皆既日食ツアー顛末記   2009年8月7日更新

観測地
浙江省の烏鎮


今世紀最大の皆既日食を求めて、思い切って海外ツアーに申し込む。大体3泊4日で16万円前後。料金は高いが、国内の島部のテント村と大差ないので、それならついでの観光も楽しめる中国に決める。

上海空港から市内のホテルに向かい、その日は宿泊のみ。翌日、観測地へ向かう。
予想通りの天文オタク(私も端くれのつもり)は主に男性の20代から60代、皆さん高額の機材を大量に持ち込み、意気込みの違いを見せ付ける。
が、一人参加の女性も結構いるし、何より小学生からかなりのご年配まで、家族連れが意外に多いのは驚きだ。思わずソロバンを弾いてしまう私・・・。

設備の整ったホテルでの一泊後、いよいよ観測地に向かうが、上海市内は聞きしに勝る交通渋滞と無謀運転に肝を冷やす。実際、高速道路での事故現場を何箇所も目撃する。
まずは観測地の下見。バスを降りると猛暑と言うか酷暑と言うか、熱風がふきつけ、照り返しもあってすごい。最高気温は38度にも達するという。さすが亜熱帯の夏、ちょっと甘く見ていたかも。

観測地にて

この暑さの中、帽子や傘があっても屋外で観測をすると熱射病になりそうだ。少々不安を感じる・・・。
午後は近郊の観光。烏鎮(ウーチン)の水郷(「東柵」)を見学する。駐車場には溢れんばかりの観光バス。日本からのツアー客も相当数だが、欧米人も。
ただ、一番暑い時間帯で、日陰を歩いても熱風が吹き付ける。しばらく日向にいるとダウンしそうな猛暑。

見所は、古い町並みと展示室もいろいろあるが、暑いし、疲れてきて、2,3箇所をざっと見るだけにする。
ただ、藍染の工房や昔の素晴らしい細工のベッドの数々など見所は多く、おみやげにも手ごろなものがあって、独特の雰囲気ともども、もっと涼しい時に再訪したいと思う。


烏鎮「東柵」、烏鎮は藍染の街、ベッドの細工も素晴らしい(展示室にて)

同じ感じでもっと新しく整備されているという「西柵」も近くにある。希望者はライトアップされているので夜に観光も可能というが、私は見送りに。

夕飯時には雷雨となる。ネットをみて天気予報を調べている人もいるが、予報は悪そうだ。でも、この雷雨で起死回生の晴天になるかも。
そう思って早めに就寝。

何となく気になって早朝窓外を見ると地面が濡れている。上空にも雲がびっしり。う〜ん、でもまだ日食までには時間もあるし、とまた布団にもぐりこむ。
朝食を食べていると今度は雨が降り出した。え、そんな・・・。
持参の三脚2台、ビデオとデジカメ、双眼鏡という装備を、どうしようかと、手荷物から出したり入れたり。

せめて空が暗くなると言う瞬間だけでも撮ろうか、とビデオと三脚1台のみを手荷物に入れ、ロビーに集まる。重たい機材を抱えた諸氏が今日は難しいかも、奇跡を祈りましょうと話している。

朝から雨  初めて太陽が顔を出す

とにかく観測地に着くが、空は割合明るいものの、何といってもいまどこに太陽があるのかさえ分からない状態。少しずつ焦りが諦めに変っていく。

ようやく太陽が姿を現すが、すぐさま隠れてしまう。雲は厚そうだ。とにかく、その方角を定めてビデオを設置。
少し空が明るくなったかな〜と思うと雷鳴。そして驟雨。高価な機材をセッティングしている諸氏は、傘をかけたりカバーを掛けたり。そのうちに更に激しい雨となって、屋根の下に移動させる人が多数。

恨めしげに空を眺め、そろそろ日食が始まったことを確認するも、なすすべもなく天候の回復を祈るのみ。

   

現地時間で8:22から始まる日食は9:35に第2接触(皆既)が始まり9:40に皆既が終わる。全ての部分食まで完了するのは11:00前。(現地時間は日本−1時間)
ラップトップPCではエクリプス・ナビゲーターで日食をシミュレーション中。もうこんなに欠けている筈なのだが・・・。

いや、まだ時間はある。雲が切れるかもしれないし。信じるものは救われる、とみなが祈る。折角セットしたビデオも、雨がひどくなって三脚ごと退避。
さあ、もう数分で皆既が始まる、という時点になって空が明るくなってきた。せめて自分の頭上で起こっているであろう世紀のショーを体感すべく、屋根の下から少しずつみんなが出始める。
皆既の瞬間にはあたりが暗くなると言う。これだけはきっと体感できるはず。それだけでもここに来た意味があると思う心はみんな一緒だ。
私もビデオを回し始める・・・。

