赤岳〜天狗岳   2007年7月某日

コース:
美濃戸口6:00〜10:34行者小屋11:10〜地蔵尾根〜12:40赤岳天望荘12:55〜13:40赤岳13:45〜14:30天望荘(泊)
天望荘6:05〜横岳〜8:00硫黄山荘10:05〜10:55夏沢峠11:45〜12:35根石岳〜13:05東天狗岳〜14:30黒百合ヒュッテ(泊)
黒百合ヒュッテ7:00〜9:20唐沢鉱泉


【1日目】
今年は半ば諦めていた「夏休み」を強引に捻出し、夜行2泊の八ヶ岳ミニ縦走に出発。
何故か縁がなかった、赤岳〜横岳。その核心部分を個人で縦走しようという山行の友はSさん。赤岳に登った経験のある彼女を頼りに、二人とも未踏の横岳を通過し、天狗までの縦走計画を立てた。

早朝の美濃戸口。脇を走りぬける車をよそに、早速撮影会。綺麗に咲いたエゾスズラン、清楚なヤマオダマキ、思いがけないイブキジャコウソウの群落。
それからコイチヤクソウ、ウツボグサ、チダケサシ、と花々に迎えられての八ヶ岳へのプロムナード。ここを車で通過するなんて、勿体無い。

(マウスを画像の上に置くと名前が現われます)
エゾスズランイブキジャコウソウイチヤクソウカラマツソウ

ノンビリ行こう、と大撮影会を繰り広げながら歩いている内に美濃戸へ。さらに南沢を行者小屋へ向かう。
このあたりから、ザックが肩に食い込む。久々の35Lザックは推定11キロ。それでも普段の恐らく1.3倍以上。夜行明けには相当厳しい。
行者小屋まで遠いこと。結局、花と戯れて過ごしたとはいえ、美濃戸口から4:30もかかっている。(コースタイムは3:00程)

登山者で賑わう行者小屋で大休止、果物やらパンを出して、軽量化を図る。
更には、午後からの雷雨の予想と、今日のこのペースを鑑み、あっさり最短の地蔵尾根コースに変更。(当初は中岳鞍部から阿弥陀の往復、赤岳経由、天望荘。)
この変わり身の早さは、個人山行ならでは。

ちょっと心配した地蔵尾根も、難所はしっかり整備され、体調も回復、コースタイムで天望荘到着。やれやれ。

横岳方面の稜線地蔵尾根地蔵尾根より天望荘、赤岳

サブザックに変えて、赤岳へ。ここも鎖が整備され、どんどん登る。ピークにタッチして、早くも下山。
途中で少し撮影タイム。鮮やかな紫のムシトリスミレが印象的。目立つのは黄色いミヤマダイコンソウ、ほとんど花は枯れているものの、思いのほか数が多いチョウノスケソウ。足元には可愛らしいリンネソウなど、久しぶりの高山植物に感激。

ミヤマダイコンソウ(深山大根草)ムシトリスミレ(虫取り菫) リンネソウ

泊まった天望荘は噂の通り、綺麗でサービスもよく、思いがけず大きな五右衛門風呂にも無料で入れ、宿泊者はお変わり自由のコーヒー(他にお茶も)や、おいしい夕食・朝食のバイキングに、大満足。
今回は個室に泊まったこともあって、疲れが一気に取れるのは有難い。
ここまで進化した山小屋と、経営者のセンスの良さには、驚きを隠せない。

【2日目】
晴れ女を自称するも、今日は雨と雷の予想。
難所の通過を控え、本当は早く出発すべきなのだが、初めてのコースゆえ、体調を整え、朝食をしっかり取ってから、と6時に出発。
ガスが濃く、いつ降られてもいいようにと完全装備で歩き出す。

すぐに梯子や鎖場が出てくるが、難なく通過。人間など目に入らぬ様子でイワヒバリがすぐそばをチョコチョコ歩いている。

イワヒバリしかし、長い鎖を登り切ったところで、コースを見失う。

ここはガイドブックで読んだ、長いスラブの鎖場のはず・・・。

一枚岩の鎖場


ルートはこっちのはず、と思うがその先は断崖絶壁、もう1方の踏み跡は、釣瓶落としのように落ち込んでおり、足をもう1歩踏み入れたら・・・。
地獄の底から湧きあがるような怪しい気配が漂ってくる。
これはおかしい・・・。

