで通路からの視線も遮ることが出来る。
まあまあかな、と思うが狭さには変わりない。場所を確認し、ザックを置いてまた広場に戻る。まだまだみんな宴会中だ。

折立への通常コースが通れない今年は、バスが遥かに遠回りで時刻も遅いので、富山へはタクシー(要予約)となる。これだけの人が泊まっているし早朝5時には出たいので、 本当に当日朝で大丈夫かとSさんに確認してもらうと、絶対大丈夫だという。ちょっぴり不安を抱えつつも、そろそろ全員で小屋に入る。

同じ仕切りの片側には女性の2人組。どうやら間の畳1枚分は誰も来ないようだ。しめしめ、暗くなったらお互いに「領土」を広げましょう、と合意する。
夕飯はスゴ乗越小屋と同じ経営ゆえか、山菜などは中身が似ているが今度は普通の食事内容。まあこの人数だから無理もないか。

明日は降りるだけ、疲れているし、ザック整理を済ませ、隙間にも布団を広げて場所を確保する。しばらくすると小屋の人が回ってきて、 もう来ないから空いているスペースは使ってよいと言う。お墨付きをもらって、堂々と広がって寝ることにする。
疲れているせいか、この人数で暑いからか、あっちこっちでイビキも。その上、消灯寸前にドカドカと入ってくる客、さらに深夜にバタバタと入ってくる客までいて、眠れない。 遅く来たのだから静かにすべきなのに、何度も通路を往復し煩いことこの上ない。困ったものだ。

朝になるとビニール袋のガサガサという音で目が覚める。早く片付けて出て行ってくれないか、と思って我慢しているがいつまでたっても止めない。 誰だ、と思い身を起こすとどこかのオバさんが、辺りの迷惑も顧みずまだやっている。思わず小声で「うるさい!」と声に出すが、聞こえたかどうか・・。

今度は他の人たちも少しずつ起きだして、話し声や支度でうるさくなる。とどめは昨夜のグループ。まだ4時台なのに大声で話し、皆が寝ている通路で喋りながら荷物整理。一体何を考えているのだ!と怒り心頭。思わず世も末だ、と呟くがこの時何と Lilyさんがその男性に向かって「ウルサイ!!」と一喝してくれたとか。おお頼もしい。

どうやらこの小屋は山の初心者も多いらしい。マナーもなにもあったものではない。でも、山のルールは特別なものではない。常識で考え、他人を思いやれば 誰にでもわかることなのに、どうしてそれが出来ないのだろう。 身勝手な人が増えているのは下界と変わらないのだろうか。暗澹たる気持ちになる。
小屋でも注意してくれればいいのに、と思わず考えてしまうが、そこはお客様、文句も言えないのだろうか・・・。

仕方ないので早めに外に出て、軽く食べ物を口に入れ、受付でタクシーを呼んでもらう。携帯で会社に連絡すれば来てくれるという。通話料100円を渡し、折立8時に予約しておく。

夜明け前の小屋の前から見える素敵な山のシルエット。今日は天気がいいのだろうか。もう1日早く回復してくれていたら、と残念だ。

後ろ髪を引かれる思いで5時に出発。石畳が崩れたような道を行く。辺りが明るくなってくると、こんな道のわきにもキンコウカが咲いている。
時折登山者と行き違ったり追い抜いたりで樹林帯に入っていく。今度は下界の花が迎えてくれる。コイチヨウランやキソチドリ、アリドオシランにモウセンゴケも。
背丈ほどのササ藪の間を行くとちょっと熊が怖い。でも歩くうちにどんどん下から登山者が上がってくる。滑る木の根を気にしながら、早くお風呂に入りたいね、降りたら何を食べようかと話しながら折立を目指す。

オオヤマサギソウ

虫に襲われながらも、沢山咲いているキソチドリやツレサギソウ類に引っかかっているうちに時間も押してきて、皆に急かされながらピッチを上げて降りていくとやっと広場に出る。
タクシーは富山地鉄で、市内からくるという。なるほど、これなら何台でもOKのはずだ。何と途中で温泉に寄ってくれるという。貸切ですから、メーターを停めて待っていますよ、という優しい運転手さんにほっとする。
今年は小口川林道を走るので時間もかかるという。狭い道だが慣れたハンドルさばきで進んでいく。 時折崖からソバナが綺麗な紫の花をつけているのが見える。停めて見てみたいが、電車の時間もあり、ぐっと堪えて記憶にだけ留めておく。

富山の話をしながら有峰湖まで来る。カモシカは勿論、猿や熊も出てきます、と言われてやっぱり、と思う。ここは熊の住処なのだ。

さて、富山市内に出ると温泉へ。やっと汗を流し、ゆっくりお湯に浸かれば、疲れも癒えるというもの。
時間が早いせいか、空いている。ロビーで冷たいものを流し込み、またタクシーに乗り込むと途中でちょっと雨になる。 この時期富山では、「弁当を忘れても傘は忘れるなと言うんです」・・・なるほど。
今年の猛暑で富山は連日35度を超えている。この暑さで立山連峰にぶつかった空気が雲を作るのだろう。 展望はやはり秋までお預けということか。逆に、日が照りつければ暑くてバテていただろうし、この際お花だけは良かったので満足としよう。

富山駅に着いてタクシーを降りる。メーターを倒しているが値引きもあって、林道の通行料1800円を含んで23000円弱。ほぼ定額制である。

富山駅で降してもらうと、時間もたっぷりあるのでお土産を買ったりお昼を食べたり。その後駅ビルでまたお買い物をして、早めにホームへ。
熱風が吹いてくるが、あたりに人が少ないせいか、案外凌ぎやすい。風に吹かれて、山の思い出に浸る・・・。
富山の伯母に電話して、それから電車に乗り込む。ああ、とうとう今年の「夏休み」ももう終わったな・・・。

やっぱり楽ではなかったが、十分に楽しんだ4日間。皆さんありがとう!またご一緒しましょう。


後からLilyさんに「一体何キロ歩いたのでしょうね?」と聞かれ、ヤマケイの山の便利帳を見たら、室堂から折立まで、33.5km。
まあよく歩いたと言うべきか。

*アドバイス*
今回は、花が一番の目的なのでゆっくり歩きましたが、天候に大きく左右されるし、スゴ乗越まで来ると下界と一切切り離されてしまうので、余裕をもった行動が必要なコース です。3泊で歩くことをお勧めします。
なお、コースタイムは雨や体調のこともあってゆっくり目ですが、この位見込んでおかないと楽しめないかもしれません。 2400m〜2900mをアップダウンするコースなので、体力も消耗します。十分な準備でお出かけください。
お花が目的なら遅くとも8月上旬まで、展望なら秋が良さそうです。


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