すると、急に明るくなって、雲が薄くなった所を通して太陽が顔を覗かせ始めたではないか!みんな歓声を上げて外に飛び出してくる。ひょっとしたら、一瞬でも見られるかもしれない。

期待が高まる中、雲を通して本当に薄くなった三日月形の太陽が肉眼で捉えられる。厚い雲がフィルターをなって、肉眼で楽に観察できるのだ。
だんだん三日月も微かになり、皆既の瞬間が近づく。見渡せば、辺りが徐々に暗くなり始める。

ここでダイヤモンド・リングを見ると、皆既になってもその暗さ目が慣れず、微かなコロナが見えないため、1回目は見ない方がよいと聞いている。
しかし、この天気では、2度目が見られる保証は無い。そう思って日食グラスを掛けたり外したり、更には地表を見つめたりと忙しい。
さあ今か今かと思って見ているが、期待とは無関係に、流れる雲が薄くなったところだけ、太陽がチラっと見え、また雲に隠される。みんなの歓声とため息が交互に流れる。

それでもじっと空を見つめていると、その瞬間が訪れた。
あたりは一気に暗くなり、歓声の中、真っ暗になる。とうとう皆既が始まった!
しかし、また無常にも厚い雲が太陽を隠す。せめて一瞬でも黒い太陽が見られたら。

そんなみんなの祈りが通じたのか、真っ暗な空を見上げる私たちの頭上にぼんやりと黒い太陽が姿を現すではないか。
やった〜!奇跡が本当に起こった!

そして時折雲に完全な隙間ができて、くっきりとコロナも見えるではないか!
この光景はまさに神秘そのもの。会場はやがてし〜んと静まる。感激と宇宙の神秘に言葉も無いのだ。
ああ、ここに来て本当によかった。

いままで画像では散々見てきた皆既日食。見上げる太陽の大きさは、何だかとっても小さいなというのが率直な印象。いつもアップの画像ばかりみているからだろうか。ああ、こんな大きさなんだな、と思う。

しかし、小さくでも実物は圧倒的だ。
今回は継続時間が長いので、雲に隠れてもまた何度も姿を現す。その度に大歓声が上がる。本当に手に汗握る体験でもある。
折角なので双眼鏡でも覗いたが、プロミネンスまでは分からなかった。が、ビデオはうまく回っている様子だし、音声主体とはいえ、感動の記録も残りそうだ。

もう皆既が終わります!という声とともに、黒い太陽周囲が少しずつ明るくなり始め、あ〜という歓声の中、素晴らしいダイヤモンドリングが現れた。が、その直後、まさに空が明るさを回復し、また周囲の情景が現れた。何と不思議な体験だろう。そして、あちこちで拍手と大歓声がこだまする。
ほっとすると気になるのが他の会場の状況。果たして見えたのだろうか。

その後すぐにまた雨が降り出し、結局一番の見所だけを雲の合間に見せてもらったという結果になった。あの20分弱はなんという天からの贈り物だったことだろう。
折角のデジカメ画像は三脚なしでブレにブレた。が、とにかく証拠写真ということで・・・。

その瞬間

←Sさんより頂いた画像


さて、午後は上海に戻り、少し観光をしてから上海雑技団を見る。かわいい若者の笑顔と素晴らしい技を堪能。

上海の街は歴史と現在が入り混じり、雑多さと高層ビルのアンバランスが印象的だ。しかし、渋滞がひどいので、時間は有効に使えない。

翌日は午前の早い飛行機で、起きたらすぐ出発。本当に慌しい。
私が選んだのは日食の観測がすべてというツアーだったので、中国が初めての私にはちょっとだけ物足らなさもあったが、こんなドラマチックでスリリングな体験が出来た今となっては、何の不満もない。

空港では、ネットを通じて日本各地の情報が分かるにつれ、私たちがどんなに幸運だったかを改めて知る。非常に高いお金を払って島に渡った人たちの中には、避難勧告が出たところもあると聞き、本当にお気の毒に思う。
あの体験を全ての人と共有できたら!と願わずにはいられない。

最後に、
日食は本当に気象に大きく左右されることを痛感した。どんなに晴天でも、皆既の瞬間だけ雲に隠れてしまったこともあると聞く。
今後の日食も、季節的に晴天が望めなかったり、海上だったりと、良い条件でみられそうな事例は非常に少ないことも分かった。

無理をしてでも出かけて本当に良かったと思っているし、機会があれば是非またトライしたいと思う。
しかし、この時期に亜熱帯に行くのは本当に大変だと体が教えてくれた。実は、帰国日の夜から激しい腹痛で七転八倒。細菌性の下痢らしく、抗生物質を貰ってようやく痛みが取れたところ。絶食していたのでフラフラだ。
レストランでしか食事していないし、生ものも食べていないのだが、それでも新型インフルエンザでないだけマシと思うことにする。

PS.
上海では皆既が見られなかったと知って、携帯にメールを送って慰めてくれたRockyさんに感謝!

上海のケロ君


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