折から小雨模様になり、ガスも濃く、視界不良な上、さっきの先行者の後は誰も来ない。
Sさんの、「こっちにペンキ印があるけど」の方向は、明らかに逆方向に思える上、岩峰を登って大きく回りこんでいる。

いや、これは違う、と迷っていると、偵察に行ったSさんから「こっちで〜す。標識があります!」
諦めて斜面を登っていくと、右に回り込んだ所に『←横岳・赤岳→』の標識。

(後でよくよく調べると、日ノ岳の岩峰を大きく回りこむ箇所で、迷い込んだ踏み跡は、進行方向とは90度ずれていた。しかし、このように視界が悪いと方向感覚も狂い、しっかりした踏み跡に誘われるので要注意。
ただし、逆方向(横岳)から来れば、眼下に長い鎖場が見え、「道なり」感覚で通過できるだろう。)

こうして岩峰を鎖に導かれて大きく巻き、裏側をトラバース、さらに乗り越えて、また横岳を向いて歩き出す。

岩場のトラバース

お花が一番楽しみなコースなのに、雨とガスで、花も展望も制限され、ちょっとがっかり。

前後に人もおらず、初めての『難所』を何とか二人で力を合わせ、越えて行く。実力が試されているなあ、とため息。

ただ、雨でやや滑ること以外は、難所と言っても案外楽勝で、程なく三叉峰、奥ノ院に至る。
ただし、先刻より気がかりなあの音は、やはり雷鳴。最後の難所、横岳のカニの「横バイ」を慎重に進むあたりから、雷鳴はどんどん大きくなり、「もうちょっと待って!!」と祈りながら必死に鎖を掴む。

硫黄岳山荘はまだ?もう見える?!と目を凝らしながら早足で進めば、ようやくガスの向こうにぬっと小屋が現われる。
とにかく情報収集を、と小屋に入ると程なく土砂降り、停滞決定。

「長野県に雷警報は出ていませんが」、とストーブを炊き、暖かいお茶を出してくれる小屋の優しいお兄ちゃん。
あっという間に稲妻と雷鳴が激しくなって、次々にびしょぬれの登山者たちが青ざめた表情で駆け込んでくる。

そこで、濡れた合羽を乾かしながら、暖かいストーブを囲み、しばし山談義。それも、2時間・・・。

雷雲の通過待ちは期待できないようだ。そこで小止みになった雨と、間隔の遠のいた雷鳴に、『もう遠雷だよね?』という希望的観測のもとに再出発。
あと30分、30分だけ待ってね、雷さん、と硫黄岳山頂へ向かう。
しかし、登り始めたとたんに大きな雷鳴、稲光り。
「また戻ってきてもいいですよ。」というお兄ちゃんの言葉が脳裏をかすめるが、行くも戻るも危険度は同じ、と強行突破を図る。
前に数人、合羽姿の登山者もいるし、ここは運命共同体?!と彼らを追いかけ、ザックの重さも何のその、苦しい登りをガンガン歩く。

平坦な「雷さん大歓迎」状態の山頂を駆け抜け、転がるように下っていると、ピカピカッ、ゴロゴロドド〜ン
きゃ〜!!

その場にしゃがみ、体も硬直。

近くに落ちた訳でもなく、髪の毛も逆立たないが、恐ろしくてしばらく立ち上がれない。
それでも、座っていても同じこと、と意を決し、雷鳴の合間を見て、忍者さながら、岩陰めがけてひた走る。

一刻も早く樹林帯へ・・・。ようやく樹林帯へ。ほっとするとザックがズッシリ、喉もカラカラ。
辿り着いたのはヒュッテ夏沢、遠慮がちに戸を開けて入ると、ここも雷を避ける登山者で溢れている。

遠慮がちに入ったのに、「暖かいストーブの方へどうぞ。」とコーヒーまで入れてくれる優しいスタッフに、またまた感激。

だんだん空も明るくなり、雨も止んだので、50分の雨宿りの後に根石岳、天狗岳をめざして人気のない樹林帯を歩く。
さっきまでの緊張と必死に歩いたツケが回って、足取りの重いこと。

コマクサ

根石山荘前のコマクサ畑を一周してから根石岳に登る。もう雷の心配はなさそうだ。
しかし、身を隠す場所のないルートは一刻も早く通過したいもの。写真ストップしたい気持ちを抑えて、目の前に聳える天狗岳東峰に向かう。

東天狗から小屋までは私も一度歩いたコースゆえの安心感がある。ようやく本日のお宿、黒百合ヒュッテまで小一時間と思うとほっとする。
中山峠経由か、擂鉢池回りかと考えて、楽そうに見えた池回りを選ぶ。ところが、あ、そういえばこんな大岩ゴロゴロの歩きにくいコースだったっけ、と思い出してももう遅い。寂しいだだっ広い岩礫の道を、足に衝撃を感じながら進む。
なかなか見えない小屋にイライラしながらも、ペンキ印を追いながらやっと見覚えのある小ピークの向こうに黒百合ヒュッテが現われる。「あ〜しんどかった。」

受付を済ませ、ストーブを囲んで荷物整理。布団を敷くまで1階にいてくれ、とのこと。疲れた表情の先客たちは、どうやらずっとここで待たされている様子。早く横になりたいだろうに・・・。

布団を敷いたのは4時近く、その後も布団の指定から食卓の席順まで、まるで先生が小学生に指示を出すよう。
ランプの暗い明かりに、本も読めないが、これが「普通の」山小屋の姿なのか、私の感覚がズレているのか、疑問符だらけ。

嫌だったのは、スタッフが1つしかないストーブの前でタバコを吸うこと。濡れて疲れた登山者(お客)を「無視」し、休憩中だからと何時間も布団を敷いてくれない小屋でも、常連は見放さないのだろうか。

ついつい先ほどの硫黄岳山荘やヒュッテ夏沢の暖かい気配りと比べてしまう。
ちなみに、布団は綺麗で食事もおいしいが、あちこち欠けた皿や湯のみは感じが悪い。

【3日目】
さて最終日は、天狗岳に登り返し、西天狗から西尾根を下って唐沢鉱泉に出るつもりだったが、90分も登り返す気力もなく、また時間もギリギリなので、まっすぐ最短コースで鉱泉へ向かうことにする。
前夜のすさまじい雷雨も何とかおさまり、青空が覗けるのは嬉しい。
中山峠まで散策してから、一路唐沢鉱泉へ。途中の花でも楽しみながら、という思いは叶わず、恐ろしく滑る岩がゴロゴロした薄暗い樹林帯の道を下るのは体力を消耗する。
無理をしてでも西尾根へ回るべきだったかと反省。でも、もう戻れない。
渋ノ湯への分岐まではコースタイムの50分。
昼尚暗い樹林帯は、ちょっと薄気味悪い。あわてて鈴を取り出し、時折滑る足元に悲鳴をあげながら、花を探すがコケばかり。

ようやくコイチヨウランの群落と、キソチドリ、何故か白いリンネソウに出会う。Sさんは始めてのコイチヨウランに大感激。こちらも嬉しくなる。
ただし被写体が余りに小さくて、カメラのピント合わせは困難を極め、30枚近く撮ってもまともなものが残らないのは悲しい。

コイチヨウラン(小一葉蘭)コイチヨウランリンネソウ(白花)

そろそろ鉱泉に出てもいい頃、やっと沢音が聞こえ始めると間もなく川を渡って、下界に到着。気のせいか、硫黄のようなニオイがする。
眩しい日差しに戸惑いながら、10時からの入浴時間を早めてもらい、ゆっくり汗を流す。とても綺麗で良いお湯に、3日間の疲れも癒され、山ならずともこの宿に泊まってみたくなる。
今度はここに泊まって是非天狗の西尾根を、と思う。

送迎客があるから、と宿のバスに乗せてもらって茅野駅へ。久々のスーパーあずさは、あっという間に新宿へ。


雷に肝を冷やしながらも、雨でも問題なく横岳付近の通過が可能と分かったのは収穫だったが、この稜線の花と展望は次回にお預け。
さらに、次は是非キレット越えをと楽しみが増えた。
Sさん、お疲れ様。
次は唐沢鉱泉にも泊まって、また皆さんと歩きましょう。